スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

盛りを過ぎれば「南曲」から「北曲」へお引越し?=柏木如亭「詩本草」

 柏木如亭の「詩本草」シリーズの第16回は、40段「吉原詞」の最終回です。20首にわたり婬靡な世界を華麗に、そして、哀愁を漂わせながら詠んだ詩の世界。艶っぽい言葉も多いですが、当時の江戸時代後期の風俗をうかがわせる内容でもあり、さらに、有益な言葉や漢字も盛り沢山でした。如亭に感謝しましょう。最後は17首から。。。


《40 吉原詞》⑥・最終回

(17) 別後 風光 涙 巾を湿す

    生憎す 燕語 一楼の春

    今朝又た是れ消息無し

    喚取す 橋頭売卜の人


 ■「巾」(キン)=手ぬぐい。今で言うハンカチのこと。

 ■「生憎す」=「あやにく・す」と訓む。ひとえに恨む、とてもいまいましい。盧昭鄰の「長安古意」にも「生憎や帳額に孤鸞を繡りせしは」がありました。

 ■「燕語」(エンゴ)=文字通りは、ツバメの囀りですが、ここは、若い遊女の嬌声・談笑の比喩です。註釈によりますと、これも初唐四傑詩人の一人、駱賓王(ラクヒンノウ)の詩に「生憎す燕子千般の語」がある。

 ■「喚取」(カンシュ)=呼び寄せる。「喚」は「わめ・く」の表外訓みがあり。

 ■「売卜の人」(バイボクのひと)=易者。

 (迂生訳)あなたと別れた後。風が光り涙が流れるばかり。いまいましいのは若い遊女らの陽気なさえずり声よ。気が付けば春真っ盛りだというのに、あの人はまた来ない。思い切って占い師を呼んでいつになったらいらっしゃるのか占わせよう。。

 如亭はん、たまには寄らはったらよろしいがな、焦らさんと。。


(18) 相思寄せんと欲して 恨重重

    永夜 書を裁して涙に封ず

    影暗くして銀 玉虫冷やかなり

    風は伝ふ 浅草寺中の鐘

 ■「書を裁す」(ショをサイす)=手紙を書くこと。この場合の「裁」は、文章をつくることの意で、「裁詩」(サイシ)は「詩をつくること」。

 ■「和に」=「とも・に」と表外訓み。あまり見慣れない。

 ■「銀」(ギンコウ)=燭台。「」は灯心を上下させる金属のくだ、転じて、ひともし、燈火。「残」(ザンコウ)。勿論配当外の漢字です。

 ■「玉虫」(ギョクチュウ)=文字通りは、タマムシのことですが、ここは燭台のともしびが揺らめき、さまざまな色合いを醸しだすさまを比喩的に形容していると見たい。あるいは、燈火に吸い寄せられるタマムシの喩えか。

 (迂生訳)こんなにもあなたを思っていると伝えたいのに、出て来るのは怨み言ばかり。夜更けに手紙を認めてみるが、涙がこぼれて来るのはなぜかしら。蠟燭の明かりはまるで玉虫の羽の色のように揺らめき、風の音と浅草寺の金の音が響くばかり。
 う~む、切ない情景でげすなぁ。遊女が旦那に惚れるということはかくも胸苦しいことなのか、如亭はぁ~ん。

(19) 怨殺す 郎君のだ不情なるを

    今宵招き得て寒盟を

    百般説かんと欲して心還た怯ゆ

    麴神ひて援兵と為さんと要す

 ■「怨殺」(エンサツ)=怨む。この場合の「殺」は「ころす」のではなく、動詞の後に付けて、たまらないほどひどいの意をあらわす接尾辞。「笑殺」(ショウサツ、ひどくおかしがる)、「愁殺」(シュウサツ、心細くてやりきれないようにさせる)。唐代の詩を読んでいると頻繁に登場する用法です。岑参(シンジン)の「胡笳の歌 顔真卿の使いして河隴に赴くを送る」に「愁殺す 楼蘭征戍の道」が見える。

 ■「太だ」は訓み問題=「はなは・だ」。表外訓みです。本番でも狙われること請け合いです。「はなはだ」はこのほかに、「甚だ」「狠だ」「很だ」「已だ」「苦だ」「孔だ」「絶だ」などがあります。このうち、1級配当は「很」「已」。見慣れない訓みですが押さえましょう。「很」(コン)は「もと・る」とも訓み、「羊很狼貪」(ヨウコンロウドン=道理に乖いて貪りなさま)、「很戻」(コンレイ)=「很忤」(コンゴ)=「很愎」(コンプク)は、ひねくれて道理に逆らうこと。

 ■「寒盟」(カンメイ)=約束に背いたり、約束を忘れたりすること。この場合の「寒」は「そむく」、「盟」は「ちかい、約束」。

 ■「数む」=「・む」とルビ。これで「責める」とは難しいですね。漢字源には、「一つ二つとかぞえたてて責める」の意で、「数譲」(スウジョウ)の熟語例が在る。数を数えながら責めるというシーンはやはりエロチック。

 ■「麴神」(キクジン)=酒の神、あるいは酒そのものも指す。「麴」は「こうじ」。酒に限らず、醬油や味噌をつくる際に用いる。コメやムギを蒸して暖かい室(むろ)で黴を生じさせたもの。国字では「糀」。「麴院」(キクイン)、「麴蘖」(キクゲツ)、「麴室」(キクシツ)、「麴車」(キクシャ)、「麴塵」(キクジン)、「麴生」(キクセイ=酒の別名)=「麴君」(キククン)=「麴秀才」(キクシュウサイ)。

 ■「倩ふ」は訓み問題=ルビは「こ・ふ」だが「やと・ふ(やとう)」の方がベターか。「やとう」は「傭う」「雇う」。故事成語の「麻姑を倩ふて痒きを掻く」(マコをやと・ふてかゆ・きをか・く)=「麻姑搔痒」(マコソウヨウ)で用いられる。「倩」(セン)は1級配当でほかに、「つらつら」「むこ」「うつく・しい」の訓読みがあるなかなかの難物漢字です。「倩倩」(センセン)、「倩眄」(センベン)。

 (迂生訳)お怨み申し上げます。つれないあなたを。。。今晩こそは遊びにいらしって薄情なあなたを責めますわ。あれもこれも言いたいのだけれど気持ちは怯んでしまうわ。だから、酒の力を借りて「援軍」とするのよ。。

 最後の句は面白いですな、如亭はん。あんたはんが酒に弱いこと知ってるわ、敵は。。。さぁ、どないしはります、如亭はん。(なぜに京都弁?)

(20) 新たに南曲を辞して循牆に向かふ

    命は雲よりも薄し 真に傷む可し

    正に是れ嫦娥 塵世に落つ

    月宮 此従り清光を減ぜん


 ■「南曲」(ナンキョク)=遊郭。以前、長安の遊廓街のことを「北里」(ホクリ)と称したことは「吉原詞」の序文(ここ)を含め何度か紹介しました。長安城の中央部からやや東、東市のすぐ西隣の平康坊です。そして、東西に伸びる道沿いに、北から「北曲」「中曲」「南曲」という三つの町があり、格式の高い妓女たちはほとんど「中曲」と「南曲」に棲んでいた。「北曲」は下級妓女たちの集まるところ。吉原も同じで、高級太夫が棲む「南曲」から、盛りを過ぎた年増遊女らが営業する河岸を「北曲」に変えるといた習慣もあったようです。それが次の「循牆」です。

 ■「循牆」(ジュンショウ)=道路を避けて牆に沿って行くこと。「循」は「めぐ・る」の意。「牆」は1級配当で「かき」「まがき」「へい」。註釈によると、「吉原には周囲のお歯黒どぶに沿って、西河岸と羅生門河岸という下級の遊女を置く切見世の並ぶ地域があった。ここは、盛りを過ぎた遊女が、吉原の中心にある高級な遊女屋から、周辺の下級の切見世へと勤めを替えることをいうか」とある。これも切ないですね、現代の会社でも中年のリストラ要員が窓際に追いやられるのと似ていなくも無いです。いや、いまや、中年に限らない。壮年層も。。。。

 ■「嫦娥」(ジョウガ、コウガ)=月に棲んだとされる美人の名。註釈によると、「もと弓の名人羿(ゲイ)の妻であったが、羿が西王母(セイオウボ)から貰った不死の薬を、嫦娥が偸み飲んで仙女となって月に奔った」とある。以前、mixi日記で李商隠の「霜月」と「河内詩二首」という詩を採り上げたときに登場しました(IDのある方はここここ)。

 「嫦」は「姮」の異体字。「姮娥」「常娥」「月精」「素娥」ともいう。「羿」は配当外。古代中国の伝説上の弓の名人。帝尭のとき天に十個の太陽があらわれ、人々がその熱に苦しんだ際、羿は、九個の太陽を弓で射落としたという。

 ■「塵世」(ジンセイ)=俗世。けがれた世の中。「塵界」(ジンカイ)、「塵境」(ジンキョウ)、「塵俗」(ジンゾク)、「塵寰」(ジンカン)ともいう。

 ■「月宮」(ゲッキュウ)=月にあるとされた宮殿。広寒宮(コウカンキュウ)ともいう。仙女になった嫦娥が住んだとされる。

 (迂生訳)あちきも年をとりやした。花の盛りは過ぎたれど、これもさだめと諦めて、新たな生活始めます。これではまるで「嫦娥」の逆よ。天から地に降りて放つ光は鈍くなるばかり。。。。

 如亭はん、あわれな年増遊女に声を掛けてあげなはれ、あんたはんのこと待ちすぎたのよん、このままじゃあまりにも可哀相でげすよ。。。

 これで「吉原詞」の20首は終了です。多くの首は客というより遊女の身になって詠じています。吉原に入り浸り、そんな遊女たちの生活を備に見てきた如亭ならではの観察眼。そんな儚い彼女らの生き方は肯定できないが、否定もできない。待ち人の来る来ないを占うことや、年増の遊女が営業エリアを替えなければならないことなど、どれもが吉原という「婬靡な世界」の現実なのですね。哀しいけれど、どこかしら人間そのものを感じないわけにはいきません。江戸時代も現代も何ら変わっていませんね。
 本日は以上です。これで40段の「吉原詞」は終了です。

 【今日の漢検1級配当漢字】

靡、囀、盧、鸞、喩、嬌、倩、痒、岑、笳、隴、戍、很、已、乖、貪、忤、愎、黴、蘖、眄、牆、嫦娥、偸、姮、寰、儚

 【今日の配当外漢字】

、羿
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。