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「ホウカ」は放火?放っておいて…=兆民「続一年有半」⑩

 中江兆民「続一年有半」シリーズの10回目。前回から「第二章」に入っています。本日は短い割に書き取り問題が多いです。

 

 (一) 世 界

 

 

 前章では宗旨家及び虚霊派哲学者の説を①バクして、反対に霊魂の死滅と肉体の不滅、並に神のあるべきはずはないといふことを論道したが、本章においては、更にまた世のいはゆる現実派哲学なる者をバクせねばならぬ。

 

 ①〔    〕→意味〔他人の意見などを批判・攻撃して論破すること〕

 

 この一派の哲学は、仏国サーンシモンより②ランショウし、オーギュストコントこれを③ショウドウし、従前虚霊派の説を④バクトウし、一切幽怪⑤キゲンなる想像に⑥カシャクせずして、およそ唱ふる所ろは一々実験を以てこれを確かめとするのがこの派の特色である。また各種科学、殊に理、化、数、天文、生理、社会の六つの者を以て重なる学科と為して、これが⑦ガイカクしたものを綜合して、即ちそのいはゆる現実派哲学を組織するのがこの派の特色である。故にこの一派に属する者は皆⑧コウラン博物の学士であつて、専ら詩韻的想像力を資実とする虚霊派人士とは、大に選を異にして居る。即ちリツトレーの如き、この派に⑨シンインした人で、博識匹儔なしと称せられ、この派諸説を伝ふるにおいて、尤も力があつたと称せられて居る。

 

 ②〔 濫 觴 〕→意味〔物事の最初、起こり、起源〕・「」は〔さかずき〕と訓む・類義語は〔蒿矢・劈頭

 ③〔 唱 道 〕→意味〔意見などを人の先に立ってとなえること〕・類義語は〔鼓 吹

 ④〔 駁 倒 〕→意味〔反対意見を述べてやりこめること

 ⑤〔 詭 幻 〕→意味〔普通と違ってあやしいこと

 ⑥〔 仮 借 〕→意味〔許すこと、見逃すこと。多く否定形で用いる〕・類義語は〔容 赦〕・「訶責」ではない、「苛責」でもない、「呵責」でもない

 ⑦〔 刈 穫 〕→意味〔かりとること〕・「」(ガイ)は表外の音読み・「芟刈」は〔さんがい〕

 ⑧〔 宏 覧 〕→意味〔智識が広くあふれているさま、物知り

 ⑨〔 浸 淫 〕→意味〔段々深くしみこむ、また、じわじわ進行する

 

 かく論ずる時は、この一派は極めて確実拠るべきが如くに見えるが、その現実に⑩コウデイするの余り、⑪キョウゼン(コウゼン)明白なる道理も、いやしくも実験に徴し得ない者は皆抹殺して、自ら⑫キョウアイにし、自ら固陋に陥りて、その弊や大に吾人の精神の能を⑬いて、これが⑭セイカを減ずるに至るのである、これ正にこの派において⑮ホウカすべからざる欠失である。

 

 ⑩〔 拘 泥 〕→意味〔こだわること、固執して融通がきかないこと〕・対義語は〔恬 淡

 ⑪〔 皎 然 〕→意味〔白く明るいさま〕・「皎如」(コウジョ)ともいう

 ⑫〔 狭 隘 〕→意味〔度量がせまくて窮屈なさま〕・対義語は〔寛 大・快 闊

 ⑬〔 いる 〕(訓読み)→意味〔人を窮地に追い込むために事実でないことを言う、偽って言う〕・音読みは〔ふ・ぶ〕・「誣告」(ぶこく)は〔他人を陥れるため、故意に偽った事実を告げること〕・「誣謗」(ふぼう)は〔事実を曲げて言うこと、誹謗

 ⑭〔 声 価 〕→意味〔世間一般でのよいという評判

 ⑮〔 放 過 〕→意味〔放置、ほうりだす、看過する〕・兆民語

 

次回「第二章 (一)     世界」はまだ続きます。

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師匠から弟子への教えが「スイジ」=兆民「続一年有半」⑨

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの9回目です。

 

 (十)神に遇ふ

 

 モイーズ、アーロンの徒が神に某山の㋐で遭つたとか、㋑斯々云々の①スイジを授かつたとか、当時風気未開の世にあつて、かつ宗教上衆生済度の方便としてかくの如き言を為しても、必ずしも咎むべきではなかつたが、学術進闡した今日にあつては、たとひ宗旨家といへどもその②コウタン無稽この度に至るを容さない。まして哲学者としてはこれを主張するは勿論、これを攻撃するさへ恥かしさに堪へぬほどである。

 

 ㋐〔いただき〕→音読みは〔てん

 ㋑〔かくかくしかじか〕(宛字訓み)

 ①〔 垂 示 〕→意味〔禅宗で、師がでしに示す短い教訓。「すいし」ともいう。「碧巌録」に頻出〕・「炊事」ではない

 ②〔 荒 誕 〕→意味〔言っていることが大袈裟で、全くよりどころがないでたらめであること〕・類義語は〔荒唐・虚誕〕・四字熟語の「荒唐無稽」も〔でたらめ〕・この場合の「」は〔でたらめ、あざむく、いつわる〕という意味

 

 かつ日用器具③ジシンギの類も、人巧を経なければ自然に出来べきものでない、まして世界万彙が自然に出来できはずがない、必ず造化主宰の出来たに違ひないとは、これ正に余が前に論じた如く、人類社会に局しての言語である。目を世界の上に放ち、心を塵寰の表に遊ばしての言論ではない。なるほど時辰儀は人巧に成れるに違ひない、しかしこれが④ザイリョウたる金属宝石の類は、元より存在して居たものである。即ち時辰儀工はこれら財料を㋒めて、時辰儀と号する一箇の形を与へたるに過ぎないのである、文字の真の意味においての造ではない。

 

 ㋒〔あつ・め〕→ほかに〔攢、斂、醵、逑、轂、萃、翕、纉、緝、攅、彙、鳩、鍾、輯、蒐、纂、綴〕がある・音読みは〔しゅう・じゅ〕・四字熟語に〔聚蚊成雷〕(しゅうぶんせいらい)=〔小さなものもたくさん集まると大きな力になること〕=〔衆口鑠金〕(しゅうこうしゃっきん)

 ③〔 時辰儀 〕→意味〔時計の呼称〕・単に「時辰」ともいう・この場合の「」は〔とき

 ④〔 財 料 〕→意味〔材料、高価なもののニュアンスがあるか

 

 神の造物の業におけるのはこれと異なる。従前あつた所ろのザイリョウを聚めて、世界万彙を製出したのではなく、全く無よりして有、即ち真空の中にこの⑤シンゼンたる世界万彙を造つたもので、それかとすれば、また物は造らねば自然には出来むといふて、無よりして有なると、有の中でただ場所を換ゆるのとを混同して居る。余は繰返していふ、この広大無辺の世界、この森然たる万物が、一個の勢力に由りて一々に造り出されたといふよりは、従前他の形体を有せしものが自然に化醇して、この万彙に変じ来つて乃ち自然に出来たといふこそ、更に数層哲学的である。完全なる判断力を有するものは、この二説の間に、決して躊躇せぬであらうと思はれる。

 

 ⑤〔 森 然 〕→意味〔こんもりとしておごそかなさま〕・「こんもりしげってそびえている」のは〔シンショウ〕→〔森聳〕、「おごそかに並ぶ」のは〔シンレツ〕→〔森列

 

 

第二章     再論

 

 以上論ずる所ろによりて更に積極に立証すれば、精神は不滅のものでない、精神の本体源頭たる軀体こそ、若干元素の抱合になれるもので、たとひ解離しても不滅である。

 

 即ち㋓拿破崙、豊太閤の死するや、その体軀を構成した元素の中でその気体のものは、あるいは空中を⑥ヒショウする禽獣に吸収せられたかも知れない、その固体のものは地中の水に溶解せられ㋔胡蘿大根に摂取せられて、誰人の腹中に入つたかも知れないのである。しかしかくて輾転して居所を変じつつあつても微塵もなくなるはずはない。故に人死すれば従前あつた所ろの五尺の軀は解離して、散りぢり㋕破落破落になつて、各元素皆不滅である。故に人一旦死すれば、天道の望むべきもなく、地獄の畏るべきもなく、かつまた二度再び人体を受けてこの世に生れ出るはずはない、この世における吾人の二代は即ち児子である。

 

 ㋓〔ナポレオン〕(人名)

 ㋔〔にんじん〕→〔人参、蔘、胡蘿蔔

 ㋕〔ばらばら〕(宛字訓み)

 ⑥〔 飛 翔 〕→意味〔空中をとびかけること〕・「」は訓読みで〔かけ・る〕〔・ぶ〕

 

 神は多数にもせよ唯一にもせよ、始めよりあるべきはずでない。この世界万彙は無始無終で、現世の状を為す前には何の状を為せしかは知れないけれども、ともかくも何らかの状を為して居たものが、絪縕浸化して現状を為し来りたるに違ひない。神などといふ怪しき物体の干渉を㋖らずとも、元素離合の作用で、甲より変じて乙に之き、丙丁と変化して窮已なく、以てこの世界の大歴史を成して居る。

