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強固な絆は「草廬三顧」が原点=「前出師の表」3

中国の名文を噛んで噛んで玩わうシリーズは、諸葛亮の「前出師の表」(明治書院「新書漢文大系9 文章規範」から)3回目です。この「表」の“ヤマ場”と言っていいでしょう。亡き先帝劉備と自分との切っても切れない関係の由来を滔滔と述べます。

【7】
侍中・尚書・長史・参軍は、此れ悉く貞亮にして節に死するの臣なり。願わくは陛下之に親しみ、之を信ぜよ。則ち漢室の隆んならんこと、日をア)えて待つ可きなり。

ア)「計え」=かぞ・え。「計える」は「かぞえる」。表外訓みですが、これは縦令知らなかったとしても前後の文脈からも訓めるでしょうね。このセンスを磨きたいですね。「かぞえる」はほかに、「数える、算える」。これらも何となく訓めますよね。

「漢室」とあるのは、蜀国こそが漢代の後継と自任していたからです。魏を倒して漢の国を再興するのは蜀である。それが実現するその日まで指折り数えて待ちましょうというのです。諸葛亮はここでも家臣の登用を推挙している。すなわち、「尚書」はもと宮中の文書係であったが、次第に重い任を持つようになり、大臣クラスの職になりました。ここでは陳震を指す。震は「侍中」職を兼務していたが、劉備の死後、尚書令に任ぜられました。「長史」は宰相の下に置かれ、役人の監督にあたる。ここは張裔のこと。「参軍」は軍務にかかわる職で、将琬(ショウエン)を指す。「貞亮」(テイリョウ)とは「節操がかたくて、心の明るいこと」。


【8】
臣は本1)フイ、躬ら南陽に耕す。苟くも性命を乱世に全うせんとし、2)ブンタツを諸侯に求めず。先帝臣が3)ヒヒなるを以てせず、イ)りに自ら4)オウクツして、三たび臣を5)ソウロの中に顧み、臣に諮るに当世の事を以てす。是に由り感激して、遂に先帝に許すに6)クチを以てす。

1)「フイ」=布衣。無位無冠の一般庶民。これまでも何度も登場。「ホイ」と読めば、日本の官位の一つ(六位以下の官吏)。付倚、巫医、怖畏、黼依、黼帷、不意などの同音異義語を整理しましょう。

2)「ブンタツ」=聞達。有名になり出世すること。「名聞栄達」(メイブンエイタツ)の略。

3)「ヒヒ」=卑鄙。いなかびて下品であるさま。「卑」も「鄙」も「いやしい」。「鄙」は「ひな」とも訓む。卑近・鄙近(ヒキン=いやしくて俗っぽい)、鄙見(ヒケン=つまらない考え、鄙懐=ヒカイ=)、鄙言(ヒゲン=俗っぽくいやらしい言葉)、卑賤・鄙賤(ヒセン=心や身分が卑しい)、鄙倍(ヒバイ=心が卑しくて道理に負くこと)、鄙朴・鄙樸(ヒボク=いなかじみて粗野である)、鄙吝(ヒリン=心がいやしく度量が狭い)、卑陋・鄙陋(ヒロウ=卑しくて見聞が狭い)、鄙穢(ヒワイ=ことばや文章がいやしくて下品である)。

4)「オウクツ」=枉屈。尊い身分の人がへりくだってわざわざ来訪すること。「枉」は「まげる」という意のほか、「むじつのつみ」とも訓む。枉駕来臨(オウガライリン=人の来訪を敬う言い方)=枉車オウシャ、枉顧(オウコ=人の来訪を敬う言い方)、枉死(オウシ=非業の死)、枉訴(オウソ=無実の罪で人を訴える)、枉道(オウドウ=正しい道を曲げる、回り路をする)、枉撓(オウドウ=法律を曲げて人を罪に陥れる、枉橈)、枉法徇私(オウホウジュンシ=規則を曲げて私利私欲に走ること)。

5)「ソウロ」=草廬。くさでできた粗末ないおり。「廬」は「いおり」。弊blogも「粗末ないおり」です。草露だと「物事の儚いこと」ですのでお間違えないように。ま、有名な「草廬三顧」(ソウロサンコ)のシーンですから間違うわけないですが念のため…。

6)「クチ」=駆馳。はせまわって人のためにつくすこと。「駆」も「馳」も「はせる」。馳駆(チク)ともいう。駆儺(クダ=おにやらい、追儺)、駆騁(クテイ=馬をあちこち走らせる)、「馳檄」(チゲキ=檄文を馬を飛ばして回す)、馳驟(チシュウ=馬をはやがけさせる)、馳騁(チテイ=人を彼方此方やって使役する、思うままに支配すること)、馳弁(チベン=弁舌を揮う)、馳逐(チチク=競馬)、馳思(チシ=思いをはせること)。

イ)「猥りに」=みだ・りに。原則を押し曲げて、普通ならそんなことをしないのにわざわざ。「猥」は「みだら」「みだれる」「みだりがましい」「みだりがわしい」とも訓む。音読みは「ワイ」。猥褻(ワイセツ=エロ、猥多(ワイタ=ごたごた)、猥談(ワイダン=エロ話)、猥賤(ワイセン=卑しくて下品)、鄙猥・卑猥(ヒワイ=エロ)。「みだりに」はほかに、「叨に、妄りに、濫りに、乱りに、浪りに、漫りに、胡りに」がある。

