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「海髪」の筍?「依怙」ロジー?〔芥川龍之介作品学習シリーズ(from 「mixi日記」 of char)〕22

 本日2度目のupは「三右衛門の罪」から。芥川の時代作品で時々舞台になる加賀藩物です。「名君」の誉れ高い前田治修が家臣の三右衛門が犯した依怙贔屓の罪を裁く。依怙が依怙であるがゆえに変形していくプロセスは誰しもあること。こうした心理描写にかけては、芥川は一流です。


 【三右衛門の罪】


 ●(はやぶさ)、える(たずさえる)

 「鷹には公儀より御拝領の富士司の大逸物を始め、大鷹二基、鶽二基をえさせ給う。」

 →タカ目ハヤブサ科の鳥。大きさはカラスぐらい。頭は黒色、背面は石板色。成鳥は胸から腹にかけて灰黒色の横斑があるが、幼鳥では縦斑。原野・水辺などにすみ、小鳥などを捕食する。飛翔はきわめて速く、古来鷹狩りに使われた。なおハヤブサ科は、カラカラ類約15種を含め世界に約60種。日本ではチョウゲンボウなど7種が知られる。「はやぶさ」は「鶻」(1級配当、「コツ」)、「隼」(準1級配当、「シュン・ジュン」)が一般的。「鶻影」(コツエイ)、「鶻突」(コットツ=混沌)、「鶻淪」(コツリン)。「」は配当外(JIS4水準9433)で「シュン」「はやぶさ」「わし」。

 →ささげる。かかげる。「」は配当外(JIS第3水準8492)で「ケイ・ギョウ」。

 ●蹲踞(ソンキョ)

 「この様を見たる喜左衛門は一時の怒に我を忘れ、この野郎、何をしやがったと罵りけるが、たちまち御前なりしに心づき、冷汗背を沾すと共に、蹲踞してお手打ちを待ち居りしに、上様には大きに笑わせられ、予の誤じゃ、ゆるせと御意あり。」

 →敬礼の一種。貴人の通行に出会ったとき、両膝を折ってうずくまり、頭を垂れる。また、貴人の面前を通るとき膝と手とを座に付けて会釈すること。相撲では、爪先立ちで踵の上に尻を載せて腰をおろし、膝を開いて上体を起こした状態を指す。
 ともに1級配当で「蹲」は「うずくま・る」「つくば・う」「つくば・い」、「踞」は「うずくま・る」。「蹲循」(ソンジュン=逡遁)、「蹲蹲」(ソンソン)、「蹲鴟」(ソンシ=芋)、《蹲踞》(つくばい)。「踞侍」(キョジ)、「踞敖」「踞傲」(以上、キョゴウ)、「箕踞」(キキョ)、「蟠踞」「盤踞」(以上、バンキョ)、「踞座」(キョザ)、「踞肆」(キョシ)、「踞蹲」(キョソン)。

 ●圜(まる)

 「清八は得たりと勇みをなしつつ、圜揚げ(圜トハ鳥ノ肝ヲ云)の小刀を隻手に引抜き、重玄を刺さんと飛びかかりしに、上様には柳瀬、何をすると御意あり。」

 →「圜」は1級配当で「カン・ゲン・エン」「めぐ・る」「わ」「まる・い」。「圜丘」(エンキュウ=円丘)、「圜宰」(エンサイ=天)=「圜則」(エンソク)、「圜視」(エンシ=目を瞠る、カンシ=ぐるりと周囲を見回す)、「圜牆」(エンショウ=圜土・エンド=円く囲ったへい、ろうや)、「圜繞」(カンジョウ=ぐるりとかこむ)。

 ●震怒(シンド)

 「清八はこの御意をも恐れず、御鷹の獲物はかかり次第、圜を揚げねばなりませぬと、なおも重玄を刺さんとせし所へ、上様にはたちまち震怒し給い、筒を持てと御意あるや否や、日頃御鍛錬の御手銃にて、即座に清八を射殺し給う。」

