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「雖茲物之在我 非餘力之所戮」―文章は自ら制御できず=陸機「文賦」22

陸機の「文賦」シリーズ(明治書院「新書漢文大系26・文選<賦篇二>」)の22回目です。

其の1)リクジョウ底滞し、志往き神留まるに及びては、2)ゴツたること枯木の若く、3)カツたること涸流の若し。営魂をア)りて以てイ)きを探り、4)セイソウをウ)めて自ら求む。理は5)エイエイとして愈々伏し、思いは乙乙として其れ抽きいずるが若し。是を以て或いは情を竭くして悔い多く、或いは意に率いて尤寡なし。茲の物の我に在りと雖も、余が力のエ)わする所に非ず。故に時に空懐を撫して自らオ)む、吾未だ夫の6)カイソクの由る所を識らず。

1)リクジョウ=六情。喜怒哀楽愛悪の人間が持つ六つの感情。≠陸上。「六~」(リク~)の熟語は要注意が多い。六言六蔽(リクゲンのリクヘイ=六つのことばがあらわす六つの害→仁・知・信・直・勇・剛を好んでも学問を好まないならば、愚・蕩(とりとめない)・賊(人や自分をそこなう)・絞(きゅうくつ)・乱(乱暴)・狂(狂気の沙汰)という弊害に陥ると、孔子が子路におしえたことば、論語・陽貨)、六尺之孤(リクセキのコ=十四、五歳で父に死別したみなしご)、六纛(リクトウ=六本の大きな旗、天子や諸侯が軍隊で用いた)、六韜三略(リクトウサンリャク=兵法書)、六花(リッカ=雪のこと→結晶が六角形)、六合(リクゴウ=東西南北上下の六つの方角)、六義(リクギ=「詩経」の詩に見られる三種の詩体、風・雅・頌と、三種の表現方法、賦・比・興とをいう)、六軍(リクグン=天子の軍隊、周代の制度では、一軍は一万二千五百人、天子は六軍で七万五千人をもつ、≠陸軍)、六芸(リクゲイ=君子の教養とされた六つの技芸、礼・楽・射・御(馬車を御す術)・書・数)。

2)ゴツ=兀。高く突き出たさま。突兀(トッコツ=突き出ている)、兀兀(ゴツゴツ=山などの上が高くて平らなさま)、兀坐(コツザ=からだを動かさずにじっとすわっている、ぼんやりとすわる)、兀者(ゴッシャ=足をきる刑を受けて、一本足になった者)、兀然(コツゼン=無知であるさま、自分勝手でおごるさま、孤立して動かないさま、高く突き出ているさま)、兀立(コツリツ=一つだけ高く突き出ている)。

3)カツ=豁。からっとひらけたさま。「ひろい」の意。あけすけであるさま。豁爾(カツジ=ひろびろとひらけたさま、酔いや眠りなどからさめて、さっぱりするさま)、豁如(カツジョ=心がひろくて大きいさま)、豁然(カツゼン=土地などがひろびろとひらけているさま、疑いや迷いが、さらりと解けて物事がはっきりするさま、豁然貫通)、豁達(カッタツ=けしきなどがひろびろとしているさま、心が大きく物事にこだわらないさま)、豁達大度(カッタツタイド=ひろくて大きな度量)、豁然大悟(カツゼンタイゴ=とつぜんさとりをひらくさま、豁悟=カツゴ=)。

4)セイソウ=精爽。心が明るくさわやかである。後に「精神」を指すようにもなる。ここも「精神」の意味に近い。

5)エイエイ=翳翳。物事の本質が奥深くにあって知りにくいさま。もともとは「ほの暗い影の生じるさま」をいう。翳然(エイゼン=かげに隠れたさま、荒れ果ててひっそりしているさま)。

6)カイソク=開塞。開いたりとじたりするさま。開闔(カイコウ)、開閉ともいう。≠楷則、快速、快足、会則。「開~」の熟語では、開筵(カイエン、むしろをひらく=宴会の敷物を広げる、宴席を設けること)、開豁(カイカツ=心が広くて物事にこだわらない、豁達=カッタツ=)、開闊(カイカツ=ひろびろとしている、押し開いて広くする、開廓=カイカク=、開曠=カイコウ=)、開顔(カイガン=表情を明るくする、楽しく笑うこと、開顔一笑=カイガンイッショウ=)、開襟(カイキン=えりをひらく、本心を打ち明けて話すこと、胸襟を開く)、開欠(カイケツ=官吏が職をさる、退職)、開寤(カイゴ=さとりをひらく)、開春(カイシュン=春になる、春の初めごろ)、開霽(カイセイ=雨がやんで、すっかり晴れ渡る)、開拆(カイタク=荒れ地や山野をはじめてきりひらいて田畑をつくる、転じて、これから活動すべき新しい分野・方法を見つけて、その基礎を築くこと)、開龕(カイガン=ふだん閉じておく厨子の戸を開いて仏体をおがませること)、開誘(カイユウ=導いてさとあらせる)、開闢(カイビャク=天地ができた世界のはじまりのとき)、開敏(カイビン=心が広くさとい)、開緘(カイカン=手紙や封印されたものの封を解く、開封)、開物成務(カイブツセイム=世の中の人知を開発し、それによって世の中の事業を成し遂げる、ものをひらきつとめをなす、開成、開務)、開落(カイラク=花が咲くことと散ること、開謝=カイシャ=)、開朗(カイロウ=あけっぱなしで明るい)。

