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「ばら」「ほととぎす」「くちなし」「うちわ」の漢字を音読みできるか?=柏木如亭「訳注聯珠詩格」


 柏木如亭の「訳注聯珠詩格」シリーズの第五回です。如亭の訳注を手掛かりにして原詩を白文のまま翫わう試みを続けます。まずは余林塘(ヨリントウ)という詩人の「秋声」(シュウセイ)。この人については未詳としかありません。この詩が詠まれた背景も、状況も何も分かりません。晩夏から初秋にかけての描写。ただただ、哀切な響きだけが耳に残ります。

 黄葉々風シツシツ

 悲センインイン雨リンリン

 不知窓外ゴドウ上

 カクサイ愁人幾寸心

 如亭訳はこうです。

 黄葉(おちば)はばらばら風はさらさら

 せみはみんみん雨はしよぼしよぼ

 いちどきに窓の外にあるきりのきの上へもつてくるが

 この愁人(ふさぎて)の幾寸心(せまいむねのうち)をかきさがすのか不知(しらん)


 如亭によると、この詩は「起聯畳字句の格」という。すなわち、第一句と第二句が対句で、各句に同一字が重ねて用いられている形式。

 ということで、第一句と第二句を見てほしいのですが、四つの「同一字の重ね」があり、このうち三つを問題にしました。最初の「々」は「ソウソウ」で配当外なので問題からは外しました。さやさやと吹く風や、か細い雨の音の形容です。如亭は「ばらばら」と訳しており、ここでは落ち葉が吹き落ちる音の形容です。

 ■さて、二番目の「シツシツ」はノーヒントと行きたいのですがいかがですか?風の吹く形容で「シツシツ」。如亭の訳によれば、「さらさら」。十分でしょ?えっ、駄目?んじゃあ、四字熟語の「キンシツソウワ」を想起して下さいな。


 正解は「瑟々」。風がさっさっと吹くさま。「瑟」は「おおごと」ですね。大形の琴。古くは五十弦だったが、のち、二十五弦、十九弦、十五弦などに変遷した。「シツシツ」は「櫛櫛」もあるが、こちらは「櫛の歯のように並び続いているさま、鱗次櫛比」。

 ■三番目の「インイン」。その前の「セン」とセットですね。如亭の訳では「せみはみんみん」とあるから、「セン」は平易。問題は「みんみん」で「インイン」が浮ぶかどうかです。同音異義語では「淫々」「殷々」「慇々」「陰々」があります。どれも「みんみん」ではないですね。でも「みんみん」と言っても、賑やかしい鳴き声ではなく、むせび泣くさまです。これが大ヒントです。


 正解は「蟬」「咽々」。「蟬」は「せみ」。「蝉蛻」(センゼイ)、「蟬脱」(センダツ)、「蟬噪蛙鳴」(センソウアメイ)、「寒蟬」(カンセン)、「残蟬」(ザンセン)、「秋蟬」(シュウセン)、「鳴蟬」(メイセン)。
一方、「咽々」を「インイン」と読む場合は「つづみ・太鼓などの音が遠くに響く形容、慇々に当てた用法」と漢字源にある。いっぽう、「エツエツ」と読んだ場合は「むせび泣くさま」。この場合は「エツエツ」と読んだ方が正解なのかもしれませんね。

 いずれにせよ、「咽」は「イン」「エツ」のほか、「エン」とも読む。訓読みでは「のど」「むせぶ」「のむ」がそれぞれ対応する。熟語は「咽喉」(インコウ)、「咽頭」(イントウ)、「咽塞」(エツソク)、「哀咽」(アイエツ)、「哽咽」(コウエツ)、「幽咽」(ユウエツ)、「嗚咽」(オエツ)、「咽下」(エンカ、エンゲ)。準1級配当ですが使い分けに要注意の漢字です。

 ■四番目の「リンリン」。これは雨のしとしと降るさまを形容し、如亭訳では「しよぼしよぼ=しょぼしょぼ」。雨で「リンリン」と言えばこれしかない。ちなみに同音異義語では「鱗々」「懍々」「廩々」「凜々」などですが雨を言うものはない。


 正解は「淋々」。雨粒が連続して滴り落ちるさまですね。「淋」は「したたる」「さびしい」とも訓む。熟語には「淋雨」(リンウ)、「淋灑」(リンサイ)、「淋巴液」(リンパエキ)、「淋離」(リンリ)、「淋瀝」(リンレキ)、「淋漓」(リンリ)、「墨痕淋漓」(ボッコンリンリ)、「淋浪」(リンロウ)、「琳琅満目」(リンロウマンモク)。

 ■「ゴドウ」となっていますが、「ゴトウ」の方が一般的でしょうか。如亭の訳では「きりのき」。もうお分かりですね。


 正解は「梧桐」。その落葉の始まりは秋のきざしとされる。「梧」は「あおぎり」。熟語には「梧下」(ゴカ)、「梧右」(ゴユウ)、「梧葉」(ゴヨウ)。

 ■「カクサイ」は馴染みの薄い言葉。同音異義語は思い当たらないですね。如亭訳では、「かきさがす」とある。掻き探すと書くのでしょうかね。現代語の動詞としては、あまり一般的ではないですね。当時の江戸語でしょうか。このヒントでは浮ばないですね。意味は「(心を)掻き乱して粉々にする」です。いかがですか?


