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記念すべき劈頭は「自然の数」…「芋粥」からスタート〔芥川龍之介作品補遺シリーズ(from 「mixi日記」 of char)〕①

 

芥川作品は取り敢えず全てを一巡しましたが、ボリュームの関係で敢えて落とした語彙がたくさんあります。特に序盤から前半では思い切って捨てていました。余りに多くこのまま捨て置くのは勿体無い。最初に立ち戻って採録し直したいと思います。したがって、もう姑く芥川作品を味わうことにします。ただし、あくまで補遺なのでなるべく簡潔に処理したいと思います。

ということで新たにmixi日記からの転載シリーズ「芥川作品を通じて漢字学習の補遺」がスタートです。これも一応全作品ですので長いです。もっとも、漢字そのものは1級配当はやや少なめ(本篇でなるべく採録済み)。さらに、語彙の説明はなるべく簡潔にしてあります。このため、比較的読みやすいのではないかとは思います。

然し乍ら、ことほど左様にこれでもかこれでもかと潰していく迂生の性格は嵌るととことんまで突き止めないと気が済まない。マニアックなんですなぁ。。。mixiの会員IDのある方はこちら(http://mixi.jp/view_diary.pl?id=761180158&owner_id=12503116)を参照してください。本シリーズは迂生がmixi日記に掲載した2008年3月31日~5月26日の記録です。

7月中に終える方針ですので、1回ごとのヴォリュームはかなり多め、長めとしなければなりませんことをご了承ください。

なお蛇足ではありますが、この芥川シリーズで効果的な学習は気になった言葉や漢字がある場合は、なるべく原典に当たってみるということではないでしょうか。多くの作品は青空文庫などで公開されているものなので簡単に辿れるでしょう。見当たらない場合は難しいかもしれません。芥川全集か、はたまた第三書館が発行している「ザ・龍之介」を御覧戴くしかないですね。

でも、この原典に当たるということは芥川作品を読むということでもあります。その流れの中でそれぞれの語彙を翫わうということです。まさに古人の糟魄、芥川の糟魄を嘗めることなのです。言葉の深みというか、奥行きを感じないわけにはいかないでしょう。それこそが言葉を通じた学習の真髄だと思います。

 

では本篇と同様に「芋粥」からスタートです。記念すべき劈頭は「自然の数」。



 【芋粥】


 ●自然の数(シゼンのスウ)

 「下役でさえそうだとすれば、別当とか、侍所の司とか云う上役たちが頭から彼を相手にしないのは、寧ろ自然の数である。」

 →自然の成り行き。至極当然のこと。自然の運命で人力の企ての及ばないこと。「数」は運命、事の成り行き。

 ●哂う(わらう)

 「……万遍なく見上げたり、見下したりして、それから、鼻で哂いながら、急に後を向いてしまう。」

 →あざ笑う。嘲笑。小馬鹿にして笑う。失笑すること。「哂」は1級配当で「シン」が音読み。「哂笑」(シンショウ)、「鼻哂」(ビシン=鼻で哂うこと)、「哂歎」「哂嘆」(以上、シンタン=わらいとなげき)。

 ●興言利口(キョウゲンリコウ)

 「……年下の同僚も、亦それを機会にして、所謂興言利口の練習をしようとしたからである。」

 →即興の巧みな言葉。勢いでその場で思いついたしゃれ。パロディ。

 ●うけ唇(うけくち)

 「彼が五六年前に別れたうけ唇の女房と、その女房と関係があったと云う酒のみの法師とも、屡彼等の話題になった。」

 →下唇が上唇より出ている口元。受け口、受口とも書く。医学的に歯列矯正の世界では「下顎前突症」(カガクゼントツショウ)、「反対咬合」(ハンタイコウゴウ)という。淫乱の癖の象徴とも。

 ●《篠枝》(ささえ)、尿(いばり)

 「が、彼の篠枝の酒を飲んで、後へ尿を入れて置いたと云う事を書けば、その外は凡、想像される事だろうと思う。」

 →酒を入れて携帯する竹筒。竹小筒(たけささえ)。普通は《小筒》《竹筒》と書くので、芥川一流の当て字と思われます。

 →おしっこ。小便。ユバリの転で表外訓み。「しと」とも読む。「ゆばり」は「溲」「溺」とも書く。「尿袋」(いばりぶくろ)は「膀胱」(ボウコウ)。「尿筒」(しとづつ)は「携帯用便器」で、束帯をしたままで出せます。

