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生一本を貫いて真の「男」になれ=司馬遷「報任少卿書」18・完

中国の名文を味わうシリーズは、司馬遷の「報任少卿書(任少卿に報ずるの書)」(明治書院の新書漢文大系・35「文選<文章篇>」)の18回目、オーラス最終回です。長きにわたり味わい尽くしてきた司馬遷の並々ならぬ大業への決意。そして、それの裏返しである「自虐プレー」もとうとう最後に辿り着きました。あくまで慎み深く、それでいて軸がぶれない姿勢を貫き通す司馬遷の「書面」からは、迂生にとっても今後生きていくうえで最も大切な「よすが」を得た思いがします。

故にア)に俗に従いて浮沈し、時と与に1)フギョウし、以て其の2)キョウワクを通ぜん。今少卿、乃ち教うるに賢をイ)め士を進むるを以てす、乃ち僕の私心と3)ラツビュウする無からんや。今、自ら4)マンジを5)チョウタクし、以て自ら飾らんと欲すと雖も、俗に益する無く、信ぜられず、適だ辱を取るに足るのみ。之を要するに、死するの日にして、然る後是非乃ち定まる。書意を悉くす能わず、略6)コロウを陳ぶ。謹みて再拝す。

1) フギョウ=俯仰。

うつむくこととあおぐこと。孟子に出てくる成句である「俯仰不愧天地(フギョウテンチにはじず)」からきており、「仰いで天に対しても、ふして地に対しても、心にやましいことがないから恥じるところがない、自分の心や行いに少しもやましいところがないこと」。

2) キョウワク=狂惑。

道理が分からなくなること。「狂~」の熟語では、狂客(キョウカク=奇行癖のある人)、狂簡(キョウカン=志は大きいのだが、具体性が伴わないで、ぞんざいなこと)、狂狷(キョウケン=いちずに理想に走って常識にはずれているが、信ずる所を断固として枉げないこと、また、そのような人)、狂言綺語(キョウゲンキゴ=小説などの文)、狂狡(キョウコウ=くるい乱れること、また、その人)、狂恣(キョウシ=かって気ままで、狂気じみた行い)、狂且(キョウショ=狂人)、狂譟(キョウソウ=くるったように騒ぐこと、狂噪、狂躁)、狂佻(キョウチョウ=動作が狂気じみて軽軽しいこと)、狂顛(キョウテン=狂人、狂癲)、狂悖(キョウハイ=本心を失って道理にはずれる、でたらめをする)、狂瀾(キョウラン=荒れ狂う大波、狂濤=キョウトウ=)、廻狂瀾於既倒(キョウランをキトウにめぐらす=すっかり衰えてしまったものを立て直すことのたとえ)。

3) ラツビュウ=剌謬。

くいちがうこと。「剌」は「もとる」とも訓み、「刺」とは別字であることに要注意です。ただ、「撥剌」(ハツラツ)のように「はねる」の意味もありややこしや~。乖剌(カイラツ=物事が食い違ってちぐはぐである)、剌戻(ラツレイ=物事が食い違うこと)。「謬」は「あやまり」「あやまる」。

4) マンジ=曼辞。

美しく飾った言葉。美辞。この「曼」は「ながい」「ひく」とも訓み、「長々と飾ってものをいう、長々と修飾したことばをいう」の意。曼延(マンエン=果てしがない、限りがない、ずるずるのびて広がるさま、曼衍=マンエン=)、曼曼(マンマン=ながくどこまでも続いて、きれないさま)。曼珠沙華(マンジュシャゲ=秋に赤い花が咲くヒガンバナ)もこの字を充てる。「卍」ではないことにだけは留意してください。書き順は要注意ですが…。

