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いい文章を書くには先輩諸氏の名文に習うべし!=陸機「文賦」1

本邦の「文章読本」と言えば、かの文豪・谷崎潤一郎が嚆矢であるのはご存じか?迂生が学生時代、卒業論文で「日米比較翻訳論」をものにしたときも、日本語の文章の特徴を例証する際の文献として引用した記憶があります。(すいません中身は忘れました)作家というものはその名声が高まるにつれて、「己の文章論」なるものをこの世に残したくなるのでしょう、その後、川端康成や三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさしらも所謂「文章読本」を書いております(迂生は未読です)。そのうち、村上春樹なんかも書くんでしょうなぁ。。。それらの内容をいちいち審らかにするつもりはないです。一つだけ言えるのは、どんな大作家もやはり過去の作品から影響を受けないわけにはいかないということです。換骨奪胎という言葉もありますが、昔の人の文章のいい点を真似することが出発点である場合も多い。己の心の「ざわめき」を表現したくなって、その言葉を求めようとする。なかなかうまく合致しない。そんなとき、昔の文章からヒントを得ることは多い。言葉、文体、論理。。。文章読本では古の文章を類型化してそのエッセンスを紹介しているケースが多いです。

さて、中国の陸機(261~303)の名前はご存知でしょうか?時は魏呉蜀の三国時代の後を受け継いだ西晋王朝。呉の名家の出身でしたが、二十歳の時、呉が滅び、十年間の隠棲の後、洛陽に上ります。弟の陸雲と共に文才に溢れる文学者で「二陸」と称されました。また同時代の潘岳(世説新語シリーズでジャニーズ張りのイケメン詩人として紹介しました、ここ)と並び「潘陸」とも呼ばれました。謀反を疑われて死罪になるという不幸な一生でした。その最期の嘆きの言葉は「華亭鶴唳」(故郷華亭の鶴の鳴き声をもう一度聞きたかったがかなわない=転じて、過去の栄華を懐かしく思い、現状を嘆くさま)という有名な典故として今に伝えられています。

その陸機が文章を書く上での奥義をまとめた論文を書き遺しています。中国文学史上、最も名高い文学理論の一つで、タイトルが「文賦」(ぶんのふ)。現代なら差し詰め「文章読本」と位置付けられるでしょうか。詩文を書いたり、文筆業に従事したりすることを「操觚」とも言いますが、その語源となったくだりも登場するほか、「百世の闕文を収め、千載の遺韻を採る。朝華を已に披ける謝し、夕秀を未だ振るわざるに啓く」(使い古されたフレーズではなく、斬新な言い回しを求めよ)と、文筆家が常に戒めなければならない名箴言も謳われています。

いささか抽象的、観念的な部分も多いですが、現代のわれわれが言葉を選び、文章をしたためる際、原点に立ち返ることが求められた時、思い返したい「初心」について滔々と述べられています。もし、読者諸氏の中に作家を志す人、ジャーナリストを目指す人がいるならば(既に従事されている方々も含め)、いまここで1700年以上も前を生きた中国の文学者の文章読本を味わってみるのもいい機会ではないでしょうか。無論、漢字も超一級品のものばかり。文章術と併せて巧みな語彙の数々も獲得いたしましょう。例によって明治書院の「新書漢文大系シリーズ」26の「文選<賦篇二>」を底本といたします。かなり難解なくだりもあります。ゆっくりと細切れで進めます。すべて読み終えるまでにほぼ一カ月はかかるでしょう。倦まず弛まず付いて来てください。本日はその序文から。

「文  賦 并序」(ぶんのふ ならびにじょ) 陸機

余才子の作る所を観るア)に、窃かに以て其の用心を得る有り。夫れ言を放ち辞を遣るは、イ)に変多きも、1)ケンシ好悪は、得て言う可し。自ら文をウ)る毎に、エ)け其の情を見る。恒に意は物に称わず、文は意にオ)ばざるをカ)う。蓋し知ることの難きに非ずして、能くすることの難きなり。故に文の賦を作りて、以て先士の2)セイソウを述べ、因て文を作るの利害の由る所を論ず。佗日に殆ど其の妙を曲尽すと謂う可し。斧を操りて柯を伐るに至りては、則を取ること遠からずと雖も、夫の手に随うの変の如きは、良に辞を以て逮び難し。蓋し能く言う所の者は、此に具うと云う。

1)ケンシ=妍蚩。美しいことと醜いこと。蚩妍、妍醜ともいう。ここでは作品の出来の善し悪し。「妍」は「うつくしい」、「蚩」は「みにくい」。「ケンシ」が書けるのに「シケン」だと分からなくなるというのではまだまだ甘いぞ~。ひっくり返してみるというのは言葉を習得する上では「訓読みしてみる」と並んで重要なテクニックの一つです。

