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さようなら、ザ・ダンディー山人=柏木如亭「詩本草」



 柏木如亭の「詩本草」シリーズの最終回です。第48段の「山人の遊人」。そして、「後記」「跋文」「題詞」と続きます。


 《48 山人の遊人》

 録して第八段に至る。六月已に破れて、七月来らんと欲す。是において筆を止めて行李を収捨し、急に紫雲山居に帰る。秋涼初めて生じ、道途も亦た甚だしくは熱せず。門に入りて家事を料理す。便ち米をひ、薪を積み、瓜茄を糟にし、魚蝦を塩にし、以て吾が友を待つ。僅かに安楽主翁たり。昔人云はく、古の山人は山中の野人、今の山人は山外の遊人なりと。余到る処、幸に館を掃ひ、餐を授くる人有り。未だ嘗て凄風苦雨十分のに逢はずと雖も、畢竟山外の遊人なり。知らず、幾時か衣食略ぼ足ることを得て、長く山中の野人と為らんか。
 詩本草 終                       弟位立人校字


 ■「六月已に破れて、七月来らんと欲す」=揖斐氏の註釈によると、杜甫の「絶句漫興」に「二月已破三月来 漸老逢春能幾回 莫思身外無窮事 且尽生前有限杯」(二月が既に終わり、三月になった。だんだん年をとってきたが、あと何回春を迎えられるのだろうか。自分以外の果てしないことを思って、しばし有限の酒杯を飲み尽くそうではないか)を踏まえるとある。

 ■「紫雲山居」(シウンサンキョ)=晩年の如亭が住んでいた京都・黒谷の廃寺に付けた号。黒谷の名刹・金戒光明寺の山号・紫雲山に因むとある。

 ■「料理」(リョウリ)=この場合は、物事をうまく処理すること。

 ■「糴ひ」は訓み問題=「・ひ」。「糴」は1級配当で「テキ」。「・う」「かいよね」「いりよね」と訓む。反対に「糶」は「チョウ」で「・る」「うりよね」「だしよね」「せり」と訓む。いずれも部首は米扁。「(お米が)入る」ので「買う」、「(お米が)出る」ので「売る」と覚え、出入(でいり)の順で「チョウ→テキ(五十音順)」で何とか格好を付けられるでしょうか。ややこしいですがね。熟語には「糴糶」(テキチョウ)、「糶糴斂散」(チョウテキレンサン)。「糶取り」は「せど・り」。

 ■「瓜茄」(カカ)=瓜(うり)と茄(なす)。これを「糟」(ソウ、酒糟)にするのですから、「漬物を作ること」。「古人の糟魄を嘗める」(コジンのソウハクをな・める)。

 ■「魚蝦」(ギョカ)=魚と蝦(えび)。これを「塩」にするのですから、「塩漬け、塩からを作ること」。

 ■「安楽主翁」(アンラクシュオウ)=安楽な境涯の老主人。御隠居。

 ■「凄風苦雨」(セイフウクウ)=註釈によれば、「春秋左氏伝」昭公四年の「春に凄風無く、秋に苦雨無し」に拠り、境遇の困窮悲惨さを比喩した表現だとある。

 ■「艱」は一字訓読み問題=「くるしみ」。「艱」は1級配当で「カン」。「なや・む」「くる・しむ」「かた・い」「むずか・しい」「けわ・しい」「なや・み」と訓む。「艱難」(カンナン)、「憂艱」(ユウカン)、「艱易」(カンイ)、「艱患」(カンカン)=「艱禍」(カンカ)、「艱急」(カンキュウ)、「艱窘」(カンキン)、「艱苦」(カンク)、「艱虞」(カング)、「艱険」「艱嶮」(以上カンケン)、「艱渋」(カンジュウ)、「艱阻」(カンソ)、「艱貞」(カンテイ)。

 ■「噫」は一字訓読み問題=「ああ」。嘆きの声。音読みは「イ、アイ」。「おくび」とも訓む。「噫気」と読むとゲップのこと。「噫乎」は「ああ」。成句には「五噫を歌う」(ゴイをうた・う)=世間が認めない不平不満を嘆くこと、がある。

