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汗牛充棟、載籍浩瀚、さて「ゴシャ之書」は?=漢詩学習

柏木如亭の「如亭山人遺藁」(岩波文庫刊行)シリーズから、本日は「雑興」の六首をご紹介します。東海道を旅して箱根を越えていよいよ江戸にたどり着きました。品川宿は色街ですが、なぜかしらなじめない自分がいることにふとさみしい気持ちになっている如亭です。

今宵の暖は昨宵に較ぶれば多し
直に華胥に入りて豈に他を顧みんや
1)イッカク知らず 天已に曙け
世間の2)ビウ 窓を打ちて過ぐるを

帰り去らんと欲すれば去り 来らんと欲すれば来る
久しく途中に在るも哀しむに足らず
即ち3)コウホウの登るべき者有るも
未だ曾て当てて望郷台と作さず

一束の4)ザンショ 5)ゴシャに当つ
久しく6)エンリュウの処 且く家と為す
断えて喜びの7)カンシンに報じて到る無し
笑ひて謝す 夜燈の頻りに花を結ぶを

8)チョウキン 半夜 霜を知らず
燈火 油を添へて客床を照らす
覚えず 睡魔の我を拖きて去るを
手中 書堕ちて渠が郷に入る

東海の路程 今日尽く
9)キジンの頭上 髪将に皤ならんとす
八年識らず 品川駅
楼上の靚粧 旧に依つて多し

10)ネツドウ偏へに驚く 旧時に異なるを
人の是れ玉山の頽れざるは無し
11)カンジョウ 怪しむこと莫かれ 身心の冷なるを
新たに箱関雪裏を過ぎ来る



1)「イッカク」

=一覚。一たび眠りから目覚めること。一角、一廓、一画、一鶴ではない。

2)「ビウ」

=微雨。しとしとと降る雨。小糠雨。「眉宇」だと眉近辺の意になる。ここは比喩的に、第二句の「華胥」(夢の世界)と対比させた現実の人間の世界に降る冷たい雨のこと。

3)「コウホウ」

=高峰。高く聳える山々。「登る」のですから、これしかない。簡単だと思いますが、広報、後方、哮咆、弘報、宏放、黄袍、工法、航法、公報などの同音異義語と区別しなければなりません。

4)「ザンショ」

=残書。手元にある読み止しの本。残暑でないことは以前も取り上げました。「残」は「まだ残っている、残り少ない」という意味。

5)「ゴシャ」

=五車。書物を多く読み、博学であることをいう。「荘子・天下」に「恵施多方、其書五車」(恵施は多芸多才で蔵書も多かった)という戦国時代・魏の宰相で論理学派の首謀者だった恵施(ケイシ)の故事が見えます。五台の車に乗せるほど書物が多い。「汗牛充棟」「載籍浩瀚」ならご存知でも「五車之書」はいかがか?盲点でしょ。故事成語問題で出ないかなぁ?五社、五者、伍奢、誤射、誤写ではないので注意しましょう。六合が出るなら五車が出ても全然可笑しくないぞ!

6)「エンリュウ」

=掩留。身をひそめて滞在すること。淹留、奄留、簷溜とは微妙に異なるので要注意。やや難しい。「掩」は「おおう」「かくす」の意で、ここでは「身を隠す」。

7)「カンシン」

=間身。暇な身、無冠・無役で世の中の役に立たないことを譬える言葉。この「間」は「閑」と同じ意味。間人ともいう。

8)「チョウキン」

=重衾。重ねた上掛けの布団。如亭詩では頻出する「衾」ですね。朝槿、雕金、朝覲、兆听、超勤ではないので注意して。。

9)「キジン」

=帰人。故郷に帰来した人。ここでは江戸にたどり着いた如亭自身を指す。倚人、貴人、畸人、奇人でないので念のため。。

10)「ネツドウ」

=熱鬧。人が多くてにぎやかで、繁昌して喧噪なるさま。「鬧」は「さわぐ」「さわがしい」「みだれる」と訓む。「鬧事」(ドウジ=騒動)、「鬧熱」(ドウネツ)。「鬥」(せりあう)+「市」(多くの人が集まる)で「さわがしい」の意を示す。

