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人生は短きが故に楽しく過ごさん=「文選」に見る古人の大らかさ―漢詩学習

清少納言の枕草子197段に「文(ふみ)は文集・文選・博士の申文」とあります。「文集」は、かの白居易の「白氏文集」(ハクシモンジュウ)のことですが、「博士の申文」(ハカセのもうしぶみ)はよくわかりません。本日のテーマの一つにしたいのが「文選」(モンゼン)。中国・梁代(6世紀)に編纂された中国最古の詞華集です。清少納言が知識・教養人の必読の書としてずばり挙げた「文選」とはいかなるものか?いささか興味が惹かれました。手元には「文選」のテキストがあるべくもなく、今回も石川忠久氏の「漢詩鑑賞事典」(講談社文庫)によることとします。

同書によりますと、「文選」の編者は、梁の昭明太子・蕭統(501~531)。約800編の作品を、賦・詩・辞などの39種の文体に分け、時代順に配列してあり、その特筆すべき功績として「『文学』」作品と『非文学』作品(経書・諸子百家の書・歴史書など)を明確に区別し、正統な文学の粋を網羅する方針で編集したことにある」と述べています。そして、これは中国文学史上初の試みであり、「その意味では記念碑的性格を持つ」と指摘しています。また、日本への伝来も早かったようで、「万葉集」や聖徳太子の「十七条憲法」にもその影響が見られるともあります。

同書P720~731には、雑詩のカテゴリーに入る「古詩十九首」の中から4首だけ紹介されています。

自民党・公明党に贈る言葉、「去る者は日々に疎し」の出典となった詩がこれ。無名氏、五言古詩。

去者日以疎
来者日以親
出郭門直視
但見邱与墳
古墓犂為田
松柏摧為薪
白楊多悲風
蕭蕭□□人
思還故里閭
欲帰道無因

去る者は日(ひび)に以て疎まれ
来る者は日に以て親しまる
郭門を出でて直視すれば
但だ邱と墳とを見る
古墓は犂かれて田と為り
松柏は摧かれて薪と為る
白楊に悲風多く
蕭蕭として人をシュウサツ
故里の閭に還らんと思い
帰らんと欲すれども道因る無し


別れた人の思い出は日ごと薄れ、新たに出会った人が段々と馴染んでくるのは世の常。昔、墓地だったところはすきかえされて今や田畑。かように、今は青々とした松や柏の木だってやがては打ち砕かれて薪となって消えていくのだろうか。ハコヤナギを吹き揺する秋風もひときわ物悲しく、さらさらとした葉音すら人の心を深く沈ませるのだ。故郷が恋しくなって一度帰ろうとは思うものの、なぜかしら道が閉ざされているかのように感じている。

「シュウサツ」はポイントだと思います。漢詩では頻出する言い方で「~殺」というのがあります。「ころす」という意味ではなく、動詞の後ろについて、その動作がはなはだしいさまであると強める効果があるのです。ここでは「物悲しく心を沈ませる」のですから、正解は「愁殺」。パソコン搭載の辞書変換では出てきませんね。是非とも覚えてほしいし、このほかにも「笑殺」「悩殺」「断殺」「酔殺」などがあります。

かの陶淵明が「帰去来兮辞」を詠んだ前提となっているかのようですね。「帰りなんいざ、田園まさに蕪れなんとす」。先祖代々の墓が荒れ放題。早く帰らねば。。。でも、「道因る無し」とあるのは、全然帰っていないとか、若いころに大喧嘩して家を飛び出したとか、不義理してきた自分にとって故郷は敷居が高いということなのでしょう。故郷は大事にしたいものです。日頃から親とはコミュニケーションだけは取っておきましょう。

続いて、「生年百に満たず」(無名氏、五言古詩)です。

生年不満百
常懐千歳憂
昼短苦夜長
何不秉燭遊
為樂当及時
何能待来茲
愚者愛惜費
但為後世嗤
仙人王子喬
難可与等期

生年は百に満たざるに
常に千歳の憂いを懐く
昼は短くして夜の長き苦しむ
何ぞ燭を秉って遊ばざる
楽しみを為すは当に時に及ぶべし
何ぞ能く来茲を待たん
愚者は費を愛惜して
但だ後世の嗤いと為る
仙人王子喬と
与に期を等しくすべきこと難し


人生は百年にも満たないのに、いつだって千年先のことまで心配している人がいる。昼が短くて夜が長いと言って嘆くのならば、いっそのこと明かりを手にして夜こそ遊べばいいではないか。人生楽しむ時はそれなりのチャンスがあるもの。それを逃していては一生楽しむことなどできはしない。来年まで待つことなどできるはずがない。愚かにも、わずかばかりの無駄事を惜しんで倹約する人がいるが、その実は、空しい一生を送り後の世の笑い草になるだけさ。あの仙人の王子喬と同じように、いつまでも生きながらえる人など誰もいないのだから。。。。

