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唐氏の次は駅卒の女も失いし放翁の「恕」=露伴「幽夢」6・完

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」)で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの6回目、最終回です。陸游の“失恋話”は最初の妻と無理矢理別れさせられただけではなかった。召使と謂うか、いまでいう愛人でしょうか、家に囲っていた女と別れさせられます。それも焼き餅に燃えた二番目の正妻によってです。露伴はそんな陸游の人生を「福の薄き」と称しています。ですが、そんな悲しみも肥やしにして出色の詩の数々を残すのですから、才ある人は羨ましい限りですな。


★放翁の年二十の頃、既に唐氏を得しや否やは知らねど、詩藁巻十九に、余が年二十の時、嘗つて菊枕の詩を作り、1)スコブる人に伝はりぬ、今秋たまたま復菊を采りて、2)チンノウを縫はしむ、3)セイゼンとして感あり、と題して詩二章あり。曰く、

 黄花を采り得て チンノウを作る、
 曲屛 深幌 幽香を閟む。
 喚回す 四十三年の夢、
 灯暗うして人無し 断腸を説くに。
     又
 少日曾て題しぬ 菊枕の詩、
 4)トヘン残藁 蛛糸に鎖さる。
 人間万事 消磨し尽す、
 只有り 清香の旧時に似たる。

 疇昔の菊花枕、唐氏の5)センシュに裁縫せられしにはあらずやとをかし。(「幽夢」P275~276)

1)スコブる=

2)チンノウ=枕嚢

3)セイゼン=凄然

4)トヘン=蠹編

5)センシュ=繊手

★放翁の福の薄きは此のみならず。其の後蜀に入るに当りて、ある駅に宿りけるに、と見れば駅館の壁に詩を題せるあり。筆づかひ正にしく女にして、詩もまた悪からず。

 玉の堦のもとの6)コオロギは 清しき夜にア)ぎ、
 金の井のほとりの梧桐は 故りし枝を辞る。
 一枕凄じく凉しくして 眠得ず、
 灯を呼びて起ちて作る 秋を感ふ詩を。

とあり。いかなる人のすさびかと之を問ひたゞすに、身は軽き駅卒の女なりけり。美しかりしや否かは知らず、其才を愛でゝなるべし。放翁はこれを納れて妾として召使ひぬ。(「幽夢」P276)

6)コオロギ=蟋蟀

ア)鬧ぎ=さわ・ぎ

★されど郎月雲を招き、好事魔を惹きて、唐氏の後の夫人7)シットいと強く、半歳ばかりにして之を逐ひ出しぬ。詞綜巻の二十五に載す。妾逐はるゝに当り、生査子の調の詞を賦して別れぬと。詞に曰く、

 只知る 眉に愁の上るを、
 識らず 愁の来る路を。
 窓の外に 芭蕉あり、
 陣々たり 8)タソガレの雨。
 暁に起きて 残妝をイ)め、
 整へウ)へて 愁をして去らしむ。
 合に春の山を画くべからざり、
 旧に依りて 愁を留めてエ)むれば。    (「幽夢」P276~277)

7)シット=嫉妬

8)タソガレ=黄昏

イ)理め=おさ・め

ウ)頓へて=ととの・へて

エ)住むれば=とど・むれば


★芭蕉の夕の雨の音の悲しきに、愁は眉の上に来りて、理妝すれど眉を画けば、春山青きあたり愁の雲のまたオ)まる、思ある女の旦暮の情景、浮き出でゝ見ゆ。前には唐氏を失ひ、後には此女を失へる、放翁はまことに9)エンプク無き人なりけり。
放翁の語曰く、一言もつて身を終るまで之を行ふ可きものは其れ恕なる乎、此は聖門一字の銘なりと。恕とは今の邦語に謂うふところの「おもひやり」なり。一字銘の語、下し得て妙、おもふに放翁深く恕字に於て悟れるところあるなるべし。(「幽夢」P277~278)

9)エンプク=艶福

オ)逗まる=とど・まる
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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