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白醪を鯨飲して羽化登仙の気分に…=柏木如亭「詩本草」

 柏木如亭の「詩本草」シリーズの18回目は、第42段の「白醪『梨花春』」を取り上げます。伊賀上野に滞在中に3月3日の桃の節句を迎えた如亭は、弟子からこの地で醸造された酒を贈られました。その名も「梨花春」。下戸の如亭は、ちょっと飲んだだけでも酒に酔ってしまったのでしょう。中唐の詩人、白楽天(白居易)や桃の節句に誕まれたという伝説の「皇」の故事に思いを馳せて、七言古詩一首を詠みます。伊賀上野での暮らしはいろんな人が面倒を見てくれて有り難いと同時に、所詮は漂泊の詩人の身ゆえに、余りに長居をしてしまうことへの不安も頭を擡げて、心がむずむずしてきたようです。


 《42 白醪「梨花春」》

 三日、杜生が送る所の白醪「梨花春」と名づくる者を飲む。亦た本地の奇品なり。乃ち筆を走らせて七古一篇を作る。

 雪白の香醪 甘きこと蜜の如し

 杜生送り来つて三日を為さしむ

 一コウ 惟だ覚ゆ 美の口に満つるを

 清醸 知らず 花又た実なるを

 我聞く 杭州の梨花春

 花の開く時を趁ひて熟し得て新たなりと

 想ふに応に楽天酒量浅きも

 当年守と為るときの如く呑みしなるべし

 一年の中の五佳節

 家筵何ぞ曾ち耳の熱するに到らん

 杜生が手段皇に等し

 客居 余が為に天欠を補ふ

 酔郷深き処久しく傾慕す

 険峻隔断して往くことを許さず

 今日方に纔かにバッショウを縦にす

 山川重重畳畳の路


 ■「三日」=三月三日。上巳(ジョウシ)の祝い、すなわち桃の節句のこと。


 ■「杜生」(トセイ)=四日市の如亭の門人・森寺源之介。杜は森寺の修姓。名は鞠。字は佳友。号は秋塢(シュウウ)。

 ■「白醪」(ハクロウ)=白酒。味淋に蒸した米や麹を混ぜて熟成させた、白く濁った甘い酒。註釈によると、如亭は下戸であり、桃の節句は雛祭りの日でもあったので、その縁で白酒を送って来たとある。「醪」は1級配当で「どぶろく」「にごりざけ」「もろみ」と訓む。「濁醪」(ダクロウ)、「醪醴」(ロウレイ)=にごり酒。

 ■「本地」(ホンチ)=当地、この土地。ここは、伊賀上野のこと。

 ■「一コウ」は書き問題=「コウ」は浮かびますか?1級配当が入りますが、かなり多いですよね。ここは、送って来た「梨花春」をぐいっと一呑みするさまを言います。ですから。。。 「」。



  訓読みは「あお・る」です。「す・う」「かまびす・しい」とも訓みます。「あおる」は三つあるので「呷る」「簸る」「煽る(扇る)」それぞれ意味と共に書き分けられるようにしておきましょう。

 ■「梨花春」(リカシュン)=中国の酒の名。註釈によれば、梨花の開花する時に醸成されたことから、こう名づけられたとある。さらに、白居易の「杭州春望」詩に「青旗を沽りて梨花を趁ふ」とあり、それには「その俗、酒を醸す。梨花の時を趁ひて熟す。号して梨花春と為す」との注が付されていると説明されています。

 ■「楽天酒量浅き」=白楽天(白居易)は酒好きとしても知られていますが、酒量はそんなに多くは無かった。注釈には、「陶潜の体に効ふ詩十六首」に、「未だ一壺酒を尽くさざるに、已に三独酔を成す。飲むことの太だ少なきを嫌ふ勿れ。且く喜歓を致し易し」とか「一盃復た一盃、多きも三四を過ぎず」などと詠んでいると紹介しています。

 ■「守」(かみ)=唐代の地方長官である太守・刺史などの簡称。白居易が杭州刺史だったのは、51歳の長慶2年(822)から53歳の長慶4年(824)まで、と註釈にある。

 □にはある動物が一文字入ります。酒量がそれほどでもない白居易ですが、杭州刺史に任ぜられた時ばかりは、これのように飲み明かしたのだろうと如亭が推論しているのです。蠎蛇(うわばみ、蠎、蟒)でも良さそうですが、もう少しシンプルに。四字熟語に「□飲馬食」がありますね。。。。あ、牛でもないよ。正解は「」(くじら、ゲイ)です。書き問題で「ゲイ」とあって常用漢字ですが浮かぶかどうかです。杜甫の「飲中八仙歌」に「飲むこと長鯨の百川を吸うが如く」があります。やはり大酒のみの喩えは鯨なんですね。。。
 ちなみに、1級配当で「ゲイ」と言えば、「黥」(いれずみ)、「麑」(かのこ)、「鯢」(さんしょううお、雌くじら)、「鮨」(すし、さんしょううお)、「霓」(雌のにじ)、「睨」(にらむ)、「猊」(しし)、「囈」(うわごと)、「倪」(きわ、ながしめ)といったところでしょうか。

