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「虧形」の恨み骨髄に入る「掃除の隷」=司馬遷「報任少卿書」4

中国の名文を味わうシリーズは、司馬遷の「報任少卿書(任少卿に報ずるの書)」(明治書院の新書漢文大系・35「文選<文章篇>」の4回目です。宦人である自分自身を貶み、世を儚んでいる司馬遷。帝のそばに傅いて20年余り経つというのに何一つ成就したものがない。そして、「嗟乎、嗟呼、僕の如きは尚お何をか言わんや」と繰り返すばかりなのです。

僕、先人の1)ショギョウに頼り、罪を2)レンコクの下に待つを得ること、二十余年なり。所以に自ら惟う、之を上にしては忠を納れ信を効し、奇策才力の誉れ有りて自ら明主に結ぶ能わず、之を次にしては又拾遺3)ホケツし、招賢進能し、4)ガンケツの士を顕らかにする能わず。之を外にしては、又行伍を備え、城を攻め野に戦い、将を斬り旗をア)るの功有る能わず、之を下にしては日を積み労を累ね、尊官厚禄を取り、以て宗族交遊のイ)光寵を為す能わず。四者一も遂ぐる無し、5)コウゴウ取容して、短長する所の効を見る可きこと此くの如し。嚮者、僕ウ)て下大夫の列にエ)わり、外廷の末議に6)バイするも、此の時を以て7)イコウを引き、思慮を尽さず。今虧形を以て掃除の隷と為り、闒茸(トウジョウ=軽薄で卑しい人)の中に在り、乃ち首を仰げ眉を伸べ、是非を8)ロンレツせんと欲す。亦朝廷を軽んじ当世の士を羞じしめずや。嗟乎、嗟呼、僕の如きは尚お何をか言わんや。尚お何をか言わんや。

 1) ショギョウ=緒業。

  やりかけた事業。ここでは先人、つまり父祖の代から受け継がれている大事業である「史記」の編纂のことを指している。

 2) レンコク=輦轂。

  「輦轂下」(レンコクのもと)が成句で「天子が載る車のそば、転じて、首都のこと」。「輦」は「てぐるま」、「轂」は「こしき」でいずれも天子の車を指す。輦下(レンカ)、轂下(コッカ)ともいう。肩摩轂撃(ケンマコクゲキ=町が賑やかで人や車の往来が激しい様子を形容する言葉)、班女辞輦(ハンジョジレン)もお忘れなく。

 3) ホケツ=補闕。

  物事の欠点を正すこと。天子の過ちをいさめること。「ケツをおぎなう」とも読む。「闕」は「かける」とも訓む。

 4) ガンケツ=巌穴。

  「巌穴之士」が成句で「俗世間から離れて、山の中のいわあなに住む人」の意。「巌」は「いわお」「けわしい」とも訓む。巌居(ガンキョ=俗世間を離れて隠居すること、巌処=ガンショ=、巌栖=ガンセイ=、巌棲=ガンセイ=)、巌窟(ガンクツ=いわあな、巌岫=ガンシュウ=、巌穴=ガンケツ=)、巌牆之下(ガンショウのもと=高い塀のそば、危険な場所の喩え)、巌阻(ガンソ=けわしい要害の地)、巌巒(ガンラン=けわしい山)、巌稜(ガンリョウ=いかついいわかど、巌角=ガンカク=)。

 5) コウゴウ=苟合。

  無責任に他人にへつらい迎合すること。どうにか当座だけ集まること。「苟」は「かりそめ」「いやしくも」とも訓む。苟容(コウヨウ=無責任に迎合して、人の気に入るようにふるまうこと)、苟免(コウメン=一時凌ぎに誤魔化して罪・困難を免れようとすること)、苟生(コウセイ=いいかげんな態度で生き長らえる、苟活=コウカツ=)、苟偸(コウトウ=一時凌ぎの安楽をむさぼる)→苟且偸安(コウショトウアン=物事をなおざりにして一時の安楽をむさぼること)の略。

 6) バイする=陪する。

  そばに並んでおともする。常用漢字ですが、前後の文脈からこの漢字が浮かぶかどうかを試してみました。意外に書けないのでは?「そう」「そえる」という「表外訓みがあるので要注意。陪弐(バイジ=つきそいの人)、陪乗(バイジョウ=身分の高い人につきそって、その車に同乗すること)、陪隷(バイレイ=しもべ、従僕)。


 7) イコウ=維綱。

  大つなでつなぐこと、天地日月を秩序づけること、転じて、きまり、大綱。「維」は「つなぐ」とも訓む。維斗(イト=北斗七星の別名)という変わり種も。

 8) ロンレツ=論列。

  列挙して事物のよしあしを論ずる。

 ア) 搴る=と・る。

  上に持ち上げてぬきとる、旗などをぬきとる、高く上に持ち上げる。通常は「ぬく」「かかげる」の訓みが一般的か。音読みは「ケン」。搴裳(ケンショウ=すそをからげる、蹇裳とも)。

 イ) 光寵=コウチョウ。

  天子の覚えがめでたいこと。辞書には掲載がないですが寵光(チョウコウ)ならあり、「恵みの光、君主の恩徳のこと」。是非とも覚えたい言葉です。「寵」は「かわいがられること、お気に入りの人」の意。

 ウ) 常て=かつ・て。

  漸特殊な表外訓みですが、漢文訓読語法として「~したことがある」と訳す。ここの経験の意を示す。

 エ) 廁わり=まじ・わり。

  「廁まる」は「まじわる」。間にはさまる。割り込んでそばにひっつく。音読みは「ソク・シ」。「かわや」の訓みもある。雑廁(ザッソク、ザッシ=いろいろなものがいりまじる)、廁牀(シショウ=便所、廁溷=シコン=)。



「虧形を以て掃除の隷と為り、闒茸の中に在り」という自虐的な極みである表現が出てきます。「虧形」とは宮刑に遭い肝腎な睾丸が欠けたさまをいう。これでもか、これでもかと自分を貶め続ける司馬遷。「恨み骨髄に入る」とはこのことでしょうか。しかし、その恨みの由来を聴けば理解できる部分は多々あります。そのことはもう少し後のくだりで…。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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