 ●佩く(はく)、如何わしい(いかがわしい)

 「それに佩いている太刀も、頗る覚束ない物で、柄の金具も如何わしければ、黒鞘の塗も剥げかかっている。」

 →刀や玉などを帯や腰に下げて身につける。「履く」「穿く」とは違うので要注意。「佩」は1級配当で「ハイ」が音読み、「お・びる」とも訓む。「佩綬」(ハイジュ)、「佩犢」(ハイトク=武事をやめ農業に従事する)佩玉」(ハイギョク)、「佩刀」(ハイトウ)、「佩用」(ハイヨウ)、「環佩」(カンパイ)、「感佩」(カンパイ=感服)、「玉佩」(ギョクハイ)、「服佩」(フクハイ)、「佩帯」(ハイタイ)、「佩盾」(ハイだて)、「佩韋」(ハイイ=なめし皮を身につける)、「佩弦」(ハイゲン=弓づるを身につける)、合わせた四字熟語は「佩韋佩弦」(ハイイハイゲン=韋弦之佩イゲンノハイ=自分の性格を改めて修養しようと箴めのために物を身につけること)→出典は「韓非子・観行」。

 →風紀上宜しくない。信用できない。胡散臭い。

 ●万乗の君(バンジョウのきみ)

 「当時はこれが、無上の佳味として、上は万乗の君の食膳にさえ、上せられた。」

 →天子。大国の君主。「一天万乗」(イッテンバンジョウ)から由来しており、「一天」は「天下のすべて、天下中の意」。「乗」は兵車、または兵を数える単位。中国周代の制では兵車一乗には甲兵(武装した兵)三人、歩卒七十二人、輜重(荷物を運ぶ者)二十五人の合計百人が就いた。「万乗」は兵車一万台の意で人数換算では百万人の兵隊となり、それほどの軍隊を出せる領地を持っている人ということ。万乗の主ともいう。

 ●伏菟(ふと)、《氷魚》(ひお)

 「品数の多い割りに碌な物はない、餅、伏菟、蒸鮑、干鳥、宇治の氷魚、……」

 →奈良時代に唐から輸入された、米粉を油で揚げた餅。伏兎と書くのが一般的。「ぶと」とも訓む。柏餅の原型ともされる。

 →鮎の稚魚。半透明で氷のようなのでこの名がある。琵琶湖産のものが特に有名。ひうお。ひのいお。こおりのいお。冬の季語。調理法は醤油の煮つけが一般的。

 ●恪勤(カクゴン)

 「声の主は、その頃同じ基経の恪勤になっていた、民部卿時長の子藤原利仁である。」

 →平安時代、禁中・院・貴族に仕え、警護や雑役を勤める下級の武士の称。また、鎌倉時代になると、宿直を勤める番衆の類の称。恪勤者(カクゴシャ)。「恪」は1級配当で「つつ・しむ」が音読み。「精励恪勤」(セイレイカッキン)は「力の限りを尽くして勉学や仕事に励むこと」。ほかに、「恪遵」(カクジュン)、「恪守」(カクシュ)、「恪励」(カクレイ)。

 ●栗(ゆでぐり)

 「肩幅の広い、身長の群を抜いた逞しい大男で、これは、栗を噛みながら、黒酒の杯を重ねていた。もう大分酔がまわっているらしい。」

 →茹でた栗。「」は配当外(JIS第3水準8756)で「ヨウ・ソウ」「いためる」「ゆでる」。


 ●橙黄橘紅(トウコウキッコウ)、窪坏(くぼつき)

 「所謂、橙黄橘紅を盛った窪坏や高坏の上に多くの揉烏帽子や立烏帽子が、笑声と共に一しきり、波のように動いた。」

 →これは芥川の造語のようです。色とりどりのミカン類の実。「橙」は1級配当で「だいだい」。「橘」は準1級配当で「キツ」。いずれも柑橘類、ミカン類。

 →深めの容器。壺皿(つぼざら)の類。

 ●談柄(ダンペイ)

