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新たな旅路は故郷も捨て去る覚悟が必要=屈原「離騒経」18

中国の名文・美文を噛み締めるシリーズは、憂国の大詩人、屈原の「離騒経」(明治書院「新書漢文大系35 文選<文章篇>」)の18回目です。「天へと昇りはじめるものの、ふと下の故郷が目に入る。従者は悲しみ、馬も故郷を恋い、前に進まない」という第十三段の後半です。

蛟竜を1)サシマネいて津にア)かけしめ、西皇(=西方の神の名)にイ)げて予を渉さしむ。

路は脩遠にして以てウ)み多く、衆車を騰(は)せて径に待たしむ。

不周に路して以て左転し、西海を指して以て期と為す。

余が車を屯むこと其れ千乗なり、玉軑(ギョクタイ=美しい車輪)を斉えて並び馳す。

八竜の婉婉たるに駕して、雲旗の委移たるを載つ。

志を抑えて節を弭め、神高く馳せて之れ邈邈(バクバク=はるかなさま)たり。

九歌を奏して韶を舞い、聊か日を仮りて以て婾楽(ユラク=遊び楽しむ)す。

皇の2)カクギたるに3)チョクショウし、忽ち夫の旧郷を4)リンゲイす。

僕夫悲しみ余が馬懐い、5)ケンキョクとして顧みて行かず。


1)サシマネいて=麾いて。「麾く」は、手の先を曲げて人を呼んだり、さしずしたりする。「さしずばた」の訓もある。音読みは「キ」。麾鉞(キエツ=さしず用の旗とまさかり、ともに大将が用いる)、麾下(キカ=大将に直接さしずされる部下、将軍直属の兵士)、麾召(キショウ=まねき寄せる、呼び寄せる、麾招=キショウ=)、麾扇(キセン=軍を指図する扇、軍配うちわ、軍扇)、麾幢(キトウ=軍をさしずするのに使う旗、麾旌=キセイ=、麾節=キセツ=)。

2)カクギ=赫戯。光り輝くさま、勢いが盛んなさま。赫曦、赫羲とも書く。「赫」は「あかい」「あきらか」「かがよう」とも訓む。赫奕(カクエキ=光り輝くさま、物事が盛んで美しいさまに喩える)、赫赫(カクカク、カッカク=功績が著しいさま)、赫赫之光(カクカクのひかり=激しく輝くひかり、盛んな威勢や名声に喩える)、赫喧(カクケン=人格や威儀が堂々としていてりっぱなさま)、赫灼(カクシャク=あかあかと光り輝くさま)、赫然(カクゼン=かっと怒るさま)、赫咤(カクタ=かっと激しく怒る、赫怒=カクド=)、赫烈(カクレツ=激しく輝くさま、また、非常に盛んなさま)。

3)チョクショウ=陟陞。高い所にのぼる。陟升とも。「陟」は「のぼる」「すすむ」。黜陟(チュッチョク=官位を下げることと、上げること)、陟罰(官位を上げて賞めることと、官位を落として罰すること)、陟方(チョクホウ=天子が四方視察の旅にのぼる)、陟降(チョッコウ=のぼることと、くだること、天にのぼったり、地上に下ったりすること)。

4)リンゲイ=臨睨。高い所に立って見下ろすこと。天子がその場でにらむこと。「睨」は「にらむ」のほか、「ねめる」の和訓もあります。睥睨(ヘイゲイ=横目でにらむ、城壁のくぼみから敵情を覗き見ること)。

5)ケンキョク=蜷局。虫がからだを屈曲させながら動くさま。蜷曲とも。「とぐろ」との宛字訓みもある。「蜷」は「にな」とも訓む。

ア)梁=はし。左右の両岸に支柱を立て、その上に懸けた木のはし。橋梁(キョウリョウ)。もちろん、「はり」「うつばり」「やな」の訓みもお忘れなく。鼻梁(ビリョウ=鼻筋)、梁材(リョウザイ=立派な人材)、梁山泊(リョウザンパク=水滸伝の舞台、広く豪桀・野心家の聚まる所)、梁上君子(リョウジョウのクンシ=泥棒)、梁津(リョウシン=渡し場、津梁とも)、梁塵(リョウジン=梁の上の塵、歌い方が優れているたとえ)、梁木壊(リョウボクやぶる=梁の木が折れる、転じて、賢人の死ぬこと)。

イ)詔げて=つ・げて。「詔げる」は「つげる」。上位者が下位者につげる。表外訓み。

ウ)艱み=なや・み。漸特殊な訓み。通常は「艱しむ」(くるしむ)、「艱い」(かたい)。やりにくい状態、つらさ、なんぎ。音読みは「カン」。艱易(カンイ=むずかしいことと、やさいいこと)、艱患(カンカン=困難と災い、艱禍=カンカ=)、艱急(カンキュウ=苦しみ行き詰まること)、艱窘(カンキン=なんぎ、飢饉の年)、艱苦(カンク=艱難と辛苦、なやみ苦しむこと、艱困=カンコン=、艱辛=カンシン=)、艱虞(カング=なんぎと心配事)、艱嶮(カンケン=地形の険しい所、艱険とも)、艱渋(カンジュウ=詩文などがむずかしくて理解しにくいこと)、艱阻(カンソ、カンショ=人生や、山道がけわしいこと)、艱貞(カンテイ=なんぎに耐え、節を守って屈服しないこと)、艱難(カンナン=なんぎ、つらいめ)。


(解釈)蛟竜をさしまねいてその渡し場に橋をかけさせ、西方の神少皥に告げてわたしを向こう岸に渡らせた。路は長く遠くして苦難も多いので、多くの供車を馳せて近道を先に行かせて待たせる。そして、不周山へと道をとって左に巡り、西海のほとりを指さしてそこで会おうと約束した。群がり集まったわたしの従車は千乗、みな美しい車輪を揃えて並び馳せる。わたしはうねり進む八頭の竜に車を曳かせ、棚引く雲の旗を推し立てて進む。はやる気持ちを抑えて、車の速度を控えてゆるやかに行くが、わたしの精神ははるかに遠く馳せかける。禹王の「九歌」の楽を奏して、舜帝の「九韶」の楽曲を舞って、しばらく日を送り、遊び楽しんだ。やがてまばゆく輝く中を登っていくと、ゆくりなくもかの懐かしき故郷が眼下に眺めやれた。従者たちは嘆き悲しみ、わが馬は恋い懐かしんで、ともに足も立ちすくみ、振り返って前には進まなかった。

「蛟竜を麾いて津に梁かけしめ、西皇に詔げて予を渉さしむ」「八竜の婉婉たるに駕して、雲旗の委移たるを載つ」――。かなり大仰な門出のシーン。ナルシスト屈原らしい描写が続きます。禹王の「九歌」、舜帝の「九韶」を登場させて古代の理想郷に思いを馳せます。曾て仕えた主君を見限る新たな旅立ちにはふさわしい。しかし、故郷が眼下に見えた瞬間、屈原の気持ちが揺らぐ場面も描いている。過去との決別とはすべてを断ち切ることなのです。自分にとって必要のない物だけではないのです。必要な物とも関係を切ることはそう簡単なことではない。今後屈原が歩む人生が途轍もなく険しいことを暗示させています。愈次回、「離騒経」の最終回です。
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Author:char
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2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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