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唐氏の次は駅卒の女も失いし放翁の「恕」=露伴「幽夢」6・完

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」)で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの6回目、最終回です。陸游の“失恋話”は最初の妻と無理矢理別れさせられただけではなかった。召使と謂うか、いまでいう愛人でしょうか、家に囲っていた女と別れさせられます。それも焼き餅に燃えた二番目の正妻によってです。露伴はそんな陸游の人生を「福の薄き」と称しています。ですが、そんな悲しみも肥やしにして出色の詩の数々を残すのですから、才ある人は羨ましい限りですな。


★放翁の年二十の頃、既に唐氏を得しや否やは知らねど、詩藁巻十九に、余が年二十の時、嘗つて菊枕の詩を作り、1)スコブる人に伝はりぬ、今秋たまたま復菊を采りて、2)チンノウを縫はしむ、3)セイゼンとして感あり、と題して詩二章あり。曰く、

 黄花を采り得て チンノウを作る、
 曲屛 深幌 幽香を閟む。
 喚回す 四十三年の夢、
 灯暗うして人無し 断腸を説くに。
     又
 少日曾て題しぬ 菊枕の詩、
 4)トヘン残藁 蛛糸に鎖さる。
 人間万事 消磨し尽す、
 只有り 清香の旧時に似たる。

 疇昔の菊花枕、唐氏の5)センシュに裁縫せられしにはあらずやとをかし。(「幽夢」P275~276)

1)スコブる=

2)チンノウ=枕嚢

3)セイゼン=凄然

4)トヘン=蠹編

5)センシュ=繊手

★放翁の福の薄きは此のみならず。其の後蜀に入るに当りて、ある駅に宿りけるに、と見れば駅館の壁に詩を題せるあり。筆づかひ正にしく女にして、詩もまた悪からず。

 玉の堦のもとの6)コオロギは 清しき夜にア)ぎ、
 金の井のほとりの梧桐は 故りし枝を辞る。
 一枕凄じく凉しくして 眠得ず、
 灯を呼びて起ちて作る 秋を感ふ詩を。

とあり。いかなる人のすさびかと之を問ひたゞすに、身は軽き駅卒の女なりけり。美しかりしや否かは知らず、其才を愛でゝなるべし。放翁はこれを納れて妾として召使ひぬ。(「幽夢」P276)

6)コオロギ=蟋蟀

ア)鬧ぎ=さわ・ぎ

★されど郎月雲を招き、好事魔を惹きて、唐氏の後の夫人7)シットいと強く、半歳ばかりにして之を逐ひ出しぬ。詞綜巻の二十五に載す。妾逐はるゝに当り、生査子の調の詞を賦して別れぬと。詞に曰く、

 只知る 眉に愁の上るを、
 識らず 愁の来る路を。
 窓の外に 芭蕉あり、
 陣々たり 8)タソガレの雨。
 暁に起きて 残妝をイ)め、
 整へウ)へて 愁をして去らしむ。
 合に春の山を画くべからざり、
 旧に依りて 愁を留めてエ)むれば。    (「幽夢」P276~277)

7)シット=嫉妬

8)タソガレ=黄昏

イ)理め=おさ・め

ウ)頓へて=ととの・へて

エ)住むれば=とど・むれば


★芭蕉の夕の雨の音の悲しきに、愁は眉の上に来りて、理妝すれど眉を画けば、春山青きあたり愁の雲のまたオ)まる、思ある女の旦暮の情景、浮き出でゝ見ゆ。前には唐氏を失ひ、後には此女を失へる、放翁はまことに9)エンプク無き人なりけり。
放翁の語曰く、一言もつて身を終るまで之を行ふ可きものは其れ恕なる乎、此は聖門一字の銘なりと。恕とは今の邦語に謂うふところの「おもひやり」なり。一字銘の語、下し得て妙、おもふに放翁深く恕字に於て悟れるところあるなるべし。(「幽夢」P277~278)

9)エンプク=艶福

オ)逗まる=とど・まる
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姑に虐げられ死して化した「姑悪鳥」=露伴「幽夢」5

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」)で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの5回目です。嫁姑の仲は永遠の恋敵。陸游は「夏の夜の舟の中に水鳥の声の甚だ哀みて姑悪と曰ふが如きを聞き、感じて詩を作る」と題した一篇の詩を詠じています。「姑悪」ですか。。。こわっ。

★あきもあかれもせぬ中を放翁が母に逐はれし唐氏が事と関係ありや無しやは知らねど、劒南詩藁巻十四を読むに、夏の夜の舟の中に水鳥の声の甚だ哀みて姑悪と曰ふが如きを聞き、感じて詩を作ると題せる篇あり。水鳥は即ち姑悪鳥にして、また姑獲鳥ともいふ。鳴く声を以て名を得たるなり。相伝ふ、上世に婦人あり、其姑に虐げられ、気を結びて死し、化して此鳥になると。来元成に句ありて云はく、其の尊を改めず称して姑と曰ふ、一字の1)ヘン名づけて悪といふと。放翁の詩に曰く、

 女 生れて 2)シンケイに蔵る、
 未だ曾て3)ショウハンを窺はず。
 車に上つて 天とする所に移れば、
 父も母も 它門となるぬ。
 妾が身は 甚だ愚なりと雖、
 亦知る 君が姑の尊きを。
 牀を下る 頭鶏の鳴くに、
 髻をア)いて 4)ジュクンを着く。
 堂上に 5)サイソウを奉じ、
 厨中に 盤飱を具す。
 青々 葵莧を摘み、
 恨むらくは美なるイ)熊蹯ならざるを。
 姑の色 少しくウ)ばざれば、
 6)イベイ 涙の痕 湿る。
 冀ふところは 妾が男を生まんことを、
 庶幾はくは 姑も孫を弄せん。
 此志 竟に7)サタたり、
 薄命にして 8)ザンゲンを来しぬ。
 放棄てられしは 敢て怨みざれど、
 悲むところは 大恩にそむけること。
 古き路 エ)陂沢に傍ひ、
 微雨ふりて 鬼火オ)し。
 君聴けや 姑悪の声、
 乃ち遣られし婦の魂なる無からんや。    (「幽夢」P273~274)

1)ヘン=

2)シンケイ=深閨

3)ショウハン=牆藩

4)ジュクン=襦裙

5)サイソウ=灑掃(洒掃)

6)イベイ=衣袂

7)サタ=蹉跎

8)ザンゲン=讒言

ア)梳いて=・いて

イ)熊蹯=ユウハン

ウ)怡ばざれば=よろこ・ばざれば

エ)陂沢=ハタク(ヒタク)

オ)昏し=くら・し

★反復してこれを味はふに、9)ソクソクの情、綿々の恨、おのづから人を動かすものあり。葢し唐氏が当時のおもかげ、此中に10)グウザイするなからんや。

9)ソクソク=惻々(惻惻)

10)グウザイ=寓在

断れし雲の幽夢事茫々たり=露伴「幽夢」4

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」)で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの4回目です。元の妻・唐氏との再会、そして哀れな彼女の死は陸游の詩興に火を点けます。寤寐思服、浮かぶ思いが言葉となって連ねられるのです。

★物移り景ア)る世の習、さしも幽雅なりし沈氏の園もまた月日経て衰へ廃りければ、1)ギンカイ寂しく動きて、亦復詩あり。

 楓の葉は初めてイ)うして ウ)の葉は黄み、
 河陽の愁の髩は 新なる霜に怯ゆ。
 林亭に旧を感して 空しく首を回らすも、
 泉路 誰に憑りてか 膓を断てるを説かむ。
 壊れし壁の酲題 塵漠々たり、
 断れし雲の 幽夢 事茫々たり。
 年来の俗念 消除し尽し、
 回向す 蒲エ)に2)イッシュの香。          (「幽夢」P271~272)

1)ギンカイ=吟懐

2)イッシュ=一炷

ア)遷る=うつ・る

イ)丹う=あか・う

ウ)槲=ならがしわ(かしわ)

エ)龕=ガン

★壊壁断雲の一3)レン、嗚呼まことに悲しからずや。しかも詩人の深情、終に之にとゞまらず、其の人死して猶これを忘れず、其の園荒れて猶これを懐かしみ、人と園と倶に皆雲烟の外に滅えて復尋ぬ可からざるに及びても、情魂詩魄、有無明幽の間にあくがれて、4)ヨウビョウたる夢のオ)にまた沈氏の園に遊び、残灯孤影、カ)めて後に二章の詩を為せり。

 路は城南に近くして 已に行くをキ)る、
 沈家の園の裏 更に情を傷ましむ。
 香は客の袖を穿ちて 梅の花在り、
 緑は寺の橋を蘸して 春の水生ず。

 城南のク)小陌 又春に逢ふ、
 只梅花を見るのみにして 人を見ず。
 玉の骨は久しく成りぬ 5)センカの土と、
 墨の痕は猶し鎖す 壁間の塵

 如何ばかり忘れ難き深き情懐なりけん。世にあはれなる物語とはなりぬ。
 (「幽夢」P272)

3)レン=聯(連)

4)ヨウビョウ=杳渺(杳眇)

5)センカ=泉下

オ)裏=うち

カ)寤めて=・めて

キ)怕る=おそ・る

ク)小陌=ショウハク

沈園の白壁に題した「釵頭鳳の詞」=露伴「幽夢」3

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」)で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの3回目です。話が断片的で分かりにくいかもしれませんが、陸游(務観)が母親の命で無理矢理別れさせられた旧妻と思わぬ再会というか、ちらりと見かけてしまったシーンからスタートです。

★心なつかしきア)疇昔の事、面はゆき即今の思、問ひもし問はれもし、語りもし語られもしたきことは、互のイ)に余るほどなれど、縁断えたる中、契破れし間なれば、芳魂いたづらに迷い乱れて、柔膓むなしく回り結ぼるゝばかりなり。女はしかも新しき夫に伴はれてなりければ、ウ)を出し眼を使ふことも叶はず、たゞエ)に明らさまに夫に語りて、酒殽を致し、心の奥を情無からずとのみ示して、1)ショウとして紅霧翠烟の外にオ)たりぬ。(「幽夢」P268)