 「兎に角、談柄はそれからそれへと移って、酒も肴も残少になった時分には、……」

 →はなしのたね。話柄。

 ●櫨(はじ)

 「晴れながら、とげとげしい櫨の梢が、眼に痛く空を刺しているのさえ、何となく肌寒い。」

 →黄櫨(はぜのき)の別称。ウルシ科の落葉高木。秋に美しく紅葉する。5~6月ごろ、葉腋に黄緑色の小花をつける。果実は灰黄色、扁円形。実から木蠟を採り樹皮は染料となるので栽培もされる。はぜ、はじのき。「櫨」は1級配当で音読みは「ロ」、「はぜ」。

 ●路次(ロジ)

 「利仁が一人居るのは、千人ともお思ひなされ。路次の心配は、御無用じゃ。」

 →みちすじ。みちのついで。みちすがら。途次。道中。古くは「ろし」と言った。

 ●《行潦》(みずたまり)

 「馬蹄の反響する野は、茫々たる黄茅に蔽われて、その所々にある行潦も、つめたく、青空を映したまま、この冬の午後を、何時かそれなり凍ってしまうかと疑われる。」

 →雨が降って路上や庭などに溜まった水。別称は「にわたずみ」。「潦」は1級配当で「ロウ」、これ一字でも「にわたずみ」。「行潦」は「コウロウ」と音読みもあり。このほかの熟語は「旱潦」(カンロウ)、「潦水」(ロウスイ)、「霖潦」(リンロウ)。

 ●頤使(イシ)

 「五位は、ナイイヴな尊敬と讃嘆とを洩らしながら、この狐さへ頤使する野育ちの武人の顔を、今更のように、仰いで見た。」

→人をあごでこき使う。威張って人に指図すること。「頤指」とも。「頤」は1級配当で「おとがい」「あご」が訓読み。「解頤」(カイイ)、「朶頤」(ダイ)、〔頤を解く〕(おとがいをとく=大笑い)、「頤令」(イレイ)、「頤養」(イヨウ)、「頤和」(イワ)。

 ●幇間(ホウカン)

 「読者は、今後、赤鼻の五位の態度に、幇間のような何物かを見出しても、それだけで妄にこの男の人格を、疑う可きではない。」

 →たいこもち。お座敷を取り持つピエロ。男芸者。「幇」は「幇助」で既出(第82回)。

 ●《漣》(さざなみ)

 「此処は琵琶湖に臨んだ、ささやかな部落で、昨日に似ず、どんよりと曇った空の下に、幾戸の藁屋が、疎にちらばっているばかり、岸に生えた松の樹の間には、灰色の漣をよせる湖の水面が、磨くのを忘れた鏡のように、さむざむと開けている。」

 →「漣」(準1級配当「レン」)の一字で「さざなみ」。「」は配当外(JIS第3水準8706)で「イ」「なみ」。「瀾」(イラン=さざなみとおおなみ)、「漣」(イレン=さざなみ)。「さざなみ」はほかに「小波」「細波」。

 ●雀色時(すずめいろどき)

 「殊に、雀色時の靄の中を、やっと、この館へ辿りついて、長櫃に起してある、炭火の赤い焔を見た時の、ほっとした心もち、――それも、今こうして、寝ていると、遠い昔にあった事としか、思われない。」

 →夕暮れ。日暮れ時。たそがれどき。暮れ六つ時。お洒落な言い回しです。

 ●曹司(ゾウシ)

 「万事が、京都の自分の曹司にいた時と比べれば、雲泥の相違である。」

 →武家や貴族の邸宅内で子弟に与えられる部屋。下級役人の栖む蛸部屋。「御」が付くと「御曹司」(オンゾウシ)。金持ちのお坊ちゃまですね。

 ●斛(コク)

 「広庭の所々には、新しく打ったらしい杭の上に五斛納釜を五つ六つ、かけ連ねて、白い布の襖を着た若い下司女が、何十人となく、そのまわりに動いている。」

 →もともと斗(ます)。容量の単位で1斛は10斗。時代で変わり、周代では19・4リットル、隋・唐代では59リットル、宋代以降は5斛で、約48リットル。日本では1石に相当し、すなわち約180リットル。5斛は900リットルで釜のおおむねのサイズが推し測れます。「斛」は1級配当で「斗斛」(トコク)、「万斛」(バンコク)、「幾斛」(イッコク)。

