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湖上の小舟から見た「八景」に感無量=英雄好きの熱血漢・梁田蛻巌

富士山が日本一の山なら、日本一の湖は琵琶湖です。江戸時代後期の浮世絵師・葛飾北斎の「富嶽三十六景」はあまりにも有名ですが、ほぼ同時期の安藤広重の「近江八景」はご存じか?いわゆる近江八景は、琵琶湖南の八つの景勝地のことで、「比良の暮雪」「堅田の落雁」「唐崎の夜雨」「三井の晩鐘」「粟津の青嵐」「瀬田の夕照」「矢橋の帰帆」「石山の秋月」で構成されています。中国・北宋時代に成立した湖南省・洞庭湖辺り(瀟水と湘江)の「瀟湘(ショウショウ)八景」に倣って命名されたものですが、近江八景の選定・成立の濫觴は、「びわ湖大津観光協会」のHP(ここ)によりますと、「明応9年(1500)8月13日に近江守護六角高頼の招待で、近江に滞在した公卿の近衛政家が近江八景の和歌八首を詠んだことが始まりだと言われている」とあります(諸説あるようですが)。

本家本元の瀟湘八景は水墨画の画題として著名であり、多くの詩人が詩を残しています。もちろん、近江八景の方は画題としては浮世絵版画であり、漢詩人にとっても格好の詩題となり数多くの作品が残されています。最も著名なものは明治~大正期のジャーナリスト・漢詩人、大江敬香(1858~1917)の「近江八景」だそうです。日本漢詩シリーズは目下、江戸時代を取り上げておりますので本日のところは江戸中期の儒学者、梁田蛻巌(1672~1757)。明治書院「新書漢文大系7 日本漢詩」(P52)によると、「蛻巌は多才で熱血漢であった。……十歳のとき、人見鶴山に学び、十代の後半から山崎闇斎の書を精読、朱子学、神道、仏典に通じたという。また、かつての英雄の話になると身ぶりを交え、熱が入った。四十代の後半に明石侯松平直常に召されて藩儒となる」とあります。

それでは蛻巌の「秋夕泛琵琶湖」(秋夕琵琶湖に泛かぶ)を紹介いたします。

湖北湖南暮色濃    湖北 湖南 暮色やかなり
停篙囘首問孤松    を停め 首を回らして孤松を問う
■■兩岸秋風起    ソウハ 両岸秋風起こり
吹送叡山■■鐘    吹き送る 叡山ウンリの鐘






ソウハ=滄波。深緑色のなみ、あおあおとしたなみ。≠掻爬、走破、争覇。

ウンリ=雲裏。雲のなか。

濃やか=こまやか。ねっとりしているさま、ねばっこいさま、味や色がこいさま。濃艶(ノウエン=あえやかで美しい)、濃春(ノウシュン=春がたけなわであること)、濃粧(ノウショウ=厚化粧、濃妝=ノウショウ=とも)、濃漿(ノウショウ、こくショウ=魚や肉を濃い味噌汁で煮ること)、濃抹(ノウマツ=色濃く塗る、厚化粧をすること)。

篙=さお。長い竹竿。船を漕ぐためのさお。「篙」は配当外で、音読みは「コウ」。篙師(コウシ=船をこぐ人、船頭、篙工=コウコウ=、篙手=コウシュ=、篙人=コウジン=、楫師=シュウシ・ショウシ=ともいう)。





【解釈】 琵琶湖上に舟を浮かべてみると、折から湖北も湖南も一様に夕暮れの色が濃くかすんでいる。棹をとどめ、唐崎の松はどのあたりであろうかと見回すが、定かでない。青い波の浸す両岸には、はや秋風がたって、叡山で突き鳴らす雲中の鐘の音を吹き送ってくるのだ。


琵琶湖に船を浮かべて、景色を詠んでいます。秋の夕暮れ時ですから、辺りはもう翳んでいてよく見えないようです。さて、八景のうちのどの風景が詠まれているものでしょうか?第二句に「孤松を問う」とあります。これがヒントなのですが、「唐崎の一つ松」のことで、「唐崎の夜雨」が正解となります(ご存じないと分かるわけないですよね)。そして、遠くから鐘の音が秋風に乗って微かに聞こえてくる。八景のひとつ「三井の晩鐘」かと思いきやどうやら比叡山の延暦寺のようです。しかし、「三井」の「三井寺」ももとは叡山から分かれた寺であり、蛻巌は湖上にあって一時にさまざまな景色に取り囲まれており、物思いに耽っているのでしょう。



本日のオマケは大江敬香の「近江八景」。この七言律詩には八景のすべてが盛られており豪華です。

堅田落雁比良雪    堅田の落雁 比良の雪
湖上風光此処収    湖上の風光 此の処に収まる
烟罩帰帆矢橋渡    烟は帰帆をむる 矢橋の渡し
風吹■■粟津洲    風はランスイを吹く 粟津の洲
夜寒唐崎松間雨    夜は寒し 唐崎 松間の雨
月冷石山堂外秋    月は冷やかなり 石山 堂外の秋
三井晩鐘勢田夕    三井の晩鐘 勢田の夕
■■容易惹郷愁    セイジン 容易に郷愁を惹く

ランスイ=嵐翠。山の風になびいて山の緑色があざやかに見えるさま。嵐嫩(ランドン=青く若々しい山の空気)、嵐影湖光(ランエイココウ=青々とした山気と湖の輝き。山水の風景のこと)。≠藍水、爛酔、乱酔。

セイジン=征人。旅人。征客(セイカク)、征旅(セイリョ)、征夫(セイフ)、征蓬(セイホウ)ともいう。いずれも覚えたいところ。旌旆(セイハイ=戦場で用いる旗)、征塵(セイジン=旅の途中に巻き起こるほこり、旅そのもの)、征戍(セイジュ=辺境に行って守る、国境を警備する)、征鳥(セイチョウ=飛ぶ鳥、渡り鳥)、征帆(セイハン=遠くに去っていく船)、征箭(そや=戦場で用いる矢、熟字訓問題要注意)。

罩むる=こむる。「こめる」が一般的。外から包み込むこと。音読みは「トウ」。罩袍(トウホウ=おくるみ)、罩罩(トウトウ=魚を捕らえるのに用いる竹製のかごの一種、一説に魚がむらがり泳ぐさま)。





【解釈】 堅田の浮き御堂、その近くに舞い降りる雁の群れ。遠く見れば聳える比良山の暮夕の雪が鮮やかである。いずれも湖面に映じて何とも美しい。暮煙に包まれて、帆かけ舟が矢橋の渡しに帰ってくる。風は粟津の晴嵐の松並木に吹きそよぎ、夜寒の唐崎の松に降る雨がよりいっそう風情を増してくれる。秋の石山の月はこの上なく美しく、三井寺の晩鐘の響き、そして、瀬田の夕暮れ。こんな景色に囲まれては、琵琶湖を訪れる旅人が望郷の念に駆られないわけにはいかないであろう。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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