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荒れ狂う東のシナの海を越え右岸に見ゆる支那は廈門=「航西日乗」5

成島柳北の「航西日乗」シリーズの5回目です。柳北の乗った郵船「ゴタベリイ」号は東シナ海を航行、一路香港を目指しています。仏蘭西に向けてここでより大型の船に乗り換えるのです。


十七日、土曜、又晴。四時風雨俄に起り、船身A)●●し、余も亦起つ能はず。房中に1)コンガするのみ。

何物半宵●我牀    何物か、半宵、我牀をA)●す。
乍天乍地奈飄颺    乍天乍地、飄颺を奈ん。
記他前夕雲容悪    記す、他の前夕、雲容の悪しきを。
也値陽侯一夜狂    また値ふ、陽侯一夜の狂。

艙外鶏鳴■■残    艙外、鶏鳴て2)ショクエイ残す。
蛮奴捧水白陶板    蛮奴水を捧ぐ、白陶板。
無端驚覚家山夢    端無く驚き覚む、家山の夢。
撼枕■■客胆寒    枕を3)す4)トウセイ、客胆寒し。

1) コンガ=困臥。くたびれて横になること。「困~」の熟語は、困畏(コンイ=弱くて意気地がない、困慰=コンイ=)、困匱(コンキ=動きがとれないほど貧しい、貧乏して物に不自由する、困竭=コンケツ=)、困窮(コンキュウ=非常に貧しくて生活に困ること)、困急(コンキュウ=困難にであって行き詰まる、困殆=コンタイ=)、困窘(コンキン=貧しくて、動きがとれずに苦しむ)、困蹶(コンケツ=つかえて物事に行き詰まる、困躓=コンチ=)、困辱(コンジョク=動きがとれずぐったりする)、困餒(コンタイ=苦しみ飢える)、困憊(コンパイ=ひどく疲れてしまう)、困敝(コンペイ=苦労して気力がなくなる、困弊)、困阨(コンヤク=苦しみ悩む、わざわい、困厄)。

2) ショクエイ=燭影。ともしびの影。燭芯(ショクシン=ともしびのしん)、燭剪(ショクセン=ろうそくの燃え残りのしんを切る道具)、燭涙(ショクルイ=ろうそくから溶けて、したたるろうのこと)、燭花(ショッカ=ともしび)、燭光(ショッコウ=ともしびの光)。

3) 撼す=うごかす。物や人の心に強いショックを与えて、揺り動かす。音読みは「カン」。撼動(カンドウ=どんと揺り動かす、人を罪に陥れる、撼揺=カンヨウ=)、撼頓(カントン=急に揺れ動いてひっくり返る)、震撼(シンカン=ショックを与えて、震えあがらせる)。

4) トウセイ=濤声。波がうねる音。「濤」は「うねり」の意。

A)「●●」には「掀颺」と「掀す」が入ります。所謂、一字音訓読み分けの問題です。「掀」を読み分けてください。

掀颺=キンヨウ。いきおいよくたかくあげること。掀起(キンキ=さっとたちあがる)、掀掀(キンキン=高くあがるさま)。むしろ、「颺」の方が難問か。「あがる」という意味。颺言(ヨウゲン=声を張り上げていう、あからさまにいいふらす、揚言=ヨウゲン=)。

掀す=うごかす。通常は「あげる」。やや特殊な訓みです。


東シナ海は波が荒いのでしょうか。「房中」というのは各人の船室のことでしょう。「牀」は「とこ、ベッド」。「乍」は「たちまち」。「奈」は「いかんせん」と訓む。「飄颺」は「風に吹かれてひるがえりあがる」。「陽侯」とは「晋の陽陵国侯が溺死して海神(わたつみ)となり、その後、波風を起して舟を転覆させたという神話」を表している。「値ふ」は「あふ」=「遭う」の意。転覆しかねないくらいの大時化だったのでしょう。
「艙」は「ふなぐら」。舟の内部をわけへだてた、それぞれの部分。艙間(ソウカン=船室)。