11)「カンジョウ」

=歓場。歓楽の場所。ここでは品川の妓所をいう。感情、函丈、圜繞、宦情、扞城、灌頂、環繞、豢擾、鹹壌、勘定、勧請、閑情など同音異義語は多いのでそれぞれの意味もしっかりと押さえておきましょう。

二首目にある「望郷台」は、昔、中国で辺境の地などに流落した人が、故郷の方を眺望するために登った高台のこと。以前、漢詩シリーズで取り上げた王勃の「蜀中九日」(2009年9月9日付記事ここ)に「九月九日望郷台、他席他郷送客杯」がありました。

三首目にある「夜燈…」は、燈心の先の燃えカスが花のような形になるのを「燈花」といい、それを吉事の兆しととらえる俗信があった。いまなら四つ葉のクローヴァーか、茶柱が立つか?これは杜甫の「独酌成詩」に「燈花何太喜,酒緑正相親。酔裏従為客,詩成覚有神。兵戈猶在眼,儒術豈謀身。共被微官縛,低頭愧野人。」というのが見えます。

四首目の「渠が郷」とは「睡魔の郷、すなわち眠り」。「拖」は配当外で「拕」の異体字。「ひく、ひっぱる、ずるずるとひく」。「拕欠」(タケツ)は借金の返済期日をずるずるとのばすこと、「拕紫」(タシ)は、紫の印綬をひいて高い位に出世すること。

五首目の「皤」(ハ)は配当外。白い部分が広がったさま、また、老人の髪が白いさま。「皤皤」(ハハ)=「番番」(ハハ)、「皤然」(ハゼン=皤如ハジョ)は老人の髪が白いこと。「八年識らず」ということから、如亭が品川宿を訪れるのは8年ぶりであります。「靚粧」(セイショウ)とは美しき化粧した女、ここでは妓女。「靚」は「めかす、まみえる」。配当外漢字。「靚妝」(セイショウ・セイソウ)=「靚装」(セイショウ・セイソウ)=「靚飾」(セイショク)ともいう。解説によりますと、「品川の宿には飯盛女の名目で遊女を置くことが許されていたため、江戸の岡場所として栄え、土蔵相模など有名な妓楼もあった」といいます。品川宿全体で千人を超える遊女がいたとされます。

六首目にある「玉山の頽れざるは無し」というのは、人の酒に酔って倒れるさまをいいます。「世説新語・容止」に「嵆叔夜之為人也、巌巌若孤松之独立、其酔也、傀俄若玉山之将崩」という故事があるのに基づきます。この中で「嵆叔夜」(ケイシュクヤ)とは竹林の七賢の一人、嵆康(ケイコウ)のこと。「人柄は気高くて、恰も一本の松が高く厳頭に独立するようで、又、酒に酔うて傾ける姿は偉大で、玉山が丁度、頽れるようだ」というのです。彼は、奇才奇智に富み、風采容儀は優れ、よく琴を弾じ詩を詠じて自ら楽しみ、山沢の遊びを好むとともに、広く書史を覧て萬事に兼ね備え通じていた。同格で交際する人物は阮籍と山涛だけで、末席に連なり交際したのは、向秀、劉伶、阮咸、王戎の四人だったといいます。

嵆康の故事を持ち出して、「玉山」ということから「雪をいただいた山」が寓意され、如亭は「こんなに大盛り上がりなのにわたしの身も心も冷たくなっているのを不思議に思わないでおくれや。だってあの雪降る箱根の関を越えてきたばかりなのだからね」と歓楽街の雰囲気にちょっとばかり馴染めない自分を詼けて表現しているのです。もう年だからねぇ~、さすがの如亭もいつまでも色事ってわけにもいかんよねぇ~。いささか気遅れ気味の如亭でした。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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