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海潮音にも出てくる「大凶時」…ボドレエルだけどね〔芥川龍之介作品学習シリーズ(from 「mixi日記」 of char)〕㉑

 迂生のmixi(IDのある方はhttp://mixi.jp/show_profile.pl?id=12503116)日記で2007年12月~08年5月に行った「芥川龍之介の全作品を通じた漢字学習」の記録を弊blog「髭鬚髯散人之廬」に転載する作業を進めています。このシリーズも21回目となりました。まだ「之」の章です。まだまだ先は長い。本日も複数回upいたします。


 【猿蟹合戦】


 ●売笑婦(バイショウフ)

 「蟹の妻は売笑婦になった。なった動機は貧困のためか、彼女自身の性情のためか、どちらか未に判然しない。」

 →売春婦のことですが、なぜに「笑」なのか?某サイトに「古代中国の周の幽王は、絶世の美女・褒姒(ホウジ)の一笑を買おうとして烽火を上げ、国を失った。中国においては男の愛媚を求める有効な手段=笑みであり、そのため『売笑』という単語が用いられた。ちなみに『売春』という単語は日本で作られた雅語であり、中国古典にはその用例を見ない」とあり、どうやら中国発祥の言葉のようです。「笑」=「媚」。
 
 ●飜然(ホンゼン)

 「蟹の長男は父の没後、新聞雑誌の用語を使うと、『飜然と心を改めた。』今は何でもある株屋の番頭か何かしていると云う。」

 →心を急に翻して改めるさま。「ハンゼン」とも読む。「翻然」の書き換え。当て字で「ひらり」の読みもみえます。泉鏡花の作品に多い。「飜」は「翻」(4級配当)の異体字。「飜雲覆雨」(ホンウンフクウ=人情の反覆が定まらない喩え)=雲飜雨覆(ウンポンウフク)「杜甫の『貧交行』」。「翩翻」(ヘンポン)、《翻筋斗》(もんどり、ホンキント)、「翻濤」(ホントウ)、《翻車魚》(まんぼう)。

 

【保吉の手帳から】


 ●齧る(かじる)

 「ある冬の日の暮、保吉は薄汚いレストランの二階に脂臭い焼パンを齧っていた。」

 →堅いものの片端をかむ。「齧」は1級配当で「ゲツ・ケツ」が音読み、「か・む」「かぶ・りつく」とも訓む。「囓」は異体字。「齧噬」(ゲツゼイ)、「齧歯類」(ゲッシルイ=齧歯目の哺乳動物の総称。ネズミ・ウサギ・リスなど犬歯をもたず前歯(門歯)の発達したものの分類名)、「齧膝」(ゲッシツ=良馬)、「噬齧」(ゼイゲツ)。

 ●口腹(コウフク)

 「なかったとすれば実験である。人間はどこまで口腹のために、自己の尊厳を犠牲にするか?――と云うことに関する実験である。」

 →くちとはら。転じて、のみくい、飲食。関係ないですが、「口蜜腹剣」(コウミツフッケン)という四字熟語は、「《資治通鑑·唐紀·玄宗天宝元年》の“世謂李林甫‘口有蜜,腹有剣’” から。唐の玄宗の宰相李林甫が、口では甘いことをいいながら、陰で策を弄し、皇帝お気に入りの側近、とくに文学者を次々と失脚させた故事による。」

 ●榧(かや)

 「庭には槙や榧の間に、木蘭が花を開いている。木蘭はなぜか日の当る南へ折角の花を向けないらしい。」

 →イチイ科の常緑高木。幹の高さ約20メートル、周囲3メートルに達する。葉は扁平線状、革質で厚く、先端は鋭い。雌雄異株。4月ごろ開花し、実は広楕円形で核は食用・薬用都市、また、油を搾る。材は堅くて碁盤・将棋盤などを作るのに適している。「榧」は1級配当で「ヒ」。

 ●鶺鴒(セキレイ)

 「保吉は巻煙草に火をつけながら、木蘭の個性を祝福した。そこへ石を落したように、鶺鴒が一羽舞い下って来た。」

 →スズメ目セキレイ科に属する小鳥の総称。長い尾を上下に振る習性がある。多く水辺にすみ、セグロセキレイ・ハクセキレイ・キセキレイなどがいる。いしくなぎ。いしたたき。かわらすずめ。にわくなぶり。とつぎおしえどり。つつなわせどり。ともに1級配当で「鶺鴒」でしか使わない。