1)ショウとして=として

ア)疇昔=きのうチュウセキ

イ)臆=むね

ウ)辞=ことば

エ)纔に=わずか・に

オ)距たり=へだ・たり


★花香は酒に入り、柳色は卓にカ)りて、人の情に春を賞づるの杯は挙げながら、孤蝶隻燕、恨おのづからに長く、務観は2)チョウゼンたること久しかりけるが、思ひ余りて釵頭鳳の詞をキ)りて園の白壁に題しける。

 紅酥の手、
 黄藤の酒、
 満城の春の色、3)キュウショウの柳。
 東風 悪しく、
 歓情薄し。
 一懐の愁緒、
 幾年の離索。
 錯、錯、錯。

 春は旧の如く、
 人は空しく瘦せたり。
 ク)の痕 紅浥んで 鮫綃透る。
 桃の花は落ち、
 池閣 ケ)なり。
 山盟は在りと雖、
 錦書もコ)け難し。
 莫、莫、莫。                  (「幽夢」P268~270)

2)チョウゼン=悵然

3)キュウショウ=宮墻(宮牆)

カ)逼り=せま・り

キ)為り=つく・り

ク)泪=なみだ

ケ)間=しずか

コ)托け=ことづ・け

★されば後に至りて陽羨の万紅友もこれを評して、此の詞精麗、俗手の能するところにあらずといへり。紅友また評すらく、此の詞、前に手、酒、柳の三の上声の字を用ゐ、後に旧、瘦、透の三の去声の字を用ゐたる、何ぞ其の心細かくして法厳なるやと。4)ソウソツの作といへども、才人の真情に出づるもの、心のサ)すでに妙なれば、声の響もおのづから清しきに至りたるなるべし。唐氏此の詞を得て、知らず幾5)コクの涙の珠を墜しけん、幾ほども無く6)オウオウとしてシ)身歿りけるとなり。(「幽夢」P270)

4)ソウソツ=怱卒(匆卒)

5)コク=

6)オウオウ=怏怏(怏々)

サ)香=におい

シ)身歿り=みまか・り



★沈園の7)カイコウはいかばかりか深く詩人の心に浸み入りけん、沈園の主は其の後易りけれども、務観の恨は長く遣りて尽きず。後また禹跡寺に登りて眺望せる時、詩を為りて言はく、

 落日に城の南 鼓角哀しみ、
 沈園も 復旧の池台に非ず。
 心を傷ましむ 橋の下の春の波の緑、
 曾て8)キョウコウの影を照らせるを見来れり。

と。(「幽夢」P270~271)

7)カイコウ=邂逅

8)キョウコウ=驚鴻

親を尊び孝を重んずる士君子の習=露伴「幽夢」2

幸田露伴の「幽夢」(講談社文芸文庫「運命 幽情記」で漢検1級試験の直前演習問題シリーズの2回目です。

★放翁は是の如き家に、是の如き母より生れぬ。されば年十二にして、既に詩文の才、人の認むるところとなりしといふ。始は秦檜にア)まれて官を得ること遅く、晩には韓侂冑に累せられてイ)を致して已みぬ。(「幽夢」P266~267)

ア)嫉まれ=にく・まれ

イ)譏=そしり

★ただし生れつきたる詩人とて、日として吟ぜざること無かりしといふに、其の風雅の1)ジュンコウなるを知る可く、文字の礼法に拘はらざりしを以てウ)頽放を譏られしより、自ら放翁と称せしといふに、其の2)キンカイの3)ソコウなるを知るべし。(「幽夢」P267)

1)ジュンコウ=醇厚(淳厚)

2)キンカイ=襟懐

3)ソコウ=疎曠

ウ)頽放=タイホウ

★務観猶若くて、未だ放翁とも称せざりしほどの事なり、母のエ)を引ける唐氏を4)メトりて妻となしける。夫婦のかたらいは濃やかにして、水と魚との仲好かりしが、嫁姑の間はむづかしくて、オ)とカ)との合はぬ勝なりしかば、親を尊び孝を重んずる士君子の習とて、如何なる折にやありけむ、恩愛の絆の纏ひて断ち難きを、義理の5)ヤイバのキ)じうてク)あるに截りて放ちて、終に唐氏を出し遣りける。夫を失ひし妻、日月ももとより黒かるべけれど、婦を無くしゝ男、酒茶もまた味なかるべし。(「幽夢」P267)

4)メトりて=りて

5)ヤイバ=

エ)系=すじ

オ)梭=おさ

カ)杼=

キ)冷じうて=すさま・じうて

ク)稜=かど

★唐氏は人の勧のケ)み難くて、また他の家にコ)きけるが、務観は猶わびしき日の数を重ぬる中、花は情有るが如くに有愁の家にも咲き、蝶は心無きに似たれども6)ブリョウの人をも訪ひて、サ)鰥夫ぐらしにも春は来にけり。シ)の歌、風の光、人皆そゞろぎ浮立つ折柄に、垂籠めてのみあらんよりは、ス)りにし夢を流水に附して、新しき興を節物に得んに如かじとて、そこはかと無く遊びあるきし末、沈氏の花園に入りぬ。(「幽夢」P267~268)

6)ブリョウ=無聊

ケ)辞み=いな・み

コ)適き=・き

サ)鰥夫=やもめ

シ)禽=とり

ス)旧りにし=・りにし

★園は禹跡寺といへる寺の南に在りて、花木蔭を成して深く、亭榭趣を取りてしつらはれ、まことに人をしてセ)をソ)べしむるに足りければ、流石に務観も楽しく覚えて、何の意も無く7)ショウヨウし居けるに、偶然見れば、柳のタ)桃の紅の彼方に人の影ありて、素顔8)サイヨウ、おぼろげにこそはあれ、正しく吾が前の妻なり。(「幽夢」P268)

7)ショウヨウ=逍遥

8)サイヨウ=細腰

セ)神=こころ

ソ)暢べ=・べ

タ)翠=みどり

南宋の愛国詩人陸游の悲恋物語=露伴「幽夢」1

漢字検定1級の2009年度第3回試験(2月7日)が近づいています。“恒例”の本番直前実践問題シリーズを連載します。今回の素材は幸田露伴「幽情記」から「幽夢」を採り上げます。主人公は南宋時代の詩人、陸游(1125~1209)です。

石川忠久氏の漢詩鑑賞事典(講談社学術文庫、中国詩人のアウトラインを知るには最適の入門書です)によりますと、「字は務観。号は放翁。越州山陰(浙江省紹興市)の名門の出身。ほぼ同年配の范成大(1126~1193)、楊万里(1127~1206)とは友人で、この三人が南宋の三大詩人である」。日本で言えば、平安王朝の末期、源平争乱のさなかのころ。中国では陸游が生まれた翌年、北宋の首都である汴京(河南省開封)が北方女真族の国家である金に占領され、時の天子が捕虜として拉致されるという未曾有の事態が勃発していました。「陸游は、一生の間喪われた北方の国土の回復を夢見て、金に対する徹底抗戦を叫び、憂国の詩人と呼ばれることになった」とあります。陸游が17歳になった年、南宋は金との間で紹興の和議を結び、毎年貢物を差し出すことで決着したのですが、漢民族にとっては屈辱の極みでした。まさに臥薪嘗胆。今に見ていろ北方民族――。此の思いを一生涯抱き続けた愛国の詩人でした。

露伴の「幽夢」は、若き日の陸游の恋の「挫折」を描いた作品です。20歳のころ、結婚した陸游ですが、嫁姑の折り合いが悪く母親の命令で離縁を余儀なくされます。お互いに未練たっぷりだった若き男女は10年後、彼の故郷にある禹跡寺の南、沈氏の庭園で思わぬ再会を果たします。一筋の純愛。苛烈な舌鋒を擅にした陸游の詩風ですが、その時の鮮烈なイメージは男女の愛情というテーマとして昇華して、80数年を生きる彼に別の独自の詩風を与えることとなりました。「幽夢」はそんな陸游の「悲恋」のストーリーが本邦大文豪の華麗なる語彙と筆勢によって、巧みに綴られています。漢詩もたっぷり。お得な作品です。

例によって読み書きの問題文を抜粋形式で味わってください。余計な解釈、語釈は無しです。底本は講談社文芸文庫の「運命 幽情記」(P265~278)です。(答えは=の次でカーソルを反転させてください)

★放翁、名は游、字は務観、越州山陰の人。埤雅・礼象・春秋後伝等二百四十二巻の書を撰したる1)セキジュ陸佃、字は農師といふ人の孫なり。佃の貧困にして学に勤め、灯油の資を得ずして、月光の力にア)りて書を読みしは、後の人の感じイ)むところなり。佃は王荊公を師とせり、されども荊公が新政を布かんとせるに当りては、法は善からざるにあらず、但し推行初のウ)の如くなる能はずして、還つて民をエ)すことを為さん、と云へり。(「幽夢」P265)

1)セキジュ=碩儒

ア)藉りて=・りて

イ)愴む=いた・む

ウ)意=こころ

エ)擾す=みだ・す

★少游はおよそ放翁の祖父農師の頃の世の人にて、オ)豪雋2)コウガイ、喜んで兵書を読めりと云はるれど、而も才情3)レイロウ、甚だ詞章に巧にして、王荊公には、其詩清新にして鮑・謝に似たりと評せられ、蘇東坡には、其賦俊逸にして屈・宋に近しと謂はれ、其の死するや、東坡をして歎じて、哀い哉、世またカ)の人あらんや、と曰はしめたり。(「幽夢」P266)

2)コウガイ=慷慨

3)レイロウ=玲瓏

オ)豪雋=ゴウシュン

カ)斯の=・の

★されば放翁が母の淮海先生を夢みしといふも、一分の淮海集の平常4)コウケイの中にありしが故にもやと思はる。投胎再生、それは信ずべく疑ふ可きも、性癖技能、けだし相近く相キ)たり。少游も詩を善し、放翁も詩を善し、少游も兵を喜ぶ、コウガイの気、風流の情、おもへば彼此似通ひたり。まことに奇異の因縁といふべし。(「幽夢」P266)

4)コウケイ=香閨

キ)肖たり=・たり

露伴「幽情記」で漢検1級直前問題⑧

本日の漢検1級直前問題は露伴の「幽情記」(講談社文芸文庫)から「玉主」というお話を取り上げます。比翼連理、偕老同穴、琴瑟相和、関関雎鳩などなど夫婦間の「永の愛」を風喩する言葉は数多ありますが、このお話も夫婦間の絆、つながりをシンプルにかつストレートに綴っています。先立った妻の魂が現れて、横死した夫の魄を救う―。ま、かなり“ステレオタイプ”でもありますけどね。露伴の格調高い文体で読むと泪が誘われると同時に、奥深い意味の語彙に浸ることができます。あすの「本番」には持って来いの題材ではないでしょうか?