2)セイソウ=盛藻。巧みな文章。「藻」は「あや」とも訓み、文章で修辞が巧みなさまをいう。

ア)毎に=ごとに。~するたびに、~するときはいつでも。「つねに」の訓みもあり。

イ)良に=まことに。本当に。表外訓み。「まことに」は多く、ほかに「寔に、苟に、允に、洵に、款に、真に、亶に、衷に、諦に、孚に、忱に、恂に、惇に、愨に、信に、諒に、悃に、慎に」などがあります。

ウ)属る=つづる。これは珍しい難問。文句をくっつけて文章をつづる。綴る。「ショクす」と訓読してもOKです。属文(ショクブン、ブンをショクす=文章をつづる)、属辞比事(ゾクジヒジ=関係のある言葉を連ねて国々の事件を並べて文章にして述べる)。

エ)尤け=とりわけ。これは稍宛字っぽい。「もっとも」が普通でしょう。意味的に似ていますね。音読みは「ユウ」。尤異(ユウイ=ほかよりひときわすぐれている)、尤悔(ユウカイ=後悔している事柄)、尤隙(ユウゲキ=仲違い、いさかい)、尤最(ユウサイ=最も優れていること)、尤物(ユウブツ=目だってすぐれたもの)。

オ)逮ばざる=およばざる。「逮ぶ」は「およぶ」。これまでも頻出の表外訓み。物事がある地点や水準にまで到達すること。逮夜(タイヤ=夜になる)。

カ)患う=うれう。くよくよと気にする。次から次へと心配する。表外訓み。「患える」。「憂」と同義。憂患(ユウカン=悩み事)、患難(カンナン=悩み、苦しむこと、精神的な苦労)。

余每觀才士之所作、竊有以得其用心。夫放言遣辭、良多變矣、妍蚩好惡、可得而言。每自屬文、尤見其情。恆患意不稱物、文不逮意。蓋非知之難、能之難也。故作文賦、以述先士之盛藻、因論作文之利害所由。佗日殆可謂曲盡其妙。至於操斧伐柯、雖取則不遠、若夫隨手之變、良難以辭逮。蓋所能言者、具於此云。



【解釈】 すぐれた文人の文章を読むたびに、その意匠の工夫ぶりに気がつくことがしばしばである。そもそも言葉を用いて文章を作る際には、表現ぶりは変化に富んで多彩であるが、その出来の善し悪しは一目瞭然である。自分で書く場合はなおさら分かるものである。書こうとする思いがあっても、その趣旨を表出しきれず、また、文の表現が思いを言い尽くせないもどかしさがある。頭で分かっていても実行に移せない。書きたいという気持ちは必ずしも良い文章になるとは限らないのである。わたしがこの「文の賦」を著すきっかけとなったのも、先人のすぐれた文章を読むことを通じて、文章を書く際の成功と失敗がなぜ起こるのかを解き明かしたいと考えたからである。後で読み返しても、微妙な点まで言い尽くしていると自負できる内容に仕上がった。斧の柄にしようと木の枝を切る場合、どんな木のどの部分がいいのかは今まで使っていた斧の柄を手本とするのは当然である。文章も同じこと。見習うべき先人の文章は身近にたくさんある。しかし、その斧を振るう手の動かし方に至っては、微妙な動作や勘所はそうそう簡単に言葉で伝えられるものではない。完全に表現できるかどうかは分からないが、出来る限りは書いてみたつもりである。(以上序文)

「至於操斧伐柯、雖取則不遠」――。当に我が意を得たり。古の文章を玩わうことを通じて歴史を学び、言葉を習得し、思想や論理を習い、そして、未来へ投影していくという弊blogの趣旨そのものと言えるでしょう。でも、それは途轍もなく難しいことであり、永遠であり、いつ果てるともしれない険しい、曲がりくねった道程です。

そもそも文章を書くというのは並大抵のことではない。特に人に読まれることを前提とした場合は、自分の意が確実に読者に伝わるかどうかは永遠の謎ですから。「恆患意不稱物、文不逮意。蓋非知之難、能之難也」というもどかしさ、ジレンマを味わったことは、苟も「物書き」であるならば一度や二度のことではないでしょう。自分自身ですら意味の把握が怪しいのに、況んや他人が本当に理解してくれるだろうか?常にその葛藤に苛まれます。日夜精進也已ですが、
いい文章は先輩諸氏の名文に習え。そこから自分のオリジナルが生まれるはず。自信を持ったものが生まれるまでは古文を学びなさいということですかね。習うより慣れろ。。。陸機にその真髄を請いましょう。

さぁ、古の文章読本の始まりです。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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