 →怒りに震えること。烈火のごとく怒ること。特に、天子または天神の怒りを言う。
 怒りの種類は、「激怒」「激昂」「嚇怒」「赫怒」「憤怒」「憤激」「激憤」「瞋恚の炎」(シンイのほのお)、「憤然」「怫然」(フツゼン)、「赫然」「忿然」(フンゼン)、「忿怒」(フンヌ)、「憤慨」「慨嘆」「憤懣」(フンマン)、「憤悶」(フンモン)、「鬱憤」「悲憤」「義憤」「業腹」(ゴウはら)、「痛憤」「立腹」「逆鱗」「逆上」。

 ●疳癖(カンペキ)

 「色の浅黒い、筋肉の引き緊った、多少疳癖のあるらしい顔には決心の影さえ仄めいている。」

 →神経過敏で怒りやすい性質。類義語は「癇癪」(カンシャク)、「癇癖」(カンペキ)。「疳」は1級配当。「脾疳」(ヒカン)、「下疳」(ゲカン)、「疳積」(カンシャク)、「疳高」(カンダカ)。

 ●依怙(エコ)

 「すると数馬はそちの行司に依怙があると思うたのじゃな?」

 →不公平、情実。favoritism。もともとの「頼る」という意味から、「偏る」という意味に転じた。「依怙贔屓」(エコヒイキ)で頻出語。「怙」は1級配当で「コ」「たの・む」。「怙恃」(コジ)は「両親」→詩経の「父無ければ何をか怙まん、母無ければ何をか恃まん」から。「「依」を「エ」と読むのは、「帰依」(キエ)、「依怙地」(エコジorイコジ)。

 ●北叟笑む(ほくそえむ)

 「その時はもう苦笑いよりは北叟笑んでいたことも覚えて居りまする。」

 →物事が思い通りにうまくいった時、満足してひそかに笑う。満足そうに微笑む。また、ひとり悦に入って笑う。「人間万事塞翁が馬」(淮南子・人間訓)の主人公である北叟(ほくそう=北辺の要塞のほとりに住む老人)が、渠をめぐる一喜一憂の事象が起きるたびごとに少し笑ったという故事から。飼っていた馬が逃げてしまったが、駿馬を連れて戻ってきたとか、息子がその馬から落馬してかたわになったと思いきや、そのおかげで戦争に行かずに済み死をまぬかれた――など、まさに「禍福は糾える縄の若し」。
 「叟」は1級配当で「ソウ」「おきな」。「迂叟」(ウソウ)、「村叟」(ソンソウ)、「野叟」(ヤソウ=田舎のおやじ。村の老人。野翁。)。
 田父野叟は、語るに黄鶏白酒を以てすれば、則ち欣然として喜び、問うに鼎養を以てすれば、則ち知らず。語るに縕袍裋褐を以てすれば、則ち油然として楽しみ、問うに袞服を以てすれば、則ち識らず。其の天全し、故に其の欲淡し。此れは是れ人生第一個の境界なり。(菜根譚後集102)

 ●切り紙(きりがみ)

 「数馬は切り紙でござりまする。しかしあの試合に勝って居りましたら、目録を授ったはずでございまする。」

 →「切り紙免許」の略で「切紙」と書くのが一般的。芸能・武芸などで半紙に記した免許目録。入門時や新たな伝書を頂戴する毎に誓書を差し出し、親兄弟といえどもワザを他言しないことを誓うために授ける。修行が進むにつれ、切紙、目録、免許など3~4段階の伝書が与えられた。中には2~8段階の流派もあったが、免許まで10年前後かかるのが一般的であったようだ。さらに、修業を積み、門人をとって道場を開ける指南免許までは10年を要する。当然のことながら、全員が出世できるわけではなく、現実には切紙や目録止まりの人が多く、指南免許まで辿り着くのは一部の優秀者や経済的貢献度の高かった者、義理のある者などに限られていた。
 例えば、天然理心流(新撰組の近藤勇らも所属した)の伝法の順位を見ると、▼切紙=入門から1年半▼目録=切紙から1年半、累計3年▼中極位目録=目録から3年2カ月、累計6年2カ月▼免許=中極位目録から3年10カ月、累計10年▼印可=免許から5年、累計15年▼指南免許=印可から5年、累計20年。