 

 ㋖〔こうむ・ら〕→「蒙る」はほかに〔被る、罹る〕・音読みは〔もう〕、〔くら・い〕とも訓む・四字熟語の「無知蒙昧」(むちもうまい)は〔知恵がなく、物事の道理がわからないこと〕・「ワ」と「豕」の間の「」を忘れずにね

「ウロ」は囲碁、「カツユ」に塩?=兆民「続一年有半」⑧

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの8回目です。本日はヴォリュームがややあります。

 

 (九)造物の説

 

 曰くこの世界の森羅万象は、神の創造する所ろである。その㋐め世界は実に無極であつたが、神がその大威徳を発揮し、その大通力を①ハヨウして、無極よりして太極を造り、ここに以てこの宇宙、この世界、山河草木、人獣虫魚より土石②ガレキに至るまで、その③ショウリから④ネッシュツせられて、この整然たる万有始て成立することを得たのである云々。

 

 ㋐〔はじ・め〕→音読みは「ちょう」・「肇歳」(ちょうさい)は〔一年のはじめ、年始

 ①〔 播 揚 〕→意味〔事を起こすこと〕・ここの「」は〔あげる〕という意味だが、通常は〔・く〕

 ②〔 瓦 礫 〕→意味〔かわらと小石。価値のない物のたとえ〕・対義語は〔珠 玉〕・「」は〔こいし〕〔つぶて〕とも訓む・成句に「闇夜の」(やみよのつぶて)があり〔人はいつどんなことに出くわすのか見当も付かないというたとえ、闇討ちを食らうたとえ

 ③〔 掌 理 〕→意味〔つかさどり管理下におさめること〕・引っ搔け問題で〔燮理〕や〔牆籬〕などと1級配当絡みを書きたくなるが、残念、常用漢字です。

 ④〔 捏 出 〕→意味〔土をこねて物をつくる〕無論「捏造」のニュアンスのある言葉で「形だけ似せて造る」

 

 これ無よりして有を得る、これ何の言ぞ、完全な脳髄を所持する者に、理解し得らるべき言であるか。無は何処までも無なるべきはずである、無が有となるを得るほどならば、その無は真の無ではないので、何かの種子を包容して居たものではないか。排気鐘中の真空を、一年の間放過したとして、何物にも変ずるを得るべきはずはあるまい、これ無の有となるべからざる証拠である。如何に万能の神でも、悖理の事の出来べきはずはないのである。造物の説はミケランジ、ラファエルの㋑が、その⑤キケツの腕前を⑥キカクするための画題と為すには極て適当ではあるだろうが、冷澹平静一も非論理の禁を犯すを容るされない哲学者の口からして、神の造物の説を主張するとは驚くべきの極である。

 

 ㋑〔ぞく〕とルビが附られているが、〔ともがら・やから〕と訓んでもいいでしょう

 ⑤〔 奇 傑 〕→意味〔めずらしくすぐれた人物。風変わりな豪傑〕・同音異義語は「帰結、詭譎、虧欠、匱竭、冀闕、既決

 ⑥〔 揮 霍 〕→意味〔腕前などをふるうこと。勢いがはげしく速いさまの意もある。金品を無駄遣いするの意も〕・「」は〔にわ・か〕〔はや・い〕とも訓む・同音異義語は「規格、亀鶴、麒閣、輝赫、亀殻、掎角、羇客、羈客、几閣、企画

 

 かつ神の造物の説が真だとすれば、実に近時の学術において大攪乱の種子を播き来ることとなる。何となれば、彼の仏蘭西ラマルクに由りて創唱せられ、英国ダーウインに由りて集大成せられて、近代の科学に大効力を及ぼした事物進化の一説と造物の説とは、固より両立するを得べからざるものである。

 

 それ神万物を造りて、大は天体より小は㋐蠛蠓に至るまで、一定㋑ゆべからざる模型を製した以上は、甲の物は何日までも甲の形を保ちて親子相ひ伝へ、乙丙丁皆かくの如くで、即ち吾人の⑦エンソが尻尾を有したなどの説とは相容るることは出来ない、㋒の或る種族が進化して人と成つたなどの論とは並び立つことは出来ない。古昔学術⑧ソウマイの世、今時よりいへばほとんど精神病者の如き人物に由りて想像せられて、一も論理に適はない造物の説と、尋常に度越して居る博学俊傑の士がこれを理に㋓り、これを学に質し、観察し、経験し、苦心⑨サンタンの余に得たる進化の説と、いづれを信じいづれを非とすべきである乎。胸中いささかの為めにする所ろのない者は、この間に㋔することあるまいと思はれる。

 

 ㋐〔べつぼう〕→意味〔雨の後などに空中に飛ぶ小さい虫、ヌカガ、ヌカカ〕・「」も「」も配当外で同じ意味「ヌカガ、ヌカカ」

 ㋑〔・ゆ〕→「渝える」は〔変える〕で音読みは〔〕・「渝替」(ゆたい)は〔変質して衰える〕・「渝盟」(ゆめい)は〔約束をたがえる、誓いに背く〕=〔寒盟

 ㋒〔びこう〕→意味〔おおざる〕・「」は配当外で「アカゲザル」、「猴」は1級配当で「アカゲザル」・四字熟語に「猿猴取月」(えんこうしゅげつ)=〔身のほど知らずが身を滅ぼすたとえ

 ㋓〔はか・り〕→「揆る」は〔コンパスを廻してはかること〕で〔はかりごと〕とも訓む・音読みは「」で「揆度」(きたく)・「揆測」(きそく)は〔全体をおしはかること〕・「一向一揆」(いっこういっき)は農民の反乱

 ㋔〔ちゅうちょ〕→意味〔ためらって足が止まること〕・「」は配当外で「たちもとおる」、「躇」は1級配当で「たちもとお・る」とも訓む・1級配当を使えば「躊躇」とも書ける

 ⑦〔 遠 祖 〕→意味〔遠い先祖

 ⑧〔 草 昧 〕→意味〔物事が始まったばかりのころ。万事がぞんざいで、まだすべてに秩序のととのわない時

 ⑨〔 惨 憺(澹) 〕→意味〔あれこれと心を悩ますさま〕・「」は表外読みで〔いた・む〕

 

 造物の説にまた極て⑩ビュウコウなのがある。

 

 ⑩〔 繆(謬) 巧 〕→意味〔巧に人をあざむこと〕・「」は〔あやま・り〕〔いつわ・る〕とも訓む

 

 曰く、吾人途を行いて物を拾ふことがあるとせよ。⑪チクトウボクセツならばともかくも、いやしくも人巧を経たる物、譬へば各種器物であるとか、更にはまた極て㋕の機械を具へてる時辰儀等であつた時には、誰れかこの物を作つた者があるだらうといふことは不言の間に明瞭である。箇様の品物が偶然独りで出来て途に落て居る道理はないからである。しかるにこの世界の万有は如何、その巧妙なること人造の器物時辰儀の比すべき所ろでない。それ鳥は空中を飛行する、故に㋖がある。それ魚は深淵に潜む、故に㋗がある。⑫カクロは泥沢に下りて、⑬シュウマンの属を食とする、故に㋘が長い。⑭オウガは水中に住て常に游泳する、故に足に水搔がある。その他⑮キンジュウ禽獣について言ふならば、これを大にして⑯シュウゲイの類がある、これを小にして蠛蠓の属がある。蚊の足の繊いのも神経筋肉細胞より成立して、而して細胞中にはまた核を具へて居る。更に人体に至りてその⑰セイチはまた他の獣魚の⑱ヒチュウでない、肺の呼吸における、胃腸の消化における、⑲の血球における、肝の胆液における、脳神経の運動知覚における、その他極精の顕微鏡にさへ看るべからざる神血管の末梢細胞組織等に至て、いよいよ研究すればいよいよセイチなことが解る。もしそれ天体に至ては、日月⑳セイシンの大物が空中に㋙廻転して、各々その軌道を守つてスンゴウも違はない、あるいは一月一廻転、あるいは一年一廻転、あるいは十年十数年一廻転して、かつてその約を渝へることがない。この精微の極、広大の極、微妙の極、雄深の極たる世界万物人獣虫魚の属が、造主なくして自然に湧出したとは受取れぬ議論である、護持する者なくして保たれて居るとは承諾の出来ぬ言ひ事である。一箇の時辰儀すらなほかつ造主なくして独りでは出来ない、この世界万象が造主なしに出来たとは何の論理であるか云々。

 

