スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

生来の正義感 李陵の弁護が命取りに=司馬遷「報任少卿書」8

中国の名文を味わうシリーズは、司馬遷の「報任少卿書(任少卿に報ずるの書)」(明治書院の新書漢文大系・35「文選<文章篇>」の8回目です。李陵の匈奴軍投降の報に落胆する帝やその臣下たち。生来の正義感が司馬遷を突き動かします。

僕窃かに自ら其の1)ヒセンを料らず、主上の2)サンソウ3)ダットウなるを見、誠に其の4)カンカンの愚を効さんと欲して、以為えらく、李陵は素士大夫と、甘きを絶ち少なきを分かち、能く人の死力を得ること、古の名将と雖も、過ぐる能わざるなり。身は陥敗すると雖も、彼其の意を観るに、且に其の当を得て、漢に報ぜんと欲す。事已に奈何ともす可き無し。其の5)サイハイする所、功亦以て天下に暴すに足る、と。僕懐に之を陳べんと欲するも、未だ路有らず。適々召問に会し、即ち此の指を以て推し、陵の功を言い、以て主上の意を広め、6)ガイサイの辞を塞がんと欲するも、未だ能く尽く明らかにせず。明主暁らずして、以為えらく、僕の弐師をア)し、李陵の為に遊説す、と。遂に理に下さる。7)ケンケンの忠、終に自ら列する能わず。因りて上をイ)うと為し、卒に8)リギに従う。


 1) ヒセン=卑賤。

  身分が低くいやしい。いずれも「いやしい」。卑鄙(ヒヒ=いなかびて、下品である)、卑陋(ヒロウ=心や身分がいやしいこと)、卑行(ヒコウ=自分より目下の親族、子、孫、おいなど、卑属=ヒゾク=とも)。

 2) サンソウ=惨愴。

  ひどく心を痛ませる、身にしみて辛い。悄愴(ショウソウ)ともいう。「惨」も「愴」も「いたむ」と訓む。「凄愴」(セイソウ=悲しみにひしがれたさま)。

 3) ダットウ=怛悼。

  悲しみいたむ。怛傷(ダッショウ)ともいう。「怛」は「いたむ」「おどろく」とも訓む。「悼」も「いたむ」。怛然(ダツゼン=はらはらするさま、心をいため悲しむさま、怛焉=ダツエン=)、怛怛(ダツダツ=心をいため、はらはらするさま)、惻怛(ソクダツ=同情してはらはらする)。

 4) カンカン=款款。

  心で望む物があるさま。真心のこもったさま。ゆるやかなさま。「款」は「まこと」

 5) サイハイ=摧敗。

  惨敗させること、完膚なきまでに打ち破ること。采配、再拝、儕輩ではないですが、この言葉は辞書にも載っていません。やや難語です。「摧」は「くだく」「くじく」とも訓む。摧朽(サイキュウ=腐った物をくだく、物の破りやすいたとえ、摧枯=サイコ=、摧槁=サイコウ=)、摧挫(サイザ=うちくだく)、摧残(サイザン=くだき、そこなう。破壊すること)、摧辱(サイジョク=はずかしめる)、摧折(サイセツ=うちこわす、相手の勢力をくじいてほろぼす、摧破=サイハ=)、摧蔵(サイゾウ、ゾウをくだく=心を痛める、気持ちがうちひしがれる)、摧頽(サイタイ=こわれてくずおれる、おちぶれる)、摧眉(サイビ、まゆをくだく=がまんしてへりくだることのたとえ)、摧北(サイホク=くじけ負けて逃げる)、摧抑(サイヨク=勢力や計画などを圧迫してくじく)。

 6)ガイサイ=睚眥。

  「睚眥之怨も必ず報ゆ」(史記范雎伝)でお馴染みの「睚眥」。目にかどをたててにらむこと。「睚」は「にらむ」、「眥」は「まなじり」で、「ひとにちょっとにらまれたという程度のうらみ、わずかなうらみのこと」。「睚眥之隙」(ガイサイのゲキ)ともいう。「まなじり」はほかに「眦」。

 7) ケンケン=拳拳。

  体を丸くかがめて慎むさま。よく熱心に勤めるさま。拳足(ケンソク=足を曲げる)、拳攣(ケンレン=心にまといついて離れないさま、恋い慕うさま、眷恋とも)、拳拳服膺(ケンケンフクヨウ=常に心に銘記して決して忘れないこと)。

 8) リギ=吏議。

  役人の相談。官吏が事をはかること。裁判官が法律によって罪を定めること。

 ア) 沮し=ショ・し。

  「沮す」は「ショす」。邪魔されて気持ちが腐ること。沮喪(ソソウ=、沮廃(ソハイ=勢いがなくなること)。沮沢(ソタク=湿気の多い土地)、沮色(ソショク=不賛成で気の進まない顔つき)、沮泄(ソセツ=もれる)、意気沮喪(イキソソウ=がっかりして元気を失う、意気阻喪)。

 イ) 誣う=し・う。

  「誣いる」は「しいる」。そういう事実がないものをあるように言い立てて、人をそしる。また、人のいうことを蔑ろにする。事実を曲げてこじつける、罪のない者を故意に罰する。音読みは「フ、ブ、ム」。誣陥(フカン=人を悪く言って無実の罪に落す)、誣言(フゲン=ないことをあるかのように偽っていいふらす、誣説=フセツ=)、誣構(フコウ=罪のない人を、罪のあるように偽ってしたてる、こじつけて仕組む)、誣告(ブコク、フコク=むりにこじつけて偽って告げる、無実の人を陥れようとして告訴する、誣人=ブジン、ひとをブす=)、誣奏(フソウ=ないことをあるように偽って申し上げる)、誣服(フフク=無実の罪に落され、仕方なく刑罰を受ける)、誣謗(フボウ=ないことをあるように偽って悪口をいう、誣詆=フテイ=)、誣罔(フモウ=ないことをあるように偽っていう、誣妄=フモウ=)。


司馬遷が帝に具申しようと、心の中でまとめた意見はこうです。

「李陵は素士大夫と、甘きを絶ち少なきを分かち、能く人の死力を得ること、古の名将と雖も、過ぐる能わざるなり。身は陥敗すると雖も、彼其の意を観るに、且に其の当を得て、漢に報ぜんと欲す。事已に奈何ともす可き無し。其の摧敗する所、功亦以て天下に暴すに足る」(李陵は元来、部下に対しても自分独りだけがうまい汁を吸うことをせず、乏しい物を彼らと分かち合うという態度で臨み、だからこそ部下も李陵の為に死力を尽すことができたのです。それは過去のいかなる名立たる名将たちよりもすぐれていたのです。最終的に今、敵の手に囚われの身になったとはいえ、彼の心中を察すれば、自分の敗戦の責任をつぐなうだけの働きをして、漢王朝の恩に報いようとしたことは確かでしょう。事態は窮り如何ともしがたいですが、何度も匈奴軍を撃破した彼の功績はやはり天下に知らしめる必要があると思われます)

司馬遷はこの意見を必ずしも帝に奏したわけではないようです。その真意を伝えきることなく、帝の怒りに触れ投獄されてしまいます。どうやら、司馬遷は、文章をものするのはお上手でも弁舌は苦手だったようですね。プレゼンテーション能力に劣ったのでしょうか。帝の心を動かすことはできなかった。剰え不幸なことに司馬遷は帝に偽りの妄言を具申したものとして裁判にかけられることとなってしまったのです。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。