 如亭は山人は山人でも「野人」と「遊人」では大違いだといいます。真の山人は「野人」で、今の自分はまだ「遊人」だと。放浪した先々で渥く饗され、人と接点がある。それでは駄目だ。山に中に籠って野人たらねばならないのだ。

 註釈によると、如亭が伊賀上野から京都の寓居・紫雲山居に戻ったのは、文政二年(1819年)七月の初め。その後、ほどなくして持病の水腫が悪化し様態が悪くなる。看病のため木屋町の貸座敷に移され、七月十日に57歳で歿した。紫雲山居にもどってすぐの頃、恐らく歿する一週間ほと前に書かれたと思われるこの段、如亭の絶筆と言ってよいとある。「いかにもみずからの生涯をしめくくるにふさわしいものになっている。みごとな絶筆である」と言っています。

 最後の「弟位立人校字」は、信州の上田で医を業としていた如亭の弟の柏木正亭(位は名、立人は字、「柏山人碑」にも出てきました)が、本書の校訂を担当したという意。おそらく、実際の校訂は本書の出版に尽力した梁川星巌が行い、弟正亭が費用の一部を負担したことを、こういう形で表したのかもしれない、と注釈で揖斐氏は言っています。

 続けて「後記」です。

 《後記》

 遺藁、刻既に成る。忽ち又た詩本草を獲たり。是の書、山人最も心の筆にして、生前頗る梓行の志有りて果さざる者と為すなり。因つて亦たこれを二三の旧知に謀り、追刻して以て伝ふ。壬午秋八月、梁卯誌す。

 ■「心」(キョウシン)=意に満ちること、心に適うこと。「」は配当外で「キョウ」。「こころよい」「かなう」という意味。「志」(キョウシ)、「然」(キョウゼン)。

 ■「梓行」は読み問題=「シコウ」。出版すること。

 ■「壬午」(ジンゴ、みずのえうま)=文政五年(1822年)。如亭没後三年。

 ■「梁卯」(リョウウ)=梁川星巌(1789~1858年)。梁は修姓。卯は名。

 続けて「跋文」。


 《跋》

 如亭山人遺稿の校刻、 るや否や。詩本草閲了し、返納す。僕の山人におけるやその交はり太だ浅し。然してその書を誦してその人と為りを想ふに、特に筆墨のみならずボンピャクの事皆な別に一家法を具ふるを知る。故にサンジュンの際、宜しくその本色を損なはざらんことを務むべし。拙処は一咲にも充たらずと雖も、その超処に至つては、或いは明清の名家に逼らん。恐らくは世の文士の能く及ぶ者少なからん。是れ山人為る所以か。山人、常に世儒を下し視ること、ソウカイのごとくのみならず。故に世儒も亦た皆なキュウシュウのごとくこれを視て、ヒショウして置かず。山人の為す所、復た何等の趣有ることを解せざるなり。噫、これを推奨するもの世に幾人か有らん。公、それこれを勉めよ。
                          会末 邨瀬絅拝啓

梁伯兎仁兄盟 台下 

 ■「跋」(バツ)=あとがき。書物の終わりに書く文。1級配当で「・む」とも訓む。「跋文」(跋文)=「跋語」(バツゴ)、「序跋」(ジョバツ)、「題跋」(ダイバツ)、「跋尾」(バツビ)、「跋胡」(バッコ)、「跋扈」(バッコ)、「跋渉」(バッショウ)、「跋履」(バツリ)、「跋剌」(ハツラツ=潑溂)。

 ■「校刻」(コウコク)=詩文を校定し、版木に彫ること。

 ■「竣る」は訓み問題=「おわ・る」。「竣」は1級配当で「シュン」。「竣功」(シュンコウ)、「竣成」(シュンセイ)、「竣工」(シュンコウ)。

 ■「ボンピャク」は書き問題=「ボンビャク」「ハンピャク」とも読む。いろいろのものや人、かずかず。正解は「凡百」。これしかないですが、耳慣れないと浮かびにくい。

 ■「一家法」(イッカホウ)=その人だけの独特のやり方、世界観といった意味か。あまり聞き慣れませんが、「一家言」(イッカゲン)と近い語法かもしれません。直接関係ないですが、「一家を機杼する」(イッカをキチョする)は「新しく一派の言論・文章などを創り出すこと」で、本番でも狙われそうです。

