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勧誘に来た田父をぎゃふんと圧倒 やっぱ酒かい=陶淵明「飲酒」10

陶淵明の「飲酒」シリーズの10回目。岩波文庫の「陶淵明全集(上)」から。この首では老農夫(=田父)と陶淵明の問答が綴られており、少し毛色が異なります。「滄浪の水清まば以て吾が纓を濯うべし。滄浪の水濁らば以て吾が足を濯うべし」(世の成り行きに任せていいのではないか。世が求めれば官に就き、世が乱れれば官を辞す)――。屈原が詠んだ「楚辞」で漁夫(ギョホ)の助言を受けて吐いた台詞を思い出します。冒頭ではいきなり夜明けに、だれかが陶淵明の家を訪れて、その門をたたくシーンから始まります。田父=漁夫という構図でしょう。


「其九」

1)セイシン 門を叩くを聞きて

裳をア)まにして往きて自ら開く

問う 子は誰とか為すと

田父 2)コウカイ有り

3)コショウもて遠く見候し

我れの時とイ)<を疑う

繿縷 4)ボウエンの下

未だ高栖と為すに足らず

一世 皆な同じくするを尚ぶ

願わくは君 其の泥を汨さんことをと。

深く父老の言に感ずるも

5)ヒンキ ウ)う所寡し

エ)をオ)ぐるは誠に学ぶ可きも

己に違うは詎ぞ迷いに非ざらんや

且く共に此の飲を歓ばん

吾が駕は回らす可からず


1)セイシン=清晨。

きれいに晴れ渡った早朝。さわやかな朝、すがすがしい朝。きれいな言葉ですね。日常でも使ってみようっと。清旦(セイタン)、清暁(セイギョウ)ともいう。「晨」は「あした」。晨鶏(シンケイ=夜明けを告げる鶏)、晨光(シンコウ=早朝に輝く太陽の光、晨暉=シンキ=)、晨昏(シンコン=早朝と晩)、晨鐘(シンショウ=夜明けを知らせる鐘の音)、晨炊(シンスイ=早朝の飯炊き)、晨征(シンセイ=早朝出発すること、晨往=シンオウ=、晨行=シンコウ=)、晨星(シンセイ=明け方の空に残る星、物の数の少ないたとえ)、晨省(シンセイ=早朝親のごきげんを窺うこと、昏定晨省=コンテイシンセイ=)、晨装(シンソウ=明け方の旅の装い)、晨朝(シンチョウ=早朝、震旦=シンタン=)、晨風(シンプウ=早朝吹く風)、晨門(シンモン=門番)。

2)コウカイ=好懐。

よきおもい、好感。好印象を持っていること。後悔や狡獪では意味が通らない。

3)コショウ=壺漿。

つぼに入った飲み物。ここは当然、酒が入っている。「漿」は「のみもの」の訓があります。漿酒(ショウシュ=水と酒、酒をみずに見立てる言い方、漿酒霍肉=ショウシュカクニク=)、漿果(ショウカ=レモンやバナナなど肉質部分が厚く、水分を多く含んでいる果物)。

4)ボウエン=茅簷。

かやぶきの軒、また、その家。「茅」は「ちがや、かや」、「簷」は「のき」。茅屋(ボウオク=かやぶきの家、自分の家の謙遜語、茅舎=ボウシャ=、茅庵=ボウアン=、茅宇=ボウウ=、茅廬=ボウロ=)、茅茹(ボウジョ=同類の物が互いに関連していて、連なりあっていること、衆賢茅茄=シュウケンボウジョ=)、茅牖(ボウユウ=かやでできた窓、転じて貧しい家)。簷雨(エンウ=のきばにかかる雨)、簷楹(エンエイ=のきの柱)、簷燕(エンエン=のきばにいるツバメ)、簷下(エンカ=のき下)、簷間(エンカン=のきば、のきのあたり、簷際=エンサイ=)、簷滴(エンテキ=のきばから垂れる水のタマ、雨垂れ、エンリュウ=エンリュウ=)、簷頭(エントウ=のきば、のきさき)、簷馬(エンバ=軒につるした鈴、風鈴、簷鈴=エンレイ=、簷鐸=エンタク=)。

5)ヒンキ=稟気。

天から授かった生まれつきの性質、持って生まれた性質。稟性(ヒンセイ)、稟質(ヒンシツ)、稟賦(ヒンプ)ともいう。稟受(ヒンジュ)は「天から受けること、天性」。

ア)倒まにする=さかし・まにする。

物の位置や物事の順序を逆にする。器を倒して中の物を出す。「さかさま」ともいう。ここは「裳」(もすそ)を倒まにするので、それだけ突然の客の来訪に慌てて出迎えているさまを表しています。「屐(ゲキ=くつ)、屣(シ=はきもの)を倒まにする」という言い方もよく出てきます。倒戈(トウカ、ほこをさかしまにする=敵に向けるべき戈を逆に味方に向ける、味方を裏切ること)

イ)乖く=そむ・く。

そむいて離れる。ここでは「我の時と乖く」と用いて、「時流に背中を向ける、世の流れに逆らい離れる」といった意。音読みは「カイ」。乖異(カイイ=意見や態度などが互いに食い違う、気が合わない、乖違とも)、乖隔(カイカク=意見が遠く隔たる)、乖忤(カイゴ=物事が食い違ってちぐはぐである、乖戻=カイレイ=、乖背=カイハイ=、乖悖=カイハイ=)、乖繆(カイビュウ=物事が食い違ってでたらめである)、乖別(カイベツ=人々が離れ離れになること、離散すること)、乖離(カイリ=心が合わずしっくりしない、違っていて合わないこと)、牽攣乖隔(ケンレンカイカク=心は互いに引かれあいながら遠くへだたていること)。