十八日、日曜、陰雨5)メイモウ、風力亦猛。同舟、多くは房内に臥す。午、晴、風亦歇む。此夜月明。舟人云ふ、台湾を過ぐと。6)カツモク見る所無し。朝来二絶を得たり。

書在筐中酒在瓶    書は筐中に在り、酒は瓶に在り。
心安不覚度■■    心安くして覚えず、7)ソウメイを度るを。
艙窓眠足閑無事    艙窓眠り足りて、閑、事無し。
坐聴■■第一鈴    坐して聴く、8)チョウサンの第一鈴。

故山日夜望儂不    故山、日夜9)を望むや不や。
儂自出家多客愁    儂、家を出しより客愁多し。
誰識風濤★湃夕    誰か識らん、風濤★=「氵+邦」(ホウ)湃の夕。
夢飛■■菊花秋    夢は飛ぶ、10)サンケイ菊花の秋。

5) メイモウ=冥濛。奥深くてくらいさま。冥蒙もOK。

6) カツモク=刮目。目をかっと見開いてよく見る。特に期待し、注意して見る。「刮」は「けずる」「えぐる」「こそぐ」「こそげる」とも訓む。刮刷(カッサツ=汚れをけずりとってきれいにする)、刮摩(カツマ=物をこすりみがいて、なめらかにする)。

7) ソウメイ=滄溟。あおあおとした海原。滄海(ソウカイ)ともいう。滄茫、滄波、滄流、滄浪、滄江、滄洲などもイメージしましょう。

8) チョウサン=朝餐。朝めし。「餐」は「ごちそう」。朝餉(チョウショウ、あさげ)、朝飧(チョウソン)、朝饔(チョウヨウ)ともいう。「飧」(ソン)は「簡単な食事」、「饔」(ヨウ)は「朝食べる簡単な食事」。二つ合わせて「飧饔」(ソンヨウ=ごちそう、夕食と朝食)、「饔飧」(ヨウソン)もある。餐霞(サンカ=道家で修練としてかすみをくうこと)、餐霞子(サンカシ=かすみを食って生きる人、仙人)、餐食(サンショク=食事)、餐銭(サンセン=天子から臣下に賜わる賄料)、餐飯(サンパン=めしを食らうこと、食事)。午餐、晩餐も。

9) 儂=われ。自称の言葉ですが通常は「わし」と訓む。おじいちゃんの用語。

10) サンケイ=三径。庭にある三つのこみち。隠者のすまいの庭を寓意する。松、菊、竹が隠者の象徴。陶淵明の「帰去来兮辞」に「三径就荒、松菊猶存」があります。ここはもちろん秋の菊。

海は依然として荒れ気味ですが、ようやく台湾を過ぎたようです。揺れて眠れない中、朝飯の呼び鈴が聞こえてきます。「氵+邦」(ホウ)湃=「ホウハイ」は「滂湃」や「澎湃」と同義でしょう。水が勢い良く巻き上がるさま。故郷の秋が夢に出て来る。しんどい船旅ですね。

十九日、月曜、快晴。11)シンキ、始て支那の漁船数隻を見る。右に遠く12)廈門を望む。

唯看漁舟数葉翻    唯だ看る、漁舟数葉翻へるを。
茫々無際碧乾坤    茫々際無し、碧乾坤。
按図海客呼吾語    図を按ずる海客、吾を呼んで語る。
■■雲山是廈門    13)イチマツの雲山、是れ廈門。

晩に二島の船右に立つを認む。人に問へば曰く是れ兄弟島なりと。

11) シンキ=晨起。早起きすること、または早朝。「晨」は「あした」とも訓み、「あさ」の意。晨暉(シンキ=あさひ、晨光=シンコウ=)。

12) 廈門=アモイ。中国福建省南東部の港湾・商工都市。明末清初、鄭成功が廈門島や金門島を拠点に清軍と戦った。対岸に鼓浪嶼(コロンス)がある。現在経済特別区。人口は約205万3000人(2000年)。

13) イチマツ=一抹。おしろい・絵の具などを少しだけ塗ること。さっと塗ったさま。

舟は中国大陸に接近します。そこは吁嗟、廈門なり。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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