 ㋕〔しんみつ〕→意味〔細工や文章が細かくて緻密であること〕・「」は配当外で「織り目がつまって細かくて緻密である

 ㋖〔うかく〕→意味〔鳥のはねとつばさ〕・「」は配当外で「つばさ、鳥の羽の付け根」

 ㋗〔おひれ〕→意味〔尾鰭〕・「」は配当外で「魚の背びれ」で「」と同義・「鰭鬣」は「きりょう」と読み、〔魚の背びれ

 ㋘〔くちばし〕→音読みは〔〕、〔はし〕とも訓む・「喙・觜」とも書く・成句の「が黄色い」は〔年が若く経験が足りず未熟なこと〕、「の食い違い」(いすかのはしのくいちがい)は〔物事が食い違って思うようにならないことのたとえ

 ㋙〔せんてん〕→意味〔まわりながらめぐること〕・「」は配当外で〔やどり〕とも訓み、「足跡を残してめぐる。月や星が運行する」

 ⑪〔 竹頭木屑 〕→意味〔役に立たないもののたとえ〕・「」は〔くず〕のほか〔いさぎよ・い〕とも訓む

 ⑫〔 鶴 鷺 〕→意味〔鶴と鷺(さぎ)〕・「烏鷺」(うろ)は〔囲碁〕、「闇夜に、雪に白鷺」「闇の夜の、月の夜の白鷺」は〔まわりとよく似ていて見分けがつかないたとえ〕

 ⑬〔 鰌 鰻 〕→意味〔どじょうとうなぎ

 ⑭〔 鴨 鵞 〕→意味〔かもとがちょう〕で「鵞鴨」とも書く・「」は「」の異体字・「鴨嘴獣」は〔かものはし〕・「の水搔き」は〔のんびり見えていても人知れぬ苦労をしているたとえ〕・・・「鵞毛」は〔雪など白くて軽いもののたとえ〕

 ⑮〔 禽 獣 〕→意味〔鳥とけだもの〕・「」は〔とり〕とも訓む・四字熟語に「禽獣夷狄」があり〔中国国境付近の異民族の蔑称〕

 ⑯〔 鷲 鯨 〕→意味〔わしとくじら〕・「鷲山」は〔じゅせん〕、「鷲嶺」は〔じゅりょう〕とそれぞれ読む

 ⑰〔 精 緻 〕→意味〔非常に細かくて詳しいこと〕・対義語は〔粗 笨〕・「」は訓読みで〔こま・かい〕

 ⑱〔 比 儔 〕→意味〔なかま、比類〕・「」は〔ともがら〕と訓む・類義語は〔同朋・吾儕・儕輩・匹儔

 ⑲〔    〕→意味〔ひぞう、五臓の一つ〕・故事成語の「脾肉之歎」(ひにくのたん)は通常「髀肉之嘆」と書く。この場合の「」は〔もも〕で〔実力を発揮し、功名を立てる機会が中々得られないことを嘆くたとえ。別に言い方を得れば「轗軻不遇を喞つ」

 ⑳〔 星 辰 〕→意味〔星宿=星座、ほし〕・この場合の「」は〔日・月・星の意

 ㉑〔 寸 毫 〕→意味〔ほんのわずかなこと〕・類義語は〔秋 毫

 

 吾人は反対に言ひたくなる、人巧に出たる器具の時辰儀の類は、如何にも緻密でも、これを天然物に比すれば、天然物の最も㋚麁末なるもの、ナメクジの如きクラゲの如きものに比しても、なほ遠く及ぶべきでない。いはんや人獣の構造組織の如き、広大無辺なる星象の旋廻転の如き、如何なる通力あるにせよ、一箇の力でこれを造つたとは、それこそ論理において受け取れぬ、自然の理に頼りて、絪縕し、摩蘯し、カジュンし、㋛浸漬して出来たといふ方如何ほど道理に近くはあるまいか。

 

 ㋚〔そまつ〕→意味〔粗末に同じ〕・「麁」は「」の異体字で〔あら・い〕とも訓む・四字熟語の「麁枝大葉」(そしたいよう)は〔細かい規則にこだわらず、自由に筆を振るって文章を書くこと

 ㋛〔しんし〕→意味〔じわじわと長く浸透すること〕・注意すべきは「漬」で「」は珍しい表外の音読み・「漬浸」とも書く・「漬墨」(しぼく)は〔よごれて黒くなること

 ㉒〔 蛞 蝓 〕→熟字訓の書き取り〔かつゆ〕の音読みもあり・「蛞蝓に塩」は〔苦手なものの前では何も出来なくなるたとえ

 ㉓〔 海 月(水 母)〕→熟字訓の書き取り・「海月の骨」は〔きわめて珍しいことの譬喩、盲亀浮木

 ㉔〔 化 醇 〕→意味〔変化して清醇になる、混じり気のない純粋なものになること〕・「醇化」とも書く

 

 また果してこの世界万象を製造したる神があるならば、世界の那処に居るのであるか、もしまた神はあらざる所ろなしといへば、何日か何処かで吾人にこれがチョウチンを㋜はしさうな物である。神の形が既に吾人人類に同じといへば、その顔はいくばくの大さである、そのシシはいくばくの長さである、その胸腹はいくばくの容積である、宗旨家は神が某処に現はれたる事があると言て居る、けれどもこれは特にその仲間中での言のみで、固より信を置くには足らぬ。

 

 ㋜〔あら・はし〕→表外訓み・〔現すと同義

 ㉕〔 兆 朕 〕→意味〔表面に現れたきざし、しるし〕・これは兆民語で難しい・「」も「」も〔きざし〕・「朕兆」とも書く

 ㉖〔 四 肢 〕→意味〔人間の両手両足。また、動物の前足と後ろ足〕・」「」は〔てあし〕・「すらりとしたシタイ」は〔肢体〕であるのに対し、「なまめかしいシタイ」は〔姿態

仏教語の「コンキ」「サイド」は同音異義語に注意!=兆民「続一年有半」⑦

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの7回目です。まだまだ折り返し地点ではありません。

 

 (八)主宰神の説

 

 曰く、神は智徳円満①ホウビで、知らざる莫く能はざる莫く、真の独立②フキの勢に拠て③テイゼンこの世界④バンイの表に立ち、而してこの世界バンイはその創造する所ろであるが故に、またその中にも⑤グウせざる莫く、吾人浅智の思議すべからざる霊威無限のものである。

 

 ①〔 豊 備 〕→「褒美」ではない。辞書には見えない「兆民語」です。意味は〔数多くそなえ持っていること

 ②〔 不 倚(不 羈) 〕→意味〔誰にも頼らないさま、「不羈」は他者とのしがらみから抜け出すこと、「不倚」は自らの意志で抜け出ること〕・「」は訓読みで〔・る〕、音では〔〕とも。故事成語に〔倚門之望〕(いもんのぼう)、「倚閭之望」(いりょのぼう)があり、意味は〔子を思う母親の愛情のこと〕・「倚藉」(いしゃ)は〔たのみとしてよりかかること

 ③〔 挺 然 〕→意味〔多くのものに比べ、ぬきんでているさま〕・「」は訓読みで〔ぬき・んでる〕〔・く〕、類義語は故事成語の「一頭地を抜く」、または〔出類・出倫

 ④〔 万 彙 〕→意味〔万物、万有、一切有情〕・「」は訓読みで〔たぐ・い〕〔あつ・める〕〔はりねずみ〕「辞彙」「字彙」は〔じい〕、「品彙」は〔ひんい

 ⑤〔    〕→意味〔仮に住む〕・訓読みは〔やど・る〕〔やど・す〕〔かりずまい

 

 

 また曰く、神は万物を造り、万物を護り、特に人類を造り、これに自由を与へて、善悪共に自己の⑥チュジョウから割出してこれを行ふことを得せしめて居る。神は無始、無終、無限、無極であらざる所ろなく、また過去、現在、未来を⑦イッカンして⑧ツウチせざる所ろなく、即ち神のためには過去もなく未来もなく皆現在である。

 

 ⑥〔 衷 情 〕→意味〔まごころ、本心〕・類義語は〔赤心・衷款・誠悃・赤誠

 ⑦〔 一 串 〕→意味〔一貫、串刺しにすること、穴あき銅銭百文をひもで通して一つに束ねたものを数える言葉

 ⑧〔 通 知 〕→ここでの意味は〔よく知っている、すべてお見通し〕・類義語は〔知悉・熟知

 

 また曰く、神は吾人人類の各個が、あるいは善を為しあるいは悪を為すを⑨ゼンチして、一箇半箇も遺漏する所ろはない。しかもかく吾人の所為に放任し置くのは、乃ち吾人人類に意思の自由を附与せる所以であつて、吾人この自由あればこそ、善を為せば吾人の功、悪を為せば吾人の責で、未来の大裁判においてあるいは賞を得あるいは罰を獲る所以である。

 

 ⑨〔 前 知 〕→意味〔物事が起きる前に見通すこと、あらかじめ知っていること

 

 また曰く、神の吾人人類を造るや、その形は自己に㋐りて、乃ち万物に⑩レイチョウたらしむる事と為したのである云々。果てこの言が真ならば、神もまた横目縦鼻の一箇具体のものといはねばならぬ。

 

