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ダチョウにラクダ…嗚呼此の地はアラビアのアデンなり=「航西日乗」15

成島柳北の「航西日乗」の15回目です。亜剌比亜半島の南端、イエメンの港湾都市、アデン(亜丁)に到着です。セイロン島から一直線で八日間ぶっ通しです。あの辺はサイクロンというのか、よくも暴風雨に遭遇しなかったものだと感心いたします。いや、それは柳北の持っている「運」だったのでしょう。同じアジアでも亜剌比亜半島の風景は「亜細亜中に嘗て見ざる所なり」と言います。沙漠。当時はイギリス領ですから、あちこちにその「徴」が刻まれています。

十五日、金曜、晴。朝起、山を望む、即ち亜丁港なり。九時二十分港に入る。蓋し亜剌比亜の海岸は概ね1)サレキのみにて青草を見ず。峰巒は肉無く骨露れ剣の如く牙の如く、2)トッコツとして心目を驚かす。亜細亜中に嘗て見ざる所なり。英人本港の山に沿ふて砲台を築く。3)エンゼンたる天造の長城なり。其間に樹を栽ゑ屋を築きぬ。其労想ふ可し。港内は闊大にして巨囊を拡げたる如し。土人は巻毛黒臉、印度人に比すれば4)シュウロウ獰悪甚し。童子の海中に遊泳する殆ど蛙児と一般、人類とは思はれざる程なり。同行の人、上陸する者多し。余は日光の5)カッカクとしてサレキを射、6)加之7)フウジン面を撲て堪る能はざれば、竟に舟を出でず。土人舟に来たり、豹皮及び8)ダチョウの毛羽を鬻ぐ。通用貨幣の名はルビイ・アンナ等なり。上陸せし者云ふ、此港は市街9)リョウリョウとして各地井無く水乏し。山上に古来の大沼有り、以て雨水を貯へ飲料に充つ。此沼は羅馬人の造る所にして、英人之を補理すと云ふ。此の不毛の郷に於て英人の土地を拓き道路を築く等、其の事業実に感服す可し。土人の貨物を運輸するは皆10)ラクダを用ふ。其他見るに足るもの無しと。舟中に在りし印度の旅客皆此港より上陸し去れり。六時港を出づ。此夜明月断巌千尺の上に出で、風景11)キゼツ、恰も十月望なれば坡翁後赤壁の遊びを想像し、余が12)ソウユウの坡翁に優る有て劣る無きを知り、深更まで月を貸して寐ねず。

断巌千尺海門開    断巌千尺、海門開く。
大月晩従洋底来    大月、晩に洋底より来たる。
万里■■探■■    万里のソウユウ、13)ゼッショウを探る。
愧吾独少老坡才    愧づ、吾が独り老坡の才を14)くを。

四望難看寸草青    四望看難し、寸草の青。
山容洞態赭而獰    山容洞態、赭にして獰。
知他大漠応非遠    知る、他の大漠、応に遠きに非ざるべし。
満面炎風泊亜丁    満面の炎風、亜丁に泊す。






1) サレキ=砂礫。砂と小石。沙礫もOK。「シャレキ」ともいう。「礫」は「こいし」。ころころしたこいし、小粒の石。「つぶて」の訓もあり。礫石(レキセキ=小石、つぶて)。

2) トッコツ=突兀。山・家などが高く突き出てそびえるさま。突怒偃蹇(トツドエンケン=岩石がごつごつ突き出て、ふせたり、たったりしているさまを、人の怒ったさま、ごうまんなさまにたとえていることば)。突梯(トッテイ=事を荒立てず世俗に逆らわないさま)。

3) エンゼン=宛然。そっくりそのままに、ちょうど、まるで。「宛然たる」「宛然として」と用いる。

4) シュウロウ=醜陋。行いや見た目が汚らわしいさま。醜夷(シュウイ=外国人をいやしめていうことば)、醜声(シュウセイ=みだらで品行が悪いといううわさ、醜聞)、醜詆(シュウテイ=人に恥をかかせそしる、人の悪口をいう)、醜類(シュウルイ=よく似た者同士)。

5) カッカク=赫々。日がかっかっと照りつけてあつさがきびしいさま。勢いが盛んで、功績が著しいさま、の意もある。

6) 加之=しかのみならず。そればかりでなく・そのうえに。漢文訓読語法。

7) フウジン=風塵。風とちり、風に巻き起こされる土ぼこり。転じて、わずらわしく、けがらわしい物事のたとえ、俗事・俗世間の意もある。ここは前者の意。

8) ダチョウ=駝鳥。熱帯の乾燥地帯の草原に群棲。翼は退化し、飛べない。その代わり走るのが超速い。

9) リョウリョウ=寥々。うつろでひっそりしているさま。空虚なさま。寥亮もあるが、これだと「声や音が澄んだ音色で響き渡るさま、寥戻=リョウレイ=」。

10) ラクダ=駱駝。中央アジア・北アフリカなどの砂漠に棲み、背中に瘤がある。「駱」は「かわらげ」の訓みがあり、「黒い鬣を持った白馬」。

11) キゼツ=奇絶。すぐれていてめずらしい、奇抜。≠気絶。

12) ソウユウ=壮遊。勇ましくて規模が大きくて立派な遊び。つまり、ここは柳北の漫遊を自ら立派なものだと称しているのです。「壮~」には、壮気、壮挙、壮語、壮士、壮志、壮懐、壮事、壮絶、壮胆、壮図、壮途、壮年、壮麗、壮猷、壮美、壮烈など多くの言葉がある。いずれも「すぐれてりっぱな~」の意。

13) ゼッショウ=絶勝。奇勝とも。このうえなく景色の優れたところ。≠絶唱。

14) 少く=かく。欠けていること、足りないこと。~と比べて…が少ないさま。欠少(ケッショウ=不足)。




柳北は体調不良により上陸を断念します。港内では例によって土人に対する侮蔑的な描写です。「土人は巻毛黒臉、印度人に比すれば醜陋獰悪甚し。童子の海中に遊泳する殆ど蛙児と一般、人類とは思はれざる程なり」。「臉」(ケン)は顔面、顔のこと。印度人と比べて醜いことこの上なく性格も拗けているという。泳ぐ子供の姿も蛙の子供と同じという形容はまたぞろです。同じ人間とは到底思われないと扱き下ろしているのも又繰り返し。

「ルビイ・アンナ」―。しっかり通貨の呼称は押さえています。上陸した人からの伝聞で、井戸がないことを知ります。山上には大きな沼があるという。ここがこの都市の貯水池。元々はローマ時代に作られたものですが、英国領になってイギリス人が補修した。不毛の地ではあるものの、開拓して道路も造ったのがイギリス人。さすがは産業革命の元祖の国と感服する柳北でした。

同舟してきた印度人たちは全員、このアデンで下船します。すると夜六時舟は出港します。ときあたかも十月の望月。耿耿と輝く満月を観て、蘇東坡の「後赤壁賦」を思い出します。絶景を眼前にして詩興がむくむくと湧いてきたようです。蘇東坡に負けはしない自分の漫遊記にふと対抗心を燃やす柳北。漢詩では途中までは良かったのですが、最後には残念ながら詩を詠じる才能は蘇東坡には負けるわ。。。半分謙遜でしょうが、遠く異国の亜剌比亜半島沖で漢詩を詠じる柳北のセンスにこそ迂生は敬服いたします。一つの草も生えぬ沙漠に思いを馳せながら。。。。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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