 ●《響尾蛇》(がらがらへび)

 「いや、観念したばかりではない。この頃は大浦を見つけるが早いか、響尾蛇に狙われた兎のように、こちらから帽さえとっていたのである。」

 →2008年1月24日付「蛇」で紹介済み。クサリヘビ科マムシ亜科の毒ヘビ。約30種が北米から南米にかけて分布。咬まれると致命的なものが多い。体長は約50~240センチメートル。尾端に表皮から変じた数個から十数個の角質の環状物があり、危険が近づくと尾を急激に振って、「じゃあ」あるいは「じい」という独特の音を発する。これが当て字に結びついている。


 ●照覧(ショウラン)

 「実に大浦の武士道を冥々の裡に照覧し給う神々のために擦られたのである。」

 →あきらかに見ること。神仏が光を照らしご覧になること。


 【お時儀】


 ●骨(コウコツ)

 「骨の名の高い彼の頸はいかなる権威にも屈することを知らない。」

 →「硬骨」の書き換え字。意志が堅く、権勢などたやすく人に屈しないこと。「」は配当外(JIS第3水準9442)で「コウ・キョウ」「のぎ=魚の堅い骨」。「直」(コウチョク)、「骨」(コツコウ)、「諤」(コウガク=遠慮せず直言する)、「毅」(コウキ=剛直で強いこと)、「言」(コウゲン=正論、直言)、「固」(コウコ=頑固)、「正」(コウセイ=「直」コウチョク)、「切」(コウセツ=芯が固く誠実)=「亮」(コウリョウ)、「論」(コウロン=剛直な議論)、「輔」(コウホ=剛直な輔佐の人)、「烈」(コウレツ=剛直にしてはげしい)、「強」(キョウコウ=強く言い張る、剛直にして屈せず)。
 韓非子(難言3)に「敦祇恭厚にして固慎完なれば、則ち見て以て掘(せつ)にして倫(みち)ならずと為さん。」(まじめ一方で慎み深く、手堅くて落ち度が無いと、話し方がまずくて筋がとおっていないと思われるでしょう)があります。


 【あばばばば】

 ●硯友社(ケンユウシャ)

 「それも当世のお嬢さんではない。五六年来迹を絶った硯友社趣味の娘である。」

 →明治期の文学結社。1885年、尾崎紅葉、山田美妙、石橋思案、丸岡九華によって発足。近代日本文学史上初の文芸雑誌である「我楽多文庫」を発刊し、後に川上眉山、巖谷小波、泉鏡花らが参加し当時の文壇で大きな影響を与える一派となった。紅葉の死によって解体したが、近代文体の確立など、その意義は大きい。
 当初は擬古典主義により、江戸期の戯作風の強い趣味的なものであった。だが坪内逍遥による写実主義の影響を受け、心理描写主体のものへ変遷。さらに、それは後に眉山、鏡花らによる観念小説、悲惨小説へとつながっていった。(以上ウィキペ抜粋)
 硯友社趣味というのは、当世流行った政治風刺ではなく一時代前の、やや古臭い擬古文学くらいの意味か。

 ●手絡(てがら)

 「尤も今では最初のように西洋髪などには結っていない。ちゃんと赤い手絡をかけた、大きい円髷に変っている。」

 →日本髪を結う際、円髷に巻きつけるなどして飾る布のことをいう。古くは「髷かけ」とも言った。素材は、多くは縮緬、高級武士では錦、明治に入ってからは和紙を加工したものも登場。色彩には特に規定があったわけではないが、若い娘や若奥様は鹿の子絞りで装飾した赤や桃色の華やかな色、年配の婦人は無地の藤色や浅葱色など落ち着いた色をよく使った。(以上ウィキペ要約)

 ●嬌羞(キョウシュウ)

 「しかし女は澄ましている。目も静かに頬笑んでいれば、顔も嬌羞などは浮べていない。」

 →女性のなまめかしい恥らい。恥らうさまがなまめかしいこと。2008年2月14日付の「嬌嗔」が、なまめかしい「怒り」であるのに対し、こちらは、なまめかしい「はにかみ」です。

 

【一塊の土】


 ●倅(せがれ)

