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権妻囲う旧幕藩のお殿様は真の「阿房」=杜牧「阿房宮賦」で揶揄せよ

晩唐の詩人・杜牧が、秦の始皇帝の奢侈淫佚を諷喩した「阿房宮の賦」。弊blogの中国名文シリーズでも連載いたしました(第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回第8回)。始皇帝が天下統一後に、贅の限りを尽くし造営を始めた宮殿でしたが、楚の項羽によって完成を観ることなく破壊されてしまいます。

さて、成島柳北がこの「阿房宮の賦」を捩って「阿房山の賦」と題した雑録を「朝野新聞」にて発表しています。蘇東坡の「赤壁賦」「後赤壁賦」と同様に、換骨奪胎のパロディーです。杜牧の「阿房宮の賦」は、古の暴君・始皇帝を持ちだして、自分の生きている唐王朝の足元が揺らいでいることに警鐘を鳴らしたものですが、同じように柳北も明治新政府、というより政府に取り込まれた旧幕藩の面々に警告を発し、恥を知れと罵っているのです。これを味わいましょう。底本は近代デジタルライブラリーの「柳北全集」。これも原文は追い込みですが、長いので適宜切っていきます。

「阿房山の賦」

王政興ツテ四海一ナリ、廃藩速ニシテ布告出ヅ、三百余家ヲ一変して華族と改称ス、家来国ニ残ツテ独リ召サレ直チニ東京ニ赴ク、身分楽々トシテ流レテ遊蕩トナリ、酒宴ニ一酌1)ギロウニ一泊、細帯漫ク回シテ洋帽高ク戴ケリ、各美人ヲ抱テ放心逸楽、快々焉タリ欣々焉タリ、2)テントウ散財積ンデ其幾千万両ナルヲ知ラズ、柳橋ニ涎ヲ垂ラスハ未ダ陰ナラザルニ何ノ雨ゾ、金春ヲ空ニ歩行クハ眠ラザルニ何ノ夢ゾ、大抵酩酊シテ東西ヲ知ラズ、芝居ノ見物桟敷満々タリ、花火ノ遊山屋形広々タリ、一日ノ内一月ノ間ニシテ物入リ少ナカラズ、芸妓3)ホウカン役者話家、媚ヲ献ジ気ニ入ラントシテ争ツテ邸ニ来ル、




1) ギロウ=妓楼。遊女屋、娼家。「妓」は「あそびめ」「わざおぎ」。

2) テントウ=纏頭。芸妓に対する祝儀、かずけもの。「はな」とも訓む。

3) ホウカン=幇間。酒席をとりもって客の遊興をたすけることを職業とする者、たいこもち。


旧幕藩のお殿様連中が新政府から「華族」の称号をもらって東京に住み、二号さんを囲ったり酒宴を催したり、お金を湯水のごとく使っている現状を憂えている。それはまるで秦の始皇帝の阿房宮造営と同じではないか。取り巻き連中も集りに集っている。


家令扶従は真ノ唐人タリ、三絃ノ珍々タルハ誕生ヲ祝フ也、太鼓ノ鈍々タルハ稲荷ヲ祭ル也、奥向キデ涙ヲ流スハ本妻ヲ棄ツル也、腹ノ立チ角ノ生ルハ焼餅を焚ク也、新宅ノ忽チ建ツハ4)ゴンサイヲ迎フル也、飄々トシテ遠ク遊ビ、茫トシテ其往ク所ヲ知ラズ、一去一来愚ヲ尽シ、拙ヲ極メ、多ク飲ミ深ク溺レテ景ヲ好ム、見ルニ堪ヘザル有ルトテ三百六旬、相伝ノ5)ジュウモツ数代ノ蓄蔵先代ノ遺訓、幾世幾年カ其家ニ伝来シテ積累山ノ如シ、



4) ゴンサイ=権妻。側妾。「仮の妻」の意で、明治初期の言い方。「ゴン」と呼ぶのは日本風で「律令制に於いて定員以外に臨時に任ずる官。後には副官のように用いられた」。

