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「殷鑒不遠」後漢の末期は哀れなり=「前出師の表」2

中国の名文を噛み締めて玩わうシリーズは、三国時代の蜀の宰相、諸葛亮(諸葛孔明)の「前出師の表」(明治書院「新書漢文大系9 文章規範」から)の2回目です。実は「出師の表」は二回行われていて、「後出師の表」というのもあるという説があります。「出師の表」を出してから1年後の建興6年(228)、諸葛亮は再び「表」を具申します。「三国志」の本文に記述がないため「後世の偽作説」もあるのですが、北伐(魏を討つこと)に対する批判の声をいちいち反論して、一早い出兵を訴える内容となっています。通常、「出師の表」と言えば「前」を指す。弊blogでは「文章規範」を出典としているため、「前」の付いたタイトルをそのまま採用しております。

諸葛亮は自分が出兵した暁、朝廷の体制はこうするべきだと人物の具体名を挙げて述べています。

【4】
侍中・侍郎郭攸之(カクユウシ)・費褘(ヒイ)・董允(トウイン)等は、此れ皆良実にして、志慮忠純なり。是を以て先帝1)カンバツして以て陛下に遺せり。愚ア)以為らく、宮中の事は、事大小と無く、悉く以て之にイ)り、然る後に施行せば、必ず能く2)ケツロウを3)ヒホし、広益する所有らんと。

1)「カンバツ」=簡抜。選び出す、すぐれた者を多くの中から選び出して用いること。簡擢(カンタク・カンテキ)、揀抜(カンバツ)ともいう。「簡」は「えらぶ」の意。このままで表外訓みもあるので要注意です。熟語では簡練(カンレン=選び出し鍛える)、簡閲(カンエツ=選び出し善し悪しをより分ける)、簡擢(カンタク=選び出す)=簡選(カンセン)。

2)「ケツロウ」=闕漏。欠漏でも正解。意味は、手落ち、欠けて不足している部分。「闕」は「かける」とも訓む。闕文(ケツブン=あるべき字が抜けている文章)、闕失(ケッシツ=過ち)、闕如(ケツジョ=欠けて不完全なさま=闕然・闕焉)、闕殆(ケッタイ=危険・不安に思うことをやらないで取り除いておくこと)、闕本(ケッポン=そろっている巻数の一部が抜けていて完全でない書物、端本=ハホン=ともいう)。

3)「ヒホ」=裨補。物事の欠点などをたすけおぎなうこと。「裨」は「たすける」「おぎなう」とも訓むので押さえて。小さい当て布で補うイメージ。裨益(ヒエキ=おぎない、役立つこと。助けとなること)、裨海(ヒカイ=小さい海)、裨助(ヒジョ=輔佐、飛絮は楊の目の花が飛ぶ様)、裨将(ヒショウ=副将、裨王=ヒオウ=)、裨販(ヒハン=小商人、仲買の商人)。

ア)「以為らく」=おもえ・らく。漢文訓読用法。「思うに、考えるに」と訳す。「以」「以謂」も同様でいずれも重要。読むのは勿論、書けるようにもしておきたい。「以て~と為す」と返り読んでもいい。

イ)「咨り」=はか・り。「咨る」は「はかる」。意見を並べ出して相談すること。この意味の「はかる」はほかに、「諮る、詢る、諏る」。音読みは「シ」。咨議(シギ=相談し意見を求める)、咨稟(シヒン=相談の結果、その意見を申し上げる)、咨問(シモン=上の者が下の者に公の問題について意見を求め相談する、咨詢=シジュン=、咨諏=シシュ=、咨謀=シボウ=)。いずれも常用漢字の「諮」と置き換えが可能です。「咨」にはほかに、感歎詞の「ああ」の意味もあり、咨嗟(シサ=舌打ちして感動する、咨嘆、咨歎)、咨咨(シシ=嘆息するさま)、咨美(シビ=深く感銘してほめたてること)、瞻望咨嗟(センボウシサ)は必須四字熟語。

「侍中」は漢代の侍従職で、天子のそば近く仕える役目を担っていました。「侍郎」は黄門侍郎の略称で、天子の謁見を管理する職。「郭攸之」は荊州南陽の人ですがやや印象は薄い。これに対し、「費褘」は湖北省江夏の人で、蜀に仕えて侍中となり、孔明の死後は後任の軍師に就き、尚書令を兼ねて蜀の中心人物になりました。また、「董允」は湖北省枝江の人で、黄門侍郎から、のちに侍中となりさらに尚書令に昇進。費褘と俱に蜀の名臣と謳われました。あとの2人は「三国志」蜀志に伝があります。諸葛亮によると、3人とも、「良実」=素直で真心があり、「志慮忠純」=志は純粋であるとして、「欠けた点や漏れた所を補ってご政道を拡大して、陛下のお役に立つことがありましょう」と評しています。んでも、単に亮のお気に入りの嬖臣を推奨申しあげているだけのことではないのかぁ?


