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官途から逃げ回る本当の理由は?=李密「陳情の表」2

中国の名文を囓んで玩わうシリーズは、李密の「陳情の表」(明治書院「新書漢文大系8・古文真宝」)の2回目です。父母とも別れ孤独な幼少青年期を送った李密が唯一、慕ったのが祖母の劉氏でした。四十半ばにして漸く仕官の途も開かれようとしていたのですが、祖母が病に伏せっており、辞退せざるを得ない事情を切々と訴えています。

【2】
聖朝を奉じ、清化に沐浴するにア)び、前には太守の臣逵、臣を1)コウレンに察し、後には刺史の臣栄、臣を秀才に挙ぐ。臣はイ)供養主無きを以て、辞して命に赴かず。詔書特に下り、臣を郎中に拝す。ウ)いで国恩をエ)り、臣を洗馬に除す。猥りに2)ビセンを以て、東宮に侍するに当たる。臣首をオ)とすも能く上報する所に非ず。臣カ)に表を以て聞し、辞して職に就かず。詔書3)セッシュンにして、臣の4)ホマンを責む。郡県は逼迫して、臣に上道を催し、州司は門に臨んで、5)セイカよりも急なり。臣詔を奉じて6)ホンチせんと欲すれば、則ち劉の病日に篤く、苟くも私情に順わんと欲すれば、則ち告訴を許されず。臣の進退、実に7)ロウバイを為す。

1)「コウレン」=孝廉。官吏任用科目の一つ。前漢、武帝の時代から設けられた。郡や諸侯王国の長官からその地方の孝行で清廉潔白な人物を推薦させ、官吏に登用したもの。明・清代には挙人(科挙第一次試験合格者)の別名ともなった。次に出てくる「秀才」と並んで、当時の官僚登用科目の名称でした。明治書院によると(P210)、「前漢以降六朝までは試験によらず、有能な人材を推薦によって採用する制度が続いていた。孝廉と秀才の二科があった」。Wikipediaによると、「孝廉により推挙された人物は中央に派遣された後、直ちに官職に就かず、まずは郎署に配置され郎官となった。これは宮廷宿衛を担当することで朝廷の実務を実地体験しながら学習することを目的としていた」。「察す」「挙ぐ」「除す」はいずれも「官職に任命する」という意味の動詞です。「推挙」「察挙」「除官」のほか、平安時代の官職任命儀式である「除目」(ジモク)というのもありますね。

2)「ビセン」=微賤。身分や地位が取るに足りないほど低いこと。また、その人。卑賤も同義。「賤」は「いやしい」。賤斂貴発(センレンキハツ=品物をやすく仕入れて高く売る、商売の基本です)。

3)「セッシュン」=切峻。きわめてきびしい。書けますか?

4)「ホマン」=逋慢。受けた命令を怠って果たさないこと。「逋」は「にげる」。逋客(ホカク=世を遁れた人、隠者)、逋欠(ホケン=税をおさめる義務をのがれること)、逋債(ホサイ=まだ払っていない税金や借金、逋責=ホサイ=)、逋竄(ホザン=罪を逃れようと目立たないところに隠れる)、逋租(ホソ=まだ納めていない租税、逋負=ホフ=、逋税=ホゼイ=、逋脱=ホダツ=)、逋徒(ホト=国から逃げ出した者)、逋逃(ホトウ=罪をおかして逃亡する、逋逸=ホイツ=)、逋負(ホフ=租税や負債を払えない)、逋亡(ホボウ=税や借金が支払えないで逃げる、罪を逃れ去る)。

5)「セイカ」=星火。流れ星の光。転じて、物事の急なことに譬える。簡単な漢字なんですが、浮かぶかどうか?後ろにある「~よりも急なり」がヒントでしょうか。成果、声価、砌下、臍下、菁華、西瓜、静嘉、生家、盛夏、製靴なんていうライヴァルを押しのけて、星火を浮かべなければなりません。