5) ジュウモツ=什物。秘蔵の宝物。什宝(ジュウホウ)とも。「ジュウブツ」と読めば、「日用の器物」。




一朝其品ガ潰滅スルニ忍ビザルモノ有ラン、刀ヲ薪トシ玉ヲ石トシ、金ハ泥ノ如ク銀ハ土の如ク、投ウチ棄テ、6)ロウゼキタリ、主人之ヲ視テ亦甚ダ惜マズ、嗚呼一人ノ奢ハ千万人ノ羨ミナリ、己レ逸楽ヲ好メバ人亦其ノ行ヒヲ10)ル、何奈ンゾ之ヲ賜ハル恩沢ヲ忘レテ、之ヲ遣フ湯水ノ如クナルヤ、妓ヲ揚ゲル玉ヲシテ玉川ノ砂利ヨリモ多ク、妾ニ投ズル金ヲシテ深川ノ藪蚊ヨリモ多ク、了簡ノ浮々シタルハ海ニ在ル7)水母ヨリモ軽ク、鼻ノ下ノ延ビ過ギタルハ電信ノ張銕ヨリモ長ク、智慧分別ハ雨夜ノ蛍火ヨリ少ナク、8)ギョウセキノ見苦シキハ折助ノ附合ヨリ甚シカラム、天下ノ人ヲシテ敢テ言ハズシテ惘レシム、




6) ロウゼキ=狼藉。乱暴なこと、無法なこと。

7) 水母=クラゲ。海月とも。人のことを「水母」といった場合、「確固たる主義のなくて、常に意見が動揺する人」と揶揄する言い方です。骨がないからよ~ん。

8) ギョウセキ=行跡。人がある物事を行ったあと。行迹(ギョウセキ)とも。ただし、行迹の方は「コウセキ」と読めば、「あしあと」の意。微妙な違いに注意しよう。


「張銕」は「ハリガネ」。「銕」は「鉄」の異体字で「かね、くろがね」とも訓む。鼻の下がびろ~んと伸びてまるで電信のはりがねのように長くてだらしないという。「折助」は「武家に奉公する仲間の異名。

ここのくだりでは、本家本元の「阿房宮の賦」で有名な成句がありました。鼎鐺玉石(テイトウギョクセキ)、金塊珠礫(キンカイシュレキ)。「贅沢の限りを尽くすこと」を譬える言葉として今に伝わっています。これでいくと柳北は刀薪玉石(トウシンギョクセキ)、金泥銀土(キンデイギンド)と様変わり。もちろん意味するところは杜牧と同じ。おバカな元殿様の金遣いの荒いさまを揶揄しているのです。




痴呆ノ心ハ日ニ益増長セリ、開花進ンデ家禄取ラレ、公布ノ一紙ニ憐ム可シ乞食、嗚呼自分ヲ9)ボス者ハ自分也天ニ非ズ、禄ヲ失フ者ハ時也天朝ニ非ズ、嗟夫レ華族ヲシテ各其身ヲ愛セシメハ以テ家ヲ保ツニ足ル、己レ能ク無用ノ費ヲ節スレバ則チ一生ヲ送リ、子孫ニ至テモ富ヲ有ス可シ、誰カ敢テ10)ヒギセンヤ、当人自ラ哀シムノ心無クシテ一類之ヲ哀シム、一類之ヲ哀ンデ而シテ之ヲ諫メズンバ、亦世人ヲシテ一類ヲ哀マシメン




9) 亡ボス=ほろぼす。なくなる。亡聊(ブリョウ=なんとなく気が晴れない)、亡骸(ボウガイ=なきがら、遺骸)。

10)ヒギ=誹議。あれこれと悪口を言う。「誹ル」は「そしる」。誹毀(ヒキ=悪口を言って他人の名誉をきずつける、誹譏=ヒキ=)、誹謗(ヒボウ=悪口を言う、そしる、そしり)、誹謗之木(ヒボウのボク=天子のあやまちを人民に書かせる立て札)、誹誉(ヒヨ=悪口を言うこととほめ


やはり本元の原文と突き合わせないと微妙な言い換えの面白みが分かりませんな。ぜひとも上記のリンクをご覧いただき比較してみてください。「天地間無用の人」を宣言した柳北からすれば、でれでれ、へべれけになった骨も何もない軟体動物のようにしか見えなかったのでしょう。腹が立つやら呆れるやら。新聞人とすれば紙上で茶化すことこそ己の本分であると見つけたのでしょうね。気持ちは分かります。時代の変化に乗ったはいいが、明らかに使う方向を間違っている人はいつの世にもいるものです。でも、そんな奴等は必ず消えるさ。泡沫のようにね。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
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