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「胞衣」「水沫」…さまざまな熟字訓を翫わおう〔芥川龍之介作品学習シリーズ(from 「mixi日記」 of char)〕24

 

[「介」の章]

 いよいよ最後の章に突入です。

 【馬の脚】


 ●螫す(さす)

 「奉天から北京へ来る途中、寝台車の南京虫に螫された時のほかはいつも微笑を浮かべている。」

 →(主に毒虫が)人の肌に針を突き立てること。「螫」は1級配当で「セキ」が音読み。「どく」と訓むこともあります。「驚螫」(キョウセキ)=(啓蟄)は中国暦の二十四節気のひとつで、毎年陽暦の3月5日、6日に当たる。「螫毒」(セキドク=虫の毒)、「螫虫」(セキチュウ=毒虫)、「螫傷」(セキショウ)。有名な故事成語に〔猛虎の猶予するは蜂の螫を致すにしかず〕(モウコのユウヨするはホウタイのセキをいたすにしかず)は「猛虎はどんなに強くても、ためらっていては、蜂やサソリがちくりと刺すのにも及ばない。力ある者でも決断力がなく実行しなければ、無力でなんの役にも立たない」(出典は「史記・淮陰侯伝」)があります。

 ●余憤(ヨフン)

 「年とった支那人はこう言った後、まだ余憤の消えないように若い下役へ話しかけた。」

 →冷めやらない怒り。どうにも収まり切らない怒り。まだ晴れない鬱憤。またまた新たな「怒り」の登場です。3月11日付「震怒」の欄で結構な数を取り上げましたが、まだまだありました。「癇癪」(カンシャク)、「逆上」「私憤」「公憤」「義憤」「悲憤」「憂憤」「発憤」「積憤」「積忿」(セキフン)、「恚憤」(イフン)、「向かっ腹」「中っ腹」(1月17日付)、「小腹」(こばら)、「業腹」(ゴウはら)。

 ●引導(インドウ)

 「のみならずちょうど寝棺の前には若い本願寺派の布教師が一人、引導か何かを渡していた。」

 →葬儀式の際、導師が死者に与える法語を述べて死者を浄土へ導き成仏させるためのもの。一般にも「引導を渡す」などと言い、「あきらめさせる」意味で用いられる。本来は迷妄の衆生を仏道に引き導く事をいう。浄土真宗を除く各宗で行われている。

 ●馘首(カクシュ)

 「万一この脚の見つかった日には会社も必ず半三郎を馘首してしまうのに違いない。」

 →雇い主が雇用人を首にする。解雇。fire。類義語は「解傭」。「馘」は1級配当で「カク」「くびき・る」。「みみき・る」とも訓む。「俘馘」(フカク)、「斬馘」(ザンカク)、「馘耳」(カクジ)、「馘截」(カクセツ)。

 ●瞞着(マンチャク)

 「しかし同僚を瞞着するよりも常子の疑惑を避けることは遥かに困難に富んでいたらしい。」

 →欺くこと。だますこと。誤魔化すこと。人の目を晦ますこと。「瞞」は1級配当で「マン・バン」「くら・ます」「だま・す」「あざむ・く」。「欺瞞」(ギマン=人目をあざむき、だますこと)、「瞞然」(マンゼン)。「あざむく」はほかに「欺く」「謾く」「誣く」「詭く」「詒く」「罔く」「紿く」「詑く」「誑く」。

 ●租界(ソカイ)、槐(えんじゅ)

 「俺はあのオオクションへ行った帰りに租界の並み木の下を歩いて行った。並み木の槐は花盛りだった。運河の水明りも美しかった。しかし――今はそんなことに恋々としている場合ではない。俺は昨夜もう少しで常子の横腹を蹴るところだった。……」

 →行政自治権や治外法権をもつ清国内の外国人居留地。阿片戦争後の不平等条約により中国大陸各地の条約港に設けられた。foreign settlements。一方、租借地というのもあって、期限が限られているとはいえ租借国の領土と変わらない。
 例えば司法に関しては、租借地だと租借国が植民地並みにほぼ全面的な裁判権を持っている。これに対し、租界は租界内に住む中国人に対する裁判権は原則として中国側が持ち、治外法権として自国民に対する裁判権だけが租界設定国にあった。それでも租界を設置していた列強各国は中国と不平等条約を結んでおり、租界の内外関係なく中国全土での自国民への裁判権は持っていた。