 「お住の倅に死別れたのは茶摘みのはじまる時候だった。」

 →①自分の息子のことをへりくだっていう語②子供や年の若い者をぞんざいにいう語③俗に、陰茎のこと。1級配当で「サイ」「ソツ」。「丞倅」(ジョウサイ)、「倅然」(ソツゼン)。「せがれ」はほかに「伜」(異体字)、「悴」=「忰」(異体字)、「躮」(国字)。

 ●詰る(なじる)

 「お住は詰ると云うよりは訴えるように声をかけた。」

 →相手の過失や不満な点を問い詰める。問い詰めて責める。詰問する。「つめる、つまる」と訓まないので注意。「なじる」は表外の訓読み。

 ●《陸稲》(おかぼ)

 「お前さんとこのお民さんは顔に似合わなえ力があるねえ。この間も陸稲の大束を四把づつも背負って通ったじゃなえかね。」

 →畑で栽培されるイネ(稲)のこと。「リクトウ」と音読みもする。水稲に比べ収穫率や食味は落ちる(特に粳米)ものの、水田を作らずに畑に作付けできることから育成が容易である。日本でも作られていたが治水が進み、品種改良されるにつれほとんど水稲に取って代わられている。
 水稲との最大の違いは、水稲の作付けは苗の育成、田植え等の手間が非常にかかるのに対し、種籾(もみ)を畑に直播することからそれらの手間が省ける。また、イモチ病に強い利点もある。半面、畑で作るため連作が利かず、雑草を抜くのが大変な上、水稲以上に乾燥に弱いなどの欠点もある。
 かつて陸稲米は、あられ・煎餅の原料に用いられたが、現在では大半が水稲米を使用。 自衛隊の食事などにも用いられていたほか、生物学研究所の畑でも栽培されており、今上天皇も作付けを行われている。(以上ウィキペ要約)

 ●軛(くびき)

 「それは云わばはやり切った馬と同じ軛を背負された老馬の経験する苦しみだった。」

 →「轅(ながえ)の端にあって、牛の頚に当る横木のこと」と、「地獄変」(下)で牛車のパーツを紹介したときに取り上げました(2008年1月13日付)。比ゆ的に自由を束縛するもの。「衡」「頸木」とも書く。1級配当漢字で「ヤク」「アク」。


 ●籾(もみ)

 「或時は風呂を焚かなかった為に、或時は籾を干し忘れた為に、或時は牛の放れた為に、お住はいつも気の強いお民に当てこすりや小言を云われ勝ちだった。」

 →稲穂から扱いたままでまだ脱穀していない米。もみごめ。準1級配当の国字。「種籾」(やねもみ)、「籾殻」(もみがら)、「籾米」(もみごめ、もみよね)、「籾糠」(もみぬか)、「籾摺り」(もみすり)。

 ●(うそ)

 「おお、だとも、の皮だわ。お前のお母さんと云う人はな、外でばっか働くせえに、人前は偉く好いけんどな、心はうんと悪な人だわ。」

 →配当外(JIS第4水準8874)で「ク」。「うそ」は当て字。噓を言う、内容の無いことを言う。「うそ」は「嘘」=「噓」(異体字)が一般的で、準1級配当で「キョ」、「ふ・く」とも。「唏嘘」(キキョ)、「嘘言」(キョゲン)、「吹噓」(スイキョ)。ちなみに、鳥の「うそ」は「鷽」(1級配当で「ガク」)。

 ●《吃逆》(しゃくり)

 「お住は涙を流し流し、吃逆をするように笑い出した。……」

 →「しゃっくり」に同じ。「り」(1級配当、「エツ」)とも書く。「さくり」とも。


 【糸女覚え書】


 ●法諡(ホウシ)

 「秀林院様(細川越中守忠興の夫人、秀林院殿華屋宗玉大姉はその法諡なり)のお果てなされ候次第のこと。」

 →「諡」は1級配当で「シ」「おくりな」。功績をたたえて死んだ人に付ける名。其の人の生前にちなんでつける。例えば武功ある人には武、文徳ある人には文など。「諡号」(シゴウ)、「諡法」(シホウ)。「諱」(いみな=忌み名、1級配当「キ」)も広い意味の「諡」だが、私的なニュアンスが強い。「諡」は公的なもので「法諡」も「私諡」(シシ)に対して公称として通用したもの。日本では天皇以外にも江戸時代以降、朱子学の影響を受けて大名にも諡を付ける風習が広まった。秀林院は大名夫人。