★燕山の美人に劉鳳台といふがありけり。桃の媚、柳の嬌、麗しき人も多かりける中に、新月の眉ア)くやかに、初花の唇、紅包ましく、年いとイ)くて而も色優りければ、おのづから一際勝れて見え、名ある女も其のあたりをば避くるばかりにぞありける。(「玉主」P224)

ア)ほそ・く
イ)わか・く

★しかも歌の声は黄鸝(うぐいす)をあざむき、絃の調は天雲を1)トドむべく、浄机に筆を執りても、小室に針を運びても、万般の事のいと巧みなる…。(「玉主」P224)

1)

★丙卿は家富み才かしこく、風流ウ)華奢にして、香囲2)フンジンにも名を馳せ面を知られゐけれど、眼高くして金盆に凡花を貯ふるを欲はず。(「玉主」P224)

2)粉陣
ウ)カシャ

★今までは思を寄する方もなくてありけるが、一たび鳳台を見てより3)ソガンの竟に遂ぐるを喜び、4)セキジョウの暗に牽くを覚え、たゞには已み難くて遂にこれを納れぬ。(「玉主」P224~225)

3)素願
4)赤縄

★女貌郎才、両々相当りて、琴意瑟情、双々克くエ)へる二人が間は如何に楽しかりけむ。(「玉主」P225)

エ)かな・へ

★君の出でしより、5)シュスイオ)くして光無しといふ詞をば、古き詩とのみ耳に聞き居しが、今の事として目のあたりにぞ見る、鳳台は夫の旅立ちしより、粧の鏡対ふにカ)くして雲の髩(ビン)乱れ、紅のキ)独守れば夜の灯細く、遣る瀬無き情、伸ぶるに由無く、尽くる期知らば、暗き路はるかに遠く、たゞ涙にのみ暮らしける。(「玉主」P225)

5)珠翠
オ)くら・く
カ)ものう・く
キ)ねや

★哀む可し劉女は思に瘻(やつ)れ〽て、終に香魂6)ビョウビョウとして7)コウセンに落ちぬ。(「玉主」P225)

6)渺渺(眇眇)
7)黄泉

★丙卿は此事を知る由も無く、山河ク)迢々夢のみ通ひて、雲樹8)ヨウヨウ暗に傷む旅路のケ)に在りけるが、中夜魂魘(おび)えて、一朝悲到り、コ)を得て、9)ガクゼンとして面を掩ひて泣き、取る物も取りあへず馳帰りぬ。(「玉主」P225)

8)杳杳
9)愕然
ク)チョウチョウ
ケ)はて
コ)

★彼の国の習、亡き人を祭るには、サ)(表外訓み)を用ふ、主は即神の依るところなり。栗の木・桑の木などをもて之を為り、宗廟・家廟に安置して、これに物を供へ心を致して祭る。シ)此方の俗、位牌といふものは、すなはち主なり。(「玉主」P226)

サ)かたしろ
シ)こなた

★璧の光は潤ひ輝りても、胸の闇は沈み黒みて、名をス)り字を刻まんとするにも、未金刀を下さずして腸先づ断え、手を着くべき方も覚えざりしが、辛くして功成りしかば、又長短句の一詩を賦してセ)り添へぬ。(「玉主」P226)

ス)・り
セ)・り

★丙卿は此の玉主をば身より離さず、錦の囊をに代へて此を装ひソ)み、持仏なんどの如く那辺にも随へて、山にも水にも相棄つること無く、旦にも暮にも恒に搔抱きければ、世に10)ショウジョウの人は多かれども、かゝる例は聞かぬことなりとて、或は聊タ)むものもあり、又却て憫むものもありて、談柄(かたりぐさ)とはなりける。(「玉主」P226)

10)鍾情
ソ)つつ・み
タ)あざ・む

★11)ソクソクの情の密に募るには、詩人狂はんと欲す。物を観て感じては、酒の前にも涕あり、チ)に接してツ)めては、夢の後にも猶惑ふ。(「玉主」P227)

11)惻惻
チ)おもかげ
ツ)・め

★長く故き家に在りて、昔の事を想ふ苦しさに得堪へねば、寧知らぬ郷に遊びて、新しき境に吟ぜんには如かじと、丙卿は12)ソウゴ万里の旅を思ひて出でぬ。(「玉主」P227)

12)蒼梧

★13)シッシュツ霜に啼く14)ボウテンの夜は、灯青うして、玉主白く、15)ラバ月にテ)ゆる山路の暁には、悲風襟に落ちて、16)スンカイ凍る、旅路もいかで楽しからんや。(「玉主」P227)

13)蟋蟀
14)茅店
15)騾馬(騾)
16)寸懐
テ)いば・ゆる

★されども帰らんかたも無ければ、駅々(うまやうまや)の数を重ねて、彼の名も高き大江のほとりに出でぬ。17)オウオウたる水、万古流れて、18)ボウボウたる望、対岸低し。(「玉主」P227)

17)汪汪(汪々
18)茫茫(茫々)

★舟を勧むる者の有るに任せて、神ならぬ身の19)ホウテイに投じけるが、雨の日には風加はり、愁ある人には禍至る、口惜の浮世の常態とて、丙卿を乗せたる舟の主こそは、険しき浪の裏に好き魚を漁り、渦なす流の上にト)き腕を揮ふ恐しき20)コウゾクにこそありけれ。(「玉主」P227)

19)篷底
20)江賊
ト)から・き

★書を読むの人、何ぞ刀に血(のり)する人に敵せんや、ナ)れむべし、財物はニ)く奪はれて、身命亦亡はれ、天辺に星黙して、江上水ヌ)き夜半、鳴きて帰らぬ杜鵑、声たゞ闇に消え去つて、寄る方も無き孤漚(はなれあわ)、形はかなく流れ逝きぬ。(「玉主」P227)

ナ)あわ・れむ
ニ)ことごと・く
ヌ)くろ・き

★こゝに蒼梧の司理(つかさびと)あり、官閣に在りて睡りけるに、夢とも現とも無く美しき人現はれ来りて、21)ガビにネ)を含み、22)セイボウに怨を帯び、長袖羞を遮り、素衣怯を蔵して、言はんとするが如く、訴へんとするが如くにして、忽然と消えしが、覚めて陰風の猶身を繞るを覚え、肌粟立ちて、懐うそ寒く、23)カンパイの響き耳に遺りて、24)オエツの態眼に在る心地しければ、こはたゞ事ならじ、迷にもあらじと、起出で視れば、天淡く灯尽きんとして夜は寂に明けんとす。(「玉主」P228)

21)蛾眉(娥眉)
22)星眸
23)環珮(環佩)
24)嗚咽(嗚噎)
ネ)ひそみ

★死生は25)ユウビョウなり、美人の26)メイコンあらはれ出でゝ夫の27)エンパクを救ひしとは、率に道ひ難し、たゞ人の情の至極するところは人の理の悉尽すところにはあらざるべくや。ふしぎなる事もありけるものなり。(「玉主」P228)

25)幽渺(幽眇)
26)冥魂
27)冤魄

漢字検定1級直前演習問題=露伴「幽情記」⑦

★趙子昂、名は孟頫(モウフ)、湖州の人なり。宋に仕へて真州司戸参軍となり、宋亡ぶるに及びて、至元二十三年を以て元に仕へ、五帝の優遇を得て、至治元年卒し、魏国公を1)ツイホウせらる。(「泥人」P213)

1)追封

★又初めて世祖に見えし時、神采2)カンパツして神仙中の人の如くなりしかば、世祖之を顧みて喜びて、右丞葉李の上に坐せしめたまひぬとなれば、風姿もア)(表外訓み)ならずめでたかりしなるべし。(「泥人」P214)

2)煥発
ア)なみ

★(藤田)東湖の書、其の若き頃のは、ほとほと趙氏に逼り、後のは猶微に松雪のおもかげを留むれども、3)ケイバツの筆致、つとめて文敏に異ならむとするやうに見ゆ。(「泥人」P214)

3)勁抜

★此人嘗て自ら其の書を論じて曰く。弱冠にして晋唐の人の4)カイホウを学びたりしに、皆似る能はざりき。松雪の香山の墨蹟を得るに及びて、其の円転流麗なるを愛でしが、稍之をまなべば、則ち已に真を乱るまでになりぬ。已にして乃ち之を愧ぢておもふやう、是たとへば正人君子を学ぶ者は、毎に其のイ)觚稜近づき難きを覚ゆれども、降つて5)ヒジンと遊べば、其の日に親しむを覚えざるがごとし、此心術壊れて手これに随ふなりと。(「泥人」P215)

4)楷法
5)匪人
イ)コリョウ

★松雪もまた晋唐の人を学べるなり、6)ジュウビのところはこれ有るも、未だ遽に目するに旁門7)ジャロを以てすべからず。(「泥人」P215)

6)柔媚
7)邪路

★趙松雪は古人に出入して、学ばざるところ無し、8)カンセン9)シンシャクして、おのづから一家を為す、当時誠に10)ドクゼツたる也。(「泥人」P216)

8)貫穿
9)斟酌
10)独絶

★松雪は正に是子孫の11)カホウを守る者のみ、之をウ)るに奴を以てするは、已に過ぎたらずや。(「泥人」P216)

11)家法
ウ)そし・る

★たゞ其の立論字形をして流美ならしむるを欲し、又エ)巧夫の12)テンシより過ぎたるより、古人の13)ショウサン廉断の処に於て、微しく足らずと為すのみ。(「泥人」P216)