 ●脾腹(ヒバラ)

 「数馬の脾腹を斬られたのはこの刹那だったと思いまする。」

 →横腹、脇腹。「脾」は1級配当で「ヒ」。五臓の一つである「脾臓」(ヒゾウ)が原義。「もも」のことも「脾肉」(ヒニク=髀肉→「髀肉の嘆」の方が有名=腕前を見せる機会がなくて、時を過ごす嘆き)。「肝脾」(カンピ)、「脾腫」(ヒシュ)もあり。

 ●嘱す(ショクす)

 「わたくしは一体多門よりも数馬に望みを嘱して居りました。」

 →たのむ。望みをかける。「嘱望」(ショウクボウ)、「委嘱」「依嘱」「遺嘱」(以上、イショク)、「嘱目」(ショクモク)。「嘱む」は「たのむ」(表外訓み)。「たのむ」はほかに、「頼む」「恃む」「怙む」「馮む」「憑む」「倚む」「托む」「負む」。

 ●私曲(シキョク)

 「行司はたといいかなる時にも、私曲を抛たねばなりませぬ。」

 →自分の利益になるようにすること。不正な手段で自身だけの利益をはかること。利己心があって正しくないこと。私利私欲。英訳は、an act done for one's own benefit。中国語では「私曲」(スウチユ)。
 欺詐的の人に遇わば、誠心を以て之を感動させ、暴戻的の人に遇わば、和気を以て之を薫蒸せしめ、傾邪私曲的の人に遇わば、名義気節を以て之を激礪す。天下、我が陶冶の中に入らざること無し。(菜根譚前集176)。

 ●(しのぎ)

 「それからかれこれ十合ばかりは互にを削りました。」

 →配当外(JIS第4水準9105)で「リョウ」。金属の名前らしいですが、いまいち不明。芥川はこの漢字をもって「しのぎ」と訓ませていますが、当て字っぽい。「鎬」(1級配当、「コウ」「なべ」)の方が一般的です。「鎬を削る」と用いて、「互いに力を出し合って激しく争う」=火花を散らす。「鎬」は「刀の刃と峰との中間にあって補強のため少し盛り上げた稜線部分のことで、鎬を削り取るほどのぶつかり合うさまを表したもの」。英訳すれば、to compete ruthlessly。新説は建築用語で「(刀の鎬は)棟木のように、山形に削った形を示す。バランス上、両側を等しい傾斜に削らなければならないので、片一方を多く削ると他を削らなければならないことから、削り合戦状態の如く、両者が激しく争っていることを《しのぎを削る》と言うようになった」というのも見つかりました。

 

 

【たね子の憂鬱】


 ●《章魚》(たこ)

 「そこにはシャツ一枚の男が一人『食堂』の女中とふざけながら、章魚を肴に酒を飲んでいた。」

 →「たこ」は、いずれも1級配当で「鱆」「鮹」「蛸」とも書く。
 漱石の「道草」に「章魚のようにぐにゃぐにゃしている肉の塊りと彼女との間には、理窟の壁も分別の牆もなかった。」があります。


 【金将軍】

 

 ●蹂躙(ジュウリン)

 「もしこのまま手をつかねて倭軍の蹂躙に任せていたとすれば、美しい八道の山川も見る見る一望の焼野の原と変化するほかはなかったであろう。」

 →ふみにじること。ふみつけること。特に、暴力・暴政あるいは強大な勢いで他人の権利・国土などを侵害すること。ともに1級配当で「蹂」は「ふ・む」が訓読み、「躙」は「にじ・る」=「躪」は異体字。「雑蹂」(ザツジュウ)、「践蹂」(センジュウ)、「蹂践」(ジュウセン)、「蹂藉」(ジュウセキ=人の対面を傷つける)。「人権蹂躪」(ジンケンジュウリン)が最もポピュラーでしょう。

 ●妓生(ギセイ)、玫瑰(マイカイ)