 →マメ科の落葉高木。中国原産。幹の高さ約10~15メートル。樹皮は淡黒褐色で割れ目がある。夏に黄白色の蝶形花をつけ、のち連珠状の莢を生ずる。街路樹に植え、材は建築・器具用。花の黄色色素はルチンで高血圧の薬。また乾燥して止血薬とし、果実は痔薬。「槐」は1級配当で「カイ」が音読み。「槐樹」(カイジュ)、「槐門棘路」(カイモンキョクロ=政界の最高幹部)=「三槐九棘」(サンカイキュウキョク)、「槐位」(カイイ)、「槐棘」(カイキョク)、「槐門」(カイモン)、「台槐」(タイカイ)。

 ●馭者(ギョシャ)

 「藍色の幌を張った支那馬車である。馭者も勿論馬車の上に休んでいたのに違いない。」

 →馬車に乗って馬を操る人。御者。「馭」は1級配当で「ギョ」。「制馭」(セイギョ)、「馭極」(ギョキョク=天子が位につくこと、即位)、「煙馭雲車」(エンギョウンシャ=乗り物)。

 ●嘶く(いななく)

 「すると馬は――馬車を牽いていた葦毛の馬は何とも言われぬ嘶きかたをした。」

 →馬が声高く鳴くこと。オノマトペは「ヒヒーン」ですかね。「いばう」ともいう。「嘶」は1級配当で音読みは「セイ」。「長嘶」(チョウセイ)、「嘶嘶」(セイセイ)、「嘶叫」(セイキョウ)、「嘶号」(セイゴウ)。故事成語に〔越鳥南枝に巣食くい胡馬北風に嘶く〕(エッチョウナンシにすくいコバホクフウにいななく)があります。「中国南方の“越”から来た渡り鳥は南側の枝に巣を作り、北方の“胡”からやって来た馬は北風が吹くと故郷を思い出していななく」という意味。則ち、故郷を忘れ難いことのたとえ、望郷の念が強いこと。

 ●疳走る(かんばしる)

 「俺はその疳走った声の中に確かに馬の笑ったのを感じた。」

 →声がキンキンとかん高く、鋭く響くこと。「甲走る」「癇走る」と書くのが一般的でしょう。英訳すれば、to make a shrill sound。「疳」は2008年3月11日の「疳癖」で紹介済み。病的で神経質なさまを表します。「疳走った声」というのは「甲高い声」のこと。

 ●斃馬(ヘイバ)、庫倫(クローン)

 「然るに半三郎の馬の脚は徳勝門外の馬市の斃馬についていた脚であり、そのまた斃馬は明らかに張家口、錦州を通って来た蒙古産の庫倫馬である。」

 →死んだ馬。文字通りは「たおれた馬」。「斃牛」(ヘイギュウ)もある。「斃」は1級配当で「ヘイ」「たお・れる」(2008年1月17日付「仆れる」で既出)。「斃死」(ヘイシ)、「仆斃」(フヘイ)、「斃仆」(ヘイフ)、「路斃」(ロヘイ=野垂れ死に)、「斃而后已」(たおれてのちやむ=死ぬまでやり通す。命のあるかぎりやる)→出典は「礼記・表記」。

 →モンゴル国の首都ウランバートル(モンゴル語で赤い英雄の意)の中国語名。モンゴルのほぼ中央部にあり、交通・文化の中心地。17世紀にラマ教の活仏の住地として建設。近年、工業も行われる。

 ●細引(ほそびき)

 「それからやっと長椅子へかけると、あっけにとられた細君に細引を持って来いと命令した。」

 →麻を縒り合わせた細い紐、細いロープ。径が約6ミリ程度の麻縄。最近は精巧な素材を用いて作られているものが多く、例えば登山で重宝する。

 ●〔椽大の筆〕(テンダイのふで)

 「この公道を代表する『順天時報』の主筆牟多口氏は半三郎の失踪した翌日、その椽大の筆を揮って下の社説を公にした。――」

 →垂木(たるき)のような大きな筆という意味から、転じて、立派な文章のこと。堂々たる大文章。「椽」は1級配当で「たるき」。1月26日付「楹」の欄で紹介済み。「~を揮う」などと使用する。「椽筆」(テンピツ)、

 ●人事不省(ジンジフセイ)

 「同仁病院長山井博士の説によれば、忍野氏は昨夏脳溢血を患い、三日間人事不省なりしより、爾来多少精神に異常を呈せるものならんと言う。」

 →まったく知覚や意識を失うこと。重病や重傷などで意識不明になり、昏睡状態になること。「人事」は「人のなしうること」の意。「不省」は「わきまえない、かえりみない」の意。類義語は「前後不覚」。読みは「ジンジフショウ」ではないので要注意。

