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玳瑁の簪捨られ当所なく春の野原は「笋」だらけ=柏木如亭「訳注聯珠詩格」


 柏木如亭の「訳注聯珠詩格」から、原文を尊重しながらも大胆な意訳を試みている例を見ていきましょう。

 王元之(おうげんし)という北宋時代に活躍した詩人の 「笋」から。白文と読み下し文は次の通りです。

 数畝春畦独歩尋

 逬犀錦抽矗森々

 田文死去賓朋散

 拋擲三千玳瑁簪

 数畝の春畦 独歩して尋ぬ

 犀を逬らし錦を抽きて矗にして森々

 田文死し去りて賓朋散ず

 拋擲す 三千玳瑁の簪

 漢字、言葉の解説をざっと済ませます。

 ■「笋」は「たけのこ」。1級配当。音読みは「ジュン」「シュン」。「筍」の異体字です。熟語は「筍席(笋席)」(ジュンセキ)、「筍輿(笋輿)」(ジュンヨ)、「石筍(石笋)」(セキジュン)。

 ■「畝」(ホ)と「畦」(ケイ)はいずれも訓読みは「うね」。耕地の面積の単位。また、畑で作物を栽培する際、一定の間隔をおいて土を細長く盛り上げたところのこと。「畝」を「ホ」と読むのは表外の音読み。「せ」とも訓む。熟語は「隴畝」(ロウホ)。「畦」は「あぜ」とも訓む。熟語は「畦稼」(ケイカ)、「畦径」(ケイケイ)、「畦畛」(ケイシン)、「畦町」(ケイテイ)、「畦丁」(ケイテイ)=「畦夫」(ケイフ)。「数畝の春畦」は繰り返してある程度の広さがあることや、春の畑の風景であることを強調している。

 ■「犀」(サイ)は、動物のサイの角。「犀角」(サイカク)、「犀利」(サイリ)、「犀甲」(サイコウ)、「燃犀之明」(ネンサイノメイ)、「筆法犀利」(ヒッポウサイリ)。

 ■「逬らす」は「ほとばし・らす」。一斉に吹き出させる。「逬」は1級配当漢字で、音読みは「ホウ」(漢音)、「ヒョウ」(呉音)。「逬散」(ホウサン)、「逬出」(ホウシュツ)。「逬」は「とばっちり」「とばちり」「とばしり」「とばしる」とも訓む。

 ■「抽き」は「抽く」で「ぬ・く」と表外訓み。引き出す、抽出する。「ひ・く」とも訓む。「抽斗」は「ひきだし」。

 ■「矗」は「チク」。配当外の漢字。そびえる、そばだつ。まっすぐに高くそびえたつ。まっすぐに立つさま。「矗矗」(チクチク)は、高くそびえるさま、また、ものをうずたかく積み上げたさま。「矗出」(チクシュツ)は草木がまっすぐにはえ出る。

 ■「田文」(デンブン、文は諱=いみな)。戦国時代、斉の人。斉の宰相となり、孟嘗君(モウショウクン)は諡(おくりな)。天下の賢士を招き、数千人の食客を抱えたという。彼には有名な「鶏鳴狗盗」(ケイメイクトウ)の故事もある。物真似しか出来ない食客も、その芸によって孟嘗君を助けた。つまらないものでも役に立つ、そういう先見之明が孟嘗君にはあった。伊達に三千人もの食客を飼っていたのではない。それぞれも持ち味に応じて使い分けていたのだということ。

 ■「抛擲」(ホウテキ)。なげうつこと。うち捨てること。「抛」も「擲」も重要1級配当漢字。それぞれ一字で「なげうつ」とも訓む。「抛」は「抛物線」(ホウブツセン)、「抛棄」(ホウキ=放棄)、「抛車」(ホウシャ)。「擲」は「チャク」との音読みもあり、「打擲」(チョウチャク=撲ること)。この意味では「なぐ・る」とも訓む。四字熟語には「乾坤一擲」(ケンコンイッテキ=一か八かの大勝負)、「擲果満車」(テキカマンシャ=プレゼント攻めに遭うジャニーズ)がある。「テキ」では「擲梭」(テキサ)が重要。「梭」(サ)というのは、機織り機で横糸を通す道具(梭子魚=カマスに形が似ている)を縦糸の間になげ入れて機を織ること、転じて、梭が動くように時間が経過することのはやいたとえ。「擲倒」(テキトウ)、「擲掉」(テキトウ)も覚えて。。

 ■「玳瑁」(タイマイ)。ウミガメの一種だが爬虫類。その甲羅は黒くて艶がある。鼈甲(ベッコウ)と称して、装飾品の材料となる。「瑁」とも書く。いずれも1級配当漢字ですが、「タイマイ」しか用いないと考えていいでしょう。いや、あった。「玳筵」(筵)=タイエンは、玳瑁の甲羅で飾ったむしろのこと。

 ■「簪」(かんざし)。冠をとめるために髪にさすもの。こうがい。1級配当。音読みは「シン」。熟語には「簪纓」(シンエイ)、「簪花」(シンカ)、「簪裾」(シンキョ)、「簪笏」(シンコツ)、「簪筆」(シンピツ)。

 如亭の訳はこうです。

 数畝(しごちよう)の春畦(ところ)を笋を尋(めつけ)に独で歩けば

 犀(さいかく)を逬(はじきだ)し錦を抽(ひきだし)たやうに 矗(まっすぐにのび)で森々(おびたゞしい)