 ㋐〔かたど・り〕→「象る」は〔ある物の形をなぞらえる、似せる

 ⑩〔 霊 長 〕→意味〔神秘的な力を持ち万物の長(おさ)となるべきすぐれたもの〕・この場合の「」は〔よい、すぐれた、さとい、かしこい〕という意味

 

 およそこれらの言、宗教家の口から出れば、中以下⑪コンキの人を⑫サイドするための方便として、やや恕すべきであるが、一切方便を去りてただ真理これ視るべき哲学者にして、かくの如き無意義非論理なる囈語を唱へて、而してその人、実にこの学において大家の名を㋑にして居るとは驚くべきである。神もし果て万能にして為すべからざるなく、遂ぐべからざるなしとすれば、人類社会に㋒ふに、善あつて悪なきを以てすれば、この世の裁判さへも不必要に帰すべきである、いはんや未来の裁判をやだ。故らに人に与ふるに自由の意思を以てして、あるいは悪を為すを得せしめ、しかる後未来の裁判においてこれを㋓するとは、これ神はその心を設くることが、甚陰険といふべきでないか。

 

 ㋑〔ほしいまま〕→このほかに、〔肆、驕、恣、縦、侈、亶、淫、宕、誕、蕩、放、専〕がある。

 ㋒〔たま・ふ〕→音読みは〔らい〕、「賚賜」(らいし)、「賚錫」(らいせき)は〔授け与える〕、〔たまもの〕とも訓む。「」も〔たまもの〕→「天錫」(てんせき)=「天授」(てんじゅ

 ㋓〔きょくばつ〕→意味〔死刑〕・「」は配当外で「ころす。からだをはりつけにしてころす。罪を責めて殺す」

 ⑪〔 根 機 〕→意味〔衆生が教えを受けるべき性質、能力。仏教語〕・同音異義語は「根気、困匱、今期、婚期、今季

 ⑫〔 済 度 〕→意味〔仏が迷い苦しんでいる衆生を救い、悟りの境地に導くこと。仏教語〕・同音異義語は「再度、妻孥、彩度

 

 此輩また神の造物の説を唱へて居る。

人が「コウゼン」となり、赤ひげも「コウゼン」?=兆民「続一年有半」⑥

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの6回目です。

 (六)唯一神の説

 

 唯一神の説は、多数神の説に比すれば数層進歩した①コンセキが見える。けれどもその源頭は多数神の説に②ハイタイし、時世と共に幾分か進歩し、幾分か学術的となつたので、その間高華雄深の才を負ふて当世を③フウビし後代を圧倒せんとする者が、その想像の能力を思ふままに④チテイして、凡を厭ひ平を嫌ひ奇を⑤テラひ新を耀かすの余に出たのと、並に彼らも人生限りありて朝夕を図らざるに、心窃に憂愁し、身後に⑥ヒョウライする所ろあるを願ふと同時に、己れ既にこの弱点があるので、人もまた同じかるべきことを料り、縦説横説その⑦キベンを弄して、ここに一神の説を称ふるに至つたものと見ゆるのである。波羅門教、仏教、猶太教、基督教、回々教及古昔プラトン、プロタンの徒より、デカルト、マルブランシ、ライブニツトの属、皆唯一神説を⑧コウチョウするにおいて、基督教僧侶とその説を上下し、人をして⑨コウゼンこれ恐くは推理を本とする哲学者ではなくて、妄信を基とする僧人なるべしと想はしむる度に至つて居る。

 

 ①〔 痕 迹 〕→意味〔物事が以前起きたことを示すあと〕・「」も「」も〔あと

 ②〔 胚 胎 〕→意味〔物事の起こる原因が生じること。きざし。よくない事柄の原因がそこにあること〕・「」は〔はら・む〕〔はじ・め〕〔きざ・し〕と訓む

 ③〔 風 靡 〕→意味〔草木が風になびくように、大勢の人をなびきしたがわせること〕・「」は訓読みで〔なび・く〕

 ④〔 馳 騁 〕→意味〔馬を速く走らせるように、あるものをほしいままに支配すること〕・「」は訓読みで〔・せる〕

 ⑤〔    〕→意味〔智識や才能などをひけらかす、偉そうに見せかけること〕・音読みは〔げん〕・「賈衒」は〔こげん〕、「衒耀」は〔げんよう

 ⑥〔 憑 頼 〕→意味〔たよりにすること〕・「」は訓読みで〔・る〕〔たよ・る〕〔たの・む〕・類義語は〔 依 拠 〕〔 憑 藉・憑 恃 〕

 ⑦〔 詭 弁 〕→意味〔いつわりを正しいように思わせて人をあざむく弁論。道理に合わないこじつけ〕・「」は訓読みで〔いつわ・る〕

 ⑧〔 皇 張 〕→意味〔さかんに主張すること〕・この場合の「」は〔おおきい、さかん

 ⑨『 呷然・皓然・昂然・溘然・鏗然・公然・恍然・煌然・哄然・亢然・浩然・曠然・耿然・皎然・紅髯 』の中から適切な「コウゼン」を選べ。

  〔 恍 然 〕→意味〔うっとりするさま

 因みに、「大声で笑う」のは〔呷然〕、「どっと笑う」のは〔哄然〕、「世俗を脱し心が安定した様子」は〔浩然〕、「金属が触れ合い鳴る音」は〔鏗然〕、「突然死去するさま」は〔溘然〕、「意気が上がるさま」は〔昂然(亢然)〕、「白く輝くさま」は〔皓然(皎然)〕、「広々としたさま」は〔曠然〕、「西洋人、えび」は〔紅髯〕、「きらめくさま」は〔煌然〕、「心がはればれしたさま」は〔耿然〕、「おおっぴら」は〔公然

 

 惟ふにその説、⑩ヒョウヒョウゼンジンカンの表に抜き俗紛を脱した如くであるが、実は死を畏れ生を恋ひ、未来においてなほ独自一己の資格を保たんとの都合好き想像、即ち自己一身に局し、人類に局したる見地より起つたのである。その卑陋なのは霊魂不滅の説と全く同一である。

 

 ⑩〔 飄々然 〕→意味〔超然としてつかみどころのないさま〕・「飄」は訓読みで〔ただよ・う〕

 ⑪〔 塵 寰 〕→意味〔俗世間〕・類義語は〔塵 界

 

 唯一神説には二種ある、一は余これを名けて主宰神の説といひ、一はこれを名けて神物同体説といふ。

 

 

 (七)神物同体説

 

 古昔㋐希臘の学士中、及び後世和蘭スビ(ピ)ノザー、独逸ヘーゲルの徒、皆神物同体説の一派に属して居る。

 

㋐〔ギリシア

 

 神物同体とは世界の大理即ち神で、およそこの森羅万象は皆唯一神の発現である、即ち吾人人類の如きも神の段片である、故に神は、世界万有を統べたるもの即ち神である云々。但この説にあつては、唯一神とはいふけれど、実はほとんど無神論と異らぬのである。何となればこの神や無為無我で、実はただ自然の道理といふに過ぎないのである。故に宗旨家及び宗旨に黴せられたる哲学者は、神物同体説を以て邪説として痛くこれを排斥して居る。それはそのはずである、宗旨家の唯一神説は正さに主宰神の説で、即ち左の如くである。

「矢」に秘された意外な臭いとは…=兆民「続一年有半」⑤

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの5回目です。本日は短めで…。

 

 (五)多数神の説

 

 神に至ては、その唯一たると多数とに論なく、その非哲学的なる尤も甚しといはねばならぬ。

 

 先づ多神から点検しやう。即ち太陽、太陰、その他山川、雲物等を神としてこれを崇拝しこれを祭祀する等の如きは、㋐にも㋑ひせぬ、論破する価値はないのである。もしそれ古昔豪傑、及び国家に功あつた人物、または一宗派の開山たる祖師の如きも、これを祭り、自己①ケイケンの意を致すことは別に不便なことはないが、②トウシして霊験を求むるが如きは尤も謂れないのである。これらの人物も、身死すると同時にその神は滅したもので、これをトウシしてもいささかの応験のあるべきはずがない、いはゆる③インシたるを免れない。三家村里の④オウオウが、これら雲物または古人既滅の泡沫を⑤ハイトウするのはなほ恕すべきも、読書し理義を弁ずる五尺軀の大男子にして真面目にこれらの物を拝するに至ては、実に言語に絶するのである。

 

 ㋐〔いっきゃく〕→意味〔一笑に付すと同義〕・「」は配当外で「大口をあけて大袈裟に笑うこと」

 ㋑〔あた・ひ〕(表外訓み)→意味〔その物や仕事に相当するねだん。「値」に当てた用法

 ①〔 敬 虔 〕→「」は訓読みで〔つつ・しむ〕

 ②〔 禱 祠 〕→意味〔神仏に長々といのりまつること〕・「」は〔いの・る〕、「」は〔ほこら〕〔まつ・る〕とも訓む

 ③〔 淫 祠 〕→意味〔邪悪な神をまつったやしろ

 ④〔 翁 媼 〕→意味〔おじいさんとおばあさん

 ⑤〔 拝 禱 〕→意味〔おがみいのること

 