 

【鼻】


 ●沙弥(シャミ)

 「五十歳を越えた内供は、沙弥の昔から、内道場供奉の職に陞った今日まで、内心では始終この鼻を苦に病んで来た。」

 →出家して十戒を受けた少年僧。日本では、少年に限らず、一般に、出家してまだ具足戒を受けずに正式の僧になっていない男子。

 ●鋺(かなまり)

 「第一飯を食う時にも独りでは食えない。独りで食えば、鼻の先が鋺の中の飯へとどいてしまう。」

 →金属製の椀(わん=円形の器)。「鋺」は1級配当で「エン」が音読み。「まり」とも訓む。

 ●中童子(チュウドウジ)

 「一度この弟子の代りをした中童子が、嚏をした拍子に手がふるえて、鼻を粥の中へ落した話は、当時京都まで喧伝された。」

 →寺で、給仕や高僧の外出時の供などの雑用に使った12、13歳の少年。「上童子」(ジョウドウジ)が最上級。「大童子」(ダイドウジ)もあるが、これは中童子よりも格下。出家できるのが中童子で、大童子は出家できない。

 ●《知己》(しるべ)

 「所がある年の秋、内供の用を兼ねて、京へ上った弟子の僧が、知己の医者から長い鼻を短くする法を教わって来た。」

 →「しりあい」「近づき」とも読む。「知る辺」が元々で「知己」を当てた。ゆかりのある人のこと。

 ●聴従(チョウジュウ)

 「そうして、内供自身もまた、その予期通り、結局この熱心な勧告に聴従する事になった。」

 →人の忠告に耳を傾けて従うこと。素直なさまを表しており、四字熟語に「婉娩聴従」(エンベンチョウジュウ=女性が従順なさま)があります。

 ●折敷(おしき)

 「そこで折敷へ穴をあけて、それを提の蓋にして、その穴から鼻を湯の中へ入れる事にした。」

 →薄い折板(へぎいた)・ヘギの四方を折りまわして縁取りにした角盆または隅切り盆。仏前、神前に供え物を盛るときや食器を乗せるのに用いたトレー。白木の台である三方のこと(三方向に孔があいている)。檜、紫檀などの木から作る。「おりしき」とも訓む。

 ●茎(くき)

 「脂は、鳥の羽の茎のような形をして、四分ばかりの長さにぬけるのである。」

 →鳥の羽の茎状の柄。

 ●橡(とち)

 「翌朝、内供がいつものように早く眼をさまして見ると、寺内の銀杏や橡が一晩の中に葉を落したので、庭は黄金を敷いたように明るい。」

 →トチノキのこと。落葉性の高木で、温帯の落葉広葉樹林の重要な構成種の一つ。高さ25m、太さも1mを越えるものも。葉柄は長く、その先に倒卵形の小葉5~7枚を掌状につけ(掌状複葉)、全体の長さは50cmにもなる。葉は枝先に集まって着き、初夏にその間から穂状の花序が顔を出す。個々の花と花びらはさほど大きくないが、雄しべが伸び、全体としてはにぎやかで目立つ姿である。花は白~薄い紅色。丸い果実が熟すと厚い果皮が割れて少数の種子を落とす。「橡」は準1級配当で「ショウ」。「くぬぎ」「つるばみ」のことも指す。

 ●九輪(クリン)

 「塔の屋根には霜が下りているせいであろう。まだうすい朝日に、九輪がまばゆく光っている。」

 →塔の露盤上にある心柱上部の装飾。請花の上、水煙の下にある九つの輪。空輪。


 【第四の夫から】


 ●海彼(カイヒ)

 「では万里の海彼にいる君の幸福を祈ると共に、一まずこの手紙も終ることにしよう。」

 →海のかなた。海外、外国。

 

【杜子春】


 ●誂える(あつらえる)