 「桂月香は八千の妓生のうちにも並ぶもののない麗人である。が、国を憂うる心は髪に挿した玫瑰の花と共に、一日も忘れたと云うことはない。」

 →キーセン。朝鮮語で「kisaeng」。朝鮮の官妓。狭義では李氏朝鮮統治下、明・清の皇帝からの使者や高官の歓待や宮中内の宴会などで楽技を披露するために準備された女性の賤民の事を差す。しかし、実際の妓生の位置付けは芸妓を兼業とする娼婦。現代の韓国では誰がなんと言っても「売春婦」を指す。キーサンとも。一昔前には「キーセン旅行」と称して、日本から大挙して買春ツアーが行われていました。北朝鮮の「喜び組」は妓生の名残かもしれません。
 「妓」は準1級配当で「ギ」「わざおぎ」「あそびめ」。「妓楽」(ギガク)、「妓院」(ギイン)、「妓楼」(ギロウ)、「妓女」(ギジョ)、「倡妓」「娼妓」(以上、ショウギ)、「歌妓」(カギ)、「官妓」(カンギ)、「芸妓」(ゲイギ)、「美妓」(ビギ)、「舞妓」(ブギ・まいこ)、「名妓」(メイギ)。

 →ハマナシ(浜梨)の漢名。《玫瑰》=ハマナス(浜茄子)の熟字訓訓みも。「バイカイ」とも読む。バラ科の落葉小低木。日本の北部の海岸砂丘地に自生。高さ1メートル半に及ぶ。夏に紅色のバラに似た芳香ある美花を開き、扁円形の果実は紅熟する。甘酸味あり。根皮は黄色染料に、花は矯味矯臭薬となる。
 いずれも1級配当で「玫」は「バイ・マイ」「うつくしいたま」、「瑰」は「カイ」「うつくしいたま」。「瑰偉」(カイイ)、「瓊瑰」(ケイカイ)。
 加藤登紀子の「知床旅情」(作詞・作曲:森繁久弥)にも「知床(しれとこ)の岬に 玫瑰(はまなす)の咲くころ」とありますね。


 ●鈴陣(レイジン)、宝鈴(ホウレイ)

 「この帳はまた鈴陣である。誰でも帳中に入ろうとすれば、帳をめぐった宝鈴はたちまちけたたましい響と共に、行長の眠を破ってしまう。」

 →人が入るたびに鈴が鳴る仕組みとなっている蚊帳を吊った寝台。

→仏前に供える鈴の美称ですが、ここでは単に鈴のこと。


 【寒さ】


 ●灰燼(カイジン)

 「ストオヴの火は息をするように、とろとろと黄色に燃え上ったり、どす黒い灰燼に沈んだりした。それは室内に漂う寒さと戦いつづけている証拠だった。」

 →灰と燃えさし。燃えかす。転じて、物が焼けてすっかり滅びてしまうこと。価値のない取るに足らないもの。「燼」は1級配当で「ジン」「もえさ・し」「もえのこ・り」。「余燼」(ヨジン)、「火燼」(カジン)、「焚燼」(フンジン)、「燼灰」(ジンカイ)、「燼滅」(ジンメツ)、「燼余」(ジンヨ=戦争や火災で生き残った人)。

 ●菰(こも)

 「踏切り番は――保吉は踏切り番の小屋の前に菰をかけた死骸を発見した。それは嫌悪を感じさせると同時に好奇心を感じさせるのも事実だった。」

 →あらく織った筵。もともとはマコモを原料としたが、今は藁を用いるのが通常。「菰」は準1級配当で「コ」「こも」「まこも」。コモはイネ科マコモ属の多年草。水辺に生え、葉は菖蒲に似て、むしろを編むのに用いる。秋に花を開き、実を結ぶ。実は食用となり、昔は六穀の一つに数えられていた。「菰蘆」(コロ)、「菰米」(コベイ)、「菰飯」(コハン)。「こも」は「薦」(表外訓み)もあり、こちらは検定試験でよく出ます。むしろ、「むしろ」が出るかも。「菰僧」=「薦僧」(こもそう)≒「虚無僧」「梵論字」。「薦被り」(こもかぶり)。
「荐」も1級配当で「こも」。「しきりに」とも訓んで「荐食」(センショク≒蚕食)という要注意熟語があります。「荐仍」(センジョウ=しきりにかさなる)、「荐臻」(センシン=災いがあとからあとから起こる=荐及センキュウ)。