 ●金甌無欠(キンオウムケツ)

 「それわが金甌無欠の国体は家族主義の上に立つものなり。」

 →物事が完全で欠点がないたとえ。特に、外国からの侵略を受けたことがなく、安泰で堅固な国家や天子の位のたとえ。黄金の瓶(かめ)に少しも欠け損じたところがない意。「金甌」は「黄金の瓶。高貴なもの」ということから、「国家や天子の位」に喩え、「金甌欠くる無し」と訓読する。「完全無欠」が類義語。
 「かめ」は既に、「甕」「瓶」など何度か取り上げました。「甌」も「かめ」で1級配当です。

 ●道塗(ドウト)、逍遥(ショウヨウ)、飽食暖衣(ホウショクダンイ)

 「彼等はことごとく家族を後に、あるいは道塗に行吟し、あるいは山沢に逍遥し、あるいはまた精神病院裡に飽食暖衣するの幸福を得べし。」

 →道路。路上。「塗」も道の意。「道塗を顧みる」は「自分がたどってきた道のりを振り返る」。韓非子(孤憤第11)に「当塗之人、擅事要、則外内為之用矣」が見えます。この場合の「当塗之人」は「まさに現在の道を統べる人、すなわち国家の要人」。(彼が)自由自在に政治を操っていると、内外の諸侯がこれに仕えて働くことになる」という意味。
 「道聴塗説」は「人に聞いたことをすぐ受け売りして話すこと」。「一敗地に塗れる」「塗炭の苦しみ」、「塗巷」(トコウ)、「塗人」(トジン)。

 →そこここをぶらぶらと歩くこと。散歩。漫歩。散策。「逍」は1級配当、「遥」は準1級配当。そぞろ歩き。いわゆる「銀ブラ」は銀座を逍遥することです。明治の文豪にして評論家、劇作家の坪内逍遥の本名は坪内雄蔵。

 →暖衣飽食、煖衣飽食とも書いて、物質的になんの不足もない満ち足りた生活。出典は孟子の「滕文公・上」で、「人の道有るや、飽食暖衣、逸居して教えらるるなければ、則ち禽獣に近し」(人間の道とは何かについて教えよう。飽食して暖かい衣服をまとい、快適な住宅に住んでも、教育を与えられなければ鳥獣と同じである)。錦衣玉食が類義語。

 ●土崩瓦解(ドホウガカイ)

 「然れども世界に誇るべき二千年来の家族主義は土崩瓦解するを免れざるなり。」

 →物事が根底から崩れ、もはや手のほどこしようがない状態のこと。土が崩れ、瓦がくだける。史記の「秦始皇記」に出典があります。

 ●軽忽(ケイコツ)

 「然れども軽忽に発狂したる罪は鼓を鳴らして責めざるべからず。」

 →軽々しくそそっかしいこと。軽はずみ。「キョウコツ」とも読む。類義語は「粗忽」(ソコツ)で紹介済み。

 ●満腔(マンコウ)

 「吾人は貞淑なる夫人のために満腔の同情を表すると共に、賢明なる三菱当事者のために夫人の便宜を考慮するに吝かならざらんことを切望するものなり。……」

 →満身。体全部。体中。転じて、気持ちが身のうちからあふれ出ることを意味し、「満腔の謝意」「満腔の怒り」などと使います。「腔」は準1級配当で「コウ・クウ」。体内の中空になっている部分のことで、「腔腸」(コウチョウ)→「腔腸動物」(海月など)、「口腔」(コウクウ)、「体腔」(タイコウ)、「鼻腔」(ビコウ)、「腔子裏」(コウシリ=からだのうち、心の所在)。

 ●戞々(カツカツ)

 「が、まだ一足も出さぬうちに彼女の耳にはいったのは戞々と蹄の鳴る音である。」

 →かたいものがかちかちと食い違って当たる音の形容。「戞然」で既出。まさに蹄(ひづめ)が地面を打つ音。「戛」は「うつ。武器・金属・石など、かたい物を打ち当てる」。

【春】


 ●猜疑(サイギ)

