白居易の長恨歌シリーズの3回目です。第2段では楊貴妃は縊殺されました。どこにも書かれていませんでしたが首を絞められたのです。お墓をつくって弔うこともされませんでした。まさに横死です。とても世界三大美女の死に際とは思われません。
43
コウアイ散漫風
ショウサク44 雲
サン縈迂剣閣に登る
45 峨嵋山下人の行くこと少に
46
セイキ光無く日色薄し
47 蜀江水は碧にして蜀山は青く
48 聖主朝朝暮暮の情
49
アングウに月を見れば傷心の色
50 夜雨に鈴を聞けば腸断の声
51 天
旋り日転じて
リュウギョを
廻らし
52 此に到りて
チュウチョして去る能わず
53 馬嵬
ハカ泥土の中
54 玉顔を見ず空しく死せし処
55 君臣相顧みて尽く衣を
霑し
56 東のかた都門を望み馬に
信せて帰る
43 「コウアイ」は耳慣れない言葉書き取り問題=同音異義語では「狎愛」「江靄」「垢穢」「咬哇」などがライバル候補。いずれも1級配当漢字が含まれていますが、余り見かけない言葉ですね。砂ぼこりの意味ですので正解は「
黄埃」。砂ぼこりのイメージはやはり黄色。「黄塵」(コウジン)もあります。「埃」は1級配当で「ほこり」。「塵埃」(ジンアイ)、「涓埃」(ケンアイ)、「氛埃」(フンアイ)、「埃靄」(アイアイ)、「埃塵」(アイジン、強力なライバルは愛人)、「埃氛」(アイフン)、「埃滅」(アイメツ)。「ショウサク」は基本熟語書き問題=ものさびしいさま。正解は「
蕭索」。「蕭」は1級配当で「ものさび・しい」「しず・か」「よもぎ」とも訓む。「蕭艾」(ショウガイ)、「蕭灑」(ショウサイ=瀟灑)、「蕭殺」(ショウサツ)=「蕭条」(ショウジョウ)、「蕭颯」(ショウサツ)、「蕭瑟」(ショウシツ)、「蕭牆」(ショウショウ)、「蕭蕭」(ショウショウ)、「蕭寂」(ショウセキ)、「蕭寥」(ショウリョウ)、「蕭娘」(ショウジョウ)⇔「蕭郎」(ショウロウ)、「蕭牆之憂」(ショウショウのうれい)、「蕭森」(ショウシン)、「蕭然」(ショウゼン)、「蕭疎」(ショウソ)、「蕭騒」(ショウソウ)、「蕭蘭」(ショウラン)、「蕭散」(ショウサン)。土埃が舞い上がり、風の吹く音は物淋しい。
44 「サン」は微妙な書き取り=常用漢字です。「かけはし」という表外訓みがあり、ここではその意味。正解は「
桟」。「梯」(テイ、準1級)もある。「石桟」(セキサン)、「飛桟」(ヒサン)、「棚桟」(ホウサン)、「桟雲狭雨」(サンウンキョウウ)、「桟道」(サンドウ、「参道」とは違うので注意)=「桟閣」(サンカク)=「桟径」(サンケイ)、「桟留」(サントメ)、「桟敷」(サじき)、「桟橋」(サンばし)。「雲桟」は空に浮かぶ雲にまで続かんばかりに伸びた架け橋、「
縈迂」(エイウ)はくねくねと曲がりくねったさま、「剣閣」(ケンカク)は山の名で長安から蜀に至る難所。「
縈」は配当外で「めぐる、まつわる、まとう」。「
縈回」(エイカイ)=「
縈廻」=「
縈繞」(エイジョウ)、「縈胸」(エイキョウ=わだかまる)、「縈青繚白」(エイセイリョウハク=風光明媚)、「
縈帯」(エイタイ)、「
縈抱」(エイホウ)。どうやら、唐代の詩人は好んで「
縈」を用いているようです。皇帝の一行は何事もなかったかのように蜀を目指して桟橋を渡り、剣閣山を登っていく。
45 「峨嵋」(ガビ)=四川省中部にある山の名。「峨眉」とも書く。その稜線が蛾の触角(蛾眉)のような形でくっきりとしている。「嵋」は1級配当ですが「娥嵋」で用いられるマイナー漢字です。峨嵋山の麓には行き交う人もいない。
46 「セイキ」は同音異義語をこなそう書き取り問題=「清暉」「生気」「世紀」「生起」「腥気」「成毀」「性器」「旌旗」「盛期」正気」から選んでください。意味は「天子を象徴する色鮮やかな旗さしもの」。正解は「
旌旗」。「旌」は1級配当で「はた」「あらわ・す」「ほ・める」とも訓む。「旌旃」(セイセン)、「旌旆」(セイハイ)、「旌顕」(セイケン)、「旌節」(セイセツ)、「旌表」(セイヒョウ)=「旌門」(セイモン)、「旌別」(セイベツ、本番で出そう)、「旌褒」(セイホウ)、「旌旄」(セイボウ)=「旌麾」(セイキ)。
47 蜀の流れは深緑に、蜀の山は青々と茂っている。
48 皇帝は朝に夕に楊貴妃のことを思いながら悲しみにくれる。
49 「アングウ」は基本熟語書き問題=天子が旅先で泊まる仮の御所・執務所。正解は「
