スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

新たな旅路へ鼓舞する水面のナルシス=屈原「離騒経」16

中国の名文・美文を噛み締めるシリーズは、憂国の大詩人、屈原の「離騒経」(明治書院「新書漢文大系35 文選<文章篇>」)の16回目です。「善が悪に変わりやすいということに気づき、遠くへ行こうと決意する」という第十二段の後半です。曾て仕えた君主の「偽善性」を見抜いて、却ってこちらの方から見切りをつけようとする屈原。自分以上に他人に厳しい「性癖」が、自らを新天地への旅立ちに向けて鼓舞するのです。高潔の士は一つのところに拘ることはできない。


椒は専ら1)ネイにして以て慢慆(マントウ=だらしなく気まま)たり、「木+殺」(サツ=茱萸)は又夫の佩幃(ハイイ=おびた匂い袋)を充たさんと欲す。

既に進むをア)めて入れられんことを務むれば、又何の芳をか之れ能くイ)しまん。

固より時俗の流れに従う、又孰か能く変化すること無からん。

椒蘭を覧るに其れウ)茲の若し、又況んや掲車と江離とをや。

惟だ茲の佩の貴ぶ可き、厥の美を委てて茲に歴る。

芳菲菲として虧け難く、2)フンは今に至るも猶お未だ沫(や)まず。

度を和らげ調えて以て自ら娯しみ、聊か浮游して女を求めん。

余が飾りの方に壮んなるに及んで、周流して上下を観ん。

1)ネイ=佞。人当たりはいいが口先だけであるさま。おもねるさま。佞猾(ネイカツ=口先が上手く悪賢い)、佞姦(ネイカン=口先が上手く心が拗けていること、佞奸)、佞給(ネイキュウ=口先が上手くへつらう)、佞言(ネイゲン=こびへつらうことば、おせじ)、佞巧(ネイコウ=口先が上手く、人にへつらうこと)、佞倖(ネイコウ=こびへつらって主君に気に入られる者、佞幸)、佞才(ネイサイ=口先が上手くて人にへつらう才能)、佞臣(ネイシン=口先が上手い心の拗けた家来、姦臣)、佞人(ネイジン=口先が上手くて人にへつらう、心の拗けた人、佞者=ネイシャ=)、佞媚(ネイビ=こびへつらう、そのような人)、佞弁(ネイベン=うまく調子を合わせて相手の気に入るようにいうこと)、佞諛(ネイユ=こびへつらう)、不佞(フネイ=自分を遜る言葉)。

2)フン=芬。かおり、よい評判、名声。芬芬(フンプン=ぷんぷんとよいかおりが立ち上るさま、芬郁=フンイク=、芬馥=フンプク=)、芬芳(フンポウ=よいかおり、りっぱな名声、また、それがある人、芬馨=フンケイ=)、芬烈(フンレツ=強い香り、立派な手柄)、芬華(フンカ=はなやかな美しさ)、芬香(フンコウ=よいかおり)、芬菲(フンピ=草花のかんばしい香り)。

ア)干めて=もと・めて。「干める」は「もとめる」。表外訓み。無理して手に入れようとすること。干禄(カンロク、ロクをもとむ=俸禄をもとめる、仕官を望む、天が与える幸福をもとめる)。

イ)祗しまん=つつ・しまん。「祗しむ」は「つつしむ」。音読みは「シ」。「うやまう」の訓もあり。祗畏(シイ=つつしんで敬い、おそれる)、祗役(シエキ=つつしんで君主の命令にしたがう)、祗候(シコウ=身分の高い人のそばに仕える)、祗粛(シシュク=ひたすらにつつしみ敬う、祗敬=シケイ=)、祗服(シフク=目上の人につつしみ従う、うやうやしく従う)。天神地祇(テンジンチギ)の「祇」とは別字であることに要注意。ただし、こちらにも「シ」「ただ」の読みがあり混同しやすいのは確か。祇園(ギオン)。

ウ)茲の若し=かく・のごと・し。このようである。身近な指し言葉。「如茲」を訓読した読み方です。「茲」の音読みは「シ、ジ」。今茲(コンジ=今年)。

(解釈)山椒は口上手に人の機嫌をとってだらしなく怠け、茱萸は香りもないのに佩び香袋を自分で満たそうと願っている。すでに出世を志して、君に用いられようと努めているのであるから、いまさら芳しい香気も何もあったものではない。もとより今の世の習わしは、流れる水のように流れ移っていって、誰であろうとも変化しないではいられない。あの香り高い山椒や蘭でさえもこの有様であるから、まして掲車や江離などの雑草は言うまでもない。ただわたしの佩び物はまことに貴いものであるのに、その美しさ打ち捨てられ、このようなことになった。しかし、その香気は盛んに立ち籠めて尽きること無く、芳しさは今になってもまだ消え失せてはいない。自分の心を和らげ調えて自ら慰めたのしみ、しばらくさまよい巡って、あこがれの美女を探し求めよう。わたしの佩び飾りが盛んに匂ううちに、あまねく巡って天上地下をよく見て回ろうぞ。

ナルシスト屈原は讒言で自分を陥れた連中を山椒や茱萸に譬えています。それに引き換えて自分の高貴さは誰にも負けない。こんなに辛い目に遭っているというのにその芳りときたら永遠なるかのように尽きることがない。さぁ、これからが本当の自分の人生である。美女、美女、美女…本当の美女を探しに旅に出よう。この匂いに誘われて私についてきてくれる美女よ、現れておくれ…。嗚呼、水面に映ったナルシス…。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

profile

char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

calendar
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
recent entry
recent comment
category
monthly archive
search form
RSS links
links
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。