 「広子はちょっと苛立たしさを感じた。のみならず取り澄ました妹の態度も芝居ではないかと言う猜疑さえ生じた。」

 →人をそねみ疑うこと。「猜」は1級配当で「サイ」、「そね・む」「ねた・む」「うたが・う」。「猜怨」(サイエン)、「猜恨」(サイコン)、「猜禍吏」(サイカノリ)、「猜毀」(サイキ)、「猜険」(サイケン)、「猜嫌」(サイケン)、「猜謗」(サイボウ=そねみそしる)、「猜弐」(サイジ=ねたみうたがう)、「猜忍」(サイニン=ねたみ深く無慈悲)。「そねむ」はほかに「妬む」「嫉む」。「ねたむ」は「悋む」「冒む」「妬む」「嫉む」。「うたがう」は「弍う」「嫌う」。

 ●見縊る(みくびる)

 「しかしその割に彼女や辰子の家庭の事情などには沈黙していた。それは必ずしも最初から相手を坊ちゃんと見縊った上の打算ではないのに違いなかった。」

 →力や価値がないと見極めを付ける。軽んじ侮る。見下す。軽蔑する。舐める。英訳すれば、to make light of。「縊」は1級配当で「イ」が音読み。「くびる」は、首を絞めて殺すこと。「縊死」(イシ)、「縊殺」(イサツ)。「搤殺」(ヤクサツ)、「扼殺」(ヤクサツ)も首を絞めて殺すことです。


 【夢】


 ●火取虫(ひとりむし)


 「けれども長崎へ行って見ると、どの宿もわたしには気に入らなかった。のみならずやっと落ちついた宿も夜は大きい火取虫が何匹もひらひら舞いこんだりした。」

 →灯取虫とも書いて、火や灯りに集まる虫。「灯蛾」「火蛾(かが)」「燭蛾」とも。夏の季語です。「飛んで火に入る夏の虫」ですね。

 ●《胞衣》(えな)

 「 『先生、この下宿へはいる路には細い石が何本も敷いてあるでしょう?』 『うん。……』 『あれは胞衣塚ですね。』 『胞衣塚?』 『ええ、胞衣を埋めた標に立てる石ですね。』 『どうして?』 『ちゃんと字のあるのも見えますもの。』 」

 →出産直後に母体から排出される、胎児を包んでいた膜や胎盤などの総称。後産。ホウイ、ホウエとも読む。「胞衣塚」は、こどものへその緒や胎盤を埋め供養する。すなわち水子供養のためでしょう。江戸時代には胞衣納めといって、「産後五日あるいは七日に胞衣桶(えなおけ)に胞衣を洗って入れ、恵方の土中に埋める儀式を行った。胞衣桶の中には胞衣のほか、銭や米、麻糸、熨斗鮑などを少しずつ入れ、男子なら筆や墨、紙など、女子なら糸や針、紅、白粉などを入れる地方も。つまり、子供たちの出世や幸せを胞衣に托した。この胞衣桶は、人に踏まれるほど赤子が丈夫に育つという俗信から、敷居の下や、厩(うまや)の入口、人通りの多い辻などに埋めることもありましたが、多くは縁の下か墓地に埋めた」というのもあります。
 現代では「胞衣会社」というものがあり、こうした胎盤のほか、堕胎児の遺体を「汚物」として処理することを専門に業とする。社会の裏側にある知られざる実態ですね。


 【冬】


 ●陥し穽(おとしあな)

 「とにかく外見は友人のために時間や手数をつぶしている、しかし事実は友人のために陥し穽を掘る手伝いをしている、――あたしもずいぶん奮闘主義ですが、ああ云うやつにかかっては手も足も出すことは出来ません。」

 →落とし穴。他人を落とし入れる罠。約めて「陥穽」(カンセイ)とも読む。「穽」は1級配当で、音読みは「カン」。之れ一字で「おとしあな」とも訓む。「檻穽」(カンセイ)、「坎穽」(カンセイ)、「穽陥」(セイカン)。単なる「あな」は、「竇」「窩」「穹」「嵌」「壙」「塹」「坎」「坑」「竅」など。


 【温泉だより】


 ●一籌を輸する(イッチュウをユする)