行宮」。「行」を「アン」と読むのは唐音です。「行在」(アンザイ)、「行在所」(アンザイショ)、「行所」(アンショ)ともいう。「行脚」(アンギャ)、「行灯」(アンドン、アンドウ)もある。仮の皇居では月を眺めても、皇帝の心は傷ついてずたずた。
50 夜の雨の中に鈴の音を聞いても、はらわたが千切れそうなほど苦しい。
51 「旋り」「廻らし」は表外訓み問題=「
めぐ・り」「
めぐ・らし」。「めぐり」はほかには「繞り」「繚り」「巡り」「遶り」「運り」「邏り」「迴り」「輾り」「躔り」「蟠り」「紆り」「浹り」「樛り」「槃り」「徼り」「徇り」「圜り」「斡り」「匯り」「帀り」「匝り」「嬰り」「般り」「盤り」「環り」などがありますが、まぁ、ぶっちゃけ、訓めればよろしいやん。書きなら「環り」でいいやん。「天旋り」というのは、いったん首都を制圧した安禄山の軍隊が官軍、すなわち唐王朝軍の逆襲に遭い敗退。都が回復したことをいう。そこで、「リョウギョ(リュウギョもOK)」は書き問題=天子の乗り物、馬車のこと。正解は「
竜馭」。「馭」は1級配当で「御」が書き換え字。「あやつ・る」「の・る」「す・べる」「おさ・める」とも訓む。「馭者」(ギョシャ)、「制馭」(セイギョ)、「馭極」(ギョキョク=即位、類義語問題で要注意)、「煙馭雲車」(エンギョウンシャ)。天下の情勢が一変して、皇帝も長安の都にお帰りになった。
52 「チュウチョ」は基本熟語書き問題=二歩、三歩いっては止まるように、ためらうこと。行き悩むこと。「
躊躇」が正解。両字共に1級配当で、「躊」は「ためら・う」「たちもとお・る」、「躇」は「ふ・む」「ためら・う」「たちもとお・る」「こ・える」「わた・る」と訓む。「たちもとおる」というのは、「行きつ戻りつ徘徊すること」で、これらのほかに「躑る」「踟る」「裴る」「槃る」「彽る」があります。いずれも1級配当漢字です。訓めるようにしましょう。都への帰路、楊貴妃を殺した馬嵬の駅をよぎるとき、とどまって前に進むことができなくなられたのだ。
53 「ハカ」は1級漢字絡みの書き問題=同音異義語は「果」「墓」「破瓜」「塋」「墳」。ここは馬嵬の坂の下のことです。そう、「ハ」は「さか」なんです。浮かびますか?「坂」「阪」は簡単ですが「嶝」「陂」は「ハ」ではない。あと一つ…正解は「
坡下」。「坡」は「さか」「つつみ」「なな・め」とも訓む。「坡陀」(ハダ-起伏があって平らでないさま)、「坡塘」(ハトウ=土手)、「坡頭」(ハトウ)、「坡老」(ハロウ)、「坡壟」(ハロウ=小高くなった土手や丘など)。
54 楊貴妃が死ぬ時はその玉のような顔を見ることができなかった。悲しくも彼女が殺されたその場所は前と変わりなく残っているではないか。
55 「霑し」は1級配当訓み問題=「
うるお・し」。涙で濡らすこと。「うるおす」はほかに「潤す」「浹す」「涵す」「洽す」「膏す」「湿す」「沾す」があります。君臣共に振り返りながら、全員が涙で衣をぬらすばかりだった。
56 「信せて」は表外訓み問題=「
まか・せて」。東の方の長安の城門を目指して、馬の歩みにまかせて帰る。
急転直下、事態は好転したのですが、果して楊貴妃の死は何だったのか?皇帝の気持ちは納まりが尽きません。長安への帰路、馬嵬を通らなければならないのは皮肉以外の何物でもなかったでしょう。「ああ、貴妃よ。生き返っておくれ。わたしはそなたを見殺しにしてしもうたのだ。無力な皇帝よ。。。」。血涙とは書かれていませんが、楊貴妃が縊殺されたときよりも赤い涙だったのではないでしょうか。かくも皇帝は世の流れに流されるしかない儚い存在だったのです。歴史の悲哀ですね。まぁ、いいじゃん。いい思いしたんだし。また、都に戻れるんだし。。そして、何より、これから脳内で楊貴妃との新たな思い出を作るんだしさ。。。
本日は短めで。。。
【今日の漢検1級配当漢字】
縊、狎、靄、穢、咬哇、埃、涓、氛、蕭、艾、瀟、灑、颯、瑟、牆、寥、繞、繚、蜀、嵋、娥、暉、腥、毀、旌、旃、旆、旄、麾、、遶、邏、迴、輾、躔、蟠、紆、浹、樛、槃、徼、徇、圜、匯、馭、躊躇、徘徊、躑、踟、裴、彽、嵬、塋、嶝、陂、坡、壟、霑、涵、洽、沾、儚 【今日の配当外漢字】
縈
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