スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

権力者との距離感に腐心した五山の禅僧=王粲に思い重ねた絶海中津

日本人の漢詩シリーズ(明治書院「新書漢文大系 7日本漢詩」)は、五山文学の双璧の禅僧のもう一人、義堂周信の弟弟子である絶海中津(1336~1405)の二首を紹介します。

まずは「雨後登楼」(雨後楼に登る)。

一天過雨洗新秋    一天の過雨新秋を洗う
携友同登江上樓    友を携えてに登る江上の楼
欲寫仲宣■■恨    写さんと欲す仲宣センコの恨み
■■疎樹不堪愁    ダンエン疎樹愁いに堪えず





センコ=千古。はるかむかし。太古、万古。千古不易(センコフエキ=遠い昔からかわらないこと、永遠の価値があること)。

ダンエン=断烟(断煙)。靄がきれぎれになったさま。断雲(ダンウン=ちぎれ雲)。

同に=ともに。いっしょに。表外訓み。「ともに」はほかに、「俱に、共に、供に、偕に」。


【解釈】 通り雨が過ぎ去った後は、初秋の空一面、洗われたように晴れ渡り、気分も一段とすがすがしい。そこで友人とつれだって川辺の高楼に登り、四方を眺め渡した。そのとき、はるかな昔、かの王粲が望郷の思いにかられ、落魄の身を悲しんで、「登楼の賦」を詠じたことを思い出した。そこで、彼の心中の恨みのいかばかりであったかを、自分も同じ心を写しだそうと考え詠じてみた。しかし、見える限り遠近にかかる秋の靄、落葉した木々の枝もまばらなものさびしい風景ばかり。われながら何とも悲しい気持ちに堪えきれなくなってしまった。

「仲宣」は、後漢末~三国時代、所謂「建安の七才子」と称された文学人の一人である王粲(177~217)の字。名門貴族の出自で、博学を以て知られ、流麗で哀愁のある詩をつくり、賦にも優れていました。後漢末、都の戦乱を逃れて荊州の劉表の下に身を寄せ、劉表の死後、曹操に投降しその幕下に入りました。そんな彼は、荊州時代に重用されることもなく悶々と過ごした十二年、空しく異郷にあって人に寄食していた焦燥感を、「登楼賦」という賦に詠じました。大才を抱いて空しく朽ち果てる身の不遇を喞ち、楼に登ることで忘れ去ろうと試みたが却って望郷の思いだけが頻りに湧き起こって堪えられなかったという切ない内容です。

絶海の詩がいつごろ詠まれたかについてですが、明治書院の「背景」(P25~26)によれば、絶海が中国留学時代に、王粲の賦にことよせて心中の憂愁、故国への思いを吐露したという。一方で、そのころの絶海は日本詩僧として名声を博した栄耀栄華に輝いていた時代であり、「王粲の落魄放浪の頃の心情とは大いに異なるものがあった」として、「義満の不興を買って退去させられていた時代の作品ではないか」とする説もあります。いずれにせよ、第一句、第二句で、雨上がりの楼に登る初秋の爽やかな雰囲気から一転、王粲(仲宣)の故事を踏まえた第三句、王粲が見た広大な風景とは似ても似つかわしくない絶海の心境が表れている。明らかに絶海の作品の中でも名詩に数えられます。

続いて、「次明絶侍者雪中韻」(明絶侍者の雪中の韻に次す)。

積雪山中晝掩扉    積雪山中昼扉を掩う
★茶烟起濕■■    ★茶の烟起こりてリンピを湿す
爲憐雲外松巣鶴    為に憐れむ雲外松巣の鶴
清■時時刷■■    清レイ時時コウイうを
(注:★=「鬻」の「米」が「者」。「煮」の異体字で読みは「ショ」)




リンピ=林霏。林に立ちこめたもや。欧陽脩の「酔翁亭記」に「日出而林霏開」がある。「霏」は「雨や雪などが入り乱れて降るさま、また細かいものが乱れ散るさま」。霏散(ヒサン=はらはらととびちる)、霏霏(ヒヒ=雨や雪などが乱れて降るさま、霜や露の大きさま、雲の飛ぶさま、草が入り乱れて茂るさま、電光があちこちにひらめくさま、入り乱れるさま、涙の流れるさま、とりとめのない談話が連続するさま)、霏微(ヒビ=雨や雪などがちらつくさま)。

レイ=唳。鶴や雁が高く低く鳴く。第三句の鶴がヒントです。ただし、ここは清唳(セイレイ)と成句になっているのが難しい。鶴の清らかな鳴き声。鶴唳(カクレイ)もある。風声鶴唳(フウセイカクレイ)も忘れずに。

コウイ=縞衣。白絹の衣服。ここは鶴の白いさまを形容しています。蘇軾の「後赤壁賦」に「玄裳縞衣」(ここ)がありました。縞衣綦巾(コウイキキン=自分の妻の謙遜した言い方、約しく控えめな愚妻=遜り過ぎて逆に厭味か?)、縞素(コウソ=白い絹地、白色の喪服、書画を書くのに用いる白い絹)、縞紵(コウチョ=白絹と麻布、友人同士の贈り物)。「縞」は「かとり」とも訓む。もともと「しろぎぬ」「しろい」という意味から、「しま模様」の意味も派生して、縞馬は「しまうま」。

