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助さんや角さんや仏・伊・英の漫遊記の始まり始まり~=成島柳北「航西日乗」1

元幕臣で明治維新を機に下野、隠居して一私人として仏・伊・英・米各国を漫遊した成島柳北(1837~84)。岩波文庫から昨年10月に「幕末維新パリ見聞記」(井田進也校注)が発刊され、柳北の漫遊の模様を日記にしたためた「航西日乗」が採録されています。井田氏の解説によると、柳北は幕末最後の慶応4(1868)年、騎兵頭と経て外国奉行、会計副総裁の要職に就いていたのですが、維新後は向島須崎村に隠棲、東本願寺の法主現如上人(大谷光瑩)が浅草本願寺内に設けた学舎に迎えられ、明治5(1872)年8月、上人から宗教事情視察の旅への随行をにわかにもちかけられました。同年9月12日午前、諸般の準備のため一行に先発して横浜に赴きます。この日はちょうど日本最初の鉄道が新橋~横浜間に全通し、お召し列車が横浜に到着した。残念ながら柳北は最初の乗客の一人ではありませんでした。翌9月13日、横浜香港間を就航する仏郵船・ゴダヴェリー号(Godaveri)に搭乗して出帆します。ところが彼は家族の誰にも長期間の漫遊に出掛けることを知らせずにいわば、失踪した形となりました。その「妻にも友人知己にも秘した理由は定かではない」と井田氏は言います。

本日はまずその書きだしの一節から。もちろん柳北の日記の原文は漢文です。彼が主宰した文芸雑誌「花月新誌」に連載され、これを底本としているのことです。

余の欧米に航遊せしは、実に明治五年壬申の九月に1)カイランし、翌年七月に帰朝せしなり。其際見聞したる事共甚だ2)オビタダしけれど、客中匆忙筆記の暇無くして、空しく雲烟過眼に属せしもの頗る多く、今日に至りては遺憾やる方無し。去れど旅中鉛筆にて其の概略を記し置きたる日乗三巻有り、3)此比之を4)キョウテイより取出でたれば、此に載せて5)コウコの同人に示す。其の文の拙劣なる素より論無し、唯だ其の情況を有りのままに写したるのみ。折々得たりし悪詩も亦6)サンジュンを加へずして其の間に挿入す。識者の7)シショウは固より免れ難かる可し。






1) カイラン=解纜。船出、出帆のこと。「ともづなをとく」とも訓読できます。収纜(シュウラン)ともいう。対義語は繋纜(ケイラン)

2) オビタダし=夥し。数や量が非常に多い。音読みは「カ」。夥人(カジン=仲間)、夥多(カタ=非常に多い)、夥党(カトウ=仲間、くみ)、夥伴(カハン=仲間、つれ)。

3) 此比=このごろ。「比」は「ころ」と表外訓み。

4) キョウテイ=筐底。書物入れに深くしまっておくこと。「筐」は「はこ」「かたみ」。

5) コウコ=江湖。世間、世の中。

6) サンジュン=刪潤。文章・字句の一部を削り手を入れること。文章の校正をいう。「刪」は「けずる」とも訓む。刪改(サンカイ)、刪革(サンカク)、刪修(サンシュウ)、刪正(サンセイ)、刪節(サンセツ)、刪定(サンテイ)、刪省(サンセイ)、刪約(サンヤク)、刪略(サンリャク)、刪削(サンサク)ともいう。

7) シショウ=嗤笑。あざわらうこと。「嗤」は「わらう」とも訓む。嗤誚(シショウ=あざけりなじる)、嗤詆(シテイ=わらいそしる)、嗤鄙(シヒ=あざわらって卑しむ)。



「雲烟過眼」は、雲や霞が目の前を次々通り過ぎていくことで物事に執着しないことをたとえる言葉。漫遊中は何かと忙しく、目まぐるしく次から次へといろんなことを見聞し、多くの人に遇って多くの知識や経験を得たが、ゆっくりと咀嚼している暇はなかったということです。だけど日記にはあたかも書き殴った走り書きのようではあるが書きあげ三巻になるという。「日乗」とは日記のことで「日誌、日録」ともいう。折節、漢詩も挿入されてあるのですが、詠んだまま添削もしておらず恥かしい拙劣なる「悪詩」であると大層ご謙遜されておられます。これがなかなか即興で詠んだ割には味わい深いのが多い。さすが元儒学者、徳川将軍に儒教の授業を施しただけの力量はある。ざっと数えて八十首、いずれも七言絶句です。すべては紹介しきれませんが、なるべく多くの作品を取り上げていくつもりです。

のちに朝野新聞で論陣を張るジャーナリストとしての資質は、この漫遊記の記述からもうかがえます。すなわち、何でも見てやろう、聞いてやろう、食べてやろう(本当にいろんなものを食べますが…)という旺盛な好奇心。しして、フットワークの軽さ。頭でっかちより寧ろ脚の方が先に動いてしまうのです。いわば政権交代に伴い権力側から転落した悲哀もあったと思われます。道中、岩倉遣欧使節団とも合流する場面があります。大久保卿、木戸卿と称しているのは世が世なら立場逆転ですからね。そうした悲哀も好奇心の裏返しで反骨精神を養ったのではないでしょうか。生硬な文章の端々にそれは感じられます。そうした点に注意しながら柳北の日記を味わってみてください。
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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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