 「象牙の椅子を誂えるやら、その贅沢を一々書いていては、いつになってもこの話がおしまいにならない位です。」

 →注文してつくらせる。とくに、洋服にいう。また、頼んで自分の思うようにさせる。「誂」は1級配当で「チョウ」が音読み。「誂え向き」(あつらえむき)は「注文どおりであること。希望や要求に合っていること」。

 ●審しい(いぶかしい)

 「老人は審しそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。」

 →「訝しい」の当て字。不審である。うたがわしい。通常は「つまびらかにする」。

 ●眷属(ケンゾク)

 「その代りおれの眷属たちが、その方をずたずたに斬ってしまうぞ。」

 →一族。親族。みうち。「眷族」とも。「眷」は1級配当で「かえり・みる」が訓読み。「眷想」(ケンソウ)、「眷恋」(ケンレン=思い慕う)、「眷眷」(ケンケン)、「恩眷」(オンケン)、「寵眷」(ケンチョウ)、「眷顧」(ケンコ)、「宸眷」(シンケン=天子に目を懸けられる)、「厚眷」(コウケン)、「眷焉」(ケンエン=眷然ケンゼン)、「眷遇」(ケングウ)、「眷接」(ケンセツ)、「眷眄」(ケンベン=めをかける)、「眷命」(ケンメイ)。

 ●袍(きもの)

 「階の上には一人の王様が、まっ黒な袍に金の冠をかぶって、いかめしくあたりを睨んでいます。」

 →「うえのきぬ」とも訓みます。体を外からすっぽり包む上着。外套。「袍」は1級配当で「ホウ・ボウ」が音読み。「わたいれ」の訓もあり。「戦袍」(センポウ)、「褞袍」(オンポウ=どてら)、「位袍」(イホウ)、「錦袍」(キンポウ)、「黄袍」(コウホウ)。

 ●跪く(ひざまずく)

 「これは兼ねて噂に聞いた、閻魔大王に違いありません。杜子春はどうなることかと思いながら、恐る恐るそこへ跪いていました。」

 →両ひざを地面や床につけてももを立て、身をかがめる。敬意などを表わす。

 ●笏(しゃく)

 「すると閻魔大王は、持っていた鉄の笏を挙げて、顔中の鬚を逆立てながら、…」

 →束帯を着た時に、右手に持つ細長い薄板。また、備忘用に書き留める板。カンペ。「笏」は1級配当で「コツ」が音読みですが、「骨」に通じるので忌み嫌われ、長さが一尺であったことから「しゃく」「さく」と呼ぶようになった。「玉笏」(ギョクしゃく)、「笏拍子」(しゃくビョウシ)。竹簡を模った。素材は玉、竹、象牙など。


 【魔術】


 ●金満家(キンマンカ)

 「これじゃ一週間とたたない内に、岩崎や三井にも負けないような金満家になってしまうだろう。」

 →財産家、金持ち。稍死語になりつつありますが、「ヒルズ族」もまさに金満家。この言葉には真っ当な手段では儲けていない「嘲り」のニュアンスが存ると思います。


 【文章】


 ●歿くなる(なくなる)

 「きのうの朝歿くなられたです。脳溢血だと云うことですが、……」

 →死ぬ。おわる。「歿」は1級配当で「ボツ」。「没」が書き換え。「歿年」(ボツネン)は「死んだときの年齢。また、その年次」。

 ●《手巾》(ハンケチ)

 「旧式の束髪を俯向けたかげに絹の手巾を顔に当てた器量好しの娘さんである。」

 →ハンカチ。当て字。シュキンとも読む。

 ●看客(カンカク)

 「保吉はこう云う光景の前にまず何よりも驚きを感じた。それからまんまと看客を泣かせた悲劇の作者の満足を感じた。」

 →見る人。見物人。観客。読者。

 ●高免(コウメン)

 「しかし保吉の心の中には道化の服を着たラスコルニコフが一人、七八年たった今日もぬかるみの往来へ跪いたまま、平に諸君の高免を請いたいと思っているのである。………」

 →赦免の尊敬語。おゆるし、ご容赦。

 

【蜘蛛の糸】


 ●蕊(ズイ)

 「池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。」

 →種子植物の生殖器官。雄しべと雌しべ。準1級配当漢字で「しべ」が訓読み。蕋、蘂ともに異体字。

 ●萼(うてな)

