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食と色追い求めんや「人生行楽耳」=柏木如亭「詩本草」

 柏木如亭の「詩本草」シリーズですがまだまだ続きます。6回にわたって取り上げた第40段の「吉原詞」。岩波文庫の本文の解説によると、「当初の予定では、『詩本草』は『吉原詞』二十首を収めるこの段で終わるつもりだったらしい」とあります。全部で48段まであるので、残りの8段は追加執筆されたもの。この中から、本日は「41 伊賀上野の荘」を見ていきましょう。「人生行楽耳」という如亭お気に入りのフレーズが漢詩に詠み込まれています。

《41 伊賀上野の荘》

 詩本草成る。浄写の者を倩ひて梓に付し、同志に頒貽せんと欲す。又た飢に駆られて出て春より夏に及び、霞浦を歴て上野に游ぶ。服生文稼が渓上の荘に寓し、を養ひ、銭を賺す。満園の竹樹、炎を遮り、塵を隔つ。竟に数段を足す。服生も亦た時に過従す。詩を談じ、書画を論じ、或いは酒を酌み、或いは茗をるも、亦た客中多くは得べからざるの楽境なり。乃ち山水一幅を写し、一絶を上頭に題してこれに贈る。

 君と頻りに酌むも亦た何ぞ妨げん

 墨汁三升 債は償ふ可し

 所謂ゆる人生は行楽のみ

 従す 他の俗士の空囊を咲ふ

 ■「浄写」(ジョウシャ)=清書。下書きなどをきれいに書き直すこと。浄書(ジョウショ)ともいう。

 ■「倩ふ」は既出なので訓み問題=「やと・ふ」。思うがままの「麻姑搔痒」(マコソウヨウ)を思い出して、「麻姑を倩うて痒きを掻く」。もう覚えたでしょう?

 ■「梓に付す」は「あずさにふ・す」。書籍を出版すること。「上梓」(ジョウシ)の方が一般的でしょうか。「梓」(あずさ)の木は、木版用の版木として用いられた。

 ■「頒貽」は読み問題=「ハンイ」。分かち贈ること。「頒」は常用漢字ですが馴染みを薄いでしょうか。「わ・ける」との表外訓みがあり、熟語では「頒布」(ハンプ)、「頒価」(ハンカ)、「頒行」(ハンコウ)、「頒賜」(ハンシ)=「頒賚」(ハンライ)などがある。「貽」は1級配当で「のこ・す」「おく・る」と訓む。熟語では「貽厥」(イケツ=子孫、歇後〈ケツゴ〉語の一種)、「貽訓」(イクン)、「貽謀」(イボウ)。音符の「台」を「イ」と読むのは「怡」(よろこぶ、やわらぐ)がある。なかなか「イ」とは簡単に読めないのでしっかりと定着させましょう。

 ■「霞浦」(かすみがうら)=伊勢四日市の海岸。註釈によれば、文化4年(1807年)にこの地を訪うて以来の旧知の原迪斎(ゲンテキサイ、医者・詩人)が住んでおり、今回は如亭52歳の文政2年(1819年)の晩年に再び訪れているという。くれぐれも茨城県の「霞ヶ浦」と混同せぬように。。。

 ■「上野」(うえの)=伊賀上野。くれぐれも東京の上野と混同せぬように。。。。

 ■「服生文稼」(フクセイブンカ)=服部竹(ハットリチクウ)。「文稼」は字。頼山陽らに経史・詩文を学び、津藩の儒者として、伊賀上野の藩校に勤仕していたとある。

 ■「ア」は書き問題=唐突に一字で「ア」。「養ふ」とあるのは療養することです。正解は「」。訓読みでは「やまい」「ながわずら・い」。



  熟語には「宿痾」(シュクア)、「養痾」(ヨウア)。註釈では、如亭は持病であった水腫が悪化していたとものと思われるとある。

 ■「賺す」は訓み問題=「すか・す」。訓むのは簡単ですよね。意味は「銭を賺す」で(正当でない手段で)金儲けをすること。ん?難しいですね。「賺」は音読みで「タン、レン」。「だま・す」の訓みもあります。「宥め賺す」(なだ・め すか・す)という日常語がありますが、普段、あまり意味を意識していないで使うことが多いですね。嫌がる人を説き伏せるために、甜い言葉や騙しの言葉で釣るといった意味なんですよね。これを機会に押さえておきましょう。漢字源には中国語の俗語として「賺銭」(タンセン、チユワンチエン)が見えます。それにしても、如亭は病気だというのに、誰をどうやって騙して金儲けをしたというのでしょうか?これの方が気になりますね。

 ■「過従」(カジュウ)=訪い寄ること。ふらりと立ち寄ること。

 ■「茗をる」(ちゃをに・る)=茶を煮る、茶を煎じる。「茗」は1級配当で「ちゃ」と訓む。ツバキ科ツバキ属の常緑低木。チャノキ。また、おそくつみとった茶(新茶に対して)。音読みは「メイ、ミョウ=呉音」で「茗荷」(ミョウガ、これが通用するのは日本)、「茗讌」「茗宴」(以上メイエン)、「茗園」(メイエン)=「茗圃」(メイホ)=茶畑、「茗果」(メイカ)、「茗器」(メイキ)=「茗具」(メイグ)、「茗肆」(メイシ)=茶店、「茗粥」(メイシュク)=茶粥、「茗碗」(メイワン)、「芳茗」(ホウメイ)。「」は配当外で「ヤク」。「ひたす」「ゆがく」とも訓む。「茗」(ヤクメイ)との熟語もある。