刷う=はらう。これは宛字っぽい表外訓み。「はく」が一般的で、「さっとなでてごみなどを払い清める」の意味から派生したものでしょう。音読みは「サツ」で、刷恥(サッチ=恥を取り除く、雪辱)、刷子(サッシ=はけ、ブラシ)、刷毛(はけ=ブラシ)。



【解釈】 積雪は山中に満ちて、草庵の門は昼なお閉ざし、ひっそりと静まり返っている。ただ茶を烹る煙がゆるやかに棚引いて、林に立つ靄もしっとりと湿っている。庵前の松は高く雲外に聳えて、仙鶴が巣を作っているが、気の毒にも、天上の孤寒に堪えないのか、清らかな鳴き声を発しては、ときどきはばたいて白い翼の雪をはらっている。

明治書院の「背景」(P28)によれば、「明絶侍者というのは絶海のそばに仕えるものであろうか。その明絶なる者に『雪中』と題する詩があり、その詩に次韻(同じ文字を押韻の字として用いる)したというのである」と解説されている。世俗から離れて孤独に生きる禅僧の理想の姿が見えます。鶴とも重ね合わせており、仙人の境地であることも伺えます。しかし、その鶴は寒さゆえ鳴き声がやまないのです。禅僧の本音が垣間見えます。世間の冷たさに背中を向けているつもりが実は世間から暖かな声をかけてほしいことの裏返しではないか。いやいや、そんなはずはない。何度否定してみても、あの鶴の悲しげな声を聞けば、雪を払う姿を見れば、自分の押し隠していた気持ちが自然と迸り出てきてしまう。修行僧の「孤独」はひょんなことから見破られてしまうのです。何とも味わい深い詩ですなぁ。。。一幅の墨絵ですね。

明治書院は続けて、「五山の僧の詩を何首か見てきたが、『僧』を宗教者と限定してはならない、ということを痛感させられる。この時期の『僧』は、むしろ知識人ととらえたほうがわかりやすい。外国に十年近く留学し、思想、文学の各分野に通じた超エリートである。そうした人間を権力者たちが放っておくはずがない。『僧』にとっても誘惑の多い時代であった」と総括しています。義堂も絶海も、権力者からいかにして「距離」を保つかに腐心したようです。弾丸で狙い撃ちされるから近づくなと雀に言ってみたり、山中の庵に孤高の生活をしながら鶴の寒さに憐れみを感じたり、自然を詠じながらも常に本音は現実の人間社会への関心が高いのです。こうした気持ちを端的に表現するのに漢詩はまさに打って付け。五山文学は漢詩と共に世間にその存在感を誇示したと言えましょう。

本日は長いですが最後にオマケです。王粲の「登楼賦」。「文選」にも採られており、明治書院「新書漢文大系20 文選<賦篇>」中の「遊覧」で紹介されていました。案外、短いものなので全文と行きたいところですが、さすがにしんどい。出だしだけ記しておきます(同書P155から)。

「登楼賦」 王粲

茲の楼に登りて以て四に望み、聊か暇日以て憂いを銷す。斯の宇の処る所を覧るに、実に顕敞として仇寡なし。清漳の通浦を挟み、曲沮の長洲に倚る。墳衍の広陸に背き、皐隰の沃流に臨む。北のかた陶牧を彌り、西のかた昭丘に接す。華実野を蔽い、黍稷疇に盈つ。信に美なりと雖も吾が土に非ず、曾ち何ぞ以て少く留まるに足らん。



【解釈】 この楼台に登って四方を眺めて、時間はあるので賦を詠じて日頃の憂いをなくしてみたい。ここは実に広々と開けた地形にある。ここまで広いのは珍しい。清らかな漳水の流れの反対側には、うねうねと続く沮水の中洲も見える。背後には丘陵地帯。眼下には低湿地帯。北は陶牧に続き、西は昭丘につながる。あたりの野原は華や実がいっぱいに覆い、田畑にはキビやコウリャンが溢れている。確かに美しいが、わたしの故郷ではない。これ以上ぐずぐずしてとどまってはいけないのに(何をしているんだわたしは)。

早く中央政界に赴いて自分の才能を生かしたいのに、それができないもどかしさを楼台から見た風景によせて詠んでいます。続きが読みたくなったぁ?う~ん。どうしましょうか。日本漢詩シリーズ続行中ですからねぇ。。。流れに背きたくはないですが、次回、再びおまけとして書き記すこととしましょう。ネットで検索しても「登楼賦」の訓み下し文は見えないんですよね。だから、コピペはしていません。書き写しています。そういう意味では、このblogで迂生が書くのは意味があるかもしれませんな。中国の素晴らしき名文ですからね。誰も知らないのは勿体無いですよ。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。