 「その玉のような白い花は、御釈迦様の御足のまわりに、ゆらゆら萼を動かして、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。」

 →花のがく。最も外側にあって花を保護し支えているもの。はなぶさ。1級配当で「ガク」が音読み。「花萼」(カガク)、「紅萼」(コウガク)、「緑萼」(リョクガク)。


 【トロッコ】


 ●軽便鉄道(ケイベンテツドウ)

 「小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。」

 →一般の鉄道より簡便な規格で建設された鉄道。知っていればいいが、案外読めないのでは。「ケイビン」と読んでしまいそう。意味が「簡便」(カンベン)、「便利」(ベンリ)から「ベン」と覚えましょう。

 ●袢天(ハンテン)

 「煽るように車台が動いたり、土工の袢天の裾がひらついたり、細い線路がしなったり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思う事がある。」

 →袢纏。印半纏の略。襟、背、腰回りなどに屋号、氏名などの標幟を染め抜いた袢纏。主に木綿製。職人の間で用い、また、雇い主が使用人や出入りの者に支給して着用させる。法被とも。「袢」は1級配当で「ハン・バン」。はだぎ、あせとりの意味。「襦袢」(ジュバン)は和服の下に着る肌着。


 【お富の貞操】


 ●燐光(リンコウ)

 「竈さえわからない台所にも、この時だけは無気味な燐光が見えた。」

 →黄燐が空中で自然に発生する青白い光。「燐」は準1級配当で「リン」。「燐火」(リンカ)、「燐酸」(リンサン)、《燐寸》(マッチ)。

 ●駕籠舁き(かごかき)

 「往来を馳せ過ぎる駕籠舁きの声、――その外には何も聞えなかった。」

 →駕籠をかつぐ人。かごや。《駕籠》は竹・木などでつくった箱形のものに棒を通して前後でかつぎ、人を載せて搬ぶ乗り物。「舁」は1級配当で「ヨ」「か・く」「かつ・ぐ」。「舁夫」(ヨフ)。

 ●荒神の松(コウジンのまつ)

 「狭い板の間を塞いだ竈、蓋のない水瓶の水光り、荒神の松、引き窓の綱、――そんな物も順々に見えるようになった。」

 →「荒神」は「三宝荒神」の略で、竈の神、火除けの神。そこに供える松はところどころに胡粉を塗る。

 ●酒筵(さかむしろ)

 「が、人音のないのを見定めると、これだけは真新しい酒筵に鮮かな濡れ色を見せた儘、そっと台所へ上って来た。」

 →酒樽をくるむむしろ。藺、蒲、藁などで編んだもの。「筵」は1級配当で「エン」が音読み。「宴」という意味もあり、「筵席」(エンセキ)、「開筵」(カイエン)、「経筵」(ケイエン)、「瓊筵」(ケイエン)、「講筵」(コウエン)、「四筵」(シエン)、「舞筵」(ブエン)。

 ●《湯帷子》(ゆかた)

 「乞食は猫を撫でやめると、今度は古湯帷子の懐から、油光りのする短銃を出した。」

 →通常は「ゆかたびら」と訓む。《浴衣》のことで、「(蒸し風呂などに入る際)汗をとり、火傷などをしないよう、素肌に着た麻の単衣(ひとえ)」。

 ●検べる(しらべる)

 「そうして覚束ない薄明りの中に、引き金の具合を検べ出した。」

 →取調べる。しらべあらためる。「検」の表外訓み。「あらた・める」とも訓む。

 ●闖入者(チンニュウシャ)

 「乞食は咄嗟に身構えながら、まともに闖入者と眼を合せた。」

 →突然無断で入り込んでくること。無遠慮におしいること。「闖」は1級配当で「急に入り込む」。「闖然」(チンゼン)。

 ●業腹(ゴウはら)

 「彼女はまだ業腹そうに、乞食の言葉には返事もせず、水口の板の間へ腰を下した。」

 →非常に腹の立つこと。怒りに耐えないこと。癪に障ること。忌々しいこと。「ゴウフク」ではなく重箱読みであることに注意。

 ●擂鉢(すりばち)