12)天資
13)蕭散
エ)クフウ

★鈍吟は書法に14)ハクスイなり、是蓋し公平の言、穏当の議といふべし。(「泥人」P216)

14)博邃

★仰いで天を視、オ)して地に画し、土穴に居るもの、凡そ二十年、天下大に定まりて稍々土穴を出づるに及びても、自ら歎じて、カ)彎強躍駿の骨、而も佔嗶(テンヒツ)を以て之を朽ちしむ。(「泥人」P216)

オ)
カ)ワンキョウ

★15)ゲキリョに在りても、子をして夜学せしめ、キ)詰旦(宛字訓み)に至りて誦を成さゞれば杖を与へて警めしといふが、如何ばかり父として厳なりし人ぞや。(「泥人」P216)

15)逆旅
キ)あかつき→キッタン

★国亡びて後、身やうやく栄貴なりと雖、絶えて16)キョウマンの態無く、密に17)ソウソクの情有り、子昂の人品、また思ふべし。(「泥人」P217)

16)驕慢
17)愴惻→愴惻なら有り(親身になっていたみ悲しむ)惻隠之心、惻怛、惻楚、惻痛、惻憫

★故に後人邵復孺(ショウフクジュ)評して曰く、公は承平王孫を以て、世の変に嬰(かか)る、18)ショリの悲、情を忘るゝ能はざる者あり、故に長短句、深く19)ソウジンの意度を得たりと。(「泥人」P217)

18)黍離
19)騒人

★ク)竹榻を以てケ)き入れられて、強ひて之をコ)けて謝せしめらるゝに及び、則ち地にサ)れぬ。(「泥人」P218)

ク)チクトウ
ケ)・き
コ)たす・け
サ)たお・れ

★次日遽に帰り、後世をして或は妄に劉因が輩を以て我にシ)れりとせしめば、且死するとも20)メイモクせず、と歎ぜしかば、聞く者ス)れて舌を咋(か)みしといふ。(「泥人」P218)

20)瞑目
シ)まさ・れ
ス)おそ・れ

★子昂の夫人は、管氏、名は道昇、詩を善し、画を能くす。…おもふに管夫人の筆、世に猶存するもの稀ならざるべし。子昂は是の如き21)カグウを得たりければ、大官貴人の習として、22)ジショウあまた蓄へ有つべき国俗の中に在りても、第二房第三房など置かざりしかと思はる。(「泥人」P219)

21)佳偶
22)侍妾

★如何なる機にかありけむ、松雪も書斎の旦暮に伴ひて墨を研り箋を23)ツンザくの美人を得んことを思ひ、小詞をつくりて夫人に示しける。(「泥人」P219)

23)

★皆積水の中に在りて、草樹24)オウウツ、25)ダンシュして村落を成せれば、古詩の句の、気は蒸すセ)雲夢の沢といへるより其名をや得けんといふ者もあり。(「泥人」P221)

24)蓊鬱
25)団聚
セ)ウンボウ

★子昂と管氏と、26)コウレイの情の極めて篤かりしは、前に挙げたる如くなるが、舞袖といふ妾のありしことも伝へらる。(「泥人」P222)

26)伉儷

漢検本番直前演習問題⑥=露伴「幽情記」

幸田露伴の「幽情記」(講談社文芸文庫)から漢検1級演習問題シリーズです。

★石崇の友潘岳、白首帰するところを同じうせんの詩句、ア)をなして、共に収められし故事により、前の句あり。(「共命鳥」P201~202)

ア)シン

★牛衣は王章困して牛衣中に臥し、妻とイ)れんとして1)テイキュウしける時、妻これを励まして、疾痛2)コンヤク、みづから激昂せずして、乃反つてテイキュウするは何ぞウ)きやといひし故事なり。(「共命鳥」P202)

1)涕泣(啼泣)
2)困阨
イ)わか・れ
ウ)いやし・き

★坡翁の詩、たまたま妻の字ありしによるとは云へ、牧斎が河東君を愛し、河東君を重んぜること、此の詩によりて詳に知るべく、而して河東君が婉柔の質をもつて3)リンレツの気を有せしも、また4)チョウチすべし。(「共命鳥」P203)

3)凜烈
4)徴知

★牧斎が晩年の業となせし明史未だ就るに及ばずして、蔵書の所たる絳雲楼と共に一夕にして5)カイジンとなりし惨事あり。(「共命鳥」P204)

5)灰燼

★牧斎債を負ふこと多きが上に、晩年は益々窮して6)キンシュク甚だしかりけるが、それのみならず、嗣子は柔弱にして才幹気骨無かりければ、郷里のエ)豪黠、心に之をオ)(表外訓み)り居りて、且は銭家の門高く名盛んなるを嫉く思へるまゝ、カ)(表外訓み)もあらばと、相結びて隙を伺ひ居たりけり。(「共命鳥」P205)

6)窘蹙(窘縮)
エ)ゴウカツ
オ)あなど・り
カ)おり

★然るに牧斎既に歿りぬと聞きければ、其輩たちまちに群り起りて、債を責むるを口実となし、門を環りてキ)ぎク)り、或は搪撞衝撃して、侮辱の有る限を極め、牧斎が家を尽して7)ヒショウに至るまでも奪はんとするの勢を示しぬ。(「共命鳥」P205)

7)婢妾
キ)さわ・ぎ
ク)ののし・り

★其夜雲のケ)低く垂れて闇の色黒く沈める時、如是は血を以て訴訟のコ)を書き、諸悪少等が、勢を挟みて弱を侮り、憂に乗じて辱を与へたることを8)セツゲンし、人をして急に走つてこれを官に上らしめ置き、さて後おのれは心しづかに縷帛を取りて項を結び、死生を一瞬に超えて、娑婆を9)ダンシに出で、軀を亡き夫の10)レイショウに近く捐てゝ、芳魂11)ヒョウヨウ、牧斎が後を追ひぬ。(「共命鳥」P205)

8)切言
9)弾指
10)霊牀
11)飄揚
ケ)とばり
コ)ふみ

★柳夫人、出身卑しと雖、存心甚だ烈、呉の人これを憐み、これを美として、詩を作りサ)を作り、其の多きこと12)ルイチツに至ると云ふ。(「共命鳥」P206)

12)累帙
サ)

★明の詞壇に、13)キシをおごそかに樹てゝ、一世の14)ブンペイを執りけるを、李于鱗、王世貞とす。格調を主とし、高華をシ)び、所謂陽春白雪の辞を為すを以て宗旨として、当時を風靡しけるが、模擬15)ヒョウセツの弊やうやく顕著なるに及びて、勃然として起つて之を排撃し、性霊を唱へ、清新を尚び、真情の流露を以て詩詞の生命とすべきを云ひ、王李に取つて代れるものを袁宏道とす。(「一枝花」P207)

13)旗幟
14)文柄
15)剽窃
シ)たっと・び

★吾が邦の漢文学は、徂徠荻生氏よりして大に開けぬ。徂徠の和の習気を拝して、古の文辞を唱ふるや、平安朝以来の16)ロウヘイ、一時に17)ケッテキ18)ソウトウせらる。(「一枝花」P208)

16)陋弊
17)抉摘
18)掃蕩

★こゝに於て徠翁と其の二三高足弟子と、天才あり真学ある者に在りては則ち可、其の末流に至つては、いたづらに19)シュリ不通の文を為して、而して昂昂焉として自ら高しとす、弊笑ふ可く厭ふ可きものあり。徂徠死して後、五十余年にして、北山山本氏起つて其の虚をス)く。急言疾呼、世をセ)め人を驚かす。(「一枝花」P208)

19)侏離
ス)・く
セ)いまし・め

★北山20)クッキして、詩文21)シカクを著はし、手をソ)にして22)ドバするに当つては、蘐園の学威既に衰へて、徠門の文運将に末ならんとする時なりければ、朽を挫ぎを腐を撃つが如くに、徂徠の故塁忽ちタ)れて、而して北山の新幟高く翻りぬ。

20)倔起
21)志殻
22)怒罵
ソ)ほこ
タ)こぼ(こわ)

★袁氏と抛入(なげいれ)との関係知るべく、而して北山これに序す、因縁23)グウシ牽くといふべきなり。釣雪より後数十年にして、名古屋の士に舎人武兵衛といふもの、瓶花の技に於て一家を成し道生軒一徳と号し、靖流をチ)む。(「一枝花」P210)

23)耦糸(藕糸)
チ)はじ・む

★後落籍するを得たりと雖、身を非偶に属せるをもて、心ひそかに楽まず、衣はツ)るゝに任せ、テ)は24)ヤツるゝに随ひ、晨夕にたゞに香を25)きて、仏前に密に死を祈り、何も無くしてト)悒鬱して以て卒りしといふ。(「一枝花」P210)

24)るゝ
25)
ツ)やぶ・るゝ
テ)かたち
ト)ユウウツ

★渓のナ)に 曾て見き 春の紗をニ)へるを、
珠のヌ)は 今に于て 天の一涯となりぬ。
ネ)紫陌 重ねてノ)えんや 千宝騎、
26)セイロウ 無し復 七香車。
美人 南の国 湘水空しく、
処子 東の隣 是宋家。
記し得たり 27)セイロウの 香閣の裏、
缾花 長く挿して 一枝斜めなりしを。(「一枝花」P211)

26)青楼
27)西廊
ナ)ほとり
ニ)あら・へ
ヌ)すだれ
ネ)シハク
ノ)むか・え

漢検本番直前演習問題⑤=露伴「幽情記」

幸田露伴の「幽情記」(講談社文芸文庫)から漢検1級問題演習シリーズです。

★しかして其の姿色の美、技芸の精は、もとより一時に1)カンゼツして、三千の2)フンタイを圧倒するものありければ、公子才人、争ひてこれに趨り、花の下に車を停め、柳の陰に馬を繋ぐもの、ア)麕至(訓読み)りて断えず、君と席を同じうして語を交すをもて、3)キョウヘキを得、4)バントウを受くるの思を為せり。(「共命鳥」P194~195)