 而してこれ啻に悖理笑ふべきのみならず、人事の実際に害すること甚きものがある。即ち疾病あるに㋒つて、医師に頼り適当の治を施すことはしないで、㋓トウシ祈誓して自ら得たりとし、竟に癒すべからざるに至る者が㋔往々あるのである。また一日一刻を争ふ商工事業に関して、行旅しやうとする者が、これら⑥シンシの告示に由て、俄に逡巡し延期して、期を逸し了はる者も往々あるのである。甚きに至つてはトウシに⑦シャコウして、男女⑧インギンを相通ずるの㋕をして以て利を博し、㋖阿芙蓉莫爾比涅の毒薬を菓餅の中に入れて一時の効験を示し、若くは止痛の功を誇つて信徒を⑨コワクする者も往々あるのである。これらは哲学者にあつてはこれを言ふさへ㋘づべきである、哲学を題目とした書には、これを筆するさへ厭ふべきである。しかも霊魂不滅の囈語の弊は、正に此にまで至るのである、而して㋙牛矢の不滅馬糞の不滅は、科学的真理なるが故に絶てその弊を見ぬのである。

 

 ㋒〔あた・つて〕→〔漢文訓読の用法で「~にあたりて」と訓み、「ちょうどそのとき」と訳す

 ㋓〔みだり・に〕→音読みは〔とう〕・〔むさぼ・る〕とも訓む・「叨窃」は〔とうせつ〕と読み、〔不当に高い地位を得る〕という意味

㋔〔まま〕(宛字)→意味〔よくあること、ときどきにして

 ㋕〔なかだち〕(表外訓み)

 ㋖〔あへん〕→〔阿片・鴉片〕とも書く

 ㋗〔もるひね〕→熟字訓の「莫大小」は〔めりやす〕、「莫臥児」は〔もーる

 ㋘〔・づ〕→音読みは〔ざん〕・「慙愧に耐えない」(ざんき

 ㋙〔ぎゅうし〕→意味〔牛のふん〕・この場合の「矢」は〔直線状で短いくそ〕=〔屎・糞〕・「馬矢」(ばし)もある

 ⑥〔 神 祠 〕→意味〔神をまつるほこら

 ⑦〔 藉 口 〕→意味〔口実を設け言い訳をすること、かこつけること〕・この場合の「」は〔・りる〕〔かこつ・ける〕とも訓む、「せき」と読む場合は「狼藉」があり、この場合は「・む」と訓む

 ⑧〔 慇 懃 〕→意味〔ねんごろなさま。「慇懃を通ずる」で男女が深仲になること

 ⑨〔 蠱 惑 〕→意味〔女性が色香によって男性をだぶらかすこと〕・「」は〔まどわ・す〕〔まじな・い〕とも訓む

絶妙なバランスの「ケンコウ」と走って訴える「フソ」=兆民「続一年有半」④

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの4回目です。本日はやや長めの一節です。道の先はまだまだ遠いですが、辛抱強く付いて来て下さい。

 

 

 (四)未来の裁判

 

 宗旨家及び宗旨に魅せられたる哲学家、往々言ふ、この世界は㋐に不完不粋のもので、善を為すも必しも賞せられず、悪を為すも必ずしも罰せられず、甚きは悪人①エイヨウ栄華に飽いて、善人はあるいは②カンガ死を免れない、これだけでも吾人の良心は如何にも満足することが出来ぬ、これ必ず未来の世界の存する証拠である、故に未来の世界において、完粋整備なる裁判のあるありて、善の大小、悪の軽重に従ふて、それぞれ賞罰して寸分も③ケンコウを㋑まらず、而してこの世界の不公平を償ふて、以て不平なる良心を満足させるのである、しかるに人もし身死して精魂即ち滅するにおいては、この最後の裁判を受くることが出来ない、万能なる神の所為はかくの如き不完全なるものではない、善人必ず賞を得て、悪人必ず罰を蒙むりて、幸に㋒るることを得ないことになつて居る云々それには精魂の不朽不滅が必要である云々。

 

 ㋐〔まこと・に〕→音読みは〔じゅん・しゅん

 ㋑〔あや・まらず〕(表外訓み)→正確には〔あやま・らず〕・「錯」はほかに〔・じる〕との表外訓みもある。

 ㋒〔のが・るる〕→「」は配当外で「逃げて避ける」・「書経」に「自ら作せるるべからず」がある。

 ①〔 栄 耀 〕→四字熟語「栄耀栄華」は〔富や権勢を背景にして贅沢を極めること。人や家などが大いに栄えること。おごりたかぶること〕の意

 ②〔 寒 餓 〕→意味〔寒さと餓え

 ③〔 権 衡 〕→意味〔はかりのおもりとさお、即ち、つりあい、平均、バランス

 

 ああこの言や非道理非哲理の極、意義ますます糾紛し錯雑し、あたかも古昔の迷室の中に足を容れたる如くに成り了はるほかはない。意義なき語句を聯結して、いささかの意義を発せんと欲する故に、いよいよますます④コウランを致すのである。

 

 ④〔 淆 乱 〕→意味〔まじる、いりみだれる〕・「攪乱」でも正解

 

 

 それこの世界の裁判が不完全であるとは、正に五尺軀に局しての言ひ事である、人類の中に局しての議論である、善人あるいは賞に漏れ悪人多く罰を免るるは、果て誰れの所為ぞ、吾人人類の自業自得ではないか。誰れに⑤フソしても「これ汝自ら作せる㋓なり、汝ら自ら改むるほか他に道なし」と一言に㋔ね付られべきものである。十八里の雰囲気外には不通の訴訟である、否な十八里の雰囲気中でも、特に⑥オウモクジュウビの動物にのみ通用する議論である。盗蹠が栄へて顔回が窮したとて、鮒や鯉には少も関係はない、一時の風雲に乗じて⑦ギョウコウに⑧ケンタツの地を得てる不義の徒が、天下の⑨タイヘイを弄したとて、㋕や牛のためには利害倶に頓着なしである。

 

 ㋓〔わざわい〕(訓)→「」の異体字・音読みなら〔げつ〕・「作」(さくげつ)、「造」(ぞうげつ)という熟語もあり。

 ㋔〔・ね〕→故事成語に「刎頸〔ふんけい〕の交わり」=意味〔極めて親密な交際のたとえ〕=他に類語として「カンポウ〔管鮑〕の交わり」「キンラン〔金蘭〕の契り」「ダンキン〔断金〕の交わり」「コウシツ〔膠漆〕の交わり」「ジジョ〔爾汝〕の交わり」「ショキュウ〔杵臼〕の交わり」「シラン〔芝蘭〕の契り」「スイギョ〔水魚〕の交わり」「ダンキン〔断琴〕の交わり」「バクギャク〔莫逆〕の友」「ボウネン〔忘年〕の交わり」

 ㋕〔ぶた〕→兆民はこう訓ませる例が多いが、ほかに〔いのこ〕とも訓む。音読みは〔

 ⑤〔 赴 愬 〕→意味〔はせつけてうったえる〕・「父祖」「腐鼠」「麩素」ではない。

 ⑥〔 横目縦鼻 〕→意味〔人間のこと。目が横に鼻が縦についている

 ⑦〔 僥 倖 〕→意味〔思わぬさいわい

 ⑧〔 顕 達 〕→意味〔出世すること。身分や地位が高くなること

 ⑨〔 大 柄 〕→意味〔権力

 

 それ無始無終無辺無限の世界に立ちて、芥子粒にも比すべからざる人類間の出来事を把りて、この世の裁判の、神の、霊魂の、善人の、悪人のと喋々して、而して人類中の事は人類中で遺て除け、不正は追々と避け、正義は追々近寄ることを㋖めて、乃ち自己⑩キャクコン下の事は自己の力で料理するやう做し㋗ち去らずして、世界あるべからざる神を⑪エイセンし、事理容るすべからざる霊魂の不滅を想像して、辛うじて自己社会の不始末を片付けんとするのは、むしろ生地なしといわねばならぬ。

 

 ㋖〔つと・め〕→音読みは〔きょく〕・「勖」の異体字

 ㋗〔・ち〕→〔漢文訓読用法で「~をもって」「~をもちいて」と訓む〕

 ⑩〔 脚 跟 〕→意味〔足下。脚下照顧。碧巌録「第1則」に「知らず脚跟下に大光明を放つを」との出典がある言葉〕・「」は〔くびす〕と訓む

 ⑪〔 影 撰 〕→意味〔かげを撰ぶ。イメージすること

 

 見よ社会の現状は此輩の囈語に管せず、人類中の事は人類中で料理して、古昔に比すれば悪人は多くは罰を免れず、善人は世の称賛を得て、乃ち社会の制裁は漸次に力を得つつあるのではないか。法律制度漸次改正せられて、蛮野より文明に赴き、大数において進歩しつつあるのではないか。何ぞ必ずしも未来の裁判を想像し、神を想像し、霊魂の不滅を想像するの必要はないのである。宗教及び宗教に魅せられたる哲学の囈語を打破しなければ、真の人道は進められぬのだ。