 「すると猫は何時の間にか、棚の擂鉢や鉄鍋の間に、ちゃんと香箱をつくっていた。」

 →ゴマや味噌などを入れて、すりこぎでつぶすのに使うはち。ラッパ形の土焼製で、内側の面に縦に刻み目がある。「擂」は1級配当で「ライ」「す・る」。「擂り粉木」(すりこぎ)、「擂鼓」(ライコ)、「擂盆」(ライボン)。

 ●扭じ伏せる(ねじふせる)

 「新公は打たれても、引っ掻かれても、遮二無二お富を扭じ伏せようとした。」

 →捻じ伏せる、捩じ伏せる。「扭」は配当外(JIS第4水準1293)で「ジュウ」。手を捻じ曲げてつかむ。

 

【鼠小僧次郎吉】


 ●如心形(ニョシンガタ)

 「親分と呼ばれた男は、如心形の煙管を啣えた儘、僅に苦笑の色を漂わせたが、…」

 →千家茶道中興の祖である7代の如心斎(1705-51)は、現在の家元制度の基盤を築き上げた人物とされ、茶道人口の増加にともない、茶の湯が遊芸化へと傾きつつあった時代にあって、新たな稽古の方法として七事式を考案した。彼が好んで愛用した煙管のこと。

 ●唐桟(トウザン)

 「唐桟の半天をひっかけた男は、煙草の煙にむせながら、思わず又苦笑を洩らしたが、…」

 →唐桟織の略。紺地に浅葱・赤などの縦の細縞を織り出した綿織物のこと。江戸時代、通人が羽織・着物などに愛用。もとインドのサントメから渡来したもので、のち京都で織り出したものを和桟留、舶来物を唐桟留または唐桟といったが、現在はサントメ縞の総称。

 ●《掻攫う》(かっさらう)

 「私だって何も盗っ人の肩を持つにや当ら無えけれど、あいつは懐の暖え大名屋敷へ忍びこんじゃ、御手許金と云うやつを掻攫って、その日に追われる貧乏人へ恵んでやるのだと云いやすぜ。」

 →横合いからすばやく奪い去り盗むこと。「カキサラウ」の音便。「攫」は1級配当で「カク」「つか・む」「さら・う」。「一攫千金」(イッカクセンキン)、「攫取」(カクシュ)、「攫噬」(カクゼイ=つかんでかみつく)、「攫鳥」(カクチョウ=鷙鳥)、「攫搏」(カクハク)。

 ●冥加(ミョウガ)

 「いや、鼠小僧と云う野郎も、改代町の裸松が贔屓になってくれようとは、夢にも思っ
ちゃ居無えだろう。思えば冥加な盗っ人だ。」

 →神仏の通力によって冥々の裡に人を加護すること。転じて、人知れず神仏から加護せられる利益のこと。思いがけない幸せ。冥利。

 ●脚絆(キャハン)

 「脚絆草鞋の足拵えは、見てくればかり軽そうだが、当分は御膝許の日の目せえ、拝まれ無え事を考えりゃ、実は気も滅入っての、古風じゃあるが一足毎に、後髪を引かれるような心もちよ。」

 →人体の脛部分に巻かれる布のこと。旅姿には必須アイテム。脚の血行をよくする効果がある。《脛巾》(はばき)。「脚半」とも。

 ●獅噛火鉢(しがみひばち)

 「おれたち二人が中へ這入ると、帳場の前の獅噛火鉢へ噛りついていた番頭が、まだ『御濯ぎを』とも云わ無え内に、意地のきたねえようだけれど、飯の匂と汁の匂とが、湯気や火つ気と一つになって、むんと鼻へ来やがった。」

 →脚に獅噛がついている金属製の円形の火鉢。獅噛は、獅子の頭を模様化した装飾で、兜の目庇の上や火鉢の脚などに、飾りとして用いることが多い。

 ●面妖(メンヨウ)

 「来て見りゃおれの股ぐらから、あの野郎がもう片息になって、面妖な面を出していやがる始末よ。こりゃ誰が見ても大笑いだ。」

 →不思議な、奇妙な。

 ●上分別(ジョウフンベツ)

 「と云ってこれから寝られやせず、何かと云う中にや六つだろうから、こりゃ一そ今の内に、ちっとは路が暗くっても、早立ちをするのが上分別だと、こう思案がきまったから、…」