【5】
将軍向寵(ショウチョウ)は、性行淑均にして、軍事に4)ギョウチョウす。昔日に試用せられ、先帝之を称して能と曰えり。是を以て衆議寵を挙げて以て督と為す。愚以為えらく、営中の事は、悉く以て之に諮らば、必ず能く行陣をして5)ワボクし、優劣所を得しめんと。

4)「ギョウチョウ」=暁暢。物事や道理によく通じていること。「暁」は「さとる」「さとす」の表外訓みがあります。暁達、暁通ともいう。暁喩(ギョウユ=よくわかるようにさとす、暁譬=ギョウヒ=)、暁寤(ギョウゴ=はやおき)。「暢」は「のびる」「のべる」「のびやか」とも訓む。暢達(チョウタツ=文章が流暢で行き届いている)、暢叙(チョウジョ=思い切り述べる)。

5)「ワボク」=和穆。おだやかである、仲むつまじく、調和すること。和睦でも正解か。ただし、仲直りするという意味ではなく、仲が良い状態ですので微妙なニュアンスを言うには「和穆」がベターか。この場合の「穆」は「おだやかでつつしみぶかい」の意。穆清(ボクセイ=天子の美徳で教化がおだやかに行われていること)、穆穆(ボクボク=おだやかで美しいさま)。

「向寵」は湖北省襄陽の人。牙門将(将軍の一つ)に任ぜられ、中部督に昇進して、陛下の安全を守る近衛の軍を指揮しました。これもお気に入りかぁ?しかし、いずれも先帝の「お墨付き」を挙げているので、劉禅帝も言うことに従わないわけにはいかないでしょうね。でも、これって諸葛亮以外に聞いた人はいないのでしょうね。よくある「今際の遺言」。紙に残っているわけではないから、ごく限られたものだけがどうとでもできるっちゃあ、できる。ねぇ、亮さんよ~。「行陣」とは「軍の部隊」のこと。ただし、この「表」の底辺に一貫している思想は「適材適所」。最後のくだりも、「向寵ならば部隊を一つにまとめて、すぐれた者もおとった者もそれぞれにあった部署に配属する」というのです。


【6】
堅臣に親しみ、小人を遠ざくるは、此れ先漢の興隆せる所以なり。小人に親しみ、堅臣を遠ざくるは、此れ後漢の6)ケイタイせる所以なり。先帝ウ)しし時、エ)に臣と此の事を論じ、未だ嘗て桓・霊に嘆息痛恨せずんばあらざるなり。

6)「ケイタイ」=傾頽。かたむきくずれる、勢力が衰える。携帯、形態、継体、敬体ではないので注意しましょう。「頽」は「くずれる、くずれおる」とも訓む。頽年(タイネン=心身ともに衰えてくる年齢、頽齢とも)、頽弛(タイシ=掟などがゆるみすたれる)、頽思(タイシ=意気消沈)、頽陽(タイヨウ=夕日、落日、入り日、類義語・対義語問題に利用できそう)、頽唐(タイトウ=道徳・気風が乱れる)、頽堕委靡(タイダイビ)は必須四字熟語。

ウ)「在し」=いま・し、ましま・し。「在す」は「います」「まします」。いらっしゃる、「いる」「ある」の尊敬語。表外訓みです。「坐す」も同じ。

エ)「毎に」=つね・に。いつも。表外訓み。「つねに」はほかに、「庸に、尋に、彝に、雅に」もあるので訓めるようにだけはしておきましょう。

「先漢」は、高祖から平帝に至る12代215年の前漢を指す。その興隆期にはいわゆる名臣が続々と現れて、大帝国を建設したが、最終的には大臣の王莽に天下を奪われました。一方、「後漢」は光武帝から献帝に至る12代195年。その末期は宦官や豪族が跋扈して帝室は無力と化し、ついに魏に滅ぼされました。

諸葛亮と先帝劉備の議論は、「前漢では興隆期、後漢では末期現象を取り上げたものであって、前漢が必ずしも賢人を近づけ、後漢がいつも小人を近づけていたというものではない」(新書漢文大系9、P180)とあり、それぞれの両極端な時を比喩的に用いています。「桓・霊」というのは後漢の10、11代目の天子。宦官が勢力を持ち、後漢帝室の統制力が急激に衰えて行ったころの天子です。要するに、「殷鑒不遠」(インカンとおからず)の格言通り、われら蜀の手本、反面教師とすべきは、直前まで長く続いた前漢と後漢のいい点や悪い点にあると言いたいのでしょう。小人ばかりが蔓延った後漢の末期はあまりにも惨めだったと…。

「ぼん、おやじの心配は分かってくだせぇ~」。

本日は以上です。「出師の表」は淡淡と進んでいますが、盛り上がるのは次のくだりから。いよいよ「蔗境」に入っていきます。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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