 田文(まうしやうくん)といふものが死去(しんでしまつ)たから三千人(さんぜんにん)の賓客(へやこども)が散(りさんす)るとつて

 玳瑁(べつかふ)の簪をみんな抛擲(うつちやつ)たのかもしらん

 如亭によれば、この詩は「後聯人事を散用する格」とある。第三句と第四句に歴史上の人物の故事を散りばめた形式だというのです。もちろん、「田文」こと「孟嘗君」が三千人もの食客を囲い、栄華を夸ったことをモチーフにしています。

 タイトルは「笋」なんですが、本詩には一言も出てこないのが面白い。どこに笋が隠されているかというと、春の畑、森を探し回ると、「犀を逬らし」「錦を抽きて」「矗にして森々」。。。第二句のこの三つがすべて「笋」のことなんですね。如亭の訳は、それぞれ「さいかくをはじきだし」「錦をひきだしたやうに」「まっすぐにのびておびたゞしい」です。まぁ、普通ですね。それほどびっくりする「訳」にはなっていないです。ただ、「はじきだし」「ひきだした」「おびたゞしい」と何となく韻を踏んでいるっぽい感じはします。小気味いいリズムが生まれ、笋があちこちに生えていて、今にも抜き出したくなる感じがよく出ていると思います。

 そしてポイントの故事の第三句と第四句。「田文」は「まうしやうくん=孟嘗君」と訳し、彼が死んでしまったから、「賓客」(へやこども=居候、食客のこと)が散(りさんする)といって、「玳瑁」(べっこう)の簪を打っ棄った(抛擲)かもしれない。。。この場合の玳瑁の簪は「笋」を寓意している。確かに色も形も似ていますよねぇ。。。三千人もの食客は「主人」がいなくなると居場所がなくなりてんでばらばらになってしまう。それが春の野山の笋があちこちに散らばっているさまと似ていて可笑しい。。まさに居候の居場所は雨後の筍のように彼方此方になってしまうのだ。いかに、孟嘗君の力が抜きん出ていたかを物語っていると同時に、そんなパトロンに集り暮らす食客が巷に溢れていた当時の風潮を揶揄もしているのではないでしょうか。

 本日はここまで。また、次回。。。。

 【今日の漢検1級配当漢字】

 笋、筍、隴、畛、逬、諱、諡、抛擲、梭、掉、玳瑁、爬、鼈、瑇、筵、簪、纓、笏、夸、揶揄
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Re: 中島敦読んでみます

>  少々易しいかもしれませんが、中島敦もブログネタに取り上げて頂けると有難く。
>  …単に自分が好きだからだけですが。

 中島敦は読んだことがありますという程度です。あまり詳しくありません。今度、読み込んでみます。易しいということはないでしょう。漢検1級を学習する上では恰好の素材となりそうですね。文章題でも何度か採用されていますね。blogネタは今後検討してみます。

 「菜根譚」もね。。。陶淵明が出てくるのには気づきませんでした。調べてみようっと。。。

矗は

この字はあおむし自身は以前読んだ中島敦の「環礁」の夾竹桃の家の女にその用例があり、印象的で覚えました。”椰子よりも遥かに細くすらりとした檳榔の木立が矗として立っている姿は仲々に風情がある。”

 少々易しいかもしれませんが、中島敦もブログネタに取り上げて頂けると有難く。

 …単に自分が好きだからだけですが。

Re: 白瀬矗は懐かしい

> 知らないことばかりでワクワクします♪

毎度コメントありがとうございます。
迂生も知らないことばかりに出合えて胸を躍らせています。

> 「矗」は、以前がくぶんの「漢字検定大会」の過去問で南極探検家の「白瀬矗(しらせ・のぶ)」が出たので覚えてました。こういう品字様は見たら忘れないですよね。

 「白瀬矗」ですか、懐かしい名前です。久しぶりに聞きました。

> ところで、これは実は僕が最近2級受検者の質問に回答したときに知ったことなんですが、「畝」が尺貫法で面積の単位として使われる時は「せ」としか読まないようです。因みに約1アール(a)です。多分ですが、あの土を盛り上げた部分は「うね」としか言わないんだと思います。常用漢字は侮れないです。というか尺貫法は分からなくて当然という気もしますが。とりあえず1級には関係ないですね。

 確かにここのくだりは最初の「畝」は「ホ」で面積のこと、後の「畦」は「ケイ」でうねと解した方がいいでしょうね。ただ、「畝」「畦」のいずれも「うね」と訓めて、「畝」は面積では「せ」と訓むことをしっかり理解いたしましょう。ただし、音読みの「ホ」は、面積とうねの両方の意味を採り得ると思います。

知らないことばかり

知らないことばかりでワクワクします♪

「笋」が「筍」の異体字だったとは。異体字、大好きなんです。「澂」と「澄」とか。漢検ではあまり取り上げられませんよねぇ。

「矗」は、以前がくぶんの「漢字検定大会」の過去問で南極探検家の「白瀬矗(しらせ・のぶ)」が出たので覚えてました。こういう品字様は見たら忘れないですよね。

ところで、これは実は僕が最近2級受検者の質問に回答したときに知ったことなんですが、「畝」が尺貫法で面積の単位として使われる時は「せ」としか読まないようです。因みに約1アール(a)です。多分ですが、あの土を盛り上げた部分は「うね」としか言わないんだと思います。常用漢字は侮れないです。というか尺貫法は分からなくて当然という気もしますが。とりあえず1級には関係ないですね。

間違ってたらご指摘よろしくお願い致します。
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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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