 正解は「攪砕」。いや~、分からんよね。これはむずいわ。「攪」は「みだす」とも訓む。音読みでは「コウ」もあり。「攪乱」(カクラン、コウラン)、「攪拌」(カクハン、コウハン)、「攪擾」(カクジョウ、コウジョウ)、「攪撓」(カクドウ、コウドウ)。

 次第に深まっていく秋の風景描写。擬態語の訳は日本語、和語ならではでしょうね。どの音の形容も「愁人」(ふさぎて)の胸をかきみだすものばかり。もちろん、ふさぎてというのは詩を詠んでいる余林塘自身ですよね。面白いのは蟬は夏でもないのに啼いていることですね。中国では、盛夏にギンギンと啼くより、初秋に咽び泣くように微かに啼くのが通常のようです。しかも、蟬というのは樹液を吸うだけで啼くばかりであることから、「高潔の士」のイメージを持っているといいます。晩唐の詩人である李商隠に「蟬」という詩があり(岩波文庫「李商隠詩撰」をご覧下さい)、思うような位が得られずにいる自分と蟬とを重ね合わせています。

 愁人に何があったかは知る由もありません。見るものすべてを「音」として捉えており、胸を搔き乱されていることだけは分かります。出世を阻まれたか?それとも、大切な人と別れたのか?如亭は蟬の鳴き声を「みんみん」と訳したが、これは少し単純ではないか?もう少し悲しげな啼き声に違いない。どちらかというと、蜩の「かなかな」の方が近いのでは?


 次は「春暮」と題した南宋時代に活躍した蒙斎(蔡正孫)の作品。

 レン捲東風エン影斜

 悠々芳草楚天涯

 千紅万紫都ロウゼキ

 猶有ソウビ落後花

 如亭訳

 すだれをはるかぜにまきあげてつばくろがとびまはり

 はてしもないくさは楚のくにのそらのかぎりつづいてゐる

 あかやむらさきのはなはみんなあれはてたが

 ばらの花のいつちあとからさくのがある

  「レン」「エン」「ロウゼキ」「ソウビ」が問題です。特にヒントは必要ないと思いますので。。。如亭訳と見比べて答えて下さい。



 正解は順に、「簾」「燕」「狼藉」「薔薇」。


 ■「簾」は「すだれ、す」とも訓む。「レン」の1級配当は「臠」「攣」「鰊」「鏈」「輦」「賺」「」「薐」「縺」「瀲」「楝」「斂」「匳(奩)」「」などがありますが、「すだれ」と言えば瞬時に浮かべなければなりません。熟語では「御簾」(ギョレン、みす)、「簾帷」(レンイ)、「簾額」(レンガク)=「簾箔」(レンパク)、「簾鉤」(レンコウ)、「簾中」(レンチュウ)、「簾政」(レンセイ)、「翠簾」(スイレン)、「水簾」(スイレン)、「垂簾」(スイレン)、「暖簾」(ノレン)。

 ■「燕」は「つばめ」。「つばくろ」は古語・異称ですが、文学作品では頻出なので覚えましょう。「つばくら」という言い方もあります。「つばくろ」で「燕」を浮かべろと言うのは少し酷でしょうか?でも、漢検漢字辞典の意味欄には「つばくろ」は載っていますよ。同じように古語である「きぎす」(雉子、雉)だって漢検の問題に出るくらいですから、「つばくろ」が問われても不思議ではないでしょう。「蛇」だって「くちなわ」とも言います。

 ■「狼藉」は、物が散乱したさま。オオカミが寝る時、下草を踏み荒らすことから。「藉」は「セキ」「シャ」「し・く」「か・す」「か・りる」「ふ・む」「かこつ・ける」とも訓む。「藉口」(シャコウ=言い訳)、「慰藉」(イシャ)、「藉田」(セキデン)、「藉藉」(セキセキ)、「蘊藉」(ウンシャ)、「温藉」(ウンシャ、オンシャ)、「蹈藉」(トウセキ)、「騰藉」(トウセキ)。

 ■「都」は「すべ・て」との表外訓みがあります。

 ■「薔薇」は「ばら」。「ショウビ」とも読むのでこちらにも警戒が必要です。音読みで問題に出されたら浮かぶかどうかが出題の意図です。勿論「ばら」を漢字で書けるという前提ですけれども。「杜鵑」(ほととぎす)が「トケン」、「団扇」(うちわ)が「ダンセン」、「梔子」(くちなし)が「シシ」と音読みで出題されて書けるかどうかと同じです。「薔」は「ばら」でしか使いませんが、「薇」は「ぜんまい」とも訓むので押さえよう。熟語では「紫薇」(シビ=さるすべり)、「蕨薇」(ケツビ)もあります。

 ■「落後」(ラクゴ)は、ここでは「他の花より遅れて咲くこと」。如亭訳の「いつちあと」というのは、「一番最後に」という意味。「いつち」と当時の江戸弁でしょうね。

 前述の詩と対照的に、今度は春の物憂い夕暮れの風景です。暖かですね。詠者である蔡正孫は「聯珠詩格」の原案を増訂した人です。中国戦国時代の「燕」と「楚」を想起しているようですが。。。激しい戦が漸く終わり、平和が訪れてほしいという思いを込めたのはなぜか。。。?散り果てた花々のあとに、そろりと咲く「薔薇」はその願いを象徴しているのでしょう。南宋の時代も次第に「元」との争乱の突入したのかなぁ。。。って、このあたりの中国史は弱いです。迂生にはとても太刀打ちできません。この辺で退散した方がよろしいようです。続きはまた次回にて。。。

 【今日の漢検1級配当漢字】

 瑟、殷、慇、蛻、噪、哽、嗚、懍、廩、凜、灑、瀝、漓、琅、攪、拌、撓、啼、蜩、蔡、簾、藉、薔薇、臠、攣、鰊、鏈、輦、賺、蠊、薐、縺、瀲、楝、斂、匳(奩)、癴、帷、雉、藉、蘊、蹈、鵑、梔
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Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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