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河豚と牡蠣 西施と楊貴妃の「乳」対決?=柏木如亭と梅堯臣の乙なコラボ

前回、梅堯臣の「河豚」の猛毒をユーモアたっぷりに詠んだ詩をご紹介しましたが、我が親愛なる柏木如亭のグルメ本「詩本草」にも「河豚」の段があったのを思い出しました。その中に、なんと梅堯臣の詩を踏まえたくだりがあります。弊blogが昨年の初期のころに連載した「詩本草シリーズ」(Category「漢詩・柏木如亭」の欄を参照)では採り上げていませんでしたので、改めて「詩本草」(揖斐高校註、岩波文庫)から引用いたします。

「32 河豚」

河豚、美にして人を殺す。一に西施乳と名づく。又た、猶ほこれ江揺柱の西施舌と名づけ、蠣房の太真乳と名づくるがごとし。皆な佳艶の称なり。関東、賞するに冬月を以てす。余が「雪園の蘿菔、自づから甘美。春洲、荻芽を生ずるを待たず」の句有る所以なり。梁蛻巌先生の集中に七古一篇有り。妙、梅聖兪が五古に減ぜず。周紫芝が「平生欠く所惟だ一死。更に杯中鏌鎁を論ず可けんや」といふに至つては、先づ吾が心を得る者と謂ひつ可し。

この中の「梅聖兪が五古」(五古=五言古詩)が前回紹介した梅堯臣の詩を指しているのです。如亭によると、梁田蛻巌(やなだぜいがん、1672~1757)も河豚のことを「七古」(七言古詩)に詠んでおり、この梅堯臣の詩と遜色なく優れていると言っています。蛻巌の詩文集に「蛻巌集」というのがあるそうですが、揖斐氏の解説によれば「河豚を主題とした七言古詩は見出せない」とあり、「おそらく、秋山玉山(1702~1763)の『玉山先生詩集』巻二に七言古詩(実は五言や十言の句も交えた雑言古詩)として収める『河豚行、戯れに岡士騏に示す』ではなかったかと思われる」とあります。どうやら、蛻巌と玉山は活動時期が重なっており、併称される詩人であったことから、「如亭がうろ覚えで勘違いしたもの」(揖斐氏)のようです。

ちなみに、その玉山の漢詩文の一節というのは、

死を視ること西施の乳よりも甜し
寒冬十月雪は花と作る
虎斑の豚魚味方に美なり
酔ひて西施を将て人腹に葬る


確かに如亭の記述と符合する内容です。

さて、如亭の詩本草に戻りますが「西施乳」とはいかにもエロティックな表現ですな。中国明代の薬学著作である「本草綱目」(巻44・河豚)によると、「時珍曰く、腹下白くして光らず。……彼の人、春月甚しくこれを珍貴とす。尤もその腹のなるを重んじ、呼びて西施乳と為す」とあり、中国の河豚の異称だとの解説が見えます。弊blogでも中国四大美女の一人でもある彼女のことはこれまで何度か採り上げてきました。春秋戦国時代、呉王夫差が越王勾践から献じられた西施の美貌に迷い、身を亡ぼした故事を踏まえている。

梅堯臣の詩にも出てきた「庖煎苟も所を失すれば 喉に入りて鏌鎁と為る」の「鏌鎁」(バクヤ=莫邪)も呉の国の「名剣」です。西施や鏌鎁など呉の故事成語に引っ掛けているのです。如亭の詩本草の終盤に出てくる周紫芝(北宋の官僚詩人)の「平生欠く所惟だ一死。更に杯中鏌鎁を論ず可けんや」もそうで、梅堯臣にせよ、柏木如亭にせよ、お洒落な詩人たちです。

河豚とは話がずれますが、前半部分に出てくる「江揺柱」(コウヨウチュウ)というのは「たいらぎ貝」の漢名のことで、これも西施を捩り「西施舌」との別称があると如亭は言います。そして、続けて「太真乳」(タイシンニュウ)までもが登場します。「太真」は覚えていますか?ヒントは長恨歌ですよ。そうそう、玄宗皇帝の嬖り、楊貴妃のことですね。彼女も中国四大美女の一人です。彼女の乳が「蠣房」、つまり「牡蠣」の異称であるというのです。西施と楊貴妃という絶世の美女の「乳」のバトルですよ。想像してみてください。壮観ですな~。エロいですな~。如亭も「佳艶之称」と表現し、自分で言っておいてその色っぽさに酔い、舞い上がっているかのようです。

如亭の詠んだ詩は「木工集」に収められています。

天下無双西子乳
百銭買ひ得て貧家に入る
雪園の蘿蔔自ら甘美
春洲 荻芽を生ずるを待たず


蘿蔔は「ダイコン」のこと。春の七草にある「スズシロ」は「蘿蔔」と書き、ダイコンのことを指しています。詩本草では「蘿菔」となっています。「当時の河豚のもっとも一般的な料理方法は、味噌仕立ての『ふくと汁』。ここはその汁の実としてダイコンを一緒に入れたのであろう」と揖斐氏が解説しています。

一方、「中国の江南地方では、暮春に水辺に生えるオギの新芽を取り合わせて河豚の羹を調理し、嘗味した」とある。梅堯臣の五言古詩は実は、冒頭の一節に「春洲 荻芽を生ず、春岸 楊花を飛ばす」となっています(前回紹介したのは抜萃です)。如亭の詩は明らかにこれを踏まえています。「日本では河豚の旬が冬で、江南のように春ではないことを、取り合わせの蔬菜の違いで表現した」という。唐詩に傾倒していた如亭ですが、宋代初期の梅堯臣にも一目置いていたようです。

最後まで絮いのですが、梅堯臣の盟友である欧陽脩が「六一詩話」で梅堯臣の詩を取り上げて「河豚常に春暮に出でて水上に群遊す。を食ひて肥ゆ。南人多く荻芽と羹に為す。最も美と云ふ」と紹介していることが揖斐氏の解説に見えます。中国南部地方の名物である河豚。春が旬なんですね。

本日は、河豚を通じた梅堯臣と柏木如亭のコラボレーションでした。漢字問題はなし。。。偶にはいいっしょ。。。ダメ?。。。という声なき声にお応えしましょう。んじゃあ、
本日登場した以下の漢字を読んでください。

●腴(訓)

●絮(訓)

●荻芽(音)





(答え)

=ゆたか。

 豊かに肥えているさま。音読みは「ユ」。膏腴(コウユ=地味が肥えている)。

=わた。

柳の花のわたげ。音読みは「ジョ」。柳絮(リュウジョ=やなぎのわた)、蘆絮(ロジョ=あしのわた)、絮語(ジョゴ=くどくど語る、絮説=ジョセツ=)、絮(ジョコウ=わた、絮綿=ジョメン=)、絮雪(ジョセツ=白雪のように飛ぶ柳の花)、絮煩(ジョハン=くどくどしい、わずらわしい)、絮飛(ジョヒ=白雪のような柳の花が飛んでいるさま)。

=テキガ。

 おぎの芽。荻花(テキカ=おぎの花)、荻洲(テキシュウ=おぎの生えている川のす)、荻浦(テキホ=おぎの生えている水辺)。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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