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「鱸魚」を「魯魚」と書き誤るな!=漢詩学習

本日の「如亭山人遺藁巻二」(岩波書店刊行)からは三首を取り上げます。


まずは「中秋豊水に舟を泛ぶ」の二首。

中秋は陰暦八月十五日。豊水は三河吉田(現在の愛知県豊橋市)の域下を流れる豊川。江戸への旅途中で滞在して、風流な船遊びに興じた如亭です。そして、本来は懐郷の念に駆られ、帰郷を急がせるはずの魚を食べるために、かえって旅先で淹留するという“逆手”に取った行動に出るのです。

豊水橋西 薄暮の天
間に登る 三五月明の船
秋風 1)シキの夢を作さず
且く2)ロギョの為に半年を捨つ

詩酒何ぞ妨げん 3)キュウリュウを作すを
又た4)カキョウを追ひて軽舟に在り
金虀玉膾 玻瓈の月
併せて中秋一夜の遊に供す


1)「シキ」

=思帰。故郷に帰りたいという思い。四機、士気、史記、指揮、刺譏、指麾、瓷器、私諱、蓍亀、四季ではないですが、「シキ」の同音異義語は多いですね。

2)「ロギョ」

=鱸魚。スズキのこと。とりあえず「魯魚」と書き誤らないことに留意しましょう。


3)「キュウリュウ」

=久留。長期滞在のことをいう。急流、穹窿、九竜などでは意味が通らない。

4)「カキョウ」

=佳興。風流な情趣。佳境や花筐ではないので念のため。王維の「崔濮陽兄季重前山興(山西去亦対維門)」に「秋色有佳興,況君池上閑。悠悠西林下,自識門前山。千裏横黛色,数峰出雲間。嵯峨対秦国,合沓蔵荊関。残雨斜日照,夕嵐飛鳥還。故人今尚爾,嘆息此頹顔。」がある。

5)「ギョクカイ」

=玉膾。なますを美化した表現。今風に言えば、「超美味」な魚のなます。その前の「金」(キンセイ)は、超美味な野菜の和え物。「齏」「韲」なら1級配当ですが、草冠がついた配当外の「」も「あえもの」。唐代の馮贄(フウサン)が著した「雲仙雑記」という書物に「呉都献松江鱸魚、煬帝曰、所謂金虀玉膾、東南佳味也」とあるのを踏まえている。

このあとの「玻」(ハリ)は水晶のこと。月を美称する表現です。黄庭堅の「太平寺慈氏閣」という詩に「青玻瓈盆插千岑,湘江水清無古今。何処拭目窮表裏,太平飛閣暫登臨。朝陽不聞蓋下,愚溪但見古木陰。誰与洗滌懐古恨,坐有佳客非孤斟。」というのがあります。


その前の「三五月」は十五夜のこと。白居易の「効陶潜体詩十六首」の七首目の「臨觴忽不飲,憶我平生歓。我有同心人,邈邈崔与銭。我有忘形友,迢迢李与元。或飛青雲上,或落江湖間。与我不相見,於今四五年。我無縮地術,君非馭風仙。安得明月下,四人来晤言。良夜信難得,佳期杳無縁。明月又不駐,漸下西南天。豈無他時会,惜此清景前。中秋三五夜、明月在前軒」の最後の一節を踏まえている表現です。


最初の一首は晋代の張翰(チョウカン)の故事に由来するのはお分かりですよね。四字熟語で言えば「蓴羹鱸膾」(ジュンコウロカイ)。秋風が立つと、故郷の呉の菰菜(コサイ)、蓴羹(ジュンサイのあつもの)、鱸魚膾(スズキのなます)のことが思い起こされ、食べたくて食べたくていても立っても居られなくなった張翰が役人生活を抛擲して帰郷したのです。そんな張翰を“見習って”、如亭は鱸を食べるために半年間もこの豊橋に滞在しました。「半年を捨てる」というのは「この半年を鱸のために費やした」という面白い表現です。

「軽舟」(ケイシュウ)は軽快な小舟。二首目の最後の一句は黄庭堅の「鄂州南楼書事」の「四顧山光接水光,憑欄十裏芰荷香。清風明月無人管,並作南楼一味涼。」を踏まえています。



続いて「大庭国馥が小軒」。

大庭国馥というのは遠州掛川(現在の静岡県掛川市)の商人。国馥は字、名は延香、通称は大助、号は松風。国学を学び、内山真竜と親交した人です。知らんよね。

知ると知らざると6)オウカンに従す
柴門設くること雖も未だ曾てア)さず
此中相得て長く相対するは
只だ軒前の小笠山有るのみ


6)「オウカン」

=往還。行き来すること。常用漢字系です。2級試験で出てもいいですが、1級でもいいでしょ。王翰、皇侃、王冠と区別できる力を求めています。

ア)「関さず」

=とざ・さず。「関す」には「とざ・す」という特別なる表外訓みがあるので要注意。閉すこと。

「従す」は「まか・す」と特別な表外訓み。

最後の一句は李白の有名な「独坐敬亭山」の「眾鳥高飛尽,孤雲独去閑。相看両不厭,隻有敬亭山。」を意識した表現。


この国馥という人物は来るもの拒まず、いろんな人と交流したようですね。第一句がそれを寓意しています。それでも眼前に聳える小笠山なる山は我関せず。人間界の雑事に関わらず悠然と変わらぬ姿を見せ続けているのです。いわば千客万来、応対するのはこの小笠山のみ。標高は260メートル余りとそれほど高くはない山ですが、人を寄せ付けない森厳さが感じられたのでしょう。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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