 【少年】

 ●褪紅色(タイコウショク)、阿弥陀(アミダ)

 「褪紅色の洋服に空色の帽子を阿弥陀にかぶった、妙に生意気らしい少女である。」

 →ももいろ。淡紅色。ときいろ。「褪」は1級配当で「タイ・トン」「あ・せる」「さ・める」。色艶が薄くなるさま。また、女性の容色がおとろえるさま。「褪色」(タイショク・トンショク)、「褪衣」(トンイ=服を脱ぐ)。

 →「阿弥陀被り」の略。阿弥陀仏が光背を負ったように、帽子を後頭部に傾けて被ること。昔菅笠を被っているときに、菅笠の裏を見ると竹ひごが天辺を中心に放射状に並んでおり、これを頭の上に乗せ、少し後ろにずらして被れば、竹ひごが頭の中心から放射状に外側に向かっているさまが見え、それがあたかも阿弥陀仏の光背に似ているところからこう呼ばれるようになった。したがって、阿弥陀に帽子を被ると顔はフルオープン、御凸まで丸見えのケースもあるでしょう。反対に傾けると、「目深(まぶか)に被る」。

 ●真鍮(シンチュウ)

 「少女は自働車のまん中にある真鍮の柱につかまったまま、両側の席を見まわした。が、生憎どちら側にも空いている席は一つもない。」

 →銅と亜鉛の合金。黄色で、展性・延性に富むので細線・板・箔として用いる。また、侵食されにくく、機械・器具の部品にして、流動性に富むため精密な鋳物用ともなる。亜鉛分は30~45%用いられ、その量により各種の性質を与えうる。黄銅ともいう。「鍮」は1級配当で「チュウ・トウ」。訓はなく「真鍮」のほかに「鍮石」(トウセキ・チュウセキ)で使用。音符「兪」(ユ、しかり)は多くの漢字があります。一度取り上げましたが再度。「偸」(チュウ、ぬすむ)、「喩」(ユ、たとえる)、「揄」(ユ、からかう)、「渝」(ユ、かわる)、「楡」(ユ、にれ)、「瑜」(ユ)、「蝓」「ユ」、「踰」「ユ」(ユ、こえる、すぎる)、「覦」(ユ、こいねが・う)、「愈」「ユ」、「瘉」(ユい・える)、「逾」(ユ、こえる、すぎる)。

 ●竹の秀(たけのほ)

 「が、今はこの気味の悪い藪も狸などはどこかへ逐い払ったように、日の光の澄んだ風の中に黄ばんだ竹の秀をそよがせている。」

 →「秀」は「穂」と同源で、ぬきんでていること、ひいでていること、そとにあらわれること。「稲穂」「麦穂」「薄穂」。長い花軸の先端部に花や実が群がりついたもの。論語「子罕」に「秀でて実らず」があり、「(せっかく穂が出ていながら実らないということから)学問が進みながら完成しないで中途で終ることのたとえ」。


 ●《鮞脯》(からすみ)、辣薑(らっきょう)

 「保吉は未だに食物の色彩――鮞脯だの焼海苔だの酢蠣だの辣薑だのの色彩を愛している。」

 →ボラの卵巣を塩漬けにして圧搾乾燥させたもの。長崎の名産で「唐墨」に似ていることから名がついた。《子》と書くのが一般的。海栗、海鼠腸とあわせて三大珍味。
」は配当外(JIS第水準)で「ジ」。「はらご」「はららご」とも訓み、こちらは鮭の卵巣の塩漬け。宮城・亘理町の名物の「はらこめし」も、この字を当てて「飯」。「鯤」(コンジ)。
 「脯」は1級配当で「ホ・フ」「ほじし」「ほしし」。乾した鳥獣の肉のこと。以前、「肉山脯林」(ニクザンホリン=酒池肉林)で取り上げましたね。「脯資」(ホシ)は要注意単語で「旅行の費用」。「脯醢」(ホカイ)は「ほしにくと肉のしおから」で「死刑にして肉を醯にする刑罰」。