 

 此輩輒ち言ふ、未来においての至厳至密の裁判を畏るればこそ、吾人人類の過半数否なほとんど全数が幾分か自ら⑫カイシンして善に突き悪を避くるやう勗むるのである。それこの畏れがありてすら、⑬ケイヘキに触れる者があるのに、ましてこの世はこの世限り、栄耀をすればそれだけの利益、刑罰を逭るればそれだけの幸福、公正にして貧窮に陥いるは愚の極と言ふ事になつたならば、道徳風俗は如何に⑭カイランするか測られないのだ。即ち欧米人が無宗旨の人を忌むこと、盗賊も啻ならざる姿であるのは、此処の道理である云々。

 

 ⑫〔 戒 慎 〕→意味〔気を張りつめて用心すること

 ⑬〔 刑 辟 〕→意味〔罪人を処罰すること〕・「」は〔けいばつ・押し置き

 ⑭〔 壊 乱 〕→意味〔秩序など、整っている事柄をこわして乱す。また、こわれて乱れる

 

 ああこれ何たる⑮ヒロウの言ぞ、およそ善のために善を為し、悪のために悪を避け、一切身外の利害を眼底に措かず、即ちいささかの為めにする所ろなくしてこそ、善称すべくして悪罰すべきである。もし他に為めにする所ろあるときは、善も善にあらず、悪も悪にあらず、善悪混乱し、邪正淆雑して⑯テキジュウする所ろを知らなくなる。かつ宗教の道徳におけるのは、その力実に微弱である、その証拠は欧洲にあつて宗教の尤も盛なのは中古の時であつた。しかるにこの時諸国皆封建制度に循つて、君主と諸侯と常に相⑰アツし、刑罰の如き実に苛酷を極めたもので、爾来科学が漸く盛に赴いて、宗教の信仰漸く減退に向つた十七、八世紀が、かへつて人道において㋘に多くの進歩を為し、中古の時の比でなかつたではないか。更に支那日本を観よ、二国倶に宗教には極めて冷澹な〔る〕かかはらず、人民の温和で、人をして⑱サンビせしむる悪事を敢行する者は、古昔欧洲諸国に比して大に㋙であるではないか。故に未来の裁判の畏れが巨悪㋚に対して㋛銜轡の功を奏し居るといふことは、吾人の信ぜざる所ろである。

 

 ㋘〔はるか・に〕→音読みは〔けい

 ㋙〔まれ〕→音読みは〔かん

 ㋚〔だいたい〕→意味は〔悪者〕・「」は配当外で「おろかもの。おろかな悪人」。「巨悪大」は四字熟語で「悪者の親分」

 ㋛〔がんぴ〕→意味〔馬を操るくつわとたづな、転じて法律のこと〕・「銜」は〔くつわ・はみ〕〔ふく・む〕、「轡」は〔くつわ・たづな〕と訓む。

 ⑮〔 卑 陋 〕→意味〔いやしいこと

 ⑯〔 適 従 〕→意味〔ゆきしたがう。行動の指針としてしたがうこと

 ⑰〔    〕→意味〔きしむこと。仲が悪くなること

 ⑱〔 酸 鼻 〕→意味〔鼻に沁みて涙が出るほどはなはだしく痛み、悲しむこと

 

 かつこの世界で善を勧め悪を懲らすために、未来の裁判を想像し、神を想像し、霊魂を想像するのは、これ方便的である、決して哲学的ではない。哲学的はたとひ一世に不利であつても、いやしくも真理ならばこれを発揮することこそ本旨といふべきである。

 

 今や英、仏、独、即ち科学の最も盛なる欧州の第一流国にあつて、その中心学術を信ずるので、⑲ツジツマの合はない宗旨の事条に関しては、㋜に冷澹を極めつつある輩が随分㋝くない。乃ち旧教㋞檀越の尤も多い仏国の如きでも、精進日たる水曜日において、公々然⑳ギュウシを食して憚からざる者極めて㋟いのである、しかも一般道徳は、中古に比してすこぶる進めりといふべきである。宗教の方便的信条が道徳の実際に力のないことは、他にも証拠を挙げやうと思へば沢山ある。

 

 ㋜〔ひそか・に〕

 ㋝〔すくな・く〕

 ㋞〔だんおつ〕→意味〔寺院や僧に金品を贈与する信者〕・類義語は〔檀那・檀家

 ㋟〔おお・い〕

 ⑲〔 辻 褄 〕

 ⑳〔 牛 仔 〕→意味〔こうし〕・漢字一事では〔〕とも書く

 

「束縛」?いえ「若干」です…=中江兆民「続一年有半」③

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの3回目です。

 

 (二)精神の死滅

 

 かつ生産の一事について一考せよ、剰除の大理について思索せよ。およそ①カイセイの物は、皆己れの身後に②ジソンを留むるのである。而してそのジソンには、これが親たる者が、己れの軀体とこの軀体より発すべき精神とを分与して、即ちジは親の分身であつて、而して親は死しジは留まりて、剰除の数理に㋐ふのである。

 

 ㋐〔かな・ふ〕

 ①〔 懐 生 〕→意味〔生きとし生けるもの〕・類義語〔 衆 生 

 ②〔 児 孫 〕→意味〔子と孫〕・西郷隆盛の詩は「〔児孫のために〔美田を買わず」

 

 看よ③サンガが既に卵を生んだ後は、間もなく死滅するではないか、もし彼の卵がガの軀体と精神とを授かりて、而して彼のガもまた軀体のみ亡びて、その精神は独存すといはば、理において穏当であらうか。即ち④リシチョウサン各々ジ子を遺して、而してそのリシチョウサンも死後霊魂独存して滅びないとすれば、これ霊魂国の人口は非常の⑤ジソクを為して、乃ち十億、百億、千々、万々、十万憶と無限に蕃殖して、一箇半箇も滅することがないであらう、これ果て剰除の数理に合するといはれやうか。

 

 ③〔 蚕 蛾 〕→意味〔蛹の繭から孵化した蛾〕・「蚕飼」は熟字訓で〔こがい

 ④〔 李 四 張 三 〕→意味〔ごくありふれた平凡な人のたとえ。通常は張三李四という

 ⑤〔 滋 息 〕→意味〔ふえること〕・類義語〔 蕃 殖 〕

 

 およそ生気あるもの、即ち草木といへども人獣と異らぬのである、都て父祖たる者は、ジソンを以て始めて不朽なるを得るものである。しかるに既にジソンを以て不朽なるを得て、なほその上に自身も別に不朽なるを得るとは、余り勝手過ぎたる言ひ事である、非哲理極まるのである。半死の㋑田舎媼の口からいへばともかくも、哲学者を以て自ら⑥ヒョウボウする人物にして、かくの如き非哲理極まる言を吐くとは、直ちに人間⑦シュウチの事を知らぬのである。

 

 ㋑〔でんしゃおう〕→意味〔いなかばばあ〕・対義語〔 田 舎 翁 〕

 ⑥〔 標 榜 〕→意味〔主義・主張を公然と掲げること〕・「」は〔かか・げる〕〔ふだ〕〔たてふだ〕とも訓む。

 ⑦〔 羞 恥 〕→意味〔はずかしいと感じること〕・「」は〔・じる〕〔すす・める〕とも訓む。

 

 (三)軀殻の不滅

 

 この故に軀殻は本体である、精神は軀殻の働き即ち作用である。さればこそ軀殻一たび⑧ゼッソクすれば、その作用たる視聴言動は直にやむのである。即ち軀殻死すれば精神は消滅する、あたかも薪燼して火の滅ぶると一般である。

 

⑧〔 絶 息 〕→意味〔息の絶えること。絶命

 

 この道理からいへば、いはゆる不朽とか不滅とかは精神の有する資格ではなく、反対に軀体の有する資格である。何となれば、彼れ軀体は㋒若干元素の⑨ホウゴウより成れるもので、死とは即ちこの元素の解離の第一歩である。しかし解離はしても元素は消滅するものではない、一旦解離して即ち身⑩フカイするときは、その中の気体の元素は空気に混入し、その液体若くは固体のものは土地に混入して、要するに各元素相離れても、各々この世のいづれの処にか存在して、あるいは空気と共に⑪キュウキョせられ、あるいは草木の葉根に摂取せられ、㋓に不朽不滅なるのみならず、必ず何かの用を為して、⑫テンテン窮已なしといふのである。

 

 ㋒〔そくばく(そこばく)〕(熟字訓)→意味〔いくらか、いくつか。たくさん、かなりの数量

㋓〔ただ・に〕(訓)

 ⑨〔 抱 合 〕→意味〔化合

 ⑩〔 腐 壊 〕→意味〔くさってこわれること〕・「不快」「府会」「傅会」ではない。

 ⑪〔 吸 噓 〕→意味〔吸うことと噓くこと。呼吸

 ⑫〔 転 輾 〕→意味〔ころがること。次から次へと変ること〕・四字熟語の「テンテンハンソク」は〔輾転反側〕で意味は〔眠られずに寝返りを打つこと

 