 「しかし身の丈六尺五寸、体重三十七貫と言うのですから、太刀山にも負けない大男だったのです。いや、恐らくは太刀山も一籌を輸するくらいだったのでしょう。」

 →成語林によりますと、(「籌」は勝負事などで点数をかぞえる竹製の道具。かずとり。「輸する」は、負けるの意。)一点だけ負けるの意から転じて、わずかの差で他人に劣る。相手に一歩おくれをとること。引けをとること。「籌」は1級配当で「チュウ」「かずとり」「はかりごと」。「籌策」「籌筴」(以上、チュウサク、はかりごと)、「籌画」(チュウカク)、「籌略」(チュウリャク)、「運籌」(ウンチュウ)、「牙籌」(ガチュウ)、「籌商」(チュウショウ)=「籌議」(チュウギ)、「籌度」(チュウタク)、「籌算」(チュウサン)。「輸する」は「シュする」とも読む。表外読み。「輸贏」(シュエイ、ユエイ)は「勝ち負け」。

 ●達磨茶屋(ダルマヂャヤ)

 「『青ペン』と言うのは亜鉛屋根に青ペンキを塗った達磨茶屋です。」

 →私娼を置いている宿。売春宿。「達磨」は下等な売春婦の異称。

 ●発頭人(ホットウニン)

 「それから、――それから先は誇張かも知れません。が、とにかく婆さんの話によれば、発頭人のお上は勿論『青ペン』中の女の顔を蚯蚓腫れだらけにしたと言うことです。」

 →事を企て起こした人。張本人。首謀者。originator、promoter。

 ●夷講(えびすコウ)

 「やはり『お』の字のお上の話によれば、元来この町の達磨茶屋の女は年々夷講の晩になると、客をとらずに内輪ばかりで三味線を弾いたり踊ったりする、その割り前の算段さえ一時はお松には苦しかったそうです。」

 →えびす講(恵比須、恵比寿須、恵美須須、戎講、胡須、蛭子須とも)は、地方により異なるが、主に10月20日・11月20日などに催された祭。神々が神無月に出雲に出かける時期に留守を預かる留守神として竃様(かまどのかみ)を祠り、一年の無事の感謝やまたは魚や根菜を中心とした青物が売られ、農業や漁業の神として五穀豊穣、大漁祈願を願い民間行事または秋祭りとして、古くは数多くの各家庭や社寺で行われていた年中行事だった。
 年のはじめに行われるえびす講として1月10日の前後3日または15日に、福神・商売繁盛の神である「えびす」を祭神として行われる神社・寺の祭事を特にさすこともある。別称、えびす祭・十日えびす・えべっさんとも。近畿地方や四国、名古屋で行われるものが有名だが、関東や九州などでも行われる。商売繁盛を祈願して、たくさんの縁起物を飾った福笹が買い求められる。この福笹につける縁起物は神社から授与されるもので「吉兆」と呼ばれている。(以上、ウィキから抜粋要約)

 ●独鈷(トッコ)

 「共同風呂のまん中には『独鈷の湯』の名前を生じた、大きい石の独鈷があります。」

 →独鈷石のことで、縄文時代後期、晩期の磨製石器の一種。形が独鈷(両端が分岐していない、剣のように尖っている金剛杖)に似ており、初めは一種の斧、のちには祭祀用になった。もっとも、文中にある「独鈷の湯」は実在の場所。ウィキによると、静岡県伊豆市修善寺の修善寺温泉を流れる桂川の中にある史跡的温浴施設。川の中央にあり、土台の岩や大きな石を組んで浴槽をかさ上げ、湯を楽しむことが出来る。
 由来は、弘法大師が大同2年(807年)に修善寺を訪れた際、そこに病に疲れた父親の体を河で洗う少年を見つけた。少年の親孝行に感心した大師は手に持った独鈷杵で河中の岩を打ち砕き、霊験灼かなる温泉を噴出させた。大師は、温泉が疾病の治療に有効であることを説き、これにより父子は十数年来の固疾を時をおかずして完治させることができ、これより修善寺に湯治療養が広まったと伝えられ、これが修善寺温泉発祥の温泉と言われる。伊豆最古の温泉と言われる。かつては、修善寺温泉に7ヶ所あった外湯のひとつであったが現在は修善寺温泉のシンボルとして管理され、観光客が手で触れて温泉を楽しんでいる。法により浴場としての位置付けが無いため入浴は禁止されている。
 したがって、この作品の舞台はどこにも書かれていないが、この一語によって伊豆・修善寺だということが分かります。

 ●小倉服(こくらフク)

 「その枝に半ば遮られた、埃だらけの硝子窓の中にはずんぐりした小倉服の青年が一人、事務を執っているのが見えました。」

 →旧陸軍の被服の一つで、福岡・小倉で生産された綿織物を用いたもの。厚くて丈夫だが防寒には適さないという。しかし、以上の説明は正確ではあるが、一般的に小倉服といえば学生服の異称でもある。