 →オオニラ。ユリ科ネギ属の多年生作物。中国原産。葉は細く秋に花茎を出し、その先に球状に集まった紫色の小花をつける。冬を越して初夏に地下に生じる白色の短紡錘形の鱗茎は臭気を有し、漬けて食用とする。熟字訓のほうは「辣韮」「辣韭」、漢字では「薤」の方が一般的か。「辣」は1級配当で「ラツ・ラチ」「から・い」、「薑」は1級配当で「キョウ」「はじかみ=生姜の別称」。「辣油」(ラーユ)、「辣腕」(ラツワン)、「悪辣」(アクラツ)、「辛辣」(シンラツ)、「辣手」(ラツシュ)、「薑桂」(キョウケイ)、「薑黄」(キョウオウ)、「生薑」(ショウキョウ、しょうが)。四字熟語に「薑桂之性」(キョウケイノセイ=年老いても渝わらない激しい気性)。

 ●《海髪》(うご)

 「彼はその晩も膳の前に、一掴みの海髪を枕にしためじの刺身を見守っていた。」

 →紅藻類のオゴノリの別称。暗紅色で細い紐状。数多くの枝があり、乱れた髪の形をなす。表面滑らかで全長30~100センチメートル。淡水が混入し、砂泥に覆われやすい内湾の磯や木杭などに付着する。熱湯で鮮緑色となったものを刺身のつまや海藻サラダに用い、また寒天製造の材料にもなる。「海」系熟字訓でも紹介済み。「おご」「おごのり」「いぎす」「てんぐさ」「なごや」などいろいろな呼び名がある。
 ちなみに、「めじ」は関東でマグロの30~60センチメートルぐらいの幼魚をいい、晩春のものが美味。めじ鮪。

 ●《寄生貝》(やどかり)

 「蟹や寄生貝は眩ゆい干潟を右往左往に歩いている。」

 →当て字で《寄居虫》とも書く。エビ目の甲殻類のうち巻貝の空き殻に入る種類の総称。体はエビ類・カニ類と同じく、一枚の頭胸甲で覆われた頭胸部と、七節に分かれた腹部とをもつが、腹部の甲殻や腹趾の発達がわるいものが多い。歩脚のうちの第一対は鋏脚、最後対は極めて小形。成長して大きくなると貝殻を取り替える。
 ちなみに《寄生木、宿木》(やどりぎ)は、他の植物に寄生して栄養分を吸収して成長する植物の総称。

 ●代赭色(タイシャいろ)

 「いや、ぬかるみのたまり水よりも一層鮮かな代赭色をしている。彼はこの代赭色の海に予期を裏切られた寂しさを感じた。」

 →「代赭」は、酸化鉄を多く含んだ「赭土」(あかつち)から取られた顔料のこと。その昔、中国の代州(現在の山西省)で良質の赭土が多く産出し「代州赭」と呼ばれ、それが短縮化されてこの色名になったとされる。ヨーロッパではイタリアのシェーナの土が有名。この顔料の原料となる赤鉄鉱は、硬くて粉末の顔料にするのが大変で、軈て人工的に製造されるようになり、結果として一般の酸化鉄顔料と同じになったが、産地の名前だけは色名として残った。日本画でも土や樹木、人間の肌色などの色彩に使われている。本文では海の色として用いられています。「鮮やかな代赭色」というのもある意味不気味ですな。
 「赭」は1級配当ながら既出で「あかい」。「赭顔」(シャガン)。

 ●塵労(ジンロウ)

 「が、とにかく保吉は三十年後の今日さえ、しみじみ塵労に疲れた時にはこの永久に帰って来ないヴェネチアの少女を思い出している、ちょうど何年も顔をみない初恋の女人でも思い出すように。」