ア)攬りて=とりて。「攬る」は「とる」。集めて手に持つ、とりまとめて持つ、とり集める。音読みは「ラン」。攬筆(ランピツ=筆を手に取る、詩や文を作る、ふでをとる)、収攬(シュウラン=とりまとめる)、承攬(ショウラン=一手に請け負う)。

イ)賾き=ふかき。「賾い」は「ふかい」「おくぶかい」。幽深で、はっきりと見定めにくい。また、そのような道理のこと。音読みは「サク(ジャク)」。「賾」は配当外で部首は「貝」、画数は十九画。玄賾(ゲンサク=おくぶかくて真理が見えないこと)。

ウ)頓め=とどめ。「頓まる」は「とどまる」。ずしんと腰を下ろす、腰をおろして動かない、とんとおく、とんととまる。音読みは「トン」。困頓(コントン=疲れて止まり、動きがとれない)、整頓(セイトン=ととのえて落ち着ける)、頓躓(トンチ=どんとつまずく、つまずいてたおれる、転じて、苦しい境遇におちいること)、「頓」の和訓はおおくあり、「ぬかずく」「とみに」「ひたぶる」「とんと」「ひたもの」。頓挫(トンザ=文章の調子が急に変わってゆるやかになること)、頓萃(トンスイ=苦しむ、また、苦しめる)、頓弊(トンペイ=物がいたんでだめになる)、頓仆(トンボク=どすんと倒れる)。

エ)勠わする=あわする。「勠せる」は「あわせる」。分散した力を寄せ集めて一つにする。音読みは「リク」。「戮」(リク、ころす)にも同様の意味があります。戮力=勠力(リクリョク=協力する)、勠力協心(リクリョクキョウシン=力をあわせ心をそろえる、戮力協心)。

オ)惋む=うらむ。残念がる、もだえて惜しがる。「怨」と同義。惋惜(ワンセキ=残念なことだと惜しむ)、惋恨(ワンコン=残念なことだとうらむ)、惋傷(ワンショウ=嘆き悲しむ、惋嘆=ワンタン=、惋慟=ワンドウ=、惋怛=ワンダツ=)。「惋」は配当外ですが覚えたいところ。


及其六情底滯,志往神留。兀若枯木,豁若涸流。攬營魂以探賾,頓精爽於自求。理翳翳而愈伏,思乙乙其若抽。是以或竭情而多悔,或率意而寡尤。雖茲物之在我,非餘力之所戮。故時撫空懷而自惋,吾未識夫開塞之所由。



【解釈】 反対に、あらゆる感情が鈍り、意志だけ先に進んでも、精神がついてこない状態になると、心は枯木のように動かず、干上がった谷川のように空虚になってしまう。自らの魂をつかんで、心の奥底を探ってみるのだが、文の発想は隠れ去ってしまい、無理に引き出そうとしても出てこない。そういうわけで、ある場合には、情熱を傾けて書いても、不満が残り、ある場合には、意の赴くままに書いても、欠点が無い。文章というものは、自らの手で作るものではあるが、意図的な努力でどうにかなるものではない。そこで、時には空っぽの胸を撫でながら、怨み悲しむこととなる。このように創造力の淵原が開閉する。その原因は、わたしにはまだよく分からない。

「底滞」(テイタイ)は「ふさがって滞ること、停滞」。「底」は「とどまる」とも訓む。「涸流」(コリュウ)は「水が無くなって流れなくなった川」で、ぞの前段の「枯木」(コボク)と対比しています。うつろな状態で生気が無くなるさま。ここでは書きたいという意欲があっても、精神が病んでいると文章が生まれないことを戒めている。営魂(=営魄)、たましいを込めようとしても浮かばない。スランプ……。文章を書く場合は精神の安寧が大切です。ところが、「是以或竭情而多悔,或率意而寡尤」といい、そんな状態で書き上げた文章ではあるが、時には満足することができなかったりするが、かといってさらさら書いた割には失敗も無くうまいこと行く場合もあったりする。意図していい文章を書こうとしてもその通りにはならないし、勝手に名文ができ上がったりもする。陸機は半ばあきらめ気味に「吾未識夫開塞之所由」と、文章を思い通りに制禦なんてできないと言っております。さぁ、いよいよ次回最終回です。いい文章を索めるべく、最後まで気を引き締めましょう。
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Re: No title

デリバード 様

ようこそ弊blogへ。
「勠力」を普段使うことはないです。
「戮力」も併せて覚えておきたいところ。協心戮力、戮力協心、同心戮力、戮力同心。
言葉は使ってナンボ。周囲から浮かない程度に使いましょう。
「さあみんなで勠力してやり遂げよう!☆」

No title

勠力(りくりょく)の言葉は、普段使われますか?
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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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