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「1万3000両」もあっちゃ船から離れて泊まれんわ=「航西日乗」6

成島柳北の「航西日乗」の6回目です。横浜を出て最初の寄港地である香港に到着です。出帆後、1週間かかっています。

二十日、火曜、朝来、支那の峰巒近く1)モクショウに在り、衆皆2)カンコす。十一時香港に達す。此の港口狭く3)ワンキョクして入る、亦一佳境なり。午下、4)ケイカに乗り上陸す。舟師に一シルリング(英貨)を投ぜり。市街を歩し山上の公園に遊ぶ。花草竹樹、清麗愛す可し。欧羅巴ホテルに一酌し、又去て街上の一酒店に投ず。此店は新天和と号す。壁間題して云ふ、A)携来什物貴客自理。試みに麵及び菓を食ふ。柿柑の類も本邦と小異あり。此港、洋銀一元、支那銭一千文に値る。咸豊・同治諸銭、大小別無きは笑ふ可し。土人5)に乗る。其柄極めて長し。壮丁之を6)て行く。頗る繁華の地なれども、賤民婦児の7)コウカツ喧噪なる、実に8)イトふべきを覚ゆ。本港は北緯二十二度七分なれば頓に炎熱に驚けり。

枕水楼台万点灯    水に9)む楼台、万点の灯。
郵船估舶喚相譍    郵船估舶、喚べば相譍ふ。
海南九月猶炎熱    海南九月、猶ほ炎熱。
争買銀盤幾片氷    争ひ買ふ、銀盤幾片の氷。

層々鋸閣競繁華    層々たる鋸閣、繁華を競ふ。
百貨如邱人語譁    百貨邱の如く、人語10)し。
此際誰来売秋色    此の際、誰か来たりて秋色を売る。
幽蘭冷菊幾盆花    幽蘭冷菊、幾盆の花。

1) モクショウ=目睫。目と、まつげ。転じて、非常に接近していること。「目睫の間にある」などと用いることが多い。時間で用いれば、「あることがすぐそこまで迫っている」という意。

2) カンコ=懽呼。よろこび叫ぶこと。「懽」は「よろこぶ」。「歓」と同義です。懽娯(カンゴ=わいわいと声を出してよろこぶ)、懽如(カンジョ=よろこぶさま)。

3) ワンキョク=彎曲。まるく曲線を描いてまがているさま。「湾曲」が書き換え漢字。「彎」は「まがる」とも訓む。彎環(ワンカン=まるいさま)。「弓を引く」の意味もあり、彎弓(ワンキュウ=弓をひきしぼる)。

4) ケイカ=軽舸。船足の速い舟。小型船のボート。軽舟(ケイシュウ)、軽艘(ケイソウ)ともいう。いわゆる猪牙船(ちょきぶね)みたいな感じでしょうか。

5) 轎=かご(キョウ)。小さくて軽い乗り物。通常は「人が肩で担いで運ぶ乗り物」。「かご」の訳が正しいかどうかは難しいところ。日本では「かご」と呼ぶものくらいが最適か。轎帷(キョウイ=乗り物のかごにかけるおおい、轎衣=キョウイ=、轎幃=キョウイ=)、轎子(キョウシ=木製で四角い、肩でかつぐこし)、轎夫(キョウフ=かごかきの人夫)。

6) 舁て=かいて。「舁く」は「かく」。ふたりが両手で物をかつぎあげること。駕籠舁き(かごかき)。音読みは「ヨ」。舁夫(ヨフ=かごかき)。↑「轎夫」と類義語。

7) コウカツ=狡黠。悪賢くてずるい。狡猾(コウカツ)、狡獪(コウカイ)ともいう。

8) イトふ=厭ふ。しつこくていやになる、もうたくさんだと思う。厭倦(エンケン=あきていやになること)、厭世(エンセイ=世の中がいやになる、生きているのがいやになる)、厭飫(エンヨ=食べあきる、あいそをつかす)。

9) 枕む=のぞむ。物の上に乗って下を見る。これは表外訓みですが難語です。「枕河」は「かわにのぞむ」と訓読する。「臨」と同義。

10) 譁し=かまびすし。「譁しい」は「かまびすしい」。わあわあと騒ぐ、やかましい。「喧」も「嘩」も「かまびすしい」。譁笑(カショウ=やかましく笑い騒ぐ)、譁然(カゼン=騒々しいさま)、譁兵(カヘイ=わいわいと騒ぎたてて、反乱をおこした兵、明末に登場して各地で騒動を起こした)。

A) 「携来什物貴客自理」を訓読するとともに解釈せよ。




正解は「携え来る什物 貴客自ら理せよ」。お荷物にお気をつけ下さい。「什物」は「身の回りの手荷物」。「無くなっても自己責任ですからね」とも読める。治安物騒な香港ならではの看板でしょうか。




「峰巒」(ホウラン)は「山脈、つらなった山々」で峰嶂(ホウショウ)ともいう。「巒」は「みね」。香港の狭い港の当りの景色は「佳境」だという。絶景ポイント。舟人たちは一斉に歓声を上げます。好奇心旺盛な柳北は早速、上陸します。酒を飲み、麵を食い、柿や柑などの菓(=果物)も頬張ります。日本の物とはちょっと味が違うという。

興味深いのは「此港、洋銀一元、支那銭一千文に値る。咸豊・同治諸銭、大小別無きは笑ふ可し」という記述です。通貨レートの話です。「咸豊」は、1851~61年の清の元号、同じく「同治」は62~74年の元号。それぞれ貨幣が発行されているようですが、サイズが同じで笑ってしまうという。これからも貨幣の話はしばしば登場します。どうやら柳北は「古銭マニア」。かなり詳しい。にぎやかな街である香港は、人々ががやがやと怒鳴り合い、叫び合っている。柳北のお気に入りには入らなかったようです。

」は「(相手の質問に)こたえる」=「応」の意。「估舶」(コハク)は商人の船。「估」は「沽」と同義。估券(コケン=品物の売値、人の品位、体面)。九月だというのに猛暑。氷が飛ぶように売れている。「鋸閣」とは、楼閣がのこぎりの歯のようにするどく尖っているさまを譬えているのでしょう。やかましい街にあって、「幽蘭冷菊、幾盆の花」という秋の風物を売っているのに出くわした柳北。秋の花々を見かけて、ちょっとだけほっと一息つけたようです。

香港盗賊多きを懼れ、皆本船に還りて寐ぬ。此日郷書を仏国の医師サボウル氏に託す。

香港は盗みが多い。このため、柳北ら一行は現地のホテルのは宿泊しません。舟に還って寝泊りしました。岩波文庫「幕末維新パリ見聞記」(井田進也校注)の「注」の欄によりますと、「現如上人の会計係として旅費一万三千両を預かった柳北は、盗難を恐れてか、マルセイユに着くまでホテルに泊まっていない」(P183)とあります。莫大なお金です。管理もしんどかったことでしょう。特にアジアは信用できなかったのでしょう。仏蘭西に着くまではお金を枕にしないと寝られなかったのでしょうね。びくびく。そして、最後の「郷書」は、家族にロングランの外遊に出たことを始めて告げる手紙でしょう。「郷信」(キョウシン)ともいう。柳北の心の中でも喉に刺さった小さな骨だったことでしょうから、やっと香港に着いて手紙を託せる事が出来てほっと一息といったところか。どんな巧みな「云い訳」が書かれていたのか興味津々ですがね。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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