遊び推奨のオンパレード。先の心配より目先の安逸ですな。同書の「鑑賞」によると、「享楽主義を賛美した歌である、(略)これが祭りを背景にしてうたわれていることは、三句から六句までの描写で明らかである。季節は『夜長』の一語からしても秋から暮れにかけてである。しかも、そのころにさかずきをくみ交わして享楽する祭り、といえば、ただちに豊年祭を想像してよいであろう」と指摘しています。「来茲」(ライジ、ライシ)は「来年」、明日は明日の風が吹くということでしょう。収穫の喜びに溢れた人々の思いですな。

「王子喬」というのは、周の時代の霊王の太子晋のこと。彼は政務を顧みず、笛の一種である笙を好み有楽の生活をむさぼっていたが、後に道士に導かれて仙人となり、白い鶴に乗って仙界に去り、永遠の生命を得たという伝承があります。

そして、この詩は李白が詠じた「春夜 従弟の桃花園に宴するの序」(岩波文庫、「李白詩選」P335~340)の一節に直接的な影響を与えています。見てみましょう。


天地者万物之逆旅也
光陰者百代之過客也

浮生若夢
為歓幾何
古人秉燭夜遊
良有以也

陽春召我以烟景
大塊仮我以文章
会桃花之芳園
序天倫之楽事
群季俊秀
皆為恵連
吾人詠歌
独慚康樂
幽賞未已
高談転清
開瓊筵以坐花
飛羽觴而酔月
不有佳詠
何伸雅懐
如詩不成
罰依金谷酒斗数



夫れ
天地は 万物の逆旅なり
光陰は 百代の過客なり
而して
浮生は夢の如し
歓を為すこと幾何ぞ
古人燭を秉りて夜遊ぶ
良に以有るなり
況んや
陽春 我を召すに 烟景を以てし
大塊 我を仮すに 文章を以てするをや
桃花の芳園に会して
天倫の樂事を序す
群季の俊秀は
皆 恵連たり
吾人の詠歌は
独り康樂に慚づ
幽賞 未だ已まざるに
高談 転た清し
瓊筵を開きて 以て花に坐し
羽觴を飛ばして 月に酔う
佳詠 有らずんば
何ぞ雅懐を伸べんや
如し 詩成らずんば
罰は 金谷の酒斗の 数に依らん


そもそも、天と地は万物を迎え入れる旅館、そして、流れゆく光陰は永遠に絶えることない旅人と言っていいのだ。そして、定めなき人の生命は夢のように、歓び楽しむ歳月は何と少ないことか。いにしえの人々は、手にともし火をもって昼夜分かたず遊び楽しんだのも無理からぬことなのだ。ましてや今こそ、うららかな春の季節が訪れ、霞立つ美しい景色で私に呼びかける。大いなる大地は優れた文章を書くべき資質を与えてくれる。桃花の郁しい香りに満ちた庭園に集い、骨肉同士が相語る本当の楽しみを述べ記そうぞ。ここに集まった若い俊秀たちこそみな謝恵連のごとき詩才のあるものばかり。年長の私だけは詠じる歌も謝康樂の出来栄えに及ばないのだ。静かで奥深い褒め言葉、賑やかさを増す談論の趣。より一層の清らかさを増すばかり。玉のような美しい敷物を広げて、花咲く木々の下に腰を下ろし、羽飾りのついた杯を回して、月明かりのもと、酒に酔う。詠んだ出来栄えが悪ければ、高雅な胸の思いはどうして言い尽くせるものか。もし詠むこともできなければ、その罰は、金谷園の罰杯の数を手本に行おう。


いささか長いですが、注目すべきは当然ながら「古人秉燭夜遊」の一句。さきほどの「文選・古詩十九首」の「昼短苦夜長 何不秉燭遊」から取っています。これがこの「序」のpunch-lineと言っていいですね。李白の遊びは、親族が集まって歌を詠じ合うことです。「金谷園の罰杯」というのは、「西秦の貴族・石崇が、当時の洛陽城から西北約10キロメートルの金谷澗に沿った景勝地に金谷園という別荘を作った。そこで開いた酒宴ではルールがあって、各自が詩を作って胸の思いを伸べ、詩ができないと罰として酒を飲ませた」。「罰酒三斗」とあり、ここでいう「斗」は「さかずき」のことです。さながら、「駈け付け三杯」ならぬ、「詩ができませぬ三杯」。「瓊筵」は「ケイエン」、「羽觴」は「ウショウ」。いずれも1級配当では読めて当然、書けなきゃだめよの熟語です。

序でですが、冒頭の「天地者万物之逆旅也 光陰者百代之過客也」は、松尾芭蕉が「奥の細道」の序文で引用しており、「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」と記しています。続けて「古人も多く旅に死せるあり」と記述しているのは、西行のほか、明らかに杜甫や李白を念頭に置いています。芭蕉と中国の詩人との関わりについてはいずれ取り上げる機会があると思います。
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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