1)冠絶
2)粉黛
3)拱璧
4)蟠桃
ア)むれいた・り

★願はくは君と一生を共にせんといふ者も多かりけれど、如是君これを意に上せず、たゞ心ひそかに牧斎に許して、虞山の隆準公、未だ古今にイ)夐絶すと雖、亦一代英雄を顚倒するの手なりとて、其の才に服して之を重んじたり。牧斎もまた紅灯の影揺ぐウ)に文君の奇を認め、緑酒の瀾5)シワむ宵に6)ベンベンの志を察し、昔の人も、7)ホウトウに遊び桃渓に宴するは、一たび好き人を見るに如かずとなせり、吾が世に当りて此の人を失ふ可けんやとて、遂に幣を委ねてこれを迎へ取りぬ。(「共命鳥」P195)

5)
6)眄眄
7)蓬島
イ)ケイゼツ
ウ)むしろ

★願へるなり望めるなり、所を得たるなり人を得たるなり、8)キンランの好、9)キンシツの情、如何ばかり濃やかにやありけむ、牧斎は山荘を築きて、紅豆と名づけ、姫と与に其内に吟咏し、10)メイワン薫炉、繍床禅板、いと楽しくぞ日を送りける。(「共命鳥」P195)

8)金蘭
9)琴瑟
10)茗椀

★紅豆は亦相思子といふ。木質11)マンセイにして高さ丈余、12)サヤを成して子を結ぶ、其の大さ13)エンドウの如く、色鮮やかに紅にして、甚だ愛すべし。嶺南暖地の産にして、中土には稀なり。(「共命鳥」P195)

11)蔓生
12)
13)豌豆

★14)セイホウ便ち官を休むるに擬して好し。
紅粉還つて道に入るを能くするや無や。
筵散じ 酒醒めて 一笑を成す、
髩糸 15)ゼントウ 正に16)ソブたり。(「共命鳥」P196)

14)青袍
15)禅榻
16)疎蕪

★徐芳記して曰く、牧斎句就れば、エ)(訓読み)を遣りてオ)り示す、柳夫人撃鉢の間に、蛮箋已に至り、風のごとく追ひカ)(表外訓み)のごとくキ)みて、未だ嘗て肯て地歩譲らず、或は柳の句先づ就れば、亦鬟を走らせて報賜す、牧斎力を畢し気を尽し、経営17)サンタン、其上を圧せんことを思ふ、出して相視るに比びて、亦正に匹敵を得、牧斎が気骨蒼峻なるは、柳未だ到る能はざるも、柳が18)ユウエン秀発なるには、牧斎も時に亦之にク)る、時に19)キコ各建ち、閨闥(ケイタツ)の間、隠として敵国の若しと。(「共命鳥」P197)

17)惨憺
18)幽艶
19)旗鼓
エ)こしもと
オ)ほこ・り
カ)いなずま
キ)あとふ・み
ク)ゆず・る

★凡そ是の如きの藻麗20)フセンの長篇、柳夫人大に文字あるにあらずんば、まさに示さるゝに堪へざるべき也。(「共命鳥」P197)

20)富贍

★庚申の変は、実に明朝傾覆の初頭にして、天子21)イシし、都城陥落す。明の禄を食むもの当に難に殉ずべきの時なり。柳如是、22)キンカクの身を以て児女の態をなさず、牧斎をして軀を捐てゝ国にケ)へ、玉砕して瓦全するなからしめんとしたりといふ。牧斎却つて性質弱くして、如是の意気の烈なるに若かず、無節の人となりて後人の指弾を受く。(「共命鳥」P199)

21)縊死
22)巾幗
ケ)とな・へ(したが・へ)

★易姓革命の国、謙益死せざるも或は可、則ち当に山谷に隠居して、コ)麋鹿と伍すべきのみ。然るに大臣の身を以て、出でゝ降りて官を受く。(「共命鳥」P199)

コ)ビロク

★而して謙益の婉柔世に処するも、文章の23)セイメイと、顕貴の官歴とは、上をして之を疑ひ、人をして之をサ)まざる能はざらしむるの勢あり、シ)讒誣を飛ばし、弾劾を敢てするものも出でざる能はざるの情ありて、清の順治四年の三月晦日を以て、何事も無く家に在りける牧斎は、忽地にス)されて獄に投ぜらるゝに及びぬ。(「共命鳥」P199)

23)盛名
サ)にく・ま
シ)ザンプ
ス)・さ

★時に如是は病に冒されて24)ジョクに臥し居たりけるが、これを聞いて25)ケツゼンとして起つて、身を顧みず従ひ行き、吾夫心強くおぼしめせ、君が罪なはるべき事のおはさぬは、妾飽くまで之を知る、誓つて書を上りて妾代りて死なんとすべし、さても猶君赦されたまはずば、君に従ひて26)センカに見えまつらむ、と27)コウガイして雄々しく言ひたりければ、牧斎も如何に嬉しくや思ひたりけん、後に自づから記せる文にも、「余も亦頼つて以て自づから壮にす」と載せたり。(「共命鳥」P199~200)

24)
25)蹶然
26)泉下
27)慷慨

★28)サッキ 陰森として 夏も亦凄じ、
29)キュウロ 四に盖ひて 天の低きを覚ゆ。
青春 望は断ゆ 帰を催すの鳥、
黒獄 声は沈む 暁を報ぐるの雞。
30)ドウコク 江に臨みて 壮士無く、
従行 難に赴く 賢妻有り。
禁ぜず 重囲 郷に還るの夢、
却つて淮東を過ぎて 又浙西(「共命鳥」P200)

28)朔気
29)窮廬
30)慟哭

漢検本番直前演習問題④=露伴「幽情記」

幸田露伴の「幽情記」(講談社文芸文庫)から漢検1級問題演習シリーズです。


★山頭の桃花(竹枝) 谷底の杏。(女児)
両花1)ヨウチョウ(竹枝) 遥に相映ず。(女児)(「楼船断橋」P177)

1)窈窕

★門前の春水(竹枝) 2)ハクヒンの花。(女児)
岸上に人無く(竹枝) 小艇斜なり。(女児)(「楼船断橋」P177)

2)白蘋

★商女経過して(竹枝) 江暮れんと欲す。(女児)
残食をア)散抛して(竹枝) イ)神鴉を飼ふ。(女児)(「楼船断橋」P178)

ア)サンホウ
イ)シンア

★是の如きなり。されば竹枝・女児は吾邦の御3)ケサ節に、ほいの やつとかけの、といひ、追分歌に、そえそえ、といふが如く、別にウ)(表外訓読み)あるにはあらぬエ)随和(熟字訓読み)の声なるが、蜀の地に竹枝・女児をもて歌に和するの俗ありしより、詞人のたまたま蜀中の風景4)ジョウチを言へるものを竹枝といひ、それより一体の名と為るに及べり。(「楼船断橋」P178)

3)袈裟
4)情致
ウ)こころ
エ)はやし

★竹枝の体製、或は七言絶句の詩の如く、或は平仄に拘らず、5)ヨウタイの絶句の如く、而して其の風骨は、地に係けて情を言ひ、質俚に繊巧を寓し、放蕩にして而も6)オンシャなるを尚ぶ、堂々たる風雅の作にあらずと雖、才子慧媛にあらざるよりは未だ必ずしも為し易からざるなり。(「楼船断橋」P178)

5)拗体
6)温藉

★元末明初の才人に楊維禎といへるものあり。…こゝに於て維禎学成り識立ち、元の泰定四年をもて進士となりしが、オ)狷直にして物にカ)ふを以て、大に志を得るに至らず。やがて世乱れ元亡びしかば、詩酒に隠れて復世に出でず。(「楼船断橋」P178~179)

オ)ケンチョク
カ)さから・ふ

★鉄崖は詩を善して、名一時を掩ひ、所謂鉄崖体の目、因つて以て起るに至る。頼山陽の日本楽府を著すや、鉄崖の古楽府を論じて曰く、新異喜ぶべし、然れども典を聚むるのみ、或は牛鬼蛇神を挟んで以て人を7)ゲンす、其の実は8)センイ、二十一史弾詞と相去ること幾も無しと。(「楼船断橋」P179)

7)
8)浅易

★言甚だ苛酷なり、其の弾詞と相去ること幾も無しといふに至つては、山陽のキ)、蓋長きに過ぐ。(「楼船断橋」P179~180)

キ)くちばし

★張簡の師の張雨は、鉄崖の古楽府を称して曰く、少陵・二李の間に出入し、ク)9)コウセイの金石の声ありと。宋濂(ソウレン)は曰く、鉄崖の詩は、震蕩陵、鬼設神施と。二家の言と、頼氏の評と、相ケ)る何ぞ遠きや。(「楼船断橋」P180)

9)曠世
ク)まま
ケ)・る

★鉄崖此等の侍児と与に、コ)に10)ガボウに乗じて、意の之くところを恣にしたりといふ。(「楼船断橋」P180)

10)画舫
コ)つね

★鉄崖一世のサ)搢紳才俊の仰ぎ視るところなり、其の友李孝光・張羽・倪瓚(ゲイサン)・顧徳輝・卞思義(ベンシギ)・郭翼らの11)ブンジン多し。(「楼船断橋」P181)

11)聞人
サ)シンシン

★古楽府十巻、楽府補六巻、論者シ)へらく、或は後人のス)詬するところとなれども、其の別調逸情は、亦天地間磨滅すべからざるの文なりと。要するに維禎は一代の雄、詩文各皆敵人の12)カテイするところとなるも、其の容れられざる、即ち其の大を見るべきのみ。(「楼船断橋」P181)

12)訶詆
シ)おも・へらく
ス)コウレイ

★郎に勧む 上る莫れ 南高峰、
我に勧む 上る莫れ 北高峰。
南高峰の雲 北高の雨、
雲雨 相催して セ)を13)シュウサツす。

湖口の楼船 湖日陰り、
湖口の断橋 湖水深し。
楼船にソ)無きは 是郎が意、
断橋に柱有るは 是儂が心。

石新婦の下 水 空に連り、
飛来峰の前 山 万重なり。
妾は死して甘んじて 石新婦と為らん、
郎に望む 忽飛来峰に似んことを。(「楼船断橋」P182)