ウ)諧う=かな・う。

うまく調和する、成功する。音読みは「カイ」。「やわらぐ」「ととのえる」の訓読みもあり。諧謔(カイギャク=人を笑わせるような、おかしみのあることば、冗談)、諧協(カイキョウ=よく調和する)、諧語(カイゴ=たわむれにいう、調子のよい滑稽な言葉)、諧声(カイセイ=六書のひとつ、形声のこと)、諧調(カイチョウ=やわらぎととのう、よく調った音楽の調べ)、諧比(カイヒ=やわらぎ親しむ、打ち解けて肩を並べる)、諧和(カイワ=調和してよくととのう、また、調和させてととのえる、やわらいでよく調和していること)。

エ)轡=たづな。

馬のくつわにとりつけて、馬を操るためのつな。音読みは「ヒ」。馬轡(バヒ=くつわ)、轡銜(ヒカン=たづなとくつわ、轡勒=ヒロク=)、轡頭(ヒトウ=たづな)。

オ)紆ぐる=ま・ぐる。

「紆げる」は「まげる」。ここでは「轡を紆げる」と用いて、「車をめぐらす、すなわち、隠棲の考えを改めて出仕することを指す」。音読みは「ウ」。紆鬱(ウウツ=怒りや愁いのために、心がむすぼれてはればれとしないこと、山などが曲がって奥深いさま)、紆回(ウカイ=回り道をする、迂回)、紆曲(ウキョク=細長いものが曲がりくねっていること、紆折=ウセツ=)、紆結(ウケツ=心がむすぼれてはればれとしないこと)、紆徐(ウジョ=ゆっくり歩くこと、着物のすそがだらりと垂れ下がっているさま)、紆繞(ウジョウ=まといつく)、紆軫(ウシン=心がむすぼれて憂えるさま、地形が屈曲したさま)、紆盤(ウバン=山道などが曲がりくねるさま)、紆余(ウヨ=水の流れ、林・丘などが曲がりくねってつづくさま、才能が豊かなさま)、紆余曲折(ウヨキョクセツ=道が曲がりくねっている、経過が込み入って面倒なことが多いこと)。

清 晨 聞 叩 門
倒 裳 往 自 開
問 子 為 誰 與
田 父 有 好 懷
壺 漿 遠 見 候
疑 我 與 時 乖
繿 縷 茅 檐 下
未 足 為 高 棲
一 世 皆 尚 同
願 君 汩 其 泥
深 感 父 老 言
稟 氣 寡 所 諧
紆 轡 誠 可 學
違 己 詎 非 迷
且 共 歡 此 飲
吾 駕 不 可 回




朝早く、門をたたく音がするので急いで迎えに出て門をあけた。「どなたか」と聞いたところ、一人のお年寄りが、わたしに好意を持ち、酒壺を手土産代わりに、わざわざ遠方よりたすねてくれたのだった。老人は、わたしが時世に背を向けてすねているのを訝ってたずねた。「ボロを着てボロ家に住むのが、高尚な暮らしですかね。今日の世の中、人と調子を合わせることが肝腎、あなたも一緒になってこのドブ泥の世の中を搔き乱したらいかがですか」。老人の意見はまことに身にしみてありがたく思う。しかし、もともとわたしの性分として人と調子を合わせるのが下手なのだ。馬の手綱を向け変える方向転換術を真似することはできよう。しかし、それでは自分の本領を曲げてしまうことになる。これは自分というものを棄て去ることにもなるのではないか。まあまあ、今日のところは、一緒に酒を酌み交わして歓談することとしましょうよ。それでも、わたしは車の向きを変えるわけにはいかないがね。

「繿縷」は「ぼろ、衣服が破れたさま」で、“糸篇コンビ”よりも「襤褸」と“衣篇コンビ”の方が一般的でしょうか。「高栖」とは「高尚な生活」で、ここでは隠者としての生活を指しています。「汨」はここでは「みだす」と訓み、「泥水をかき乱す」。

この首に登場する田父は陶淵明を再び宮仕えの道に引き戻そうとしているのです。淵明の心の中の葛藤のシーンかもしれません。おれはこのまま隠遁していいのだろうか?初期のころにはまだ煩悩が湧いていたのでしょうか。しかし、「離騒経」で見た屈原のような悲壮感はここには見えません。「漁夫の辞」はまだ触れていませんが、漁夫が屈原に対して指弾したよりは田父はもっとお茶らけている感があります。ボロ住まいでは優雅な隠者とは言えませんよ。だから、もう少し裕福になるためにもお仕事をしましょうよ、ね。

これに対する淵明のスタンスは一貫しています。自分は生まれつき世間とそりが合わない性格だ。自分を曲げてまでは生きたくない。辛いだけだから。でも酒のお付き合いなら幾らでもできる。。。田父が持ってきた酒だけはちゃっかりといただくというのですから、もはや何をか言わんや。嫌いな物から遠ざかり、好きな物に囲まれ、だら~っと悠悠自適の暮らしを送るがよい。田父も最後は諦めでしょうね。半分以上は羨望の眼差しだと思いますが。自分もあいつみたいに生きられたらどんなに楽か……。いえ、決して「楽」なんかじゃないのです。淵明の心の深奥にある闇は誰にも理解できないのです。
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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