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言葉の意味と音を天秤に掛けるなら軍配はどっちに?=陸機「文賦」10

陸機の「文賦」シリーズ(明治書院「新書漢文大系26・文選<賦篇二>」)の10回目です。通常の問題形式に戻ります。前回はさまざまな文体の特徴を紹介しましたが、文体は扨措いて陸機は対象物の「分析」が必要であると同時に、言葉が奏でる「音」も重要視しなければならないのだと説きます。

其の物為るや姿多く、其の体為るや屢屢遷る。其の意を会するや巧みなるを尚び、其の言を遣るや1)ケンを貴ぶ。音声のア)迭いに代わるにイ)びては、五色の相宣ぶるが若し。2)セイシの常無く、固にウ)崎として便じ難しと雖も、苟に変に達して次を識らば、猶お流れを開きて以て泉を納るるがごとし。如し機を失いて会に後るれば、恒に末を操りて以てエ)に続く。3)ゲンコウのオ)袟敘を謬り、故にカ)淟涊として鮮やかならず。

1)ケン=妍(姸)。うつくしさ、みがいたように容色が整ってうるわしいさま。みがきのかかった容色の美しさ。「うつくしい」の訓みもあり、妍好(ケンコウ=顔かたちがうつくしい、きりょうがよい、娟好=ケンコウ=)、妍蚩(ケンシ=うつくしいことと醜いこと、また、好ましいことと憎らしいこと、妍醜=ケンシュウ=)、妍冶(ケンヤ=うつくしくてなまめかしい)、妍和(ケンワ=けしきなどが、うつくしくなごんでいるさま)、金妍児(キムヨナ)。

2)セイシ=逝止。ゆくことととまること。物事の移り変わり、盛衰をあらわす。これも偏義複辞。似たような意味の「進退」が「退」の方に重きが置かれるのに対してこちらは「逝」の方に重きが置かれる。

3)ゲンコウ=玄黄。天地、宇宙そのもの。「玄」は「くろ」、「黄」は「きいろ」で「天のくろい色と、地の黄色い色、転じて天地、乾坤」。「玄黄」と「乾坤」は類義語ですが漸難しいか?

ア)迭いに=たがいに。副詞用法で「入れ替わって、かわるがわる」。表外訓みで重要。音読みは「テツ」。すっとぬける、序列・地位からぬけて他の者とかわる。迭起(テッキ=人や物がかわるがわるにおこって交替する、迭興=テッコウ=)、迭次(テツジ=しばしば、たびたび)、迭日(テツジツ=一日おき)、迭代(テツダイ=肩代わりする、つぎつぎにいれかわる)。

イ)曁び=および。「曁ぶ」は「およぶ」。届く、ある所や時点まで達する、至る。あるいは「曁びては」と接続詞的用法もあり、「AとBとを並べて示す場合に用いる、及」。音読みは「キ」。曁曁(キキ=張り切ったさま)。「およぶ」はほかに、「逮ぶ、覃ぶ、趙ぶ、迄ぶ」がある。

ウ)崎=キキ。傾斜して険しいさま。「」は配当外で「そばだつ、ななめに木をうがつ鑿、ななめに切り込む鋸」。崎傾(キケイ=傾斜していて歩くのが困難なさま)ともいう。崎嶇(キク)は重要頻出語で「山道の険しいさま、道が険しくて行き悩むさま、世渡りの難しいこと」。崎陽(キヨウ)は「長崎のこと」で中国人はこう言いました。美味しい焼売は「崎陽軒」。

エ)顚=いただき。頭のてっぺん、山や物の上の端。「巓」とも。「たおれる」「たおす」の訓みもあり、音読みは「テン」。顚隕(テンイン=さかさに落ちる、顚越=テンエツ=)、顚狂(テンキョウ=気が狂う、狂人、落ち着きなく軽はずみなこと)、顚蹶(テンケツ=つまずきたおれる、困難にあってなやむ、顚跌=テンテツ=、顚躓=テンチ=)、顚実(テンジツ=気力をからだじゅうに満たす)、顚墜(テンツイ=たおれて落ちる、失敗し滅ぶ、顚落=テンラク=)、顚顚(テンテン=あわててうろたえるさま、愚かなさま、一つに事にこだわるさま)、顚狽(テンバイ=急にたおれてあしをばたばたさせる、うろたえる)、顚沛(テンパイ=さかさまにたおれる、とっさのとき、危難がせまっているとき→造次顚沛=ゾウジテンパイ=)、顚風(テンプウ=突風、逆風)、顚頓(テントン=さかさにころげる)、顚末(テンマツ=一部始終)、顚毛(テンモウ=頭の毛、頭髪)、顚連(テンレン=足がもつれてたおれる、もつれて処理できない)。

オ)袟敘=チツジョ。秩序、きまりごと。「袟」は「書物を包んで保護するおおい、帙」。

カ)淟涊=テンデン。あか、よごれ。いずれも配当外の漢字で「淟」は「にごる、けがれる、底にたまる」、「涊」は「汗がじわじわと出るさま」。


其為物也多姿,其為體也屢遷。其會意也尚巧,其遣言也貴妍。曁音聲之迭代,若五色之相宣。雖逝止之無常,固崎而難便。苟達變而識次,猶開流以納泉。如失機而後會,恆操末以續顛。謬玄黃之袟敘,故淟涊而不鮮。


【解釈】 文章の対象となるの物はさまざまであり、文体もいろいろに変化する。とはいえ、いずれの場合も、発想の組み合わせは巧妙でなければならず、言葉の使い方は美しくなければならない。言葉の発音が次々に変化していくさまは、五色が美しく組み合わされているようなものだ。しかし、その音の変化には、一定の法則があるわけではなく、不安定なものであるため、適切な配列をすることは難しい。以上述べたような、文章の構成上の変化や秩序に通暁できたならば、水路を開いて流れを引き入れるかのように、勢いよく文章を作り上げることができるだろう。逆に、その変化に乗る機会を失ったなら、末尾を直接先頭につなげたような無様な文章となってしまうだろう。色彩の配列に失敗したようなもので、濁って不鮮明な文となるのである。


自分が言いたいことに応じて文体を駆使する。そして、「其會意也尚巧,其遣言也貴妍」――。「意」は「発想」で、「言」は「言葉」です。それぞれ「巧」と「妍」であることが求められます。次に留意しなければならないのは「音」。言葉が列ねられ、音がさまざまに変化する。さながら色とりどりに彩なすよう。音の並びに規則性がないため、出たとこ勝負みたいなところがある。しかし、文章の構成や秩序を知った上で、言葉を列ねることができれば、一瀉千里に文章を書きあげることができるという。あたかも水路を開いて川の水を取り込むかのようだ。しかし、逆に、文章の秩序を見失った場合は、無慙かな、濁った意味不明のものができあがってしまう。あたかも文と文をただつなげただけの面白くもおかしくもないであるかのよう。音を意識しなければならないのは間違いないが、正しい言葉を常に模索することの方が大事だ。そのどちらも取れれば一番であるが、音と意味を天秤に掛けなければならないとすれば、自ら意味が優先されるべきであるのは論を待たないでしょう。ここのくだりは聊か抽象的です。「如失機而後會,恆操末以續顛」というのは厳に慎まなければならない愚行です。「~。」という文末と「~」という文頭がただ単に無意味に羅列された文章を言っています。黄色と黒色を取り違えた無様な色だという。小汚い文章とでも言えるでしょうか。桑原、桑原…。
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不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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