 ■「サンジュン」は書き問題=同音異義語ではあまりほかには見えない言葉ですから、一発で浮かびたいところ。しかし、意外に出てこない。意味は「不要な字句をけずり改めて、文章をよくすること」。正解は「刪潤」。「刪」は1級配当。「けず・る」という訓読みが重要で、一時音訓読み分け問題で狙われそう。「刪定」(サンテイ)、「刪修」(サンシュウ)、「刪省」(サンセイ)、「刪節」(サンセツ)、「刪述」(サンジュツ)、「刪改」(サンカイ)、「刪革」(サンカク)、「刪削」(サンサク)、「刪詩」(サンシ)、「刪正」(サンセイ)、「刪省」(サンセイ)、「刪約」(サンヤク)、「刪略」(サンリャク)。

 ■「一咲」は読み問題=これまで何度も触れている。「一笑に付す」と同義で、この場合の「咲」は「わらう」という意味。したがって正解は「イッショウ」。

 ■「超処」(チョウミョウショ)=極めてすぐれた箇所。「」は「妙」(ミョウ)の異体字。「妙()境」(ミョウキョウ)なども同義。

 ■「世儒」(セイジュ)=世間一般に持て囃される軽薄な儒学者。

 ■「翅に」は訓み問題=「ただ・に」。ちょっと特殊ですが漢文を読んでいると頻出します。「啻に」「祗に」なども「ただに」です。「翅」は「はね」「つばさ」もあるので要注意です。

 ■「ソウカイ」は書き問題=つまらない、取るに足らないものの比喩ですが、浮かびますか?同音異義語では「滄海」「爽快」「草鞋(注:ソウカイもあり)」「走价」「湊会」「掃海」「総会」「壮快」などがあります。正解は「草芥」。雑草と塵芥(ちりあくた)のことですね。土芥ともいう。

 ■「キュウシュウ」は書き問題=同音異義語は「翕習」「鳩聚」「急襲」「九州」「旧習」「吸収」ですが、「恨みがあって憎い相手」という意味ですから比較的浮かぶでしょう。正解は「仇讐」。「仇」も「讐」も「あだ」「かたき」。「讐」は1級配当で「むく・いる」「くらべただ・す」とも訓む。「復讐」(フクシュウ)、「讐敵」(シュウテキ)=「讐仇」(シュウキュウ)、「恩讐」(オンシュウ)、「怨讐」(エンシュウ)、「寇讐」(コウシュウ)、「校讐」(コウシュウ)、「私讐」(シシュウ)、「報讐」(ホウシュウ)、「讐怨」「讐冤」(以上シュウエン)、「讐家」(シュウカ)、「讐視」(シュウシ)、「讐定」(シュウジョウ)。

 ■「ヒショウ」は書き問題=人のことをそしり笑うことですが、浮かびますか?とても簡単な漢字ですよ。同音異義語では「婢妾」「裨将」「飛觴」「辟小」「妃妾」「僻小」「丕承」「飛翔」「卑小」「秘抄」「卑称」「非訟」「悲傷」「費消」と多いですね。正解は「非笑」。意外でしょ。この場合の「非」は「そしる、正しくないとして退ける」という意味。「非る」(そし・る)という表外訓みも要注意です。ですが、となれば、準1級配当漢字を使って「誹笑」も正解でしょうね。この「誹」も「そし・る」と訓みます。

 ■「邨瀬絅」(むらせけい)=村瀬藤城(1791~1853)。絅は名。美濃国上有知の庄屋の家に生まれ、頼山陽に学んだ。如亭との付き合いの程度は不明とあるが、恐らくそれほどの知り合いではなく頼山陽と梁川星巌との縁から執筆を依頼されたのでしょう。

