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如亭の武器である「済勝之具」とは何?=漢詩学習

本日は「三日、四日市の海楼に飲む」から。これは「詩本草」(岩波文庫、P62~68)にも「蟹」という題で採録されていました。藤井竹外の「蟹」(弊blogの2009年9月21日の記事)で「無腸子」の異名を紹介した時に出てきました。下戸である如亭はその半面、美食に走った。中でも蟹は大のお気に入りでした。「新日本古典文学大系64」(岩波書店)の解説によると、文化5年(1808年)の作で、如亭が蟹を食べた海楼は「四日市霞が浦の海岸にある茶屋を指すと思われる」とあります。

少し長いですが、訓み、書きともになかなか手強い語彙がちりばめられています。

東風海を吹いて水1)ヨウトウ
桃花三月 魚児長ず
此の時酔はずんば何時をか待たん
花岸の酒楼 儘ま上るべし
2)バンケイの瑠璃 忽ち遠く移る
正に是れ三日潮の退く時
銀屋頽れ尽して雷鼓絶す
ア)抃鼇 3)ドンゲイ 亦た何くにか之く
但だ見る 4)バンサンに海錯を列ぬるを
此に対ひて如何ぞ楽しまざることを得ん
我れ海国に生まれて海味を甘んず
5)イッスイ須ひず 流落を歎ずることを
更に思ふ 霜蟹 玉をイ)いて浄きを
我は湖上李氏の性に同じ
秋風を待ちて重ねて相訪はんと要す
亦た青銭の買命と名づくる有り


(李笠翁、蟹を嗜む。その未だ出でざる時に于いて銭を儲へて以て待つ。呼びて買命銭と為す。)

1) 「ヨウトウ」=揺蕩(揺盪もOK)、ゆらゆらゆれうごくこと。

2) 「バンケイ」=万頃、「一碧万頃」という四字熟語もあるように水面がひろがるさま

3) 「ドンゲイ」=吞鯨、「吞噬」「鯨飲馬食」をミックスした言葉か。おおきなくじら。

4) 「バンサン」=盤餐(晩餐でないことに注意、「盤」はさらのこと、おおざらの御馳走)

5) 「イッスイ」=一酔(一炊、一睡ではない)

ア) 「抃鼇」=ベンゴウ(「抃舞」から想起、鼇は「おおうみがめ」)水を手で打って泳ぐオオウミガメ。

イ) 「擘く」=さ・く(この訓読みは要注意、なかなか訓みにくい、音読みも難。「ハク」。「巨擘」。)

「海錯」(カイサク)は、たくさんの種類の海産物。ちょっと見慣れない言葉です。「列ぬる」は「つら・ぬる」。

「湖上李氏」とあるのは、清初の文人李漁(号は笠翁)のこと。この「湖」は蘇州の「西湖」。大の蟹好きで知られ、蟹が市場に出回るまでじっと我慢してお金をためたという。それで自分の命と引き換えにして食べることから「買命銭」の異名も。「青銭」は銅銭一般のこと、すなわちお金のこと。


続いて「キョウキョの壁に題す」(七言律詩が二首)。

1)キョウキョ遠く帝城に向いて留まる
邈たり山河十州を隔つ
2)イチルの炊煙新たに買ひし婢
三間の3)ハイオク旧と随ひしア)
暫く燭影と同に相言笑し
更に瓶梅と4)ケンシュウを作す
歎ぜず5)ショウゼンとして歳の云に暮るるを
春を待ちて酔うて遍くせん春有るの楼
     ○
人人に説かるる春遊好しと
6)セイショウ憂ひ無し我れ必ず先んぜん
地を掃き香を焚いてイ)に且く坐し
扉を揜ひ枕に就いて復た何ぞ眠らん
思ひは馳す梅谷7)ゴリョウの裏
神は往く桃山8)ショクキンの辺
9)レキビ看る看る半紙を餘す
一双屐を辧じて10)ザンネンを送る



1) 「キョウキョ」=僑居。「僑寓」(キョウグウ)ともいい、旅先のかりずまい。「華僑」。

2) 「イチル」=一縷、炊煙が一縷というのは一筋の炊事の煙が上がること。すなわち、細々とした貧しい暮らしを形容する。

3) 「ハイオク」=敗屋。「廃屋」も似た意味だが微妙に異なるか。「敗家」(ハイカ)ともいい、こわれた家、あばらや。でも「廃屋」と同義ですね。「敗筆」は使い古しの筆。「敗絮」は、古くなって役に立たない綿。

4) 「ケンシュウ」=献酬。喧啾・妍醜・娟秀・検讐ではない。「瓶梅」、つまり花瓶に挿した梅の花と酒杯をやり取りするという比喩的な表現です。

5) 「ショウゼン」=蕭然。嘗膳・悄然・瀟然・牀前・聳然・悚然ではない。ものさびしいようす。

6) 「セイショウ」=済勝。これは難問。景勝の地を歩きまわること。また、そのための道具としての丈夫な足、すなわち健脚を意味する。「済勝之具」(セイショウノグ)という言葉が「世説新語・棲逸」に見える。「成語林」によると、「許掾(キョエン=人名)山水に遊ぶを好み、而して体は登陟に便あり。時人云う、『許は徒に勝情=風景をめで楽しむ気持ち=有るのみに非ず、実に済勝之具有り』と」。

7) 「ゴリョウ」=呉綾。古代中国の呉で産する美しい綾絹織物。

8) 「ショクキン」=蜀錦。同じく蜀で産する美しい錦織物。

9) 「レキビ」=暦尾。暦の終わり。年の暮れ。おおみそかのこと。

10) 「ザンネン」=残年。残念じゃないのは分かるよね。これも「年の暮れ」の意。一年の残りが少ないということでしょう。

ア) 「裘」=かわごろも。

イ) 「権に」=かり・に。仮に。

「帝城」は、天子の居られる都、帝都。

「邈たり」は、遠くはるかなさま。

「十州」は、江戸と京都にはさまれた数々の国を指す。

「三間」は、部屋数が三つしかない狭いあばら家のこと。「間」は部屋の広さの単位でもあります。

「云」は助辞で「ここ」と訓む珍しいケースです。語調を整えるだけで深い意味はありません。

「揜ふ」は「おお・ふ」で「覆う」の意。

「梅谷」(バイコク)は、京の南、伏見の梅の名所「梅渓」か。

「神は往く」(シンはゆ・く)は、心が飛んでいくさまを表す。

「桃山」(トウザン)は、京の南、伏見の桃の名所「城山」か。

「半紙」(ハンシ)は、一片の紙、紙切れ。

「一双屐を辧じて」(イッソウゲキをベンじて)は「一揃いの履物をととのえて」という意。ここは南朝宋の詩人、謝霊運がいつも木屐(下駄)をはいて山登りをしたことを踏まえた表現です。

いずれも各地を遍歴する詩人がその晩年にさしかかるころ、一時的に京都に身を寄せたことを詠じています。一首目では、遠路はるばる身を落ちつけた京都の生活が意外につつましいものであるが、そばにきれいどころがいるからまいいかぁとのほほんとした感じが伝わってきます。祇園のそばに居を構えたようです。

そして、二首目では、とにかく季節がいい春にはあちこち慫慂しまわっている。如亭のおかげで「済勝之具」という面白い言葉に出会えました。はるか古代中国にも思いを馳せて、詩画をものしまくっていたら、気がつけば年の瀬が迫っていたのです。元気溌剌もりもりの如亭の姿が目に浮かびますね。京都の風物は如亭の詩情におおいなる刺激を与えたのでしょう。
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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