【海のほとり】

 ●弘法麦(コウボウむぎ)

 「庭には何もないと言っても、この海辺に多い弘法麦だけは疎らに砂の上に穂を垂れていた。」

 →カヤツリグサ科の多年草。各地の海辺砂地に自生。葉はカヤツリグサに似て硬く、長さ約30センチメートル。雌雄異株。春に黄褐色の花穂を出す。ウミゴメ。フデグサ。弘法大師の筆に見立てた。

 ●《餞別》(はなむけ)

 「わが私の餞別ならず、里見殿の賜ものなるに、辞わで納め給えと言う。」――

 →旅立ちや門出に饋る品物・金銭または詩歌、言葉など。「馬の鼻向け」から。「センベツ」との音読みもあり。「餞」は1級配当で「セン」、これ一字で「はなむけ」。「宴餞」(エンセン)、「祖餞」(ソセン)、「餞筵」(センエン)、「餞宴」(センエン)、「餞亭」(センテイ)、「餞送」(センソウ)、「餞行」(センコウ)。「はなむけ」は「贐」とも書く。これも1級配当で「ジン・シン」。「贐送」(ジンソウ)、「贐儀」(ジンギ)、「贐行」(ジンコウ)、「贐銭」(ジンセン)。

 ●上膊(ジョウハク)、《水母》(くらげ)

 「海にはこの数日来、俄に水母が殖えたらしかった。現に僕もおとといの朝、左の肩から上膊へかけてずっと針の痕をつけられていた。」

 →ひじから肩までの部分。上腕部。「膊」は1級配当で「ハク」「うで」。「下膊」(カハク)はひじから手首まで。「臂膊」(ヒハク)は「うで」。

 →刺胞動物門に属する動物のうち、浮遊生活をする種の総称。体がゼラチン質で、普通は触手を持って捕食生活をしている。《海月》とも書く。

 ●蓼(たで)

 「さあ、蓼じゃなし、――何と言いますかね。Hさんは知っているでしょう。わたしなぞとは違って土地っ子ですから。」

 →タデ科の1年草。単にタデと言う場合は、ヤナギタデを指す。「蓼食う虫」の蓼もヤナギタデ。特有の香りと辛味を持ち、香辛料として薬味や刺身のつまなどに用いられる。品種としては、柳タデ(本タデ)、紅タデ、青タデ、細葉タデなどがある。タデの葉をすりつぶして酢でのばしたものはタデ酢と呼ばれ、アユの塩焼きに添えられる。辛味成分はポリゴジアール。諺に〔蓼食う虫も好き好き〕があり、「他に草があるにも係わらず辛い蓼を食べる虫も居るように、人の好みは様々で、一般的には理解しがたい場合もあるということ」。英語では、There is no accounting for tastes.谷崎潤一郎の作品に「蓼食う虫」があるのは超有名ですね。ぜひ読みましょう。

 ●《虎魚》(おこぜ)

 「Nさんはバットに火をつけた後、去年水泳中に虎魚に刺された東京の株屋の話をした。」

 →通常はオニオコゼのことをさす。カサゴ目オニオコゼ科に属する魚類。「鰧」(1級配当、「トウ」)とも書く。体長20センチメートルほどだが大型になると25センチメートル以上になる。背びれの棘には毒腺を持ち、刺されると激しく痛む。食用になり、刺身や吸い物になる。非常に美味だが可食部が少ない上に高価な魚。
 ちなみに《魚虎》と書くと違う魚になる。さあなんと読む。今をときめくお笑いコンビ「はりせんぼん」。(もう落ち目か?)。面白いですね。こちらはフグの仲間。「針千本」は、フグ目・ハリセンボン科に分類される魚の総称。体表に多数の棘があり、フグと同様体を膨らませてイガグリのような状態になることでよく知られている。

 ●《水沫》(みなわ)

 「しかし海だけは見渡す限り、はるかに弧を描いた浪打ち際に一すじの水沫を残したまま、一面に黒ぐろと暮れかかっていた。」

 →ミズノアワ、ミナアワの約。水のあわ。あわ。水しぶき。《水泡》とも書く。とてもきれいな言葉です。山上憶良の歌に「水沫なす もろき命も 栲縄(たくなわ=楮などの繊維で作った縄で、「千尋」の枕詞)の 千尋(ちひろ)にもがと 願ひ暮らしつ」(『万葉集・巻五』)があります。

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Author:char
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2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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