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仏門に入ると同時に漢詩もマスター=熟れた詩を詠む僧侶・六如と宝月

江戸時代前中期の漢詩人はこれまで見てきたように、幕府に仕えるか、各藩の藩儒となるか、あるいは市井にあって私塾を主宰するか、いずれにせよ儒学者が中心を成しています。しかし彼ら以外の担い手としては僧侶も忘れてはなりません。本日の日本漢詩シリーズでは、六如(1734~1801)と宝月(1737~1805)の二人の僧侶の詩をご紹介します。彼らは仏門に入る傍ら、漢詩の師匠を持ちました。江戸期の仏僧にとっても漢詩は必須の教養だったのでしょう。

まずは、六如の「大偃川上即事」。「大偃川」…訓めますか?「おおいがわ」です、京都・桂川のことです。柏木如亭の「詩本草」(岩波文庫、揖斐高校注)の「渓鰮(あゆ)」(P53)によると、桂川の説明の箇所で「京都の西郊を流れる川。大偃川が京都盆地に入った辺りから淀川に合流するまでをいう。……古来『桂鮎』として美味を称された」とあります。

清流奇石緑縈彎    清流の奇石 緑縈彎
隊隊■■往復還    隊隊のコウギョ 往き復た還る
忽有■■穿峡下    忽ちショウシュウの峡を穿って下る有り
軽篙蹙破水中山    軽篙蹙破す 水中の山



【解釈】 清流に奇岩が点在し、緑水は幾たびか巡り曲がって流れている。その中に隊伍を組んだ鮎が一隊一隊行ったり来たりしている。急に薪を積んだ舟が峡谷を下ってきた。一瞬、船頭の軽くさばく竹棹が、水中に映った山影をかき破り皴にしてしまった。

コウギョ=香魚。鮎のことですが、熟字訓「あゆ」ではなく音読みでこの漢字が浮かぶかどうか。≠抗禦、控禦、薨御。

ショウシュウ=樵舟。きこりの乗った舟。上流でたきぎを切って下流へと運んでいるのでしょう。「樵」は「きこり、たきぎ」。樵柯(ショウカ=木を切る斧)、樵汲(ショウキュウ=たきぎをとることと、水を汲むこと)、樵漁(ショウギョ=きこりと漁師、漁樵とも)、樵径(ショウケイ=きこりしか通れないような山中の小道、樵路=ショウロ=)、樵蘇(ショウソ=たきぎをとり、草を刈る、きこりと草刈り人、転じて、田舎の暮らし向き)、樵叟(ショウソウ=きこりのおやじ、樵父=ショウフ=、樵翁=ショウオウ=)、樵夫(ショウフ=山林の木を切る人、樵人=ショウジン=、樵子=ショウシ=、樵客=ショウカク=、樵者=ショウシャ=)、樵牧(ショウボク=きこりと、家畜を飼う人)。≠聳秀、嘯聚、嘯集、翔集、裳繍、誦習、鈔襲、召集、招集、消臭。

縈彎=エイワン。ぐるぐると回り巡ること。「縈」も「彎」も「めぐる、まつわる」の意。聊か難しい語彙です。≠A1。

蹙破=シュクハ。かき破りしわしわにする。これも難語。辞書に掲載無し。「蹙」は「せまる、物事が切迫する」「ちぢむ、ちぢめる」「しかめる」の意。蹙眉(シュクビ=両眉の間をしかめること)、蹙沓(シュクトウ=狭い所に寄り集まって込み合う)、蹙竦(シュクショウ=ぐっと身をひきしめる、びくびくおそれて安心できないさま)、蹙蹙(シュクシュク=物がちぢこまってのびないさま)、蹙然(シュクゼン=身を引き締めて安心しないさま、粛然=シュクゼン=)、蹙迫(シュクハク=おしつめられてせっぱつまる)。



鮎の群れが登場しますから初夏の風景でしょう。明治書院「新書漢文大系7 日本漢詩」(P66)によれば、この詩は「大偃川のほとりで目にした情景を描く。奇をてらったところが少しもなく、実にみずみずしい感覚で筏流しの様子が詠じられている。澄んだ水に鮎の群れ、水にくっきりと映る山々、それをかき消す一本の竹棹、最後の句が圧巻」との鑑賞のポイントがあります。

明治書院にある六如のプロフィール(P65)を見ますと、「近江八幡(滋賀県)の人。慈門に仏教を、野村東皐に詩文を学んだ。やがて江戸に出、服部南郭の門人宮瀬龍門についた。南郭は徂徠の高足であるから、六如の詩も初めは徂徠派の影響が強く見られる。六如はその文辞を飾る詩風(当時の詩壇を二分していた木下順庵一派―木門・荻生徂徠一派―蘐門、双方ともその傾向が強かった)に飽き足らず、しだいに独自の詩を作るようになってゆく。菊池五山が『詩に生字(よく熟さない生硬の字)を用うるは六如の癖なり』と六如の詩を評するのは、六如の実験的な詩作をよく言い当てている」といいます。

続いて宝月の「姫島」。

大海中分玉女峰    大海中分す玉女峰
■■■■為誰容    ガビスイタイ誰が為にか容づくる
我将明月遙相贈    我明月を将って遙かに相贈る
影湧■■十二重    影は湧くヨウダイの十二重



【解釈】 周防灘の南に、大海を二つに分割したように玉女峰が聳えている。美人の眉のような(まろやかな)山形、それにまゆずみをひいたような青い色合い、いったい誰に見せようとかくも念入りにお化粧をしたのであろうか。玉のような明月を婿殿として送り進ぜようと思ったら、いつしか海上には美しい十二階の玉の御殿が湧き上がった。(玉女峰に月影がさして、仙人の住む御殿が現出したかと思われるさまを表現)

