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石は玉を韞みて山輝く、水は珠を懐きて川媚し=陸機「文賦」14

陸機の「文賦」シリーズ(明治書院「新書漢文大系26・文選<賦篇二>」)の14回目です。文章の失敗シリーズ。「ワンフレーズ・ポリテイックス」。小泉純一郎が「郵政」の一点張りで世の中の人を誑かした政治を指したりしますが、文章の世界でもあります。今回は、あまりに飛び抜けて素晴らしい「フレーズ」(文、辞、句など)があるため、ほかと調和しないケース。これをどう生かして全体をまとめるかが問われます。孤高の人は衆人とは交わらないのです。いや交わることができないのです。どうすればいいのでしょう、陸機さん?結論は意外に単純ですが……。

或いはア)のごとくに発しイ)のごとくに豎ち、衆を離れ致すを絶つ。形は逐う可からず、響きは係を為し難し。塊として独り立ちて特りウ)ち、常音の緯する所に非ず。心1)ロウラクとして偶無く、意徘徊してエ)る能わず。石玉をオ)みて山輝き、水珠を懐きて川カ)し。彼のキ)榛楛のク)ること勿きも、亦栄を集翠に蒙る。下里を白雪に綴るも、吾亦彼の偉とする所を済す。

1)ロウラク=牢落。心がうつろなさま。「牢」は「ひとや」のことで「かたい」とも訓む。ここでは「とじこめられたさま」をいう。牢乎(ロウコ=かたくてしっかりしたさま)、牢固(ロウコ=かたくまとまって、動きがとれない、堅固、牢堅=ロウケン=)、牢愁(ロウシュウ=心がとじこめられたように憂える)、牢騒(ロウソウ=不平なさま)、牢籠(ロウロウ=ひとまとめにしてとじこめる、他人を思いのままに使うこと)。ロウラクには「籠絡」もありますが、こちらは「他人を巧みに言いくるめて、自分の思う通りにあやつる、他人をまるめこむ」。

ア)苕=チョウ。細く伸びたアシ・オギなどのほ。「ほ」とも訓む。「苕苕」(チョウチョウ)は「高くのびたさま、細長くて遠いさま」。

イ)穎=エイ。ほさき。穀物のほさき。ほさきのようにとがった物のさき。筆の先、錐の先など。穎異(エイイ=かしこくてすぐれている)、穎悟(エイゴ=才知がすぐれてかしこい、穎敏=エイビン=)、穎秀(エイシュウ=才知が鋭く秀でていること)、穎脱(エイダツ=袋に入れた錐の先が突き抜けて袋の外に抜け出る、才気が多くのひとに抜きん出て外に表れていること)、穎哲(エイテツ=すぐれてかしこい)、穎抜(エイバツ=多くの人に抜きん出ていること)。

ウ)峙ち=そばだち。「峙つ」は「そばだつ」。じっと動かないで、まっすぐに立つ。音読みは「ジ」。峙立(ジリツ=じっとそびえ立つ)、対峙(タイジ=相立ち向かうこと)。

エ)揥る=とる。ひきしめて一つにまとめる。「揥」は「飾りのついた帯締め、髪を締めてまとめるくし」。音読みは「テイ」。

オ)韞み=つつみ。「韞む」は「つつむ」。「おさめる」とも訓む。入れ物におさめてかくす。音読みは「ウン」。韞価(ウンカ=価値のあるものをしまっておく、才能や知識がありながら、世に知られないことのたとえ)、韞玉(ウンギョク、ギョクをつつむ=玉を包み隠す、美しい質を中にひめるたとえ)。韞櫝(ウントク=ひつ(櫝=匱)のなかにしまっておく、才能があるのに認められずにいることのたとえ、「論語・子罕」が出典)。

カ)媚し=うるわし。宛字チックな訓み。通常は「こびる」「こび」「みめよい」。音読みは「ビ」。媚子(ビシ=君臣を和合させる賢人、髪飾り)、美辞(ビジ=こびへつらうことば、媚語=ビゴ=)、媚承(ビショウ=こびへつらい、他人の意にしたがうこと)、媚態(ビタイ=こびへつらうさま、色っぽくあでやかなさま)、媚附(ビフ=こびへつらい、つき従う、阿附=アフ=)、媚薬(ビヤク=情欲を増進する薬、惚れ薬、バイアグラ)。

