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美人の舞いに溜め息…永遠の存在でないことに「憮」=陶淵明「擬古」7

陶淵明の「擬古」九首シリーズの七回目です。岩波文庫「陶淵明全集(下)」から。同書(P20)によると、「人生の哲理をうたった詩であろうか。また、晋から宋へと時代が移り易わったことへの感慨を託したものと受けとる理解もある」とあります。表面的には美人の舞いを見て感慨にふける男どもの気持ちを歌っています。もちろん、エロチックな意味も含めてですが、永遠なる美はありはしない虚しさを詠じています。しかし、その実は祖国晋が宋に代わる時代の変遷を寓意しているようです。淵明がその複雑な心境を淡淡と詩にしています。詩人は常に悩んでいます。

「其七」

日暮れて天に雲無く

春風 1)ビワを扇ぐ

2)カジン 清夜を美しとし

曙に達るまでア)みかつ歌う

歌イ)って長歎息し

此れを持て人を感ぜしむること多し

3)キョウキョウたり 雲間の月

4)シャクシャクたり 葉中の華

豈に一時の好無からんや

久しからざるは当に如何すべき

1)ビワ=微和。

かすかに感じる暖かさ、なんとなく暖かい空気。「微」は「かすか」「ひそか」とも訓む。微恙(ビヨウ=軽い病気、微痾=ビア=)、微眇(ビビョウ=かすかで小さい、文章やことばで表現できないような奥深い趣があること)、微涼(ビリョウ=なんとなく涼しい、かすかな涼しさ)、微雨(ビウ=かすかに降る雨、こさめ)、微躯(ビク=自分を遜っていうことば、微身=ビシン=、微躬=ビキュウ=)。

2)カジン=佳人。

美人。志のある立派な者に喩える。佳人薄命(カジンハクメイ=美人はとかく不幸せで短命である、蘇軾の「自古佳人多命薄」が出典)、佳会(カカイ=楽しい集まり、りっぱな宴会)、佳気(カキ=めでたい気)、佳期(カキ=よい時節、美人と約束してあう日、蕨拳式の日)、佳境(カキョウ=美しい景色のところ、話の盛りあがる場面)、佳日(カジツ=よく晴れた穏やかな暖かい日、めでたい日)、佳什(カジュウ=りっぱな詩文、「什」は詩経の詩の十編のこと)、佳勝(カショウ=名声が高い人、美しい景色、佳景=カケイ=)、佳醸(カジョウ=よい酒)、佳絶(カゼツ=けしきが非常に良いこと)、佳饌(カセン=おいしいごちそう、佳餐=カサン=)、佳致(カチ=すぐれた趣、佳興=カキョウ=)、佳配(カハイ=よくてふさわしい配偶者、佳偶=カグウ=)、佳筆(カヒツ=字を書くのが上手)、佳聞(カブン=よい評判)、佳妙(カミョウ=美しくて素晴らしいこと)、佳話(カワ=聞いて楽しくなるようなよい話)。

3)キョウキョウ=皎皎。

真っ白いさま、明るいさま、潔白なさま。「皎」は慣用読みで「コウ」。「しろい」「きよい」とも訓む。皎潔(キョウケツ、コウケツ=態度やようすが白くてけがれのないさま)、皎月(コウゲツ、キョウゲツ=白く輝く月)、皎日(コウジツ、キョウジツ=白く輝く太陽、白日=ハクジツ=)、皎然(コウゼン、キョウゼン=白く明るいさま、皎如=コウジョ、キョウジョ=)。

4)シャクシャク=灼灼。

まっかに輝くさま。ここでは、花の色があかあかと火を燃やしたように輝くさま。「灼」は「やく」「あかい」とも訓む。和訓である「霊験あらたか」もこれを充てる。灼爍(シャクシャク=あかあかと光り輝くさま、転じて、なまめかしくあでやかなさま)、灼然(シャクゼン=あかあかと輝いて明るいさま)、灼熱(シャクネツ=真っ赤に焼けて熱くなる)、灼爛(シャクラン=ひどい熱でやけただれる)、灼亀(シャッキ、キをやく=古代、占いのために亀の甲羅に熱を加えること)、灼見(シャッケン=明らかに見る)。

ア)酣み=たのしみ。

「たけなわ」も同義。酒を飲んでうっとりするさま。酒宴が最も盛んなころおいにある。音読みは「カン」。既に何度が登場していますが、酣適(カンテキ=心ゆくまで酒に酔って、快い気分になること)、酣娯(カンゴ=じゅうぶんに楽しむ、酣嬉=カンキ=)はぜひとも押さえておきましょう。

イ)竟って=おわって。

「竟わる」は「おわる」。しまいまでやりとげる。「さかいめ」の訓みもある。音読みは「キョウ」。竟場(キョウエキ=さかい、境界、国境)、竟宴(キョウエン=平安時代、宮中で書物の講義や編集などがおわったあとで開く宴会)、竟日(キョウジツ=ひと晩じゅう、終夜、夜もすがら)、竟内(ケイダイ、キョウダイ=一定区域内の内側、区画の中、国内)。


日暮天無雲、 春風扇微和
佳人美清夜、 達曙酣且歌
歌竟長太息、 持此感人多
皎皎雲間月、 灼灼月中華
豈無一時好、 不久當如何



日が暮れて空には雲ひとつなく、あたたかな春風がそよそよと吹いている。志のある美人がこのすがすがしい夜をめでて、夜明けまで歓を尽くし、歌をうたう。歌もうたい尽くしてあの人が長い溜息をもらすと、見ていた人々は深い感慨を抱かせられる。雲間に照り輝く白い月、青葉に咲き誇る真っ赤な花。なるほど、一時の感動を与えてはくれるが、いかんせん、永遠に続くことはない。美人もまた同じ……。

美人の舞いに見惚れる男たちに淵明も交じっています。美しいその姿態に興奮を覚えます。夜通し続く宴会はいつ果てるともありません。そして、彼女は舞いと歌を一通り終えて肩で息をします。その溜息にも似た嬌かしさ。不図見れば、月、華といった自然の美と重なることに気付きます。ところが、人はいつか老いる。病にも罹る。死ぬ。自然の事物はいつかは滅びる。枯れる。消える。一時の美しさに目を奪われるのも束の間、国家ですら滅亡の道にも至ることに深い深い感慨が淵明の心をとらえます。自身は早々と田舎に帰って身を隠してしまった。これは成功でしょう。果断な行動とも言えましょう。しかし、世の栄枯盛衰はそれを上回る速度で動きます。人々をどん底に陥れます。人として生を享けたからには享楽的に生きるのがいいのかもしれない。そんな思いにまた溜息をつかせられてしまいます。人生の哲理というよりは人生そのもの。その存在の小ささを否でも認識しないわけにはいきませんね。そして、憮然とするのです。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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