13)愁殺
セ)われ
ソ)かじ

★南北の峰、楼船断橋、秦王タ)纜石の石新婦、一朝飛来の飛来峰、皆西湖のあるところにして、烟花の情趣、温柔の郷の風景、画くが如く語るが如く現れ、異邦の人の未だ其の地を履まず、其の郷に入らざる者をして、猶能く紅楼に上り14)スイガにチ)(宛字訓み)するの思あらすむ。(「楼船断橋」P182)

14)翠峨
タ)ランセキ
チ)まのあたり

★百尺の楼台 15)ヘキテンに倚る、
闌干 曲曲 画屛連なる。
儂が家 自ら有り 蘇台の曲、
西湖に去つて 采蓮を唱へず。

楊柳青々 楊柳黄む、
青黄 色を変へて 年光過ぐ。
妾は似たり 柳糸の16)ショウスイし易きに、
男は如たり 17)リュウジョのツ)だ18)テンキョウなるに。

姑蘇台の上 月団団たり、
姑蘇台の下 水19)センセンたり。
月は西辺に落つるも 時有つて出づ、
水は東に流れ去つて 幾時か還らむ。(「楼船断橋」P183~184)

15)碧天
16)憔悴
17)柳絮
18)顚狂
19)潺潺
ツ)はなは・だ

★中にも黄鶴山樵と号したりし明初の詩人王叔明と兪氏との間の如きは、偶然の一章二十八文字、突如として鳳鳴20)ランワの歓を招く、まことに思ひもかけぬ縁といふべし。(「水殿雲廊」P186)

20)鸞和

★少き時、宮詞を賦す、仁和の兪友仁これを見て曰く、これ唐人の佳句なりと。遂に妹を以てテ)わすと。(「水殿雲廊」P186)

テ)めあ・わす

★然れども詞人の逸話、多く軽薄子弟の道聴塗説に出づ、21)イツビの談、過悪の辞、22)シンロウは海に現はれ、虎影は市に踊る、未だト)に信ず可からざるなり。(「水殿雲廊」P188)

21)溢美
22)蜃楼
ト)にわか・に

★真に当今の才子なりと嘆称せしめしもの、梅村は論者の目して以て杜牧の風情・楽天の才思ありとなせしもの、二人の俊敏霊慧、知る可きなり。しかも銭氏亦23)ウツゼンたる文豪、学問宏博にして、手腕円通、詞章を以て名を天下にナ)にす、偉なりといふ可し。(「共命鳥」P191)

23)蔚然
ナ)ほしいまま

★明の万暦の庚戌に進士及第し、24)ヘンシュウとなりしが、それより或は斥けられて退き、或は用ひられて立ち、官途25)ケンカン多くして、甚しきに至つては刑部の獄に下されしこともありき。(「共命鳥」P191)

24)編修
25)険艱

★牧斎の書に於けるや、経史百家よりして仏典道籍、26)ハイカン27)ヤジョウに至るまで読まざるところ無く、腹笥の富、甚だニ)いなるものあり。(「共命鳥」P192~193)

26)稗官
27)野乗
ニ)おお・い

★而して筆を執り紙に臨むに当つて、縦横に之をヌ)揮灑す。たとへば万金を有する者の、楼閣林園を営むに、28)リンカンの美、29)センセキの雅、心の欲するに随ひて即ち現するが如し。(「共命鳥」P193)

28)輪奐
29)泉石
ヌ)キサイ

★魏忠賢の権を得て意を恣にするや、忠良を30)ケイカンして、酷烈を極めつ、東林の一派、日として31)ザンチク逮笞を被らざるは無し。(「共命鳥」P193~194)

30)傾陥
31)竄逐

漢検本番直前演習問題③=露伴「幽情記」

幸田露伴の「幽情記」で漢検1級直前演習問題シリーズの三回目です。講談社文芸文庫が底本です。ページ数は同書中のページを指す。


★天覚仙となりて去つて後、朝廷の上、蕩として綱紀無く、蔡京童貫の徒、高俅楊戩(ヨウセン)の輩、徽宗を1)ハロウし、李師師を李明妃となし、金線巷を小御街と改め、売茶の周秀をも初に師師を紹介せし功をもつて泗州の茶提挙となすに至りぬ。(「師師」P163)

1)簸弄

★金の兵京師に入り、徽宗位を下りんとするに及び、蔡京高俅等の逢迎2)ユネイの失を3)ツイキュウし、李明妃を廃して庶人と為しければ、師師其後湖湘の間に流落し、終に商人に身を寄するに至りぬ。(「師師」P164)

2)諛佞
3)追咎

★4)レンコクの繁華 事傷む可し
師師老いるに垂として 湖湘を過ぐ
ア)縷衫 檀板 顔色無し
一曲 当年 帝王を動かしゝも。(「師師」P164)

4)輦轂
ア)ルサン

★三恨李師師の曲、蓋し今伝はらざれば、其の梗概を知るに由無しと雖、題名に依つて考ふるに、記するところイ)猜知すべし。(「師師」P166)

イ)サイチ

★虹亭詞談巻六に記すらく。周邦彦李師師の家に在り、道君の至るを聞きて、遂にウ)牀下にエ)れぬ。道君みづから新橙5)イッカを携へたまひて云はく、これ江南の初めて進ぜしものなりと。遂に師師と6)ギャクゴしたまふ。(「師師」P166)

5)一顆
6)謔語
ウ)ショウカ
エ)かく・れ

★他日師師此の詞を歌ひしかば、道君誰が作れるぞと問ひたまふ。師師邦彦の作なることを白しゝに、道君大に怒りて。因つて邦彦に7)センタクを加へ、国門を押出せしめたまふ。(「師師」P168)

7)遷謫

★一二日を越えて、道君また師師の家に幸したまへるに、遇はず。更初に至りて師師帰る。愁の眉、涙の眼、憔悴8)キクすべし。(「師師」P168)

8)

★間に尋ぬ 旧にし9)ショウセキを。
又 酒は 哀のオ)(表外訓み)を趁け
灯は 離のカ)(表外訓み)を照らす。
梨の花 キ)の火 10)カンショク催す。
一箭の 風快く、
半篙の 波煖に、
頭を廻らせばク)迢逓(熟字訓読み)に 便ち数駅なり、
人を望むに 天の北に在り。(「師師」P169)

9)蹤跡(蹤迹)
10)寒食
オ)いと
カ)むしろ
キ)にれ
ク)はるかはるか

★もとより宋の詞檀の一大家にして、其の清真居士片玉詞三巻、今に至つてケ)びず。虹亭は無根の談を為すものにあらず、師師と美成との事、蓋し宋人の説部に本づくならん。(「師師」P170~171)

ケ)ほろ・び

★即ち是李邦彦なり。李邦彦字は士美、懐州の人、父浦は銀工なり。11)シュンソウにして風姿美しく、文を為るや敏にして工に、然も閭閻に生長せるをもて、12)ワイヒの事に習ひ、応対便捷にして、13)ギャクショウ14)カオウを善し、15)シュウキクを能す。毎に街市の16)リゴを綴つて辞曲を為し、世俗の悦び賞するところとなる。人となり17)カイコウなるを以て、大学生に補せられ、大観二年及第せしより、18)ルイセンして中書舎人翰林学士承旨となり、宣和三年、尚書右丞に拝せられ、五年左丞に転ずるに至る。(「師師」P171)

11)俊爽
12)猥鄙
13)謔笑
14)歌嘔
15)蹴鞠
16)俚語
17)乖巧
18)累遷

★金人都城にコ)るに至つて、堅く地を割きて難を緩くするの議を執りしかば、大学生陳東等数百人宣徳門に伏して書をサ)り、邦彦等の徒を19)シャショクの賊となし、之を斥けんことを請ふ。(「師師」P171)

19)社稷
コ)せま・る
サ)たてまつ・り

★宣和遺事に記す。李邦彦次相を以て蔡攸に20)アフし、宮中21)エンインあるごとに、自ら22)ショウユウの事を為し、雑ふるに市井の23)カイカイを以てして以て笑楽を為すと。(「師師」P172)


20)阿附(阿付)
21)燕飲
22)倡優
23)詼諧

★浪子は浪蕩放縦の子弟といふが如し。而して游蕩の子弟、多くは24)シュングならざるを以て、浪子の語、おのづからに怜悧乖巧の人の議を帯ぶ。水滸伝中第一俊敏の天巧星燕青に浪子の25)コンメイある所以なり。(「師師」P172)

24)蠢愚
25)渾名

★李師師の艶美当時に26)サクサクたりしは、別に張子野の詞ありて之を証す。(「師師」P172)

26)嘖嘖(嘖々)

★されば27)エンヤクの辞、温雅の情は、当時長沙の一美人をして見ぬ恋にあこがれしめ、其の詞一篇を得るごとに、28)センシュ之を抄し、29)キョウコウ之を唱ひて已まざらしむるに及べり。(「師師」P174)

27)婉約
28)繊手
29)嬌喉

★美人後に少游の30)ヘンせられて南遷するの途に逢ひてより、一別数年、門を閉ぢ人を謝して、たゞ少游をのみ思ひ居けるが、少游の竟に藤州に死するや、夢に感じて之をシ)り、終に数百里を行きて其の喪に臨み、棺をス)でゝ繞ること三たび、声を挙げて31)イチドウして、其まゝに生命絶え、長くあはれなる物語をとゞめたり。(「師師」P174~175)

30)
31)一慟
シ)さと・り
ス)・で

★而れども其人今や黄土白骨、誰か其の墓の在るところをだに知らんや、水滸伝中に輝けること32)セキヘキの如き其名も、知らざる者は看て以て作者が筆下の幻影に過ぎずとなさんとす。噫。(「師師」P176)

32)尺璧

漢検本番直前演習問題②=露伴「幽情記」

本日は読み問題と書き問題の混成です。「運命 幽情記」(講談社文芸文庫)から。




★水滸伝は支那小説の1)キョハクたり。其の筆墨の妙、描写の巧、多く言ふを須ゐず。(「師師」P152)

1)巨擘

★およそ2)クンサイの英雄に禍福を送り、3)シュビの尤物に左右せらるゝところの是の如きの談、未だ必ずしも乏しからず。たゞ其の女子、多くは是4)シヨウの人、作者軽々、一筆に描き去りて、点墨に写し了り、深く意を留むること無し。(「師師」P152)