キ)榛楛=シンコ。ハシバミやヤマエノキ。詩経の「大雅・旱麓」に「榛楛済済」が出てくる。「榛」は、落葉低木で、枝葉の生長がはやい、実は食用。和訓は「さいばり・はり・はん」。「榛穢」(シンアイ=草木が入り乱れる、転じて悪い風習や乱れた政治を言う)、「榛棘」(シンキョク=いばらなどが乱れ茂った所、榛荊=シンケイ=)、「榛荒」(シンコウ=草木が乱れ茂って荒れ果てた所)、「榛蕪」(シンブ=草木が乱れ茂って、荒れ果てた所、邪悪、不正、未開、乱雑、物事の障害のたとえ)、榛莽(シンボウ=草木の乱れのびた所、やぶ、榛叢=シンソウ=)、榛薈(シンワイ=草木が乱れ茂って、荒れ果てた所、「薈」は「草木があつまってしげる」の意)。「楛」は和訓で「なばえ・なまえ」。ニンジンボクに似た落葉小高木。材は矢幹にする。「楛耕」(ココウ=ぞんざいに耕す)、「楛矢」(コシ=楛を幹に使ってある矢)。

ク)翦る=きる。端を揃えてきる。「剪」と同義。音読みは「セン」。翦夷(センイ=滅ぼし平定する、全滅させる)、翦裁(センサイ=樹木や布などを断ち切る、草木をきりそろえて手入れする、文章に手を入れて直す)、翦綵(センサイ=あやぎぬを裁断して衣服をつくる、造花)、翦紙(センシ=紙をきる、切り紙、切り紙細工)、翦截(センセツ=はさみで断ち切る)、翦翦(センセン=よくそろうさま、知恵が足りず劣っているさま、風が颯と吹く形容)、翦定(センテイ=賊などをうち平らげる、果樹などの生長・結実を助けるために余分な枝を切ること)、翦屠(セント=きり殺す)、翦刀(セントウ=はさみ)、翦伐(センバツ=枝をそろえて木をきる、賊をすべて平定する)、翦滅(センメツ=うち滅ぼす、また、滅びる)、翦余(センヨ=きりとった余り)。いずれの熟語も「剪」の置き換えができます。この言葉は詩経の勿翦(ブッセン、きるなかれ)に由来する由緒正しい漢字です。


或苕發穎豎,離衆絕致。形不可逐,響難為係。塊孤立而特峙,非常音之所緯。心牢落而無偶,意徘徊而不能揥。石韞玉而山輝,水懷珠而川媚。彼榛楛之勿翦,亦蒙榮於集翠。綴下里於白雪,吾亦濟夫所偉。



【解釈】 第四は、一つの文が全体の中から、穂先のように飛び抜け、他の部分とは趣が全く異なっている場合である。それは、追いつくことのできない姿、つなぎ止められない響きのようなものであり、孤立して独りそびえ立ち、平凡な音色(言葉)と組み合わせることなどできない。心の中を探っても、もはやそれに匹敵する表現を見出すことはできず、あれこれ思い悩んでも、うまくまとめることはできない。しかし、考えてみれば、石の中に美玉を蔵するからこそ、山全体が輝くのであるし、水の底に真珠が沈んでいるからこそ、川全体が美しくなるのである。つまらない雑木林でも、美しいカワセミが巣食っていればこそ、そのおかげで切り倒されないですむ。それゆえ、下品な「下里」の曲を、上品な「白雪」の曲につなげるような結果になったとしても、優れていると思える箇所を生かして、残すようにするのである。

飛び抜けていい一文。ありますよね~。お気に入りのフレーズが。それは「形不可逐,響難為係」。ほかの文がいくら輝いても追いつかない素晴らしい内容なのです。「塊孤立而特峙,非常音之所緯」。超然として平凡なものとは交わることができないもの。かと言って、その生れたフレーズはもはやほかで置き換えるなど不可能。時々あるんですが、「これだっ」と浮かんだフレーズを書きとめておかないでいて、いざ書こうとしても思い出せない。何度も振り返ってもダメ。「ああ~、なぜにメモっておかなかったのかぁぁあ~」。呻吟、苦吟しても如何ともすることができない。そんな素晴らしい一文はどう扱えばいいか?陸機は言います。「石韞玉而山輝,水懷珠而川媚。彼榛楛之勿翦,亦蒙榮於集翠」。美しい物は触らない方がいい。下手にいじっても禄な事にはならない。そのまま生かすことだけ考えなさい。折角浮かんだ名フレーズ。これを中心に文章を展開させるのが一番いいのだと。それがたとえ、「綴下里於白雪」となろうとも「吾亦濟夫所偉」とするがいい。「下里」(カリ)は死んだ人の魂が行くという所。きっと寂しい曲なのでしょう。曲と曲がうまくつながらなかろうとも、美しい方の曲を残して全体をまとめるのがいい文章になる近道だというのです。な~るほど。こだわりの文章ですね。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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