 ■「梁伯兎」(りょうはくと)=梁川星巌のこと。伯兎は字。

 ■「仁兄盟」(ジンケイメイ)=盟約を結んだ友人への敬称。「仁兄」は友人を敬うことば。「貴兄」「大兄」「盟兄」「老兄」「老友」「学兄」「賢兄」「道兄」「雅兄」「郷長」などともいう。

 ■「台下」(ダイカ)=相手を敬って書簡の脇付に用いる語。

 最後に梁川星巌の題詩が付されています。

 《題詞》

 如亭山人の墓を弔ふ

平安城外 花は錦の若し

只だ春風を愛して官を要めず

旧句 君がキョウウの濶きを看

 我が鼻端の酸なるを覚ゆ

烟は宿草を籠めて香魂遠く

雨は空山に滴りて白骨寒し

憶ひ得たり 去秋藁殯の日

藤条手づから木皮の棺を縛りしを

       梁卯拝草

弔如亭山人墓

 ■「キョウウ」は書き問題=むねのなか。正解は「胸宇」。この場合の「宇」は「大きいな屋根のような空間に覆われた世界。転じて、そうした大きな広い空間のこと」。

 ■「近」(キンギン)=如亭の最近(死に際の)詩句。「」は配当外で「ギン」。「つぐむ」あるいは「口をつぐんで歌の節だけを口ずさむ」。「吟」と同義語。

 ■「鼻端の酸なる」(ビタンのさん・なる)=悲しみに襲われて鼻の先がつんとして流涕すること。悲しくて目頭が熱くなること。「酸鼻」(サンビ)という熟語が想起されます。

 ■「宿草」(シュクソウ)=古い根から生えた墓前の野草。

 ■「香魂」(コウコン)=美しい魂。ここは如亭の霊魂。

 ■「藁殯」(コウヒン)=わらの埋葬。突然の死去だったため、粗末な葬儀しかできなかったことを言うか?ちょっと難しい言い回しです。「殯」は1級配当で「ヒン」「かりもがり=死体を一先ず棺の中に安置すること」「かりもがり・する」「ほうむ・る」と訓む。「殯柩」(ヒンキュウ)、「殯宮」(ヒンキュウ)=「殯殿」(ヒンデン)、「殯殮」(ヒンレン)=死体を納めるひつぎ。「殮」は配当外で「かりもがり」「おさめる」。

 韓愈の詩に「数条藤束木皮棺 草殯荒山白骨寒 驚恐入心身已病 扶舁沿路衆知難」(数条の藤づるは木の皮の棺を束ね 荒き山に草の殯なれば白骨は寒そう 驚きと恐れと心に入りて身は已に病む 扶け舁がれて路を沿れば衆は難き知る)があり、これをモチーフとして詠んでいるとある。

 如亭の墓碑が建てられ埋葬されるのは文政五年(1822年)のことで、この梁川星巌の詩が詠まれた文政三年はまだ東山長楽寺に仮埋葬されたままだったといいます。

 梁川星巌という詩人にも興味が牽かれます。いつか翫わえる時が来れば幸甚ですな。

 柏木如亭の「詩本草」シリーズは惜しまれつつ終焉を迎えました。斯くもカッコいい男が江戸時代の後半、幕末までにはまだ間の有る退廃的な時代にいたんですね。いや、そうした時代だからこそ生まれた「ダンディーな男」だったのかもしれません。歴史を学んでも表舞台には絶対に登場はしませんが、日本漢詩の世界では無視できない存在。いや裏の世界では欠くべからざる人だったかもしれません。なかなか彼の詩は簡単にはアクセスができないのが残念ですが、いつの日かじっくりと彼の詩を翫わう機会も訪れることを期待して筆を擱きます。それではさようなら、如亭はん。。。。


 【今日の漢検1級配当漢字】

跋、已、糴、艱、雖、噫、糶、斂、魄、喩、窘、嶮、歿、竣、翅、絅、扈、剌、潑溂、杼、刪、囃、啻、祗、滄、鞋、翕、讐、寇、冤、婢、裨、觴、辟、丕、翔、邨、涕、殯、舁、擱

 【今日の配当外漢字】

愜、玅(妙)、唫、殮
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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