 →煩悩のこと。穢れているから塵といい、心身を疲れさせるから労という。転じて、世間との煩わしい係わり合い。「塵」は準1級配当で「ちり」が訓読み。「塵埃」「塵穢」(以上、ジンアイ)、「塵芥」「塵界」「塵灰」(以上、ジンカイ)、「塵外」(ジンガイ)、「塵寰」(ジンカン=俗世間)、「塵垢」(ジンコウ)、「塵劫点」(ジンゴウテン=永劫)、「塵囂」(ジンゴウ)、「塵土」(ジンド)、「塵肺」(ジンパイ)、「埃塵」(アイジン)、「後塵」(コウジン)、「沙塵」「砂塵」(以上、サジン)、「俗塵」(ゾクジン)、「紛塵」「粉塵」(以上、フンジン)、「微塵」(ミジン)→「木っ端微塵」「微塵切り」。《塵芥虫》(ごみむし)=《歩行虫・芥虫》

 ●(やすり)

 「屋の子の川島は悠々と検閲を終った後、目くら縞の懐ろからナイフだのパチンコだのゴム鞠だのと一しょに一束の画札を取り出した。」

 →棒状の鋼の面に小突起(目)を多数つけたもの。工作物の面を平らに削り、また角落としなどに用いる。平・角・目立・三角・笹葉・刀・丸・甲丸・両甲丸などがあり、目の形により単目・複目・三段目・わさび目に、目の大きさにより油目・細目・中目・大目・荒目・大荒目などに分かれる。板状のものもある。「」は1級配当で「リョ・ロ」が音読み。「磨」(マリョ)、諺に〔と薬の飲み違い〕があり、「一見すると似ているが、実際はまったく異なることのたとえ。早合点をいましめるたとえ」。(8すりと9すりの語呂合わせ)

 ●俘(とりこ)

 「地雷火は悪い役ではない。ただ工兵にさえ出合わなければ、大将をも俘に出来る役である。保吉は勿論得意だった。」

 →生け捕りにした敵。捕虜。転じて、比喩的に、あることに心を奪われた人。「俘」は1級配当で「フ」が音読み。「俘囚」(フシュウ)、「俘虜」(フリョ)、「夷俘」(いふ)、「囚俘」(シュウフ)、「俘馘」(ふかく=敵を生け捕りにしてその左耳を切り取る)、「俘級」(フキュウ=生け捕りにした敵と、討ち取った敵の首)、「俘醜」(フシュウ=多くのとりこたち)。「とりこ」はほかに「擒」「虜」「禽」。「擒」は1級配当で「キン」「とら・える」。四字熟語に「七縦七擒」(シチショウシチキン=敵を捕えたり、逃したりして見方にすること⇒三国志の諸葛孔明が敵将の孟獲を7回擒にして7回縦ったところ、ついには背かなくなった故事から)。「生擒」(セイキン)、「縛擒」(バッキン)、「擒縦」(キンショウ)、「擒生」(キンセイ)、「擒捉」(キンソク=捕捉)。

 ●黄沙(コウサ)

 「彼は白い寝台の上に朦朧とした目を開いたまま、蒙古の春を運んで来る黄沙の凄じさを眺めたりしていた。」

 →中国大陸北西部のゴビ砂漠やタクラマカン砂漠で巻き上がった土ぼこりが偏西風に乗って朝鮮半島や日本に飛来、黄色く空を覆う。黄砂のこと。3~5月ごろに多発する。ジェット気流に乗れば北米まで飛んでいくことも。「霾」(バイ、1級配当)も黄沙の一種。霾り(つちぐもり)、霾る(つちふる)。「霾翳」(バイエイ)、「霾霧」(バイム)。「黄塵」(コウジン)とも。
 「沙」は準1級配当で「サ」「すな」「いさご」「よな・げる」。「沙汀」(サテイ)、「沙汰」(サタ)、「泥沙」(デイサ)、「竜沙」「流沙」(以上、リュウサ)、「沙塵」(サジン)、「沙中偶語」(サチュウグウゴ=臣下が謀叛の相談をすること)、「砂漠」(サバク)、「沙弥」(シャミ)、「沙門」(シャモン)熟字訓に《沙蚕》(ごかい)、《沙魚》(はぜ)、《沙翁》(シェークスピア、サオウ)がある。

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