 →good idea 、wise policy。最上の賢い判断。賢明な選択。

 ●木念仁(ボクネンジン)

 「広い土間のまん中にゃ、あの越後屋重吉と云う木念人が、繩尻は柱に括られながら、大あぐらをかいていやがる。」

 →朴念仁。言葉少なく無愛想な人。また、道理の分からないもの。わからずや。

 ●劫羅(コウラ)

 「ほんによ、こんな胡麻の蠅も、今に劫羅を経て見さっし、鼠小僧なんぞはそこのけの大泥坊になるかも知れ無え。」

 →劫(コウロウ)と同義。年功。「甲羅を経る」とも書いて、長生きする。長い経験を積んで物事に熟練する。「劫を経る」とも。

 ●鼬(いたち)

 「違え無え。高々鼬小僧位な所だろう。」

 →《鼬鼠》とも。イタチ科の哺乳動物の総称。日本特産。体は茶褐色。夜間、鼠や鶏などを捕食し、敵に襲われると悪臭を放って逃げる。〔鼬の最後っ屁〕、〔鼬のなき間の貂の誇り〕(いたちのなきまのテンのほこり)、「鼬ごっこ」。1級配当で「ユウ・ユ」が音読み。

 ●黏(とりもち)

 「下手な道中稼ぎなんぞするよりや、棒っ切の先へ黏をつけの、子供と一しょに賽銭箱のびた銭でもくすねていりゃ好い。」

 →当て字の訓読み。「粘」の異体字。ねばい。ねやす。「黏稠」=「粘稠」(ネンチュウ=粘り気があって密度や濃度が濃いこと)。

 ●雷獣(ライジュウ)

 「三年前の大夕立に雷獣様を手捕りにした、横山宿の勘太とはおらが事だ。」

 →落雷とともに現れる鼬または猛獣容で姿形は定まらない妖怪。一説には「平家物語」において源頼政に退治された鵺は実は雷獣であるとも。絵や彫刻などに雷神とともに描かれる。

 ●合天井(ゴウテンジョウ)

 「…と親切ずくに云ってやりゃ、あの阿呆の合天井め、まだ芝居がし足り無えのか、…」

 →これは特に見当たらないですが、「ノー天気な野郎」と罵る言葉でしょう。合天井は格天井で、「格子状に組んだ木の上に板を張った天井のこと」。阿呆の極みということでしょうか。

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今日だけは泣こう、そして次こそは笑おう…

 ↑ タイトル入れ忘れ…

「たまご」さんお久ですぅ。
本日のタイトルはシンプルですが衝撃的ですね。
「ラブ・アフェア」終りましたか…
2週間ほど前のコメでは「順調ウフフ」とあったので少し吃驚しています。
う~ん、漢字の師匠ではありますが、何であれお弟子さんのunhappinessは悲しいものです。
今日のところは師匠も一緒に泣きましょうね。

若者よ、次のチャンスを目指しなさい。。。
また一つ成長したね。人として大きくなれたね。。。

と言うしかないよね。無理矢理で申し訳ないですが。。。

勉強とラブ・アフェアーはうまくいけば相乗効果があるんでしょうが、あちらを立てればこちらが立たずのライバル関係であることが多い。当面はラブ・アフェアーを封印して漢字学習に打ち込むというなら「覚悟」を決めましょうや。「師匠が引くほど漢字の鬼になってやる~」―。
この言葉を自ら迸らせている「たまご」さん。。。
i-232」「i-240」…どっちの絵文字がいまの本音かは言う迄もない。
絮いですが今日だけは師匠も一緒に泣かせてもらいます。。。

でも、その代わり秋の本番合格の暁には一緒に笑わせてもらいますよ。v-411
「ちゃら~ん」ってね。。。

ラブ・アフェアー終了

ラブ・アフェアー終了しました。。。i-241

これから、本番にむけて煩悩に邪魔されず勉強に打ち込めるってもんすよi-232。。。フフフ。。。。

せっかく師匠がこんなに大量にアップしてくれていますからねi-175

私も師匠が引くほど漢字の鬼になってやる~i-240(泣)

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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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