2)裙釵

3)鬚眉

4)枝葉

★其の嬌縦の態、尖利の弁、一種の婦人の、悪むべく厭ふべきものの5)ケイモたり。(「師師」P153)

5)型模

★前掲の九婦人は、水滸伝中に其の姓名をア)儼存し、実世間上に其のケイモを確見すと雖、蓋し皆6)ウユウの人なり。(「師師」P154)

ア)ゲンソン

6)烏有

★およそ7)ハイシ小説は、これを作るもの能を馳せ才を逞しくするを欲す、乃ち実を離れ虚をイ)するを免れず。(「師師」P154)

7)稗史

イ)デッ

★水滸伝中、蔡、楊、童、高の奸、張叔夜、侯蒙の忠を叙するが如き、大旨皆偽らず、読者をして8)テントウして、是の如き人あり是の如きの事あるを思はしむ。(「師師」P154)

8)点頭

★李師師をして実存の人たらしめば、看客をして9)テイショウして妙を叫ばしむるに足る。(「師師」P154)

9)抵掌

★こゝに於て作者、10)シセンの女にして而も11)シソンの愛を得たる李師師といへる者ありて、其の有ること稀にして遇ふこと難き談の世に伝はれるを幸とし、これを借りて以て宋江が招安を受くるの一段のウ)楔子となせるなり。(「師師」P154)

10)至賤

11)至尊

ウ)セッシ

★百二十回本に師師の見はるゝや、第七十二回、柴進簪花禁苑に入り、李逵元夜東京をエ)がすの章を始とし、第八十一回、燕青月夜に道君に遇ひ、戴宗計を定めて楽和を出すの章に中し、第一二十回、宋公明神蓼児洼に聚まり、徽宋帝夢に梁山泊に遊ぶの章に終る。(「師師」P155)

エ)さわ・がす

★水滸の豪桀、一百八人12)カンシュウの後は、李師師実にこれが13)カイコウを為す。(「師師」P155)

12)完聚

13)開闔

★宋江の意、師師が天子の寵を得るを以て、師師によりて自己等が心に忠義を懐きながら、身に14)エンクツを負へるを申べんとするに在り。而れども李逵の15)ロモウにより、事破れ勢オ)りて、却つて纔に身を脱し寨に帰る。(「師師」P155~156)

14)冤屈

15)鹵莽

オ)せま・り

★第百二十回は、宋江百戦労苦の余に、御賜の毒酒を得、知つて而して飲み、飲みて而して死す、悲愴悽凉、人をして感ずる有らしむ。徽宋本より宋江を殺すの意無し、こゝに於て異夢を得、16)ホウフツの間に悟るところあり、師師も亦傍より宋江等の為に奏するところあり、宋江等遂に国家のカ)(訓読み)を受くるに至るを記し、水滸伝こゝに畢る。(「師師」P156)

16)髣髴

カ)まつり

★宣和遺事二巻、宋の徽宋欽宗の間の事を記する二百七十余条、明の胡応麟は、目して以て元の時の17)リョエンの俗説なりと為すと雖、人多く宋人の記するところとなし、清の学山海居主人は其の杭州に於て得たるところの古本、巻中に惇の字、宋の光宋の諱を避けて惇に作れるを以て、当に宋刊に出づべしとなせり。(「師師」P157)

17)閭閻

★高俅等徽宗皇帝に勧めて、行楽を縦にせしめ、遂に衣を易へて18)ビコウし、東京の名妓李師師の家に宿せしむるに至る。(「師師」P158)

18)微行

★師師には情人あり、賈奕といふ、武官なり。奕七夕に際して、特に佳酒を19)モタラして師師を問へるも、門キ)く鎖して、人の迎ふる無ければ、怒つて帰りしが、其翌師師を詰るに及びて、情を得て大に驚き、又鮫綃(コウセウ=うすぎぬ、鮫人=人魚が織りなすという)を見てク)驚き、嫉妬憤恨と失望落胆とに、心は万刀の鑽るが如きを覚えて卒倒す。(「師師」P158)

19)

キ)かた・く

ク)いよいよ

★二人談未だ尽きずして、日やうやう晡(く)れんとし、高俅大に怒り、左右をして賈奕をケ)えしめ、大理寺の獄に送らんとす。(「師師」P158)

ケ)とら・え

★天子やがて来りて、20)カンゴ昨の如くなりしが、師師の先づ寝める間に、コ)妝盒の中より物の少しく露はれたるを見、開いて之を読むに、末に至りて、鮫綃を留下し宿銭に当つの句あり。(「師師」P159)

20)歓晤

コ)ショウゴウ

★祖宗万世の丕なるサ)を承けたまひ、華夷億兆のシ)るところと為りたまふ。一挙一動一嚬笑も皆軽んじたまふ可からず。(「師師」P160)

サ)くらい

シ)・る


(正解はカーソル反転で、主な解説はcharのmixi日記にて→link参照)

漢検本番直前演習問題①=幸田露伴「幽情記」

日本漢字能力検定協会主宰の漢字検定試験(2009年度第2回=11月8日実施)が、またまた何事もなかったかのように近づいております。(実際は受検者も激減し、1級試験の問題内容は宛ら受検者に媚びるかのように平易になっておりますが)またまた思い付きですが、ご好評(??)の「如亭山人遺藁シリーズ」を暫くお休みさせていただいて(ぶっちゃけ、1か月も続けると飽きます)、漢検1級の本番を意識した演習問題を拵えようと思います。

今回も迂生は受検しません。「不惑」を過ぎて礑と漢字学習に目覚め、「知命」まであと5年を切った“おっさんblogger”は、これまで07年度第2回、08年度第3回の2回合格という栄誉に浴させてもらっています。ロートルにとって正直、漢検向けの勉強はしんどいです。何故かというと「不合格になりたくないから」、ただそれだけですが、その内容も“テクニカル”に走ってしまう側面もありますし(国字とか熟字訓は単なる詰め込み学習というかゲーム感覚というか、ですよね)…。漢検は意識するものの「何度も受けるものではないだろう」というのが迂生の真の気持ちです。「検定」という枠に拘束されること無く、縦横無尽に古人糟魄を嘗めると同時に、自分の糟魄を残したいのです。

ここまでは正直な気持ちを吐露しましたが、とはいえ、やはり「漢検1級の合格」を目指して挑戦されている方々(特にお若い方)を応援したい気持ちは持っており、迂生が積んできた「体験」や、培ってきた「思い」をベースにして、某かのお役に立てるコンテンツが提供できれば幸いとも思っております。このblogを執筆している動機付けでもあり、これも偽らざる本音です。1級という最難関を突破するには何と言っても過去問であり、「過去問至上主義」こそが合格(160点)への捷径と言えるでしょう。迂生の場合は漢検の過去問等に強くありませんから、古の人によって認められた糟魄である文章などから採録するしか「能」がありません。これはこのblogが一貫してきたスタンスです。

検定試験向け問題としてはこれまでも、白居易の「長恨歌」や中江兆民の「一年有半・続一年有半」などを素材にしてきました。幸田露伴の「いさなとり」や「折々草」も用いました。

今回は露伴の「幽情記」(底本は講談社文芸文庫刊の「運命・幽情記」)を題材にします。

なぜに「幽情記」か?といえば、その「引」によりますと「詩詞の事にたづさはりたる筋ある物語の類を蒐めて」「物語には皆詩詞あり、詩詞なきは収めず」とあり、中国の詩にまつわる物語をベースにして露伴が脚色したものであり、つまり、迂生がこのところ進めている「漢詩学習」の流れに沿うものなのです。短編のオムニバス形式なので読みやすい。

そして、毎度申しておりますが、露伴の「文体」は晦渋ながらその「語彙」こそ漢検の“最高峰レベル”を極めるには持って来いの素材なのです。漢詩が必ず登場して露伴の作品を味わえ、漢字検定にも役立つと言うなら、まさに「一箭双雕」ならぬ「一箭“三”雕」ではありませんか。

おっさんは話が絮くなりがち。前口上はこれくらいにしてとっとと問題に行きましょう。

本日は読み問題。とにかく読んで読んで読みまくってください。ただし、A)~D)は音読み、1)~18)は訓読み(表外訓み、熟字訓読みを含む)です。


★宋の代に真西山と聞えたるは、其のA)するに当りて、天子震悼したまひて、為に朝を1)めたまひしほどの人なり。(「真真」P143)

★敢然として信ずるところを枉げず、韓侂胄(カンタクチュウ)が偽学の名を立てゝ善人正子を排けしより、程子朱子等が一代の心力を2)して聖賢の学を講明せる著述も、皆禁ぜられて廃せんとするに当り、奮つてB)斯文を以て自づから任じ、講習して服行したるの偉は、他の及ばざるところなり。(「真真」P143~144)

★仕へて参知政事に至り、死して銀青光禄太夫を贈られ、文忠と3)せられ、生きては一世の大儒として人の仰望するところとなり、死しては聖学の巧臣として後の推服するところとなりたり。(「真真」P144)

★されども子の志道が家学を伝へしのみにて、不幸にして其4)は聞えずなりぬ。(「真真」P144)

★同情ある春風の訪ふに溢るゝ花の露、はら〽と泣いて俯きつ、身は5)落魄れて浅ましく、かく成下り候ふものに、氏も素姓も候ふべきや、御答御免をたまはりたし、と6)む。(「真真」P145)

★包むに奥の猶ゆかしく、身を愧ぢて氏を匿すも然ることながら、浮沈ある世の例、運命の悪きを誰か7)らむ、抑如何なるものぞ、と懇篤なり。(「真真」P145)

★他の為したることより連坐の罪逃るゝ方無く、8)の官財を盗めりといふ恐ろしき名を被りて9)囹圄に投ぜられ、償還済までは10)頸枷を11)され難き憂さ悲しさ。(「真真」P146)

★遂に胆煎る者のあるまゝ、嗚呼申すも情無く、思ふも辛き其月其日、妾が身をもて12)に代へ、父の負債を塡め侍りぬ。(「真真」P146)