 故に軀体、即ち実質、即ち元素は、不朽不滅である、これが作用たる精神こそ、朽滅して跡を留めないのである。これは当然明白の道理で、太鼓が敗るれば鼕々の音絶へる、鐘が破るれば㋔の声は止まる。而してその破敗した太鼓や鐘は、その後如何なる形状を為しても、如何に片々⑬キカイせられても、一分一厘消滅することなく、何処かで存在して居る、これが実質即ち元素の資格である、これが物の本体と、働らき即ち作用との別である。

 

 ㋔〔こうこう〕→意味「鐘の音」。「」は配当外で「鐘や太鼓の発する大きな音」。「然」とも。

 ⑬〔 毀 壊 〕→意味〔事物がこわれくずれること

 

 春首路上南風に吹揚げらるる⑭コウアイ、彼れ如何に疎末に、如何にはかなく見られても、これまた不朽不滅のものである、あるいは河水に混じ、あるいは㋕廛頭の物品に附着し、時に随ふて処を変じても、必ず存在して決して消滅しないのである。彼れ如何に疎末でもやはり若干元素のホウゴウに成つて、吾人の軀体と類を同くして居る。宗旨家若くは宗旨に黴せられたる哲学者のいふ所ろの虚無なる精神、または吾人のいふ所ろの軀体の一作用なる精神とは、科を同くせぬのである。故に⑮ジンアイは不朽不滅なるも、精神は朽滅すべき資格のものである。

 

 ㋕〔てんとう〕→「廛」は〔みせ

 ⑭〔 黄 埃 〕→意味〔砂ぼこり

 ⑮〔 塵 埃 〕→意味〔ちりとほこり

 

 釈迦⑯ヤソの精魂は滅して已に久しきも、路上の馬糞は世界と共に悠久である、天満宮即ち菅原道真の霊は身死して輒ち亡びても、その愛した梅樹の枝葉は幾千万に分散して、今に各々世界の何処にか存在して、乃ち不朽不滅である。

 

 ⑯〔 耶 蘇 〕→意味〔イエスキリスト

 

 不朽不滅の語は、宗旨家の心においては如何に高尚に、如何に霊妙に、如何に不可思議かは知らないが、㋖冷澹なる哲学者の心には、これはおよそ実質皆有する所ろの一資格で、実物中不朽不滅でないものは一もない。真空に等しい虚無の霊魂は、啻に不朽不滅でないのみならず始より成立て居ないのである、虚霊派哲学士の言語的泡沫である。

 

 ㋖〔れいたん〕→意味〔熱意・同情心がなくあっさりしていること

本日のキーワード「クカク」何回出たか数えよう=中江兆民「続一年有半」②

 中江兆民の「続一年有半」シリーズの2回目です。

 

 第1章(霊魂)

 

 第一霊魂より点検を始めやう、霊魂とは何物ぞ。

 

 目の視るや、耳の聴くや、鼻口の①キュウショクするや、手足の捕捉し行歩するや、一考すれば実に奇々妙々といはねばならぬが、誰かこれを主張〔宰カ〕するのである。想像の力記憶の力に至つてはその奇なることは更に甚しい。乃至今日国家社会を構造するは誰の力ぞ、諸種学科を㋐闡発し推進し、蛮野を出て文明に赴く者、皆いはゆる精神の力といはねばならぬ。もしそれ体軀はただ五尺とか六尺とかに限極せられて、十三元素とか十五元素とかを以て②ね固められて、畢竟一の②ガンニクである、しかれば霊妙なる精神が主と為りて、ガンニクなる体軀はこれが奴隷であらねばならぬ云々。

 

 ㋐〔せんぱつ〕→意味〔あきらかにする〕・「闡」の訓読みは〔ひら・く〕〔あき・らか〕

 ①〔 嗅 食 〕→「休職」「求職」「給食」ではない。

 ②〔  〕→音読みは〔ねつでつ〕→「ネツゾウ」は〔 捏 造 〕

 ③〔 頑 肉 〕→この場合の「」は「おろか」という意味。

 

 この言やこれ正に大④ビュウレイに陥いる第一⑤キトウである。精神とは本体ではない、本体より発する作用である、働きである。本体は五尺軀である、この五尺軀の働きが、即ち精神てふ霊妙なる作用である。譬へばなほ炭と焰との如きである、薪と火との如きである。㋑漆園叟は既にこの理を㋒して居る、それ十三若くは十五元素の一時の抱合たる⑥クカクの作用が、即ち精神なるにおいては、クカクが還元して即ち解離して即ち身死するにおいては、これが作用たる精神は同時に消滅せざるを得ざる理である。炭が灰になり薪が㋓すれば、焰と灰とは同時に滅ゆると一般である。クカク既に解離して精神なほありとは背理の極、いやしくも宗教に㋔せられざる、自己死後の勝手を割出しとせざる健全なる脳髄には、理会されべきはずでない。唐辛はなくなりて辛味は別に存するとか、太鼓は破れて⑦トウトウの音は独り遺つて居るとか、これ果て理義を思索する哲学者の口から真面目に言はるる事柄であろふか。十七世紀前の欧洲では、もし無神無精魂の説を主張すれば、あるいは水火の酷刑に処せられたので、やむをえぬ事情もあつたかは知らぬが、言論の自由なる道理に支配せられべき今日にあつて、なほ囈語を発するとは何たる事ぞ。

 

 ㋑漆園叟は〔しつえんそう〕と読み、古代中国の思想家である〔荘子〕のことである。「叟」は〔おきな〕と訓む。

 ㋒〔しょは〕→「」は配当外で「うかがう」という意。「看破」とほぼ同義か。

 ㋓〔じん〕→訓読みは〔もえさしもえのこり

 ㋔〔いんばい〕→「」は配当外で「長い間たしなんで、癖となり、体内の機能障害をおこす状態。中毒症」。「酒」(しゅいん)。「黴」は〔かび〕〔・びる〕と訓む。熟字訓で「黴雨」は〔つゆ〕。

 ④〔 謬(繆) 戻 〕→意味〔あやまって道理にもとる。道理と食い違うこと

 ⑤〔 紀 頭 〕→意味〔事のおこり、はじめ〕。類義語は〔 濫 觴蒿 矢 〕

 ⑥〔 軀 殻 〕→意味〔からだ、体軀

 ⑦〔 鼕 鼕 〕→意味〔とんとんという太鼓やつづみの音

 

 故にクカクは本体である。精神はこれが働らき即ち作用である。クカクが死すれば精魂は即時に滅ぶるのである。それは人類のために如何にも情けなき説ではないか、情けなくても真理ならば仕方がないではないか。哲学の旨趣は方便的ではない、⑧イユ的ではない、たとひ殺風景でも、剥出しでも、自己心中の推理力の⑨エンソクせぬ事は言はれぬではないか。

 

 ⑧〔 慰 喩(諭) 〕→意味〔なぐさめさとす。いたわり教えること

 ⑨ 『奄息・淵塞・堰塞・圜則・偃息・厭足』から選べ。

  〔 厭 足 〕→意味〔飽き足りる。充分で満足すること

 

 もし宗旨家及宗旨に魅せられたる哲学者が、人類の利益を割出としたる言論の如く、果てクカクの中に、しかもクカクと離れて、クカクより独立して、いはゆる精神なる者があつて、あたかも人形遣いが人形を操る如く、これが主宰となつて、クカク一日解離しても、即ち身死してもこの精神は別に存するとすれば、クカク中にある間は、いづれの部位に坐を占めつつあるが、心臓中に居るか、脳髄中に居るか、そもそも胃腸中に居るか、これ純然たる想像ではないか。これら⑩ゾウフはいづれも細胞より成立ちて居るからは、彼れ精神は幾千万憶の細片となつてこれら細胞中に⑪グウキョしつつあるか。

 

 ⑩〔 臓 腑 〕→意味〔はらわた。五臓六腑。心の中

 ⑪〔 寓 居 〕→意味〔仮に住む〕。「寓」は〔かりずまい〕〔やど・る〕とも訓む。

 

 曰く、精神は無形なり実質あるにあらずと。この言や正に意味なき言語である。およそ無形とは吾人の耳目に触れない、否な触れつつあつても吾人の省しないものをいふので、即ち空気の如き、科学の目にのみ有形で、顕微鏡にのみ有形で、肉眼には正に無形である。およそ無形とは皆かくの如く実質はあつても極て⑫ヨウビで、吾人これが触接を覚へないでも、その実はやはり形あるものをいふのである。彼れ精神の如き、もしかくの如くでなく、純然無形で実質がないとすれば、これ虚無ではないか、虚無がクカクの主宰なりとは、果して穏当なる言ひ事であるか。

 

 ⑫〔 幺 微 〕→意味〔小さい。細かい。価値のない詰まらないこと

 