ガビ=蛾眉(娥眉)。くっきりした眉。転じて、美人を指す。蛾黛(ガタイ)とも。

スイタイ=翠黛。青黒いまゆずみ。美人の眉、転じて、美人。緑黛(リョクタイ)とも。

ヨウダイ=瑶台。玉のうてな。宝玉で飾った、高い所にたてた御殿。仙人が住むというたかどの。「瑶」は「たま」。瑶階(ヨウカイ=白玉の階段、宝玉をちりばめた美しい階段)、瑶緘(ヨウカン=書物を入れる美しく立派なはこ、転じて、他人の手紙を敬う言い方、瑶函=ヨウカン=、瑶簡=ヨウカン=)、瑶京(ヨウケイ=天帝がいる都)、瑶觴(ヨウショウ=宝玉で作ったさかずき、杯の美称、瑶杯=ヨウハイ=、瑶爵=ヨウシャク=)、瑶草(ヨウソウ=仙境に生えるという、美しく芳しい草)、瑶壇(ヨウダン=仙人の住む高台)、瑶池(ヨウチ=仙人がいるところ、宮中にある美し池)、瑶圃(ヨウホ=仙人が住む、美しい庭園)、瑶林瓊樹(ヨウリンケイジュ=玉のように美しい林や木、気品があり普通の人よりすぐれていることのたとえ)。



明治書院(P67)によると、詩は「大分県国東半島の北、周防灘に浮かぶ姫島を詠じたもの」とあります。「玉女峰」は姫島のことです。姫島の美しさを「蛾眉翠黛」とは、恐ろしいまでの形容ぶり。「明月」を玉女の婿に見立てるのは、「山田済斎の説」とある。すなわち、「月が出ると玉女峰が光り輝き、あたかも婿入りを待つ宮殿のように見えるのである。見立ての面白さで読ませる詩」。

宝月のプロフィールについては(P67)、「九州豊前(大分県)の出身。黄檗宗の釈大潮について詩文を学び、東本願寺で講義をするなどして学僧として知られた。晩年は帰郷し、著作に専念する」とあります。

両方の詩とも仏教臭さのない、いかにも漢詩という趣を放っています。江戸後期になると、日本人の手による漢詩もかなり熟れてきたと言えるようです。

本日のオマケ。いきなり登場した山田済斎(1867~1952)ですが、二松学舎初代校長を務めた漢文学、陽明学の泰斗。明治書院「新書漢文大系7 日本漢詩」(P230)にも漢詩が一首紹介されています。本来なら明治期以降シリーズですが、折角ですからこの際掲げておきます。

詩題は「曝書」。

雨久■■盈架    雨久しくてハクギョ架に盈ちてナマグサ
曝書幾日不曾停    曝書幾日曾て停めず
百年憐汝終難蠧    百年憐れむ 汝がし難きを
一片■■無字経    一片のレイダイ 無字の経



【解釈】 降り続いた雨で紙魚が書架に繁殖してなまぐさい臭いがする。さっそく書物の虫干しに取り掛かり、幾日かかっても徹底的な駆除をするつもりである。紙魚よ、気の毒だが、お前らが百年かかっても、わが心の中の文字なき経書を食べ尽くすことはできまいぞ。

ハクギョ=白魚。いろいろな意味のある言葉ですが、ここでは、紙魚(しみ)の別名。白い魚、ニゴイ、シラウオも。

ナマグサし=腥し。生肉のつんと鼻にくるにおい。「羶」もありですが、「韻」(腥セイ、停テイ、経ケイ)が違うので不正解。腥血(セイケツ=つんと鼻を刺激してなまぐさい血)、腥膩(セイジ=なまぐさく脂ぎっている)、腥臭(セイシュウ=なまぐさいにおい)、腥羶(セイセン=なまぐさい、けもののの肉、外国人をののしって言う言葉)、腥穢(セイワイ=なまぐさくてけがれている)。

レイダイ=霊台。たましいのある所、心のことをいう。霊府(レイフ)とも。

曝書=バクショ。書物を日光にさらす、書物の虫干しをする。曬書(サイショ)ともいう。「曝」は「さらす」とも訓む。曝衣(バクイ=衣服を日光にさらす)、曝涼(バクリョウ=書物を日にさらし、風を通す、虫干し)。

蠧し難き=としがたき。「蠧(蠹)」は「きくいむし」のことですが、ここでは「蠧す」(トす)と動詞として訓み下しています。漸特殊か。虫が書物を食い荒らすこと。蠧魚(トギョ=紙魚、衣魚、しみ、いつも本ばかり読んでいる者をあざけることば)、蠧害(トガイ=シミが衣服や書物を食い破る害、物事を害すること、その害、蠧毒=トドク=)、蠧簡(トカン=虫が食った書物、蠧編=トヘン=)、蠧書(トショ=虫が食った書物、書物を虫干しすること)、蠧蝕(トショク=虫が食う、むしばむ)。



漢文学者である済斎の意地とプライドを詠み込んだ作品。経書は虫に食われても大丈夫。なぜならすべて私の心に取り込んである。諳んじることができるから。書物そのものは思い出の物に過ぎないのだ。ざまぁ見ろ、衣魚め!!お前らがどんなに食ってもわたしは困ることが無いのだ。わっはっはっは~。昭和の時代になっても書物の衣魚対策は不可欠だったのでしょうね。大事な書物をお持ちなら、年に一度は虫干しが必要ですな。このblogも一度くらいは虫干ししないとね?衣魚にやられる?ん?昔書いた、これはという記事を偶にはもう一度upしてみることもありかな。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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