★13)はいまだ貴からねば、出づるに車馬もあらずとは云へ、14)も教あるものとて、旦の火、夕の水に労を厭はず、荊釵布裙の清貧を甘なひて、C)瓊筵綺席の虚栄を脱せるを喜び、鸚鵡復恋はず黄金の籠、鴛鴦ひとへに悦ぶ青潭の棲、睦み語らひて年を経へるが、男も後漸く顕官たるに至り、共に白髪のいとめでたく楽しく一生を終りけるとぞ。(「真真」P147)

★一物に一心あり、心中より生意を発生し、又無限の物を作す。蓮の実の中に謂はゆるD)幺荷といふものあるが如き、便ち儼然として一根の荷なり。(「真真」P148)


★故に其の15)むところの生意16)に発出すれば、便ち近くしては親を親しみ、推しては民を17)み、又推しては物を愛し、可ならざる所無し、以て四海を覆冒し、百世を恵利するに至るも、亦此よりして之を推すのみ。(「真真」P149)

★真真は紹祖の系に出づるか、同祖の系に出づるか、今これを18)らにすべからず、たゞ西山の後を談るの因に、山民の後なるを挙ぐるのみ。(「真真」P151)




【正解】

1)・め 2)つく・し 3)おくりな 4)すえ 5)おちぶ・れ 6)いな・む 7)そし・ら 8)あがた 9)ひとや 10)くびかせ 11)ゆる・さ 12)たから 13)おとこ 14)おんな 15)つつ・む 16)わずか 17)めぐ・み 18)つば・ら A)シュッ(する) B)シブン C)ケイエン D)ヨウカ 

(正解はカーソル反転で、主な解説はcharのmixi日記にて→link参照)

漢検1級試験問題演習=幸田露伴「いさなとり」・その4

 幸田露伴の「いさなとり」で漢字検定1級試験問題演習シリーズの4回目は最終回です。本日も読み問題と書き問題の混成です。引き続き筑摩書房「明治の文学」全25巻の「第12巻 幸田露伴」(福田和也編集解説)から引用しております。21日の本番まで残り一週間を切りました。ラストスパートですね。もりもり問題を解きませう。

 

 【1】 次の㋐~㋩の漢字の読みをひらがなで記せ。①~のカタカナを漢字に直せ。

 

 

■ 為すことも無くして熊川にとまる㋐廿日を越えたる其間、或暁は竹林の外に①トウテンコウを唱ふ鶏の声聞いて故郷なつかしさに徐既往の我が行状を悔ゆ。

 

 ㋐〔はつか

 ①〔 東天紅 〕

 

■ 酒にも茶にも②チョウゼンとして歎じ③セキゼンとして愁ひ、我より外の人は知らざる悲惨の境に沈みし彦右衛門。

 

 ②〔 悵 然 〕

 ③〔 戚 然 〕

 

■ 一日を三年の如く想ひて一月に足らぬ間に既㋑幾干か年寄たる心地のせられしに、今しも恋しとおもへる我が国人に㋒邂逅ひては、仮令ば怨敵なりとも何とて言葉かけずに居らるべき㋓周章ふためきて行き違ひさまに声をかくる。

 

 ㋑〔いくばく

 ㋒〔めぐりあ・ひ〕(宛字)

 ㋓〔あわて・ふためき〕(宛字)

 

■ 彦右衛門天地の惨澹たるを認めて光明④オウヨウたる宇宙に⑤ショウヨウしあたはず、一念常に両頭に分れ⑥シンショ乱れて糸の如くなり行く。

 

 ④〔 汪 洋 〕

 ⑤〔 逍 遥(遙) 〕

 ⑥〔 心 緒 〕

 

■ 我にも我の任せずなりて心は⑦ヒョウホウ身は⑧フジン、対州に着きてよりも思考は幾度か変り変りて、是より直に剃髪㋔染衣の身とならむか。

 

 ㋔〔ぜんえ

 ⑦〔 飄 蓬 〕

 ⑧〔 浮 塵 〕

 

■ 寧のこと兇暴⑨ホウシ一生を酒色の間に捨果んかとも迷ひ、悲しみ深き夜すがらはつくづく我身の在るを悪みぬ。

 

 ⑨〔 放 肆 〕

 

■ 店頭に坐り居る四十前後の女の、顔黄色く㋕涅歯剝げ加之油気なき髪の毛⑩ハンパクなる。

 

 ㋕宛字読みなら〔おはぐろ〕、音読みなら〔でっし

 ⑩〔 斑 白 〕

 

■ 寺の門際の小家にて㋖買ふ途端ばつたり遭ひしは生月の松富の隠居様なり。

 

 ㋖〔しきみ

 

■ これこれと皺枯れたる声出されながら追ひすがらるを見ては、今更⑪モギドウに駈け去り難くもなり。

 

 ⑪〔没義道

 

■ 紙袋の中の風抜けて萎びるごとく身を㋗め㋘り居れば、隠居は従僕に対ひ、其方は用なければ宿に帰り居よと命令。

 

 ㋗〔かが・め〕

 ㋘〔うずくま・り〕

 

■ 数珠繰つて⑫ショウミョウして猶充分に㋙廻向たのむ附届けをして行くのぢや、汝も手助せよ、と立派なる塔を指さしての物語り。

 

 ㋙〔えこう

 ⑫〔 称 名 〕

 

■ 今又特に新しう感ぜられて、㋚閼伽を汲み花を供し共に念仏幾返唱へけるが、隠居数珠を懐中に納め了り。

 

 ㋚〔あか

 

■ もう是からは骨が⑬シャリになつても肉が泥になつても、御隠居様御隠居様、彦右衛門は御前様の家の㋛の下で無うては死にませぬ。

 

 ⑬〔 舎 利 〕

 ㋛〔ひさし

 

■ 成程と気がついた其後は自分でも少し㋜箆太すぎるとおもふほど腹を濶くして、臆病者のやうに意は注けながら悪人と見ゆるほど大胆に年月を経て来た何十年。

 

 ㋜〔のぶと

 

■ 熱汗㋝の如く⑭ホトバシり、我にもあらで握る拳、むき出す眼、嚙む唇、思はず知らず㋞り出す声は野牛の㋟るが如く、沈みて底に力を含み、好いは、とばかり短に答へて、頓て隠居の前に泣き倒れぬ。

 

 ㋝〔たき

 ㋞〔うな・り〕

 ㋟〔うな・る〕

 ⑭〔 ・り 〕

 

■ あらましは発心入道の人のやうにて妄語⑭サツリクチュウトウの諸悪業を夢にもつしみ、慾に淡く道に励めば酒に耽けることも漸く廃し、逼らず悶えず悠々と消光しける。

 

 ⑭〔 殺 戮 〕

 ⑮〔 偸 盗 〕

 

■ 物移り星変る世の態にそろ⑯ソウゼンとしながら歩き行く。

 

 ⑯〔 愴 然 〕

 

■ 一家死に絶えて番頭づとめせし幸助とかいふが店は継ぎ居れど、是また⑰ビロクして昔時の㋠なく、然も彦右衛門が確と顔記えたものでもなければ相談相手になるべきよしも無し。

 

 ㋠〔おもかげ

 ⑰〔 微 禄 〕

 

■ 雇ひ入れし忠助夫婦は可成の農夫なりしが、秘蔵の娘の⑱ロウガイとかいう長々しき病気に、固より多くはあらざりし田畠を薬代の謝金と代へて⑲ホンプクを祈りし。

 

 ⑱〔 労 咳 〕

 ⑲〔 本 復 〕

 

■ 我が爪にて我が顔㋡き破り、真実の病気よりは精神の病はげしくなつて、七転八倒の苦み四苦八苦の悩みに、身を虚空に揉み床に打ちつけ、ひよろひよろと立ち上つては柱に触れて動と倒る。

 

 ㋡〔・き〕

 

■ 波なく風なく若い時の客気を㋢めて、家内の者には固より柔和く、召使ふ農男草取女にまで親切を旨として交る。

 

 ㋢〔おさ・め〕

 

■ 御悦び申しあげまする、と応答して導かるゝ㋣衡門り奥庭に入り、南向の座敷の縁側に腰打ちかけんとする時、まづまづお上りなされませ。

 

 ㋣〔かぶきもん

 

■ 頓て田舎漢の手料理貴下方の御口には合ふまじけれどといふを冒頭にして、芋鶏㋤胡蘿蔔の雑煮㋥薯蕷かけ豆腐小松菜のひたし物焼岩魚の煮浸なんどを下物に、食ふてはよしや美味からずとも芳志は充分見せて酒を㋦むるにぞ、傷み入る恐れ入るを口には云へど心嬉しく、快活気に磯貝も幾杯を傾くる。

 

 ㋤〔にんじん〕(熟字訓)

 ㋥〔(とろろ)いも〕(熟字訓)

 ㋧〔すす・むる〕

 

■ 帰京して後礼状に添へて立派なる㋨餽物をなせば、彦右衛門方にてもまた其にい、書簡の往復もや繁くなりまさりける。

 

 ㋨〔おくりもの〕(訓読み)

 ㋩〔むく・い〕

 

対義語・類義語問題も作ろうとしたのですが、なかなかうまい語彙が見つからず。6問ということでご容赦ください。本番は各5問の計10問ですので…。

 【2】 次の1~3の対義語、4~6の類義語を下の□□から選び、漢字で記せ。□□の中の語は一度だけ使うこと。

 

 ■対義語

 1 殊勝 〔 靦 然(恬然) 〕

 2 頑健 〔 孱弱(孅弱・繊弱)

 3 逗留 〔  飄 蓬    〕

 

 ■類義語

 3 禍福 〔  慶 殃    〕

 4 癇癪 〔  業 腹    〕

 5 湛然 〔 恬 淡(恬澹) 〕

 

 けいおう・てんぜん・てんたん・ひょうほう・ごうはら・せんじゃく

 

 次回からは再び中江兆民シリーズ。「中江兆民評論集」から文章題を出題します。お楽しみに。

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char

Author:char
不惑以上知命未満のリーマンbloggerです。
言葉には過敏でありたい。
漢検受検履歴
2006.3  漢字学習スタート
2006.6  2級合格
2006.10 準1級合格
2007.10 1級合格①
2009.2 1級合格②

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