 およそ無形といふものは、皆今日までの学術でいまだ捕捉し得ないか、または学術では捕捉されても、肉体に感得せられないものである。即ち光、温、電等の如きでも、学術ますます㋕進闡した後は、果して顕微鏡で看破し得るかも知れないではないか。彼れ精神の如きでも、灰白色脳細胞の作用で以て、その働らくごとに極てヨウビの細分子が飛散しつつあるかも知れないではないか。およそ学術上未解明の点について想像の一説を立るには、務めて理に近いものを択ぶが当然である。即ち精神の如きも、クカク中の脳神経が㋖絪縕し⑬マトウして、ここに以て視聴嗅味及び記憶、感覚、思考、断行等の働らきを発し、その都度⑭バクフの四面に沫飛散するが如くに、極々精微の分子を看破し得るに至るだらうと⑮オクテイし置ても、必ずしも理に㋗りて人の良心を怒らすが如き事はないではないか。これに反し、分子も形質もなき純然たる虚無の精神が、一身の主宰となりて諸種の働らきを為すといふが如きは、如何にも㋘悖理ではあるまいか、人の良心を怒らすべき性質ではあるまいか。

 

 ㋕〔しんせん〕→意味〔進んで明らかにすること

 ㋖〔いんうん〕→意味〔むんむんと気が天地にみなぎるさま〕。出典は「易経・繫辞上」で「天地絪縕として、万物化醇す」から。「」も「」も配当外。前者は「しとね」、後者は「もつれた麻のくず」。

 ㋗〔もと・り〕、㋘〔はいり〕→一字音訓読み分け。意味は〔道理にそむくこと

 ⑬〔 摩 蘯(盪・蕩) 〕→意味〔空を摩してうごかす。勢いの盛んなさま

 ⑭〔 瀑 布 〕→意味〔勢いのあるたき

 ⑮〔 臆 定 〕→意味〔自分の推量だけで勝手に決めてしまうこと

古人の糟魄と語彙力増強の二兎を追え=中江兆民「続一年有半」①

 

 「続一年有半」は、残り1年半の余命を宣告された中江兆民が明治349月、喉頭癌という病魔と戦いながら書いたものです。その内容は兆民思想の集大成なのですが、命を賭した峻烈なる魂の迸りとでも言い換えることができましょうか。「一年有半・続一年有半」(岩波文庫)の訳注者である井田進也氏は解説で「『一冊の参考書もなく』せっぱつまって書いたものであるだけに、かえって兆民の真骨頂を伝えるものとなったのではあるまいか」と述べています。兆民が没ぬ直前のわずかな時間で推敲も程々にして一気に書き上げた兆民ワールドの掉尾を飾るに相応しい著作となったのです。

 そこで明治時代の自由民権運動の精神的支柱となった大思想家の最期の「糟魄」を弊blogで嘗めようと思います。7月中旬までの20回シリーズぐらいをイメージして全文掲載を試みます。

 

実はこの「続一年有半」、文体は「~である」調で書かれており、いわゆる漢文訓読調ではない現代文風、いわば「兆民らしくない雰囲気」が醸しだされています。しかしながら、用いられている語彙はもちろん「兆民語」。これらの「兆民語」はそのまま漢字検定1級試験で索められる語彙力そのものと言っていいでしょう。引き続き問題形式で兆民語の定着を図っていくことにしましょう。こうした形式は、兆民の思想を翫わう上では邪道であるのは百も承知です。ご容赦ください。本日、本年度第1回の検定試験が終わったばかりですが、次回11月の第2回、「秋の陣」の制覇に向けて今からゆっくりと「仕込み」を始めましょう。

 ただし、従来と比べ時間的な余裕はあるので、総合的な語彙力を涵養するため、言葉の意味を甫め、対義語・類義語や四字熟語、故事成語など、言葉そのものだけでなく付け加えることにします。とにかく急がず、ゆっくりとやりましょう。兆民の文章は時間をかけて読み進めるだけの重みと価値はありますから。。。古人の糟魄を嘗めるという弊blogのコンセプトと漢字検定1級試験の語彙力増強という二兎を追い掛けたいと思います。

 

 【続一年有半】

 

 第一章 総論

 

 理学即ち世のいはゆる哲学的事情を研究するには、五尺の軀の内にし局して居ては到底出来ぬ、出来ることは出来ても、その言ふ所ろが知らず識らずの間皆没交渉となるを免れぬ。人類の内に局して居てもいかぬ、十八里の雰囲気の内に局して居ても、大陽系天体の内に局して居てもいかぬ。

 

 元来空間といひ、時といひ、世界といひ、皆一つありて二つなきもの、如何に①タンサクなる想像力を以て想像しても、これら空間、時、世界てふ物に始めのあるべき道理がない、終のあるべき道理がない。また上下とか東西とかに限極のある道理がない。しかるを五尺軀とか、人類とか、十八里の雰囲気とかの中に局して居て、而して自分の利害とか希望とか②コウケンして、他の動物即ち禽獣虫魚を疎外し軽蔑して、ただ人といふ動物のみを割出しにして考索するが故に、神の存在とか、精神の不滅即ち身死する後なほ各自の霊魂を保つを得るとか、この動物に都合の能い論説を并べ立てて、非論理極まる、非哲学極まる㋐囈語を発することになる。

 

 ㋐ 兆民の宛字なら〔 ねごと 〕 試験本番を意識し音読みなら〔 げいご 〕、熟字訓なら〔 うわごと 〕

 ①〔 短 窄 〕→意味〔短くて幅が狭く窮屈なこと

 ② 『公権・貢献・拘牽・後見・荒歉・勾検・効験』から選べ。

〔 拘 牽 〕→意味〔引きとめられること、関わりとらわれること

 

 プラトンや、プロタン〔プロティノス〕や、デカルトや、ライブニツトや、皆宏遠③タッシキの傑士でありながら、知らず識らずの間己れの死後の都合を考慮し、己れと同種の動物即ち人類の利益に誘はれて、天道、地獄、唯一神、精神不滅等、煙の如き否な煙なら現にあるが、これらの物はただ言語上の④ホウマツであることを自省しないで、立派に書を著はし臆面もなく⑤ロンドウして居るのは笑止千万である。また欧米多数の学者が、いづれも母親の乳汁と共に吸収して身軀に血管に㋑浹洽して居る迷信のために支配せられて、乃ち無神とか無精魂とかいへば大罪を犯したるが如く考へて居るとは笑止の極である。

 

 ㋑〔 しょうこう 〕→意味〔隅々まで広く行き渡ること

 ③〔 達 識 〕→類義語〔 卓 見 〕、対義語〔 浅 見 〕

 ④〔 泡 沫 〕→熟字訓読み〔 うたかた 〕

 ⑤〔 論 道 〕

 

 なるほど人の肉を胆にして㋒恣睢暴戻を極めた盗跖が長寿して、⑥アセイともいはるる顔回が⑦ヨウシし、その他世上往々逆取順守を例とせる盗賊的紳士が栄へて、公正の行を守る人物が⑧ソウコウだにも飽かずして死するを見ると、未来に真個公平の裁判所があるといふが如きは、多数人類に取りて都合の好い言ひ事である。殊に身⑨タイシツに犯され、一年、半年と日々月々死に近づきつつある人物等にあつては、深仁至公の神があり、また霊魂が不滅であつて、即ち身後なほ独自の資を保ち得るとしたならば、大に自ら慰むる所があるであらう。しかしそれでは理学の㋓荘厳を如何せん、冷々然ただ道理これ視るべき哲学者たる資格を如何せん、生れて五十五年、やや書を読み理義を解して居ながら、神があるの霊魂が不滅といふやうな囈語を吐くの勇気は、余は不幸にして所有せぬ。

 

 ㋒〔 しきぼうれい 〕(「睢」=下からにらむ=は配当外)→意味〔横暴で残忍な人物の形容

 ㋓〔 しょうごん 〕(「そうごん」でない読み)

 ⑥〔 亜 聖 〕→意味〔聖人に次ぐ賢人。孔子が聖人で、孟子か顔回(顔淵)を指す

 ⑦〔 夭 死 〕→対義語〔 遐 齢(年) 〕

 ⑧ 『漕溝・箱匣・糟糠・蒼惶・操行・草藁』から選べ。

〔 糟 糠 〕→意味〔粗末な食べ物〕、故事成語は「ソウコウにも厭(飽)かず」→意味〔まずい食事さえもじゅうぶんに食べられない。ひどい貧乏生活をするたとえ

 ⑨〔 大 疾 〕→対義語〔 微 恙 〕

 

 余は理学において、極めて冷々然として、極めて剝出しで、極めて殺風景にあるのが、理学者の義務否な根本的資格であると思ふのである。故に余は断じて無仏、無神、無精魂、即ち単純なる物質的学説を主張するのである。五尺軀、人類、十八里の雰囲気、大陽系、天体に局せずして、直ちに身を時と空間との真中《無始無終無辺無限の物に真中ありとせば》に居いて宗旨を眼底に置かず、前人の学説を意に介せず、ここに独自の見地を立ててこの論を主張するのである。

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不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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