6)「ホンチ」=奔馳。馬に乗って勢いよくはしり駆ける。「奔」は「はしる」と表外訓みがあります。馳駆(チク=他人の世話をするために忙しく活動すること)、馳騁(チテイ=馬を走らせる、人を思うままに支配する)。

7)「ロウバイ」=狼狽。うろたえあわてること。狼貝とも書く。これは書けますね。語源を見ますと、狼(オオカミ)は後ろの二足が短く、狽(伝説上の獣)は前の二足が短く、両者は一組になって歩行するが、離れると倒れてあわててうろたえるということから。

ア)「逮び」=およ・び。「逮ぶ」は「およぶ」。表外訓みです。そこまで届くこと。逮夜(タイヤ=夜になる)。

イ)「供養」=キョウヨウ。飲食物の世話をし、親を養うこと。「クヨウ」ではないので要注意。「クヨウ」は仏教用語です。

ウ)「尋いで」=つ・いで。接続語。それに引き続いて、まもなく。表外訓み。

エ)「蒙り」=こうむ・り。「蒙る」は「こうむる」。被る、ある事を身に受ける。音読みは「モウ」で「くらい」「おおう」「おろか」の訓みもあります。蒙垢(モウコウ=身に覚えのない恥をかかされる)、蒙塵(モウジン=天子が戦乱で都から逃げ出すこと)、蒙被(モウヒ=恩恵や災難をこうむる)。

オ)「隕とす」=お・とす。失う、台無しにする。「首を隕とす」(こうべをおとす)で、「死ぬこと」、隕首(インシュ)ともいう。音読みは「イン」で「うしなう」「おちる」とも訓む。隕越(インエツ=深く願い過ぎて常識を失う)、隕穫(インカク=収穫を台無しにする、殞穫)、隕石(インセキ=隕星)、隕絶(インゼツ=地に落ちて絶える、人が死ぬこと)、隕墜(インツイ=ぼろぼろと落ちる、隕落=インラク=)、隕涕(インテイ=泣いて涙を流すこと、隕泗=インシ=、隕涙=インルイ=)、隕命(インメイ=死ぬこと、隕身=インシン=、隕零=インレイ=)。

カ)「具に」=つぶさ・に。具体的に、こまごまと。表外訓み。具言(グゲン=詳述する)、具申(グシン=こまごまと上位者に申し述べる)、具陳(グチン=ことこまかに申し述べる)、具論(グロン=十分に論じ尽くすこと)。

「郎中」は宮中で皇帝に近侍する官、「太子洗馬」は皇太子の侍従官です。出世コースの第一歩と言っていいでしょう。しかし、李密は上奏文に事情を書き記し辞退しました。それでも、再び詔書が届き、ぐずぐずとしている李密を責めました。ところが、祖母の病は一向に回復する兆しはなく、日増しに容態が悪化します。お上からの督促も急を増し、彼の進退は窮ってしまいます。

しかし、こんな大チャンスを棒に振ろうという李密の本音はどうだったのでしょうか?意地の悪い言い方ですが、その心中を邪推したくなりますね。祖母への愛情は分かるが、看病、介護は他の人もできるのではないか。自分しかいないというのはある意味横暴なのではないか。96歳ですよ。天寿を全うとは言わないが、もういいではないか。誰かほかの人に任せて御国のため宮中に仕えるのは裏切り行為でしょうかね。確かに公私は分けなければいけないかもしれません。しかし、逆に事情を話せば何とか面倒をみる手筈も整えてくれようというものではないでしょうか。祖母の病気を言い訳に使って逃げている嫌いが見えなくはないです。最後のチャンスなんです。「陳情の表」を上って逃げている場合ではない。純粋な気持ちなのだと反論されるかもしれませんが、敢えて問題提起しておきます。

李密の真の思惑は別にあるのではないか。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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