 ■「五佳節」(ゴカセツ)=さて、問題。五節句のことですがすべて漢字で書けますか?「人日」(ジンジツ、1月7日)、「上巳」(ジョウシ、3月3日)、「端午」(タンゴ、5月5日)、「七夕」(シチセキ、7月7日)、「重陽」(チョウヨウ、9月9日)。これらは江戸幕府が、いわば現代で言う国民の祝日として制定しました。その後、明治政府はすべて廃止しましたが。。。今でも祝日なのは端午の節句だけ、、、子供の日ですな。

 ■「家筵」(カエン)=家宴と同じ。家族集まって行う宴会。「筵」は「むしろ」ですが、「宴会」の意味もある。「宴席」は「筵席」とも書く。

 ■「曾ち」は訓み問題=「すなわ・ち」。「曽ち」とも。「すなわち」はほかに、「乃ち」「即ち」「則ち」「便ち」「迺(廼)ち」「輒(輙)ち」がある。このうち1級配当は「輒(輙)」。音読みは「チョウ」。「輒然」(チョウゼン=べたべた、とつぜん)を押さえておきましょう。

 ■「耳の熱する」は、酒に酔って耳が熱くなること。註釈には、杜甫の「酔歌行」に「酒酣に耳熱く頭の白きを忘る」があるとしています。

 ■「皇」(カコウ)=中国古代の伝説上の皇帝女(ジョカ)氏。註釈では、史記「三皇紀」に「五色の石を練して天の欠けるを補ったという」。淮南子「覧冥訓」にも同様のエピソードが見えます。次の句の「天欠」(テンケツ)はそれを踏まえたもの。なぜ、ここで唐突に「皇」が登場するかというと、上巳は彼女の誕生日でもあり、伏羲とカップルで二人が交わって宇宙を創造し、人間を作った。女の子のお祭だけに、沢山の子宝に恵まれることを祈る人々から豊穣の象徴として崇められてきた。

 ■「客居」(カクキョ)=旅住まい。

 ■「酔郷」(スイキョウ)=酔い心地。酒に酔った後の陶然とした境地。酔狂とはちょっと違う。羽化登仙の世界でしょうか。

 ■「纔かに」は訓み問題=「わず・かに」。「方纔」(ホウサイ、まさにわずかに~)で「はじめて、やっと」の意。漢文訓読の用法です。「纔」の音読みが「サイ」であることに留意して。

 ■「バッショウ」は書き問題=山に登り川を渡ること。「跋渉」。



  「跋」は1級配当で「ふ・む」「こ・える」「つまず・く」「おくがき」と訓む。「跋扈」(バッコ)、「跋文」(バツブン)、「序跋」(ジョバツ)、「題跋」(ダイバツ)、「跋胡」(バッコ=進退窮まる)、「跋尾」(バツビ)、「跋語」(バツゴ)、「跋剌」(ハツラツ=剌)、「跋履」(バツリ)。

 ■「重重畳畳」(チョウチョウジョウジョウ)=「重畳」をさらに重ねている。幾重にも幾重にも重なること。くどいほど重なっている。それだけ山や川の自然が行く手を遮り険しいさまを表わしている。江戸時代の用法で「重畳」は「満足している」という意味もあるので押さえておきましょう。「そちの手柄ぞ。予は重畳じゃ」などとお殿様が使う。


 伊賀上野での生活は理解者や弟子に囲まれて優游自適の楽しいものだったのでしょうね。――名品とされる酒に酔えば、どんな困難な道も乗り越えられる気になってしまうから恐い、恐い。梨花春と言えば白楽天も詩に詠んだなぁ。彼も酒は弱かったが、地方官僚に出世したときは鯨のようにがばがば飲んだに違いないな。俺も飲めない口だが、杜生の奴はうまいこと「梨花春」なんて酒を贈ってきやがったよ。乗せられちまった。。そう言えば、五節句の一つ桃の節句は、皇の伝説だ。彼女は天が欠けたのを五色の石で填めたのだが、同じように酒に酔って俺も天の穴を填めた気分になってきたよ。もうどこにも行く必要が無いなぁ、ここにずっといようか。いやいや、だめだめ、おれは漂泊するのが性にあっている。どんなに険しかろうとも歩き回らねばならないのだ。。。

 如亭は57歳の文政2年(1819年)の春から夏まで水腫の療養生活を兼ねて伊賀上野に滞在します(昨日の記事で如亭52歳とありましたが、57歳の紕りですね。岩波文庫の揖斐氏が計算間違いをしたようです)。その後、京都に戻るのですが、その年の7月11日に息を引き取ります。本日は以上です。

 【今日の漢検1級配当漢字】

擡、醪、筵、纔、醴、呷、煽、沽、趁、蠎、蟒、喩、黥、麑、鯢、鮨、霓、睨、猊、囈、倪、輒(輙)、酣、羲、跋、扈、潑剌
 【今日の配当外漢字】

媧、塢

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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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