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遥遥来たぜアンナン~♪逆巻く波を乗り越えてぇ~=「航西日乗」8

成島柳北の「航西日乗」シリーズの7回目です。郵船「メーコン」号は香港を出港して、大陸沿いを南下します。気温は「八十七度」。もちろん華氏温度ですから、摂氏温度に換算すると、「三十度六分」(換算式があるようで計算しました、℃=(°F-32)×5/9)。大したことないよね~、今年の「日本の夏」に較べりゃ。本日9月7日で東京が「猛暑日」だもん。んでも、柳北の場合は九月二十三日かぁ(ただし旧暦ね、新暦だと十月二十五日)。しかも夜の暑さ。そりゃ暑いね。それにしても、今年に限っては日本の場合でも十月になってもこの暑さが続くんじゃないかと不安にはなりますな~。先の見通せない、人を底知れぬ不安にさせる暑さです。

さて、柳北ですが、地元の暑さに少々閉口気味です。そんな時だからこそ、得意の漢詩を詠じて気を紛らわせたのでしょうか。豪華三連発です。

二十三日、金曜、一髪の山を見ず。此日冷水に浴す。午後一雨乍晴。夜、熱八十七度。

四辺無復一螺青    四辺、復た一螺の青無し。
雲影濤声数日程    雲影濤声、数日の程。
巴里■■竜動女    巴里の1)コジン、竜動の女。
幾多生面已諳名    幾多の生面、已に名を諳んず。

■■罷処水風徐    2)ゴサン罷む処、水風徐かに。
茶味可人■■余    茶味人に可なり、3)ビスイの余。
浪静行舟平似席    浪静かにして、行舟、席よりも平らかなり。
満窓晴日写郷書    満窓の晴日、郷書を写す。

天気和時人■■    天気和する時、人4)カイゼン
風濤起日只貪眠    風濤起こる日、只だ眠りを貪る。
誰知一笑■■裏    誰か知らん、一笑5)イッピンの裏。
経過南洋程幾千    経過す南洋、程幾千。





1) コジン=賈人。商人、あきんど。估人とも書く。「賈」は「あきなう」「かう」とも訓む。賈客(コカク=商人、估客=コカク=)、賈害(コガイ=自分から災いをまねくようなことをする、賈禍=コカ=)、賈衒(コゲン=かけ値をつけて商売すること)、賈胡(ココ=えびすの商人)、賈市(コシ=いちば、商売)、賈豎(コジュ=商人をばかにしていうことば、いやしい商人)、賈船(コセン=商品をつみ交易するために使用する船、賈舶=コハク=)、賈販(コハン=商売をする、あきなう、あきんど)、待賈(コをまつ、タイカ・タイコ=よい商人が出現するのを待って売る、転じて、賢君が出現する機会を待って仕えること、論語「子罕」)。≠個人、古人、故人、胡人、胡塵。

2) ゴサン=午餐。ひるめし、ランチ。午食(ゴシ)、午飯(ゴハン)、午饌(ゴセン)、午餉(ゴショウ)、昼餉(ひるげ)ともいう。≠誤算。

3) ビスイ=微酔。ちょっとだけ酒に酔っている、ほろ酔い。微醺(ビクン)ともいう。

4) カイゼン=快然。ここちよさそうなさま、さっぱりして気持ちがよい。≠改善、傀然、隗然、魁然。

5) イッピン=一顰。不愉快そうに顔をしかめて眉間にしわをよせること。一笑一顰(または一顰一笑)と用いて、「顔に現れるわずかな表情、ちょっと顔をしかめたり、ちょっと笑ったりすること」。微妙な表情の動きを言い表しています。言葉で調子のいい強がりを言っていても、顔の表情は正直なもので、ちらと怖がっているさまが出て来る。元大分県知事の平松守彦氏が推し進めた地域おこし施策、「一村一品」運動の「一品」や、珠玉の「逸品」とは違うので要注意。




一首目。「一螺の青」は以前、頼山陽の詩をモチーフとして詠んだ「一髪青山」を踏まえています。「一螺」は「螺髪」という言葉があるように髪の毛を表す言葉。「螺」は「うずまき、らせん、ねじ」の意で螺旋状の巻き貝のような髪の毛を言う。山の形容でもある。海上から辺り一面、山の稜線が一切見えない。波の音、風の音ばかりしか耳にしていない。ああ、夢にまで見るパリの商人、ロンドンの女。早く会いたい、名も知らぬ名前を已に何度諳んじていることか。香港を出てしばらく、単調で退屈な毎日を送っているようですね。

二首目。天気も風も穏やかな航海。ランチの後のティータイムでまどろみながらほろ酔い加減。「席」(むしろ)よりも静かで揺れないという。ゆっくりと家族あての手紙でも認めるとしよう。余裕綽綽の柳北です。

三首目。天気もいい。惰眠をむさぼる。でも、ちらっと慊りない表情を見せたことに気付いた人がいるかな。だって、何万里も来たとはいえ航海はまだまだ半ば。いつになったらパリに辿り着くのやら。船旅に倦いている自分がいることに内心いらいらも募り始めているのでしょう。


二十四日、土曜、好晴。右に6)ホウランを望む。舟人云ふ、是れ安南なりと。西暦を閲すれば此日は7)タイセイの十月二十六日なり。

一鳥不翔雲水間    一鳥8)らず、雲水の間。
驚瀾■■碧■■    驚瀾9)ドントす、碧10)センガン
離家万里安南海    家を離る万里、安南の地。
無復風光似■■    復た風光の11)コザンに似たる無し。





6) ホウラン=峰巒。連なった山々、連峰。既出です。

7) タイセイ=泰西。西洋のこと。対して、「泰東」は東洋。それぞれ、西の果て、東の果て。

8) 翔らず=かけらず。「翔る」は「かける」。羽を大きく広げて飛び舞う。音読みは「ショウ」。翔貴(ショウキ=物価が上がる)、翔実(ショウジツ=事柄が詳しくて間違いのないこと)、翔集(ショウシュウ=鳥が飛びあつまる、広く集める)、翔翔(ショウショウ=形よく威儀を正してふるまうさま、羽を広げたようにのんびりするさま)、翔鳥(ショウチョウ=羽を広げて空を飛んでいる鳥、鳥全般を指す)、翔佯(ショウヨウ=あちこち飛び回る、翔羊とも)。

9) ドント=呑吐。のんだりはいたりする。呑吐不下(ドントフゲ=他人に何とも応答できないことのたとえ、のむこともはくこともできない意、仏教語)。

10) センガン=孱顔。山がやせほそって険しいさま。この場合の「顔」は「山の高くかどだった所」の意。「孱」は「よわい」とも訓む。孱孱(センセン=軟弱で無力なさま)、孱夫(センプ=よわい、臆病な男)、孱羸(センルイ=よわいさま、孱弱=センジャク=)。

11)コザン=故山。故郷の山、転じて、ふるさと。旧山(キュウザン)ともいう。



陸地に久々の山の稜線が見えたと思ったら、いまのベトナム中部をさすアンナン(安南)だという。旧フランス領インドシナの一行政区画。かつて中国人・フランス人らがベトナムをこう呼びました。冊封体制を敷いていた唐代、この地に「安南都護府」が設けられたことに由来します。柳北によれば、風光明媚な故国日本とは似ていないといいます。遥か南方に来たことを実感しないわけにはいきません。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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