 ■「墨汁三升」(ボクジュウサンショウ)=書画を揮毫するための墨汁は三升もあって、十分足りているということ。あなたへのお礼となる書画はたくさん画けますからね。

 ■「債」(サイ)=負債、借金のこと。

 ■「従す」は訓み問題=「まか・す」。表外訓みですが、あまり馴染みは無い言い方かもしれません。

 ■「空囊」(クウノウ)=財布が空っぽの状態。すっからかん。

 ■「咲ふ」は訓み問題=既出です。「わら・ふ」。「笑う」と同義。もともと「咲」はわらう、えむの意。日本では「花笑う」という言い方があって、漢字の「咲」が輸入されたあとで、この字を宛てた。これは是非とも覚えておきましょう。音読みは「ショウ」。

 如亭はどうやら山水書画を揮毫して収入源としていたようです。これを自虐的に「賺銭」と称したのでしょう。ある意味、自分の作品に対する「自信」でしょうか。おれも阿漕な商売するよなぁ、元手も何もかけずに、好きな詩や絵をものにするだけで儲けるんだからなぁ。でも、それが好きだと言って買ってくれる人が一人でも二人でもいてくれるのなら、それで本望さ。。。。財布の中はからっぽでもね。居候の面倒を見てくれる服生氏に対する感謝の念を些か茶化し気味に詠じているのですね。

 絶句の第三句は「所謂人生行楽耳」となっています。「人生行楽耳」とは、本文の解説によりますと、もともとは前漢の楊(ヨウウン)の「拊缶歌」中に見られるのであるが、その後は一種の常套句として、宋の蘇軾の「子由の除日に寄せ見るるに次韻す」、黄庭堅の「南陽の謝外舅に寄す」、陳与義の「夏日、葆真池上に集ひ、緑陰昼静に生ずを以て詩を賦す。静の字を得たり」などの詩にも詠み込まれるようになった詩句であり、ともあれ、如亭の人生そのものを象徴するような詩句でもあり、如亭自身お気に入りの表現だったようだ、と説明されています。

 「人生は楽しみをなすのみ」。楽しみのために働くし、苦しいことも我慢できる。苦あれば楽あり。流離の詩人、如亭が彷徨い、目指した世界は何だったのでしょうか。吉原詞は20代の若い頃に游んだ世界。そして、その後も、越後や京都の遊廓を歩き回った。彼の詩には「家族」を感じさせるものが出てこない。ダンディーな粋人。彼が生涯追い求めたものは「食」か「色」だったのでしょう。
 本日は以上です。

 【今日の漢検1級配当漢字】

 倩、貽、賺、茗、痒、賚、厥、歇、怡、迪、痾、騙、讌、肆、毫、拊、軾、舅、葆、彷徨

 【今日の配当外漢字】

 瀹、塢、
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上野云々は諧謔でございますので

 >服生文稼、原迪斎

 すいません。このあたりは註釈をかなり端折りました。御興味があれば岩波文庫のP194~195辺りをご覧下さい。

 ・「如亭山人遺稿」巻三に「原迪斎を訪ふ」と題する詩が見られる…云々。

 ・「服生」とあるのは、この年三十歳で如亭よりかなり年少であったため、書生扱いしたのであろう。

 ・竹塢はこの年文政二年初春に、同地の画家築山楽山と共同して増輯した、「如亭・臺嶺創意」という「傍訳標註 芥子園画伝」を出版しており、話題には事欠かなかったのであろう。

 ・竹塢に贈った絶句は、「如亭山人遺稿」巻三には「酔後画を作り服文稼に贈る」と題して収める。

 などの解説も見えます。ご参照してください。

 >森銑三…云々

 さすがですね。森銑三氏の文章を引いて、さらりと如亭の名が見える件を発見されておられる。感謝いたします。参考にさせていただきます。

 もう姑く如亭シリーズの伊賀上野滞在記は続きます。お付き合いくださいませ。

割と近所ですので・・

>「霞浦」(かすみがうら)=伊勢四日市の海岸。

戦後埋め立てられて曩時の姿は全く留めていません。山口誓子の名句「海に出て木枯帰るところなし」で往時を偲ぶしかありません。

>「上野」(うえの)=伊賀上野。くれぐれも東京の上野と混同せぬように。。。。

伊賀上野が先で、東京の上野が後だと思っています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E9%87%8E

ただ、上野市は市町村合併で市名がなくなってしまいました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E9%87%8E%E5%B8%82

如亭は何を喰ったのでしょうか。今は、伊賀肉が美味しいですが、如亭は肉蒲団はともかく、牛肉は食べていないでしょうね。

>原迪斎
>服部竹塢(文稼)

寡聞にして存じませんでした。森銑三によると、「文稼の墓碣銘は齋藤拙堂が書いている。拙堂は、伊賀の文学の起つたのは文稼からだといひ、柏木如亭、浦上春琴等、文芸を以て伊賀に遊ぶ者は、みな文稼を訪うたといっている。」とありました。
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不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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