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南方に配流されカブトガニと友達に…=韓愈「仏骨を論ずる表」1

NHKラジオ第2放送で毎週土曜日夜8時半から9時まで「漢詩をよむ~漢詩の来た道(唐代後期)」という番組をやっています。残念ながら3月いっぱいで終わります。迂生は聞いてはいませんがテキストだけは買って読んでいます。李白、杜甫、白居易ら超有名な人も扱えば、銭起、杜光庭ら聞いたことのないマイナー詩人も取り上げており、読み物としても十分に面白いです。その中で弊blogの名文シリーズの「圬者王承福伝」と「師の説」で取り上げた中唐の韓愈(768~824)も題材となっています。講師である宇野直人氏(共立大学国際学部教授)が「信念と硬骨の人」と称しています。元和14年(819)に左遷された先の潮州(いまの広東省潮州市)で、海産物ばかりを取り上げて詠じたユニークな詩があります。NHKカルチャーラジオ「漢詩をよむ」のテキスト(P108~111)から引用します。

「初南食貽元十八協律」(初めて南食し 元十八協律に貽る)=五言古詩

ア)鱟実 恵文の如し

骨眼 相負うて行く

蠔(ゴウ=牡蠣) 相粘して山と為り

百十 各々自ら生く

蒲魚 尾は蛇の如し

口眼 相営まず

蛤(=ガマガエル)は即ち是れイ)蝦蟆

実は同じうするも ウ)りに名を異にす

章挙(ショウキョ=タコ) 馬甲柱(タイラギ)

闘つて 怪を以て自ら呈す

其の余 数十種

嘆驚す可からざるは莫し

我 来つて1)チミを禦ぐ

自ら宜しくエ)南烹を味わふべし

調ふるに2)カンと酸とを以てし

芼(と)る(=和える)に3)ショウと4)トウとを以てす

オ)腥臊 始めて発越し

5)ソドンすれば面は汗騂(カンセイ=汗が出て顔が赤らむ)す

唯 蛇のみ 旧 識る所

実に憚る 口眼の6)ドウなるを

籠を開いて其の去るに聴す

7)ウックツして尚ほ平らかならず

カ)を売るは我が罪に非ず

8)ホフらざれば 豈 非情ならん

霊珠の報いを祈らず

幸ひに9)ケンエン キ)すこと無からんことを

聊か歌うて以て之を記し

又 以て同行に告ぐ


1)チミ=魑魅。化け物。

2)カン=鹹。塩味。次の「酸」が酸味。

3)ショウ=椒。山椒のこと。

4)トウ=橙。だいだい(柑橘類)。

5)ソドン=咀呑。咀嚼して呑みこむ。

6)ドウ=獰。獰猛であるさま。性質が荒っぽくたけだけしい。

7)ウックツ=鬱屈。とぐろを巻くこと。

8)ホフらざれば=屠らざれば

9)ケンエン=嫌怨。嫌悪の情と恨みの情。

ア)鱟実=コウジツ。「鱟」は「かぶとがに」。文中の「恵文」は「恵文冠」。戦国時代・趙の恵文王が考案した武官の冠で、蟬の羽のような飾りと貂の尾をつけた。「貂蟬」ともいう。ちなみに「鱟」の音読みは「コウ」(漢検漢字辞典では「ゴウ」となっているが…?)

イ)蝦蟆=ガマ

ウ)浪りに=みだ・りに。やたらに。

エ)南烹=ナンポウ。南方地方の料理。

オ)腥臊=セイソウ。なまぐさいこと。

カ)爾=なんじ

キ)幷す=あわ・す。重ね合わせること。

いかがですか?面白い詩でしょう。中国地図で確認しますと、韓愈が流された潮州は東都の洛陽からみるとちょうど南方のはるか先に位置しています。気候は亜熱帯に属し、海の幸の宝庫。韓愈にとって睹る物、食べる物すべてが瞠目の連続だったのでしょうね。ややお茶らけながら「擬人化」している描写はくすりと笑えます。とても左遷された官僚の落胆ぶりが見えない諧謔ぶり。いや、流されたからこそ諧謔ないとやってられなかったのかもしれませんね。

最後の長安でもお馴染みだった蛇を罠にかけてしまい、売り捌いたシーンは何ともユーモラス。「ご免ね。蜷局なんか巻いちゃって。怖いったらないなぁ。いいじゃん。売ったのは悪かったけど殺さなかったんだからさ許してよ。真珠を作れなんて言わないからさ」―。南海の珍品の中で唯一蛇だけは昔からよく見ていたものだというのです。カブトガニ、カキ、蒲魚、タコ、タイラ貝…その他数十種の海の幸に目を丸くする韓愈の姿が髣髴としますね。。。

と、ここで終わらないのがこの「髭鬚髯散人之廬」のマニアなところですわ。実は韓愈がこの潮州に流された原因となった上奏文があるのです。彼はいわば「舌禍事件」を引き起こしました。その文章を名文シリーズで玩わおうという趣向です。それが、時の皇帝、憲宗に奉った「仏骨を論ずる表」。例によって明治書院の新書漢文大系シリーズ「30 唐宋八大家読本韓愈」から引用いたします。本日は冒頭の一説だけ。

臣某言う、伏してア)う仏は1)イテキの一法のみ。後漢の時より流れて中国に入る。上古未だ嘗て有らざるなり。

1)イテキ=夷狄。外国人を軽蔑した言い方。ここでは中国周辺異民族の総称。漢族に対して言う侮蔑表現です。夷蛮戎狄(イバンジュウテキ)。

ア)以う=おも・う。表外訓み。「以為らく」=おもえらく。

当時の中国では仏教が流行していました。身分制度を否定し、誰もかれもを極楽浄土に誘う仏教。真っ向から対抗する儒学を信奉する韓愈は仏教を毛嫌いしていました。皇帝があまりにも「異国の宗教」にご執心であるさまに我慢がならず怒りの具申となったわけです。仏教に頼る政治は堕落だ。日頃から「師の道」を説く韓愈だけに、インド如きの教えにわが卓越したる漢民族の国土が瀆されてなるもんかいと啖呵を切るのです。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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