 ●《虫唾》(むしず)、難渋(ナンジュウ)

 「わたくしは澄見の顔さえ見れば、虫唾の走るほど厭になり候えども、秀林院様はさのみお嫌いも遊ばされず、時には彼是小半日もお話相手になさること有之、その度にわたくしども奥女中はいずれも難渋仕り候。」

 →「~が走る」と用いて、「①腹が減って、胃液が口の中に逆流する②口中に胃液が上がってきて、吐き気を催(もよお)す。転じて、多く、酷く忌み嫌うことに喩える」。「虫酸」とも書く。「虫唾が出る・虫唾が来る」という言い方もあり。類義語は「反吐(へど)が出る」。「唾」は準1級配当で「ダ」「つば、つばき」(2008年1月25日付「唾罵」で紹介済み)。「唾壺」(ダコ)。この場合の「虫」は、口の中にこみ上げると不快になる胃液を体内の虫に例えて「虫唾(虫酸)」と呼んだのが始まり。昔は人間の体の中に実体の無い虫が存在して、この虫が悪さをして人間の不快感等を引き起こしていると考えられていた。「腹の虫」「虫の知らせ」「虫がおさまらない」などの言葉もここから来ています。芥川の「酒虫」(2008年1月19、20日付日記)で出てきた虫もこの一種でしょうか。

 →苦労すること。なやむこと。難儀。

 ●側杖(そばつえ、そばづえ)

 「然るに人質に出で候わん人、一人も無之候えば、出し申すことなるまじくなどとは一も二もなき喧嘩腰にて、側杖を打たるるわたくしどもこそ迷惑千万に存じ候。」

 →「~を打たれる」と用いて、「へたにそばにいたため自分とは関係が無いのに巻き添えを食らう。争いのとばっちりを受ける」といった意味。「傍杖」とも書く。このほかにも、「側杖を食う」「側杖を受ける」「側杖に会う」「側杖に当たる」などの言い方がある。類義語は「巻き添えを食う」「とばっちり」「尻が来る」「火の粉が降り掛かる」。肯えて英訳すれば、get struck by accident during a fight。

 ●棕梠(シュロ)

 「殊にわたくしは蝸牛にも、鴉にも、豚にも、亀の子にも、棕梠にも、犬にも、蝮にも、野牛にも、病人にも似かよい候よし、くやしきお小言を蒙り候こと、末代迄も忘れ難く候。」

 →棕櫚・椶櫚とも書く。ヤシ科シュロ属の常緑高木の総称。特に、日本原産のワジュロをいう。幹は高さ6メートル余、円柱状で直立。幹頂に葉を叢生、葉柄は長く、葉身はほぼ円形、掌状に深裂。雌雄異株。5月頃、葉腋に分岐した花序を生じ、黄色の小花をつけ、小球状の核果を結ぶ。材は柱・器皿・鉢・盆または撞木とする。毛苞は縄・刷毛はけ・箒とし、葉は晒して毛払い・夏帽子・敷物などとする。同属で中国原産のトウジュロと共に、庭園などに植栽。
 棕櫚縄(シュロなわ)は、シュロの毛を綯ってつくった縄。耐水性に富む。しゅろづな。
 いずれも1級配当。「棕」「椶」「櫚」「梠」。

 ●大凶時(おおまがとき)

 「この日の大凶時、霜は御庭前の松の梢へ金色の十字架の天下るさまを夢のように眺め候よし、如何なる凶事の前兆にやと悲しげにわたくしへ話し申し候。」

 →昼と夜、あるいは夜と朝とが交差する、微妙な時間帯を示す。薄暗く、禍いが起こるとされる。「逢魔が時(おうまがとき)」という表記が一般的ですが、「逢魔時」「大魔が時」「大禍時」「黄昏時」も書く。「おまんがとき」「おうまどき」とも。


 上田敏が訳詩集「海潮音」の「梟 シャルル・ボドレエル」の一節で、 


「体(たい)も崩さず、ぢつとして、

  なにを思ひに暮がたの

 傾く日脚(ひあし)推しこかす

 大凶時(おほまがとき)となりにけり。」


と用いています。

 

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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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