スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

丁髷と鼻輪 どっちが「奇怪極まる」?=「航西日乗」11

成島柳北の「航西日乗」シリーズの11回目です。塞昆を出帆して船は「ザ・東南アジア」めぐりに突入します。さまざまな地名が登場、片仮名ならばお馴染みですが漢字で読めるかぁ?

二十九日、雨。十一時右に一髪の青を認む。即ち1)麻陸岬なり。此日乍雨乍晴、二時、左に灯台の小嶼上に在るを望む。其の後ろに一線に突出したるは2)蘇門答臘なり。麻陸岬と相対す。此の海峡は即ち3)星嘉坡港なり。

南辺麻陸北蘇門    南辺は麻陸、北は蘇門。
地勢■■両蟒奔    地勢4)エンエン、両蟒奔る。
奔到洋中不相接    奔りて洋中に到りて、相接せず。
双頭対処方帆翻    双頭対する処、万帆翻る。




1) 麻陸=マラッカ。

2) 蘇門答臘=スマトラ。

3) 星嘉坡=シンガポール。新嘉坡の方がポピュラーか。当時は、新港と旧港があったようです。

4) エンエン=蜿蜒。屈曲しながらうねうねと長く続くさま。蜿蜒長蛇(エンエンチョウダ=へびのようにうねうねと長く続く、紆余委蛇=ウヨイダ=とも)。蜒蜒、蜒蜒とも書く。


手元に地図があったら見てほしいのですが、ここではマレー半島とスマトラ島が相対峙して位置していて、まさに「マラッカ海峡」を細長く形づくっている。そのさまが蛇のように長く、いや柳北は「両蟒」(リョウボウ)のようだと形容しています。「蟒」とは「うわばみ」、すなわち大蛇のこと。二匹の大蛇がにらみ合って、しかし、お互いに牽制して適度な距離を保っており、自分らの乗った船が航行できているのだというのです。なかなかに上手い描写ですな。漢詩だからこそ言いきれる表現。まさに漢詩ならではの迫力があります。


六時港に接す。赤道を距る一度十七分、此港は新港と名づく。人家多からずして石炭庫多し。郵船渟泊の為めに築きし処なり。此港に入るの間、四顧するに風景頗る佳なり。郵船直ちに岸に接し上陸に便なり。港内の児童皆裸体にて、瓜片様の小舟に乗り来たつて5)文貝の類を売る。客小銀を水中に投ずれば、跳て水に没し之を攫して浮ぶ。蛙児と也似たり。土人皆黒面6)センソクにして、紅花布を纏ひ半身を露はす。画図の羅漢に同じ。其中少しく財産有る者の如きは、皆回教の徒と見え桶様の帽を戴けり。女子亦7)タンして8)センす。鼻を穿つて金環を垂れし者あり。奇怪極まれり。日暮、石川子と共に馬車を9)ひ星嘉坡の市街(即ち旧港)に遊ぶ。路程一里許、往来、車価一元を投ず。市街の繁華は塞昆の上に位せり。夜中観覧に便ならぬ故、直ちに10)ナガエを回らせり。





5) 文貝=ブンバイ。問題にしておいて何なんですが、辞書に掲載がない言葉。「貝」が「バイ」と読めるかどうかを試しただけです。おそらく貝製の文具のことでしょう。あるいは、貨幣収集家の柳北のことゆえ、貝製の貨幣や装飾品かもしれません。

6) センソク=跣足。はだし。「跣」の一字で「はだし」。↓。すあし。裸足とも書く。赤跣(セキセン=)、徒跣(トセン=はだしで歩くこと、すあし、徒践=トセン=)、裸跣(ラセン=はだかで、はだしであること、飢えと寒さに苦しむことに喩える)、跣歩(センポ=あだしであるく)。跣行(センコウ=はだしであるく)。

7) タン=袒。はだぬぐこと、肩のところまで腕まくりする。これ一字で「はだぬぐ」とも訓む。必須四字熟語は「袒裼裸裎」(タンセキラテイ=はだぬぎになりまるはだかになる、上着を脱いで下に着ているものをあらわす、つまり、はなはだ無礼であるさま)。袒跣(タンセン=はだぬぎになり、はだしになること)、袒膊(タンパク=はだぬぎになって、腕をむき出す)、袒免(タンブン=喪中の服装の一つ、左の肩をふいで、冠をぬぎ、髪をくくる。近親でない者の喪礼として行う)、裸袒(ラタン=はだぬぎになって上半身をあらわす)。

8) セン=跣。はだし。↑。「すあし」とも訓む。

9) 倩ひ=やとひ。「倩う」は「やとう」。この訓みは漢和辞典に記載がない。「人に代理をたのむ」という意味があるので、これから派生した、当て字的な訓読みかもしれません。「麻姑を倩うて痒きを掻く」(マコをやとうてかゆきをかく=麻姑搔痒=思うがまま)という成句があり、ここで用いられているのが有名です。「倩」は「うつくしい」とか「つらつら」という訓みがポピュラーです。「やとう」はほかに、「雇う、傭う、賃う、僦」。

10) ナガエ=轅。ゆるい曲線をした、馬車のかじぼう。主として、大きな車についている。車の箱の下から差し出した二本の棒。その先端には横木を付けて、軛(くびき)で牛や馬に繋ぐ。音読みは「エン」。轅下(エンカ=車のながえの下、転じて、部下、門下)、轅駒(エンク=車のながえにつながれた馬、転じて、自由にならないものの喩え・力不足で役目を発揮できない喩え、轅下駒=エンカのク・エンカのこま=)、轅門(エンモン=陣中で車を倒してながえを向かい合わせ、陣営の門としたもの)、轅門二竜(エンモンニリョウ=唐の烏承玭〔ウショウヒン〕と族兄の烏承恩〔ウショウオン〕のこと、勇敢な戦士に喩える)。



赤道直下と言っていい星嘉坡に到着。ここは燃料の石炭供給基地で、しばらく滞在します。「蛙児」とは「かえるこのこども」、つまりは蛙の子は蛙ではなくて「蝌蚪」(おたまじゃくし)のことか?みんな半裸で腰に紅花布をまとっている。まるで羅漢さんだと柳北はいう。少し財のある者は桶のような帽子をかぶり回教徒のよう。女性も半分裸同然で裸足。鼻に穴を開けて鼻輪を通しているものもいる。「奇怪極まれり」と評していますが、ちょっと前まで丁髷結っていた自分らを棚に上げています。彼らからすれば日本人の侍の方がよほど「奇怪極まる」でしょうな。最後は、一里ほど離れた市街地まで馬車を走らせ遊びに行ったのですが、夜で暗く何も見えないのですぐさま引き返してきた(轅を回らせり)とあります。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。