諸葛亮と劉備の邂逅を回想するシーンに突入する。これ以降のくだりが本「表」の見せ場、泣かし所となります。二人の間柄を語る際に忘れることのできない故事である「草廬三顧」。別名は「三顧の礼」。「礼を尽くして賢人を招き入れて仕事を依頼すること、目上の人がある人物を信任して手厚く迎えることのたとえ」(成語林)という意味。用例=鳩山政権は国民が三顧の礼をもって迎えたというわけでは必ずしもなかった。

孔明はたびたび劉備の訪問を受けたが、その都度拒んできた。いわば「求愛」。いけません、いけませんわ、お殿様。あなたさまとはあまりにも身分が違いすぎます。お許しくださいませ~。劉備はあきらめない。こうと決めた相手は是が非でも手に入れないと済まない。三度目の訪問。劉備の熱意は最高潮に達する。「当世の事を以て」―。今我々蜀国は何を為すべきかのぅ?男冥利に尽きる本望を感じた孔明は、帝の「求愛」を受け入れる覚悟を決めます。この人なら…信頼できますわ。決して裏切らないし、わたくしを信用もしていただける…。「益州、荊州をもって蜀の領土となさいまし。そして、彼の憎々しい魏・呉と鼎足する象(かたち)をお取りなさいませ~」と進言します。彼の有名な「天下三分の計」を開陳した瞬間でした。

二人の強固な関係が結ばれました。信頼関係を構築するには、小さなことから大きなことまであらゆる問題で人が腹を割ることが大事だということを教えてくれます。ネットを介してあたかも濃密ながら擬似的な、安易な関係が横行する現代社会に対して、ある意味で危険だと警鐘を鳴らしてくれるかのようです。「衷情」をどう表すか。上っ面の安易な言葉ではない。礼を尽くす。すべてをさらけ出す。礼儀の上ですべてを分かりあえる関係を築きたいものですな。


【9】
後に7)ケイフクにウ)値い、任を敗軍の際に受け、命を危難の間に奉ず。爾来二十有一年なり。先帝臣が謹慎なるを知る。故に崩ずるに臨んで、臣に寄するに大事を以てせり。命を受けてより以来、8)シュクヤ9)ユウタンし、付託の効あらず、以て先帝の明を傷つけんことを恐る。故に五月瀘(ロ)を渡り、深く不毛に入る。

7)「ケイフク」=傾覆。傾きくつがえる、国が滅亡すること。圭復、京福、敬服、慶福ではない。

8)「シュクヤ」=夙夜。朝早くから夜遅くまで。「夙」は「つとに」「はやい」とも訓む。夙怨(シュクエン=以前から持っていた怨み)、夙懐(シュクカイ=昔の思い出、早くからあった志)、夙悟(シュクゴ=幼少のころから賢いこと、夙慧=シュクケイ=、夙敏=シュクビン=)、夙興夜寐(シュクコウヤビ=朝早く起き、夜は遅く寝る、日夜政務に励むこと)、夙儒(シュクジュ=深い学問のある年老いた学者、宿儒)、夙心(シュクシン=夙志、以前からの志)、夙成(シュクセイ=早くに完成する、早熟)、夙昔(シュクセキ=ずっと以前)、夙賊(シュクゾク=昔からの悪人)、夙茂(シュクボウ=幼少からすぐれた才能を持っていること、「茂」は草木がよく茂ることで、才能のすぐれていることのたとえ)、夙齢(シュレクレイ=若い年齢、少年時代のこと)。

9)「ユウタン」=憂歎。思い悩んで嘆息すること。憂嘆でも正解。

ウ)「値う」=あ・う。「遭う」の意。表外訓みです。慣れないと難しい。

「傾覆」というのは、建安13年に劉備が長阪で魏の曹操の攻撃を受けて大敗した「長阪橋の戦い」を指しています。この敗戦はしかしながら、次の「赤壁之戦」につながる。孔明は劉備の命を受けて呉に向かい、孫権と同盟を結び、呉と蜀の連合軍が魏の大軍を打ち破りました。「レッド・クリフ」。まだ観ていませんが、この「三顧の礼」を踏まえて観ると面白いかなぁ。

「大事」とあるのは、天下統一による漢王室の再興をいう。「三国志」蜀志諸葛亮伝によりますと、劉備はその臨終に際して、孔明にこう語ったとあります。

「君が才は曹丕に十倍す。必ずや能く国を安んじ、終に大事を定めん。若し嗣子輔く可くんば之を輔けよ。如し其れ不才ならば、君自ら取る可し」

実の子供である劉禅が凡庸なる器であると思ったら、君が王位に就いて事業を進めてくれと「禅譲」を示唆したのです。この“破格”の申し入れに対して、帝への忠誠を誓う孔明。いかに二代目が「不才」であったとしても、「臣、敢えて股肱の力を竭くし、忠貞の節を效(いた)し、之に継ぐに死を以てせん」。逆に、劉禅を補佐して守り抜こう。帝のご遺志を忘れずに漢王朝の復興を是非とも実現して報いることこそわが使命である―。そう心に刻み込んだことでしょう。御涙頂戴の浪花節。日本人の琴線にこそ触れるシーンかもしれませんね。

「ぼん、あっしにお任せくだせぇ~」。

いよいよ次回はラスト。諸葛亮の名文を締めくくります。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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