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左官職人の一見、仁者・仙人?の如き生活ぶり=韓愈「圬者王承福伝」・1

中国名文の真髄を囓んで玩わうシリーズの次のターゲットは中唐詩檀の雄・韓愈(768~824)。25歳で科挙の進士科に合格した、いわゆる官僚詩人の一人に数えあげられます。有名な「唐宋八大家」の一人でもあります。あくまで迂生の個人的な印象ですが、詩人としては同時期の白居易ほどの才能が感じられない代わりに、散文作家としては柳宗元(唐宋八大家の一人)と共に白眉たる宮廷文人の存在感を発揮した人ではないか。そして、儒学を信奉し孔子に傾倒して後進の育成につとめた“教育者”、“啓蒙家”でもあった。孟郊、賈島、李賀、王建ら数多くの文人がその門下から輩出しました。これも勝手な印象ですが、世に残っている韓愈の文章は聊か理屈っぽく、手前味噌の内容も多い。しかし、さすがは「唐宋八大家」に名を連らねるだけあってその切れ味は最高。ずばずばと切り込んでいく、その論理と自信たっぷりの筆勢には圧倒されないわけにはいきません。

そこで彼のどの文章を紹介しようか迷いました。諸葛亮の「前出師の表」、李密の「陳情の表」と並び、「中国の三絶文」を形成する「十二郎を祭る文」を扱おうかとも思ったのですが、これも御涙頂戴の名文でして李密と聊か被る嫌いがある(後日の懸案にしましょう)。また、有名な「原道」や「師説」も重々しくていいなとも思ったのですが、少し毛色の変わった「圬者王承福伝」(オシャオウショウフクデン)という軽いタッチの面白い文章に出会うことができました。

例によって明治書院発行の「新書漢文大系」シリーズから、「30・唐宋八大家文読本<韓愈>」をテキストに使用いたします。話は逸れますが、このシリーズは迂生のような中国古典に疎い素人向けの入門書としてはお手頃。ちょっと齧ってみるには最適です。普通の書肆ではなかなか入手できにくいですが、ネット書店(Amazonなど)でなら簡単に注文できますので、「論語」は勿論、「史記」や「蒙求」などいろいろな作品の読みどころを目にすることができます。ただし、あくまで抜粋です。

完全読破を目指すならば上位の「新釈漢文大系」(全116巻+別巻)シリーズにアクセスしなければなりませんが、唯一最大のネックは値段。「新書」ならば一律1050円(税込、これもヴォリュームの割には高価と言えますが)に対して「新釈」は1冊当たり1万円近くもしてしまいます(渾て揃えると優に100万円を超える)。あの「淮南子」(全3巻)もいつか読んでみたいのですが奈何せん高過ぎます。。。

大学生なら図書館に行けば、立派な蔵書はあるでしょうが、社会人がもっと気軽にアクセスできるといいですな。さらに望むならば、我々のような市井の学習者にとってテキストたる中国古典にもっと安易に触れることができる環境ができれば嬉しい。ネット上に公開もしくは安価な料金でアクセスできる。過去には多くを出版している岩波書店にはその復刻をお願いしたいところ。安価な文庫本で新たに刊行されれば猶いいのですが、高邁なる精神を一方で持ちながら、明らかに量を捌くことのできない物に手を出すほど各出版社も経営に余裕はないでしょうからね。。。。

おっと、閑話休題。タイトルは、左官職人の「王承福」さんの伝記。「圬」(オ)は左官の道具として“マストアイテム”である「こて」。「圬者」というのは所謂「左官」のこと。「圬人」とも言います。一般には低い身分の者が為す仕事とされますが、王さんがどうして左官職人になったのかを耳にした韓愈が、その経緯をまとめ、自分の身に置きかえるとともに、「成る程」と思う部分と「否そうであってはいけない」と思う部分に焦点を当てて、世間に対して鋭く真理を映し出す「鑑」として述べています。現代社会でこそ十分通用する「国家観」とも言えるもののヒントが散りばめられており、鳩山首相に送り奉って、政権運営の理念に連ねてほしいと思いました。恐らく4~5回シリーズで。

【1】
圬(オ)の技為る、賤しくして且つ労する者なり。之を業とする有り。其の色自得する者の如く、其の言を聴くに、約にして尽くせり。之を問うに、王は其の姓、承福は其の名なり。世々京兆長安の農夫為り。天宝の乱に、人を発して兵と為す。弓矢を持すること十三年、官勲有れども、之を棄てて来り帰り、其の土田を喪い、ア)を手にして衣食すること、三十年に余る。市の主人に舎して、其の屋食の当を帰す。時の屋食の1)キセンを視て、其の圬の2)ヨウを上下して以て之を償い、余り有れば則ち道路の3)ハイシツ餓者に与う。

1)「キセン」=貴賤。ここでは、値段の高いことと安いことを言う。賤斂貴発(センレンキハツ=物価が安い時に買い入れて、物価が騰貴した時に安く売り出す物価安定策のこと)。一般には、身分の高いことと低いこと。貧富貴賤(ヒンプキセン=貧しい者と富める者、身分の貴い者と賤しい者)。「賤」は「いやしい」「ひくい」。

2)「ヨウ」=傭。人をやとうこと、また、やとい賃。「傭」は「やとう」「やとい」とも訓む。傭書(ヨウショ=やとわれて文章の書き写しをする)、傭人(ヨウジン=やとわれて使われる人、傭夫=ヨウフ=、傭客=ヨウカク=、傭奴=ヨウド=、傭僕=ヨウボク=)、傭保(ヨウホ=やとわれる、やとわれた人)、傭力(ヨウリョク=人にやとわれて働く)。

3)「ハイシツ」=癈疾、廃疾。体に障害のあること。「廃」は「からだがだめになる」。廃残(ハイザン=すたれ、そこなわれる)。

ア)「鏝」=こて。粘土をのばして壁を塗る道具。音読みは「マン、バン」。泥鏝(デイマン)。「圬」と同義です。鐺とも書く。剣道の防具は「籠手」。

まずは、寡黙な左官職人である「王承福」なる人物が左官になった経緯、そしてその生活ぶりが本人の口を通して語られ、韓愈がそれを書き留めている形式を採っている。いわば取材ですね。文中にある「天宝の乱」というのは、白居易の長恨歌でもお馴染みの「安禄山の乱(安史の乱)」(755~763年)のことです。王は元々首都長安の近郊で農夫をしていましたが、乱の平定軍にお上から駆り出されて13年、手柄を立てて帰郷したものの土地田畑は既に自分の物ではなくなっていた。

その後、左官になって30年が過ぎているのですが、住まいは市場の宿に泊まり、部屋代と食事代を支払う毎日。次が面白いのですが、家賃や食費が高くなったり安くなったりするのに応じて、自分の左官の手間代金を上げ下げしていたというのです。物価の上下に応じて労働賃金単価が変わるという、まさに現代の経済学をそのまま実行していた。

それで、さらに面白いのが、生活費を差し引いて余った分は路上の不具者や饑えている恵まれない人に寄付していたという。これも、まるでホームレスや年越し派遣村で過ごす人、生活保護者に御恵みを与える「福祉」を実践していたと言えるでしょう。自分の稼いだ金は分相応でいいので余分な金は持たずに他人に使ってもらう。確かに聖人君子、仁者のような見上げた根性というか、恬淡として物にこだわらない仙人のようでもあります。しかし、何かおかしいぞ。裏があるのではないか?韓愈は素朴な疑問を抱くのです。
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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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