5) チョウタク=雕琢。

ほりきざむことと、みがくこと。転じて、文章を立派にすること。彫琢とも書く。「雕」は「きざむ、える」とも訓む。一面に細かい模様をつける、全面にわたってまんべんなくほりつける。雕玉(チョウギョク=)、「わし」とも訓み、雕悍(チョウカン=ワシのように荒々しい)の熟語もある。全般には「彫」と書き換えが可能で、熟語を列挙すると、雕肝(チョウカン=銘記)、雕朽(チョウキュウ=物事の役に立たないたとえ)、雕金(チョウキン=金に模様をほる)、雕虎(チョウコ=虎のこと)、雕巧(チョウコウ=模様・装飾などを巧みにきざみこむこと)、雕飾(チョウショク=ほりきざんで美しく飾ること)、雕青(チョウセイ=いれずみ)、雕塑(チョウソ=彫刻と塑像)、雕像(チョウゾウ=彫刻してつくった像)、雕題(チョウダイ=ひたいにいれずみをする、書物の上部の空欄に施す解釈)、雕篆(チョウテン=文章の字句を細かく飾る、文章の技巧を重視して字句ばかり飾ること、そのような文章、彫虫篆刻=チョウチュウテンコク=)、雕欄(チョウラン=彫刻をほどこした欄干)、雕竜(チョウリュウ=竜の模様を美しく彫刻するように、文章を巧みに飾ること、談天雕竜=ダンテンチョウリョウ、弁舌や文章などが広大で見事なこと、転じて、広大だが実用には適さない無用の議論や行為などのたとえ=)、雕輦(チョウレン=彫刻をほどこした美しいてぐるま)、雕鏤(チョウロウ=金属に模様をきざみちりばめる、彫鐫=チョウセン=、彫鑽=チョウサン=)。

6) コロウ=固陋。

かたくななこと。頑迷固陋(ガンメイコロウ=視野が狭く頑固で柔軟性に欠け、正しい判断ができないこと、冥頑不霊=メイガンフレイ=、墨守成規=ボクシュセイキ=、狷介固陋=ケンカイコロウ=)。「孤陋」(コロウ=世間から孤立していて見聞・視野が狭いこと)とはまた一味異なるので要注意です。「コロウ」は「狐狼、固牢、虎狼、故老、古老、孤老」があります。いずれも簡単ですが同音異義語問題では意外に迷うのではないでしょうか?

ア) 且に=まさ・に。

漢文訓読語法で「まさに~(せ)んとす」と訓み、「今にも~しようとする」「今にも~になりそうだ」と訳す。再読文字。未来の意志・状態を推量する意を表す。「まさに~す」はほかに、「将に、当に、方に」なども同じ再読文字。


イ) 推め=すす・め。

「推める」は「すすめる」。通常は「お・す」と訓むが、「推し進める」から派生した訓み方でしょう。やや特殊です。「スイする」と読んでもいいかもしれません。「推~」の熟語は、推轂(スイコク=人の事業を助ける、人を推薦する)、推挽(スイバン=車を後ろから押し、前から引く、転じて、人を推薦すること)、推遷(スイセン=移り変わること)、推歩(スイホ=天体の動きからおしはかって、暦を作ること)、推敲(スイコウ=詩歌や文章の字句をよくしようとして、何度もつくりなおすこと)。

ですから、世俗とともに浮き沈み、時の流れに従っていい加減な生き方で過ごそうとしているのです。少卿殿、いまあなたは、このようなわたくしに、賢者を推挙して士人を登庸するようにとの御教えでございますが、しかしながら、これはわたくしの本心とは相入れぬことでございます。いま、わたしが美辞をつらねて、自ら飾り立てようとしても、当世には何の利益もなく、信頼を得ることもありません。ただただ恥辱を重ねるばかりでありましょう。結局のところはわたしが死んでから初めて事の是非が定まるのです。書面にては意を尽しきれません。わが僻事を申し上げてまいりました。慎んで再拝致します。

司馬遷が宮刑を受けたのは48歳のとき。その2年後に大赦を受け出獄、中書令に抜擢されました。そして史記の編纂を続け、55歳の時にこの書がしたためられました。翌年56歳でこの世を去ります。死ぬ前まで史記の執筆に当たったそうです。司馬遷の生一本なところは見習いたいものですな。そして、司馬遷に倣って肝